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二章 自由都市へ
17 自由都市ケプテン
しおりを挟む途中、農家の集落と遠くに見える黄金の海を横目に、なだらかに起伏した街道を小高い丘の上に広がる城砦のような街を目指して歩く。
私たちが帝国自由都市ケプテンに着いた時には、もう日が暮れかけていた。小国家には通商の要衝にある商業都市国家や、小さな国の寄り集まった共和国があり、帝国の自由都市もある。
ケプテンは帝国の飛び地で、立派な要塞があり市民の代表が治めているという。
大きな要塞にある検問所で私たちは門番の兵士に振り分けられ、横に見張り塔なんかもある大きな事務所に入った。検問所にいる別の兵士が案内して部屋のひとつに入る。出入り口が二つある部屋に兵士がふたりと事務官がふたりいる。
広いテーブルと事務的な椅子が置いてあって、私たちが座ると話し出した。
「ええと、アデリナさんにイスニ真教国から捜索願が出ています」
検問所の職員が書類を見ながら事務的に告げる。
「金髪、青い瞳、身長、年齢、衣服、付き添いの騎士から見て間違いないですね」
アデリナはその水色の瞳を見開く。何か恐ろしいものを見たように口元を覆った。代わりにスヴェンが申し出る。
「俺の友人のバルドゥルに連絡を取って欲しい」
「バルドゥルさんは今ギルドの依頼で遠征中です。守秘義務により仕事内容はお教え出来ません」
唇を引き結ぶスヴェン、アデリナは観念して職員に話す。
「わたくしは神殿を出たのでございます。こちらの国でいけないのなら他の国に参ります」
「神殿側は話し合いをしたいと言っています。よろしければここケプテンの大人衆が間に立って、話し合いをしてはいかがでしょう」
余り高圧的ではない職員の提案にアデリナは不承不承頷いた。
自衛兵たちはアデリナの事に気付いたのだろうか。まあ金髪水色の瞳の美人だし、神殿の聖女の服を着ているし、捜索願が出ているのなら前もって知っていても不思議はない。手続きの流れがえらくスムーズだった。
私とアルトの捜索願は出ていないのかな。見つけたら殺せだろうし、私を探してくれる人なんかいないだろう。アルトはどうなんだろう。
私たちはアデリナの従者という事にしてもらったが。
◇◇
大きな要塞の中にある街の宿に私たちは落ち着いた。
検問の職員がこの宿を紹介してくれて、しばらくこの宿に居てくれと言われたのだ。街の中なら自由にしていいと言われている。
宿は小ぎれいで近くに自警団や冒険ギルドや市場などがある便利な場所にあった。宿代はアデリナが持ってくれると言ったが丁重にお断りする。
二部屋取ったが私とアルト、アデリナとスヴェンという部屋割りになった。秘密を抱えた者同士だし、この部屋割りはどうしようもないだろう。私とアルトは姉弟ということにしているし。
「僕はお父さんが残してくれたものがあるから」
「でも、私の方が年上なのよ」
宿代で少し揉めた。
「僕が年下で頼りないから……」
そう言って悲しそうな顔をする。
「いやいやいや、私の方が申し訳ないって」
私たちはしばらく張り合いをして、溜め息を吐いた。私たちはどっちも頼りなくって半人前だ。ちょっと顔を見合わせて笑ってしまう。
ふたりで一人前でいいではないか。
昨夜は戦闘で、今日はケプテンまで歩き通しだ。くたびれ果てていた私達は宿で食事を取って、待望のお風呂を味わう余裕もなくさっさと入って眠った。
◇◇
翌朝、アデリナたちの部屋に行って、これからの事を話し合った。
まあ、しばらくここに居て、ケプテンの大人衆とかいう人達に会わないといけないのだけれど。
私たちは着たきりスズメなのだ。アルトに聞くと身長が伸びて服が合わなくなったという。アデリナの服もスヴェンの格好もいかにも聖女と騎士な感じだ。
「私たち着るものが無いから、市場に行こうと思うの」
「そうなの? わたくしたちも行きましょうか」
「そうしますか」
みんなで市場に行く事にする。
市場に行く途中に両替商を見つけた。年金として貰っていたお金には殆んど手をつけていないし、宝飾品も切り売りすれば、しばらく生活できるだろう。そういえば片方の靴があったっけと出してみる。
「これ、片方しかないのですが、お金になりますか?」
「さようですな」
一応、宝石の飾りが付いているので売れるかもしれない。
「小金貨一枚銀貨八枚でお引き取りしましょう」
「じゃあそれで、それとこちらも」
夜会に着ていたデイドレスも出して一緒に換金してもらう。まあまあな金額になったが手持ちのお金とこれでどのくらい生活出来るか分からない。今までずっと食費とか宿泊費とか無料だったしなあ。
改めて【救急箱】のお陰で生きて来れたんだと思う。感謝しかない。
付き添っていたアルトが「両替をお願いします」と言って出したのは大金貨一
枚だった。両替商はチラッと見て「ほい」と革袋と麻袋を出した。
部屋から出ると慣れた手つきでアルトはそれを仕舞う。ええと、どこに仕舞っているのかね。
「入れた物しか入ってないよ」
ノアの真似をしてくれる。君もマジックバッグ持ちだったんだね。見知らぬ誰かにホイホイと喋っていい事じゃないよね。
「メリーみたいに無制限に出したり入れたり出来ないし」
いやいやいや、その言い方は語弊があるだろう。
アデリナたちも別の部屋で換金して貰ったようだ。
そういえばここにはギルドがあるってアルトが言ってたっけ。
「細工師とかのギルドって何処にあるの?」
「それは商業ギルドだな。冒険者ギルドもあるぞ」
何と小説で定番の冒険者ギルドがあるのか。
そういえばスヴェンの知り合いは冒険者だというし、今はいないようだが、もしかしたらスヴェンは冒険者をしていたのだろうか。
思わず手を握って「行こう!」と叫びそうになった。でもよく考えたら、水魔法で殺傷能力のある魔法が出来ない私は役立たずだった。
「どうする、アルト?」
「先に着るものが欲しい」
全くもってその通りなので、当初の予定通り市場に行く事になった。
市場で古着屋を見つけて商家の娘風のドレスを何枚か見繕う。アルトも商家の子息風のリボンタイの付いた服と着替えを買う。アルトはすんなりと手足の伸びた若木のよう。濃いグリーンのリボンタイが似合って可愛い。
反対にスヴェンはがっしりした頼りたくなるような体躯のお兄さんだ。
アデリナと古着屋で盛り上がった。
「こんなドレスは初めてですわ」
「私も、動きやすくていいわね」
コルディエ王国では貴族のドレスと、たまに祖父が連れ出してくれた時の領地で着た騎士服くらいだ。
自由都市の服はスカート丈も短く、上下に分かれた服も多くて着やすい。古着屋で着替えさせてもらって、街の人々と違和感のない姿になった。
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