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二章 自由都市へ
18 黒髪の騎士
しおりを挟む帰りに市場の屋台に立ち寄った。
串焼き肉のいい匂いがする。私の目に留まったのは大きなソーセージだ。じっと見ると屋台のお兄さんが「美味しいよー」とホカホカのを勧める。
「私これ!」
じっと見ていたアルトも手を出した。ついでに他の串焼き肉を買って、飲み物を売っている屋台に行く。
「しぼりたてジュースだよ。美味しいよ」
おお、匂いからして美味しそう。ベリー類が色々入ってるのね。アルトを見ると頷いたので、ふたつ買ってアデリナたちとベンチに座る。
ミモが肩から降りて「ぴよ」と鳴いた。
この子、大人しくて気配を消しているので忘れていた。
「ソーセージを食べるの?」
「ぴよ」と、そっぽを向いた。
違うようだ。お肉がいいのか。串肉を目の前に持って行くと、顔全体が大きな口になってギザギザの歯でがぶりと一切れ丸ごと食べる。
そっか、魔獣だからな。ミモは一切れで満足したらしく私の肩に戻った。
顔を上げるとみんなが目を丸くして見ていた。どうしたんだろう。
そそくさと自分の持っている串に集中したけれど。
私もマスタードを付けたソーセージをパクと食べる。
ああ、このソーセージ。噛り付くとパリッと歯切れよく切れて、口の中に溢れる熱い肉汁が美味しい。
「オイヒイ!」
搾りたてのジュースも甘酸っぱくて美味しい。
帰りに四人分買って【救急箱】に仕舞った。
私たちは当面の問題が無くなったような気がして、のんびりみんなで宿までの道を歩いていたのだ。
◇◇
「メリザンド!」
いきなり腕を取られて口を覆われて、物陰に引きずり込まれた。
そんな風に呼ぶ人間には悪い予感しかない。
(やっ! ダレ?)
首と目を動かして相手を見る。
黒髪蒼い瞳の騎士、護送の馬車まで付いて来た騎士だ。
ヤバイ、王子は? 生きているって知られたらお仕舞いだ。
しかし周りには他に人は居ないようだ。
「生きていたのか?」
(そうよ、悪い?)
てか、何で分かったの? 私、変装してた筈だけど。
いい加減、手を離して欲しい。質問していて口を封じて、これは無いと思うんだけど、分かってやっているのかしら。バカなの?
「メリー!」
(アルト!)
「ぴよ!」
ああ、ミモが知らせてくれたのね。弓を構えている。
「ガキが」
黒髪の騎士が私を抱えたまま剣を抜く。
何すんの、アルトに攻撃しないで!
『アクアショック!』
バシャ!
「わっ」
男が水で吹き飛んだ。少し威力が上がっているかも。
口を封じていても、魔法が発動できるんだ。よしっ!
こぶしを握っているとアルトが呪文を唱える。
「らい──」
ぎょっ。
「待って!」
クロスボウを構えたままのアルトを引き留める。
ここで雷撃は不味い。黒焦げは不味い。
「この人は私に毒をくれたのよ」
「なっ」
「ちがっ」
アルトから殺気が漏れる。
「武士の情けなの」
「ぶしのなさけって何? こいつメリーを殺そうとしたんだろ。許せないよ」
「そうですわね。許せませんわ」
手を組んで言うアデリナ。
「騎士には騎士でお相手いたす」
剣をスラリと抜くスヴェン。
「な、何を、お前ら」
黒髪の騎士は慌てて下がる。
「メリザンド、話があるんだ。俺はもう国を出た」
「だから何? 私は暴力を振るわれたくない。殺されたくない」
いきなり口を塞いで、誘拐でもしそうな勢いだった。
「生きたいのよ!」
「そこで何をしている!」
自由都市の警備兵が騒ぎを聞きつけて駆け付けてくる。騒動を起こしてしまった。警備兵に掴まるのは避けたい。逃げよう。
私たちは逃げ出した。
◇◇
宿に戻るとアデリナが聞いて来た。
「事情をお伺いしても?」
頷いてアデリナたちの部屋に行く。
黒髪の騎士もついて来ていた。何で?
「メリザンド、話を聞け!」
そんな上から威圧をかけられると怖い。私はアルトの後ろに行く。
『アクアシールド』
ついでにシールドを展開して暴力に対処した。
「この人は騎士なの。私は婚約を破棄されて、修道院に行く所を護衛達に襲われて殺されることになっていたの。この人は同情して私に毒をくれたの」
「同情して毒ですか?」
呆れたようなアデリナは首を横に振る。
「最低だ」
吐き捨てるように言ったアルトは、私を黒髪の男から庇う位置に立つ。
「でも、私は死にたくなかったし、何とか逃げ出すことに成功したわ」
スヴェンは腕を組んで頷くだけだ。
「だから、それは違うと言っている!」
男はイライラと遮る。
「メリザンド、薬をまだ持っているのなら出せ。俺が飲んでみせる」
「そう?」
私は薬の小瓶を出した。
止める間もあらばこそ、彼は小瓶を引っ手繰ると、躊躇いも無く蓋を開けて飲み干した。
飲んじゃった。という事は中身を知っていて、安全だと分かっているのか。私が中身を入れ替えるとか思わないのだろうか。実際水に入れ替えたが。
「ん? メリザンド、お前中身を入れ替えたな」
手で口を拭って、首を傾げて小瓶を見る。
「さっさと捨てたわよ、そんな物」
「この毒は仮死状態になるだけだ」
「何ですって!」
「俺が、俺が、何でお前を殺さないといけない? この機会にやっと手に入れられると思って──」
そんなことは知らない。
「俺は、俺は、お前と結婚できると、侯爵家に養子に入ろうと努めていたのに、それがあのクソの所為で──」
みんな固まっている。私も固まっている。
「その……、あなたって誰?」
黒髪の騎士も固まった。
コレはどういう状況だろう。
ええと、どうすればいいの。
誰か助けてくれないの? この状況から。
「呼んだー?」
「ノア!」
「おい、何だこいつは」
再び私に手を伸ばそうとした男の前に、白い髪赤い瞳の非常に美しくて中性的な、というか男か女か分からない魔獣使いが現れた。
男は目を見開いて立ち止まる。
「コイツ、何?」
ノアは黒髪の騎士を見て顔を傾げる。
「私の国の騎士なんだけど、ちょっとどうしていいか分からなくて」
今更彼と一緒にコルディエ王国に帰るとか無いし、追い払って王子達にバラされても困るし、扱いに困るというか。
「ふうん、じゃあこの子に見せてもらえばいい。おいで」
ミモが私の肩から飛び上がり、パタパタとノアの手に止まる。
「この子に名前つけた?」
「ああ、ミモっていう名前にしたの」
「そう、じゃあミモ、あいつの見てきた事を見せて」
「ぴよ」
ミモはノアの手から飛び立って、黒髪の騎士の頭に乗っかった。
「わっ、何だこいつは!」
手で払い除けようとするが出来ないようだ。
「ぴよーーー!」
ミモが羽を広げる。
ええと、これは何なの。辺りが暗くなったけど──。
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