魔道具士になりたい僕に愛を囁く王太子には婚約者がいる

拓海のり

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一話 落ちこぼれ

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 僕は小さな頃、誘拐されたことがある。
 小さな小屋には、同じ年頃の青や水色の髪をした子供が何人かいた。
 僕達は馬車に乗せられ、どこかに連れて行かれようとしていた。

 馬車が道の轍の跡に嵌まって動かなくなって馬車を降ろされた時逃げた。
 走って、走って、馬車の轍の跡を追いかけて走った。
 幸いにも僕は無事に村に逃げて保護されて、家に帰る事が出来たんだ。

 その日から、僕の首には魔道具がぶら下がっている。
 何となく目立たない子供になったんだ。

  ***

「ねえ、お父さん。僕、王都の魔術学院に行きたい」

 僕は十五歳になったある日、お父さんにお願いしてみた。僕の名前はエリク・ルーセル。三人兄弟の末っ子で、家は武具屋をしていた。皮の鎧や鎖帷子、それにブロードソード。田舎なのでついでに日用品や食料品も売っていて店は繁盛とはいかないが、それなりに親子五人が暮らしていけた。

 町から少し離れた所に森があって、そこにはいろんな魔物が棲んでいる。
 お父さんは時々伯父さんやお友達と一緒にそこに行って、魔物を狩ったり森にある素材を採って来る。伯父さんがこの辺りの地方地主なので一応名字があるんだ。だから魔法学校の試験に受かれば、入れるんじゃないかなと思っている。

「まあ、エリク。確かにお前は魔力があるけれど」
 お母さんは反対のようだ。僕は末っ子で、髪も瞳も水色で見た目も細くて中背で甘ったれそのものに見えるからなあ。
「ねえ、ジョン兄ちゃん。僕、行ってもいいよね」
 長男のジョン兄ちゃんは僕より五歳年上の二十歳。お父さんとお母さんを支えてお店を切り盛りしてきたんだ。そろそろお嫁さんを貰うと言っている。
 僕が魔法学校に行っても、学費なんかは国から出るから大丈夫な筈だ。

「ああ、エリクは魔道具を作らせたらすごいからな。一度王都に行ってみたらいいんじゃないかな」
 ジョン兄ちゃんは賛成してくれた。
「まあダメ元だよね。無理しないで、いつでも戻って来たらいいよ」
「アベル兄ちゃん、ありがとう!」
 僕より三つ上の十八歳のアベル兄ちゃんは物静かな優しい人で、近所の薬師に師事して様々な薬の製法を学んでいる。

「仕方ないなエリク。私は魔力があったら、もっとすごいものが作れるといつも思っていたんだ。王都で勉強してお前の腕を試しておいで」
 やった、お父さんの許可が出た。


 お父さんは武器や防具を整備しながら細々と魔道具を作っている。僕はいつもお父さんの側で、飽きもせずにお父さんの作るものを眺めていた。
「さあエリク、どんなものが作りたいんだ?」
「僕ね、僕、ピカピカ光るの!」
「そうかそうか」
 お父さんの大きな手が、僕の頭をポフポフと撫でるのが好きだった。


 魔道具には色々なものがある。例えばお湯を出す魔道具とか、箱を低温に保つ魔道具とか、掃除を簡単に出来る魔道具とか、ほとんどは魔力の無い人の為の生活便利道具だ。魔道具はそういうものだとみんな考えている。そしてそういうものは大きな商会が作っている。庶民には手の出ない高額商品が多い。

 魔道具の動力源の魔石は、魔物を倒すかダンジョンの中にあって、わりかし高価だ。冒険者のいい稼ぎになる。魔石の魔力が無くなると魔道具は使えなくなる。

 だけど、ピカピカ光ればきれいで飾りつけにもなるけど、山や森で遭難した時に使えるだろう? もっと光れば目晦ましになるだろう? 僕の魔法じゃ大した威力の攻撃の魔道具は作れないけれど、小技を生かしたものなら作れるんじゃないか?
 そう思っていた時もあったんだけど──。


「「頑張れよ」」
「辛くなったらいつでも帰って来るんだぞ」
「無理しないでね」
 家族にそう言われて送り出されて、喜び勇んで田舎を出てきたはいいけれど、王都の魔術学院は僕にとって甘い所じゃなかった。


  ***

 基本、このバルテル王国は魔術師が幅を利かせている。
 王都には他に騎士学校と普通の王立学園があるけれど、バルテル魔術学院を出た者が一番優遇される。

 そしてバルテル魔術学院では、戦闘で直接使える攻撃魔法の強い者が一番優秀とされ、次にそれを補助する魔法強化や属性強化などの支援魔法で、三番目が回復系魔法を使える者となる。
 僕の様な攻撃魔法があまり得意じゃない奴は落ちこぼれなんだ。ましてや魔道具など生活便利道具以外の何物でもないのだった。

 一応筆記試験とか魔法実技試験は受かって入学したけれど、僕の風魔法は全然伸びないし、魔道具の授業は無いし。
「どうしよう、もう帰ろうかな」
 級友に「落ちこぼれ」とか「学費どろぼう」とか言われるとちょっと辛い。


「どうした、エリク」
「落ち込んでんなよ」
 机に突っ伏した僕の頭をガシガシとかき混ぜてくれるのは、この学校に入って出来た友人のニコラ・ブリュネルとジュール・シャルロワだ。

 魔法剣が使えるニコラは地方の男爵家の四男で、火魔法が使えるけれど剣に乗せる程度であまり強くもなくて、落ちこぼれ仲間だ。
 支援魔法が使えるジュールは、海辺の街にある凖男爵の商家の次男で、水魔法を少し使えるけれど、攻撃系の支援魔法は使えなくて僕と同じ落ちこぼれだった。

 僕は学院の図書館で、魔道具の書物を探しては読み漁る毎日だ。
 やはりというか、お国柄この学院には攻撃魔法などの本は掃いて捨てるほどあるけれど、魔道具の本は、広い図書館の幾つにも分かれた部屋の奥の隅の端っこの埃っぽい棚に少し並んでいるだけだった。それでも無いよりましだ、読んでない本ばかりだし。

「そうだ、スライムジェルが欲しいと言っていなかったか?」
「うん、ここに防御の魔道具の理論が書いてあって──」
「あー、俺らその理論難しくてわかんねーし」
「私たちの為に作ってくれるんだろ」
「うん」
 そうなんだ、僕は作りたい。色んな物を。


「おお、落ちこぼれ三馬鹿がいる」
「目障りだ、私の前に出るな!」
「殿下の仰せだ。サッサと消えろ!」

 この国の第二王子ルイ・シャルル・バルテルは僕たちと同級生だった。さすが王族、火、風、雷の魔法が使え魔力も多い。
 その上、金髪碧眼で長身でガタイも良く顔も良い。騎士団長の息子や宰相の息子、公爵家の息子など取り巻きも強力だ。

 その昔、バルテル家は強力な攻撃魔法で近隣諸侯を従えて王になった。それゆえ魔力と攻撃魔法こそ絶対だとしていた。多くの魔術師を養成して国の備えとしていて、攻撃魔法が使える者は大切にされ、魔術師の待遇は群を抜いている。

 だが魔力のある者はほとんど貴族の家系からしか生まれない。貴族は高貴で一般庶民は使い捨て。三馬鹿の僕たちは虐げられ、落ちこぼれと蔑まれている。

 どうして図書館に用事があったのか知らないが、すごすごとルイ殿下の前から消えなければならなかった。
「ふん、学費どろぼうが」
 そう言ったのは誰か、宰相の息子か公爵家の息子か。
「くっ!」
 少し血の気が多いニコラがこぶしを握ったが、僕はその手を掴んで、ついでにジュールの手も引っ張って、逃げるように図書館をあとにした。


「はあはあ……、ここならいいかな」
 僕達は空き教室の一つに滑り込んだ。空き教室はたまにカップルが利用していて、気まずかったりする事があるから、あまりのんびり出来ないんだが。

 ジュールが僕の前の椅子に座って聞く。
「なあ、エリクって走るときに魔法使う?」
「え、いいや」
 呪文も何も使った覚えはないんだが、小さい頃から走るのは早かった。

「でもアレは風魔法だよね。私達も巻き込まれて速く走れるからいいんだけど」
「そう、風を纏っている感じ、ひゅんひゅんって」
 ニコラまでが言う。無意識に使っているんだろうか。
「迷惑じゃない?」
 不安になって聞いたらニコニコと返してくれる。
「気持ちいいから別にいいぞ」
「そう速いからね。でもニコラの言い方エロいー」
「な、何を」
「わ、ニコラ真っ赤」
「うっさいわ!」
 うん、僕らは三馬鹿よりも三奥手だと思うんだ。



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