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十六話 詰んだ令嬢
ルイ殿下は言う。
「エリクはマドレーヌ嬢に似ている。似ていて気に喰わない。初めはそう思った」
騎士に捕縛されているマドレーヌを見る。
「でも私は間違っていた。マドレーヌがエリクに似ているのだ。違うのだ。これは重要な事ではないか」
それで僕を攫って、ヴァンサン殿下と内緒の話をしたのか。シャトレンヌ公爵にあこがれているルイ殿下だからこそ感じた事なんだろうか。
バサバサとピコが飛んできて僕の頭の上に止まる。
「きゃぴきゃぴ」
「ピコ、お前が一番活躍したよな」
白い霧の中で見た惨劇で、僕の双子の姉は死んだ。
「では、あなたは誰?」
顔をあげて、僕の顔を真っ直ぐ見てマドレーヌは答えた。
「わたくしはシュヴァルツ将軍の子供よ。わたくしが一番出来が良かったからここに来たのよ。この国はわたくしのものになるのよ。そうじゃなきゃ生きていけないわ」
毅然として顔をあげて、マドレーヌ嬢はこの期に及んでも貴婦人だった。
「そうよ、あの男に言われて、わたくしは王妃の座を願ったわ。殿下を操り、国を操るつもりだった」
令嬢は隠し持っていた毒を煽った。ゆっくりと膝から崩れ落ちる。
「マドレーヌ!」
シャトレンヌ公爵が令嬢を抱き起した。
「……」
令嬢は何かを言おうとして何も言えず、涙を一筋零してがっくりと息絶えた。
「どうして……?」
僕はお父さんとお母さん、お兄ちゃんたちに大事にされて育った。血が繋がっていなくても見た目が違っていても、そんなの関係なかった。
公爵も令嬢を大切にして育てただろうに、他の選択肢もあっただろうに、どうして? 何で死ななきゃいけない?
知らずに殿下の腕を掴んでいたんだろう、殿下が肩を引き寄せた。
「お前の父上はお前と同じで鈍感だな」
小さい声で言う。それはどういう意味だろう。僕は決して鈍感じゃないと思うんだけど。
「国王陛下のおなりです」
国王様が広間から出て来た。金髪碧眼の美丈夫はルイ王子にもヴァンサン王子にも似ている。自分の出番を間違えることも無く、てきぱきと処理を行う。
「済んだか。皆の者大儀であった」
最後にそう締めくくった。
その国王陛下が呼ぶ。
「ローズマリー」
ダレ?
国王陛下がちょいちょいと手招きすると、しょうがないわねとため息を吐きながら、魔王様が腕組をしてとことこと国王様の側に行く。
「何か用?」
ぞんざいな言葉だ。
「お茶でもしようか」
「私は忙しいのよ」
「よいではないか、よいではないか」
陛下は悪代官みたいに二度も繰り返した。手を繋いで王族のプライベートスペースの方に行ってしまう。
「陛下!」
慌てて宰相やら侍従長、近衛騎士らが追いかけて行く。
「父上の方が未練がありそうです」
ルイ殿下がヴァンサン殿下にこっそりと囁く。
「私は知らんぞ」
ヴァンサン殿下は嫌そうに横を向く。
多分、ヴァンサン殿下は魔王様に振り回されて、触らぬ神に祟りなしというスキルを習得したんだろう。いや、王様もアレな感じだし。ああ、不敬だな。
近衛騎士が近付いて来てルイ王子に報告をする。
「兄上、外は制圧しました」
「ああ、すごいな」
「マドレーヌ嬢は錯乱して巻き込まれたことに」
「そうだな。しばらくマドレーヌ嬢のことは伏せておこう。錯乱して怪我を負ったので屋敷で養生することになったと」
「分かりました」
「すまぬ」
公爵が礼を言う。
「念のために海側も確認しております」
「そうか。それよりルイ、頼んだぞ」
「はあ、本当に行ってしまわれるのですか?」
「時々帰って来るし、あっちにも行かねばならん」
「それではまた会えますね」
「ああ、手紙を出す」
「分かりました。お元気で。エリクも元気でな」
「はい」
僕がぺこりと頭を下げると軽く手を挙げて、あっさり別れる二人。
「エリク……、お前すごいな」
ヴァンサン殿下が僕を振り返る。
「──と、言うと思ったか、このバカたれが!」
ものすごく怖い顔だった。
「びやびやっ!」
ピコが僕の頭の上からバサバサと羽ばたいて逃げた。
「わーん、ごめんなさい」
「いいか、二度と勝手に余計な事をするな、分かったか!」
「はい、ごめんなさい。二度としません」
「どれだけ心配をかけたと思っているんだ」
がみがみがみ……。ヒック。
この急場をシャトレンヌ公爵が救ってくれた。
「エイリーク」
僕の側に来る。金の髪青い瞳のまだ十分に若々しい男だ。
「積もる話もあるが屋敷に来る時間はないか?」
「申し訳ございません」
殿下が謝ると公爵は息を吐いた。
「そうか」
「私は娘を愛せなかった。ずっと信じられなくて」
ちょっと暗い瞳だ。
「お前は生きていたのだな」
僕の顔をじっと見る。もう顔も髪もぐしゃぐしゃなのだけど、その髪に手を伸ばして触れる。
「髪も瞳もフランセスそっくりだな、無鉄砲で……」
子供に対する違和感。それは魔力のせいだろうか。記憶を上書きしない、違和感だけが大きくなる。違う、何故と──。
「どうして愛せないのか。私は冷たい男だ。そう思っていた。でも、お前は生きていたんだ。こんなに大きくなって、私と同じ魔力を纏って」
疾風の金獅子と呼ばれるこの人は、僕と同じ風の魔法が使えるのだろうか。
ヴァンサン殿下は独り言のように言う。
「私はマドレーヌ嬢に好きな人がいると思った。それで、私は王太子にはならない、王位継承権をお返しして臣下に下る。だから婚約を白紙に戻して、その方と幸せになればよいと言った。だが彼女は首を横に振った」
「マドレーヌに?」
「彼女は思いを告げられない。知られてもいけない。彼女は詰んでいた」
思いを告げられない、知られてもいけないって、誰?
いるじゃないか。一番身近な人間が。
まだ十分に若々しい父親、シャトレンヌ公爵が。
ああ、そうなのか。マドレーヌ嬢は思いを告げられない。思っているのは、自分の父親とされている人だったのか。
自分は偽る身、告白すれば公爵の子供ではないと言っているようなものだ。それだけでは済まない。彼女は公爵夫人の指輪を持っていたのだ。
陰謀に加担したとして、育ててくれた公爵も巻き込んでしまうのか。詰んでいたのは公爵令嬢の方だったのか。
「これ以上は言えない」
「そうでしたか」
ため息の様な公爵の声。
庭園の暗い照明に浮かび上がる公爵の物憂そうな横顔。金色の髪を風がなぶる。
「あの頃、帝国の残党が無頼の徒を引き連れてあちこちで暴れて、私は忙しく駆けずり回って、フランセスをなかなか迎えに行けなかった」
懺悔の様な告白。
「そんな時、公爵領に私が浮気しているという噂が流れたのだ。フランセスは迎えに行くという私の言葉も待たず、少人数で子供を連れ馬車に乗ったのだ」
噂はシュヴァルツ将軍が流したらしい。公爵を足止めしたのも将軍か。
そして惨劇へ──。
知らせを聞いて公爵はすぐに奥方を迎えに出たが、行方が分からない。あいにくの雨で戦闘の跡もかき消されていた。
帝国側にも密かに捜査を依頼したが何も見つからなかった。フランセスの両親は嘆き悲しみ自領に籠ったと聞く。
フランセスを失ってさらに狂ったシュヴァルツ将軍は、公爵を憎むあまりマドレーヌの偽物を仕立て王国に送り込んだ。そして王国を滅ぼそうと皇帝に進言したが、帝国の皇帝は許さなかった。妄言を繰り返す将軍を別荘に謹慎させた。
これに懲りた将軍は平静さを装い謹慎が解けるのを待った。そして謹慎が解けると、勝手に動いて後から了承されればよいと、狂気の将軍はそう考えた。
そして自滅の道を突き進んだのだ。
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