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31 戦場へ
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ミハウたちは辺境伯の領主館に行く。領都シャラントは戦争に行く兵士達で溢れ物々しい雰囲気だった。
領主館の執務室でデュラック辺境伯エドマンドと会見する。
案の定というか、開口一番辺境伯はアストリたちが戦場に行く事に反対した。
「か弱い女性だ。屈強な兵士に囲まれたらどうしようもない。ここで帰りを待っていた方がいい。我々も安心する」
しかしアストリは首を横に振る。
「私は行きます」
髪は三つ編みにしてズボンに皮鎧を身に着けて、靴も編み上げブーツを履いて行く気満々である。
辺境伯エドマンドは首を横に振って「ピクニックに行くんじゃないんだ。あなたも何故引き止めない」とミハウに苦情を言う。
だがミハウも引き下がらない。
「我々の人数は少ないが使い道はある。普通の人々にとって危険な相手がいるのだ。そいつらには我々でないと通用しない。あなたも部下を無駄に失いたくないだろう」
ミハウにそう言われると黙るしかない。現につい最近、リュクサンブール城に偵察に行った者たちが血塗れで死んでいるのを、帰りが遅くて探しに行った者が発見した、という事があったばかりだ。
「それに彼女はひとりにすると何をするか分からない。側にいた方が対処できる。そいつらの居場所が分かるまで、我々は後方支援をする」
「それは助かるが、くれぐれも馬鹿な真似はしないでくれ」
分かったとミハウは頷く。
それからは辺境伯が地図を出して、戦場の確認になった。
ミハウが思い出したように聞く。
「ところで、リュクサンブール家には生き残りはいないのか」
「子供がひとりいる。エドガール殿から聞いていたんでここに連れてきている」
辺境伯が呼んで侍従が子供を連れて来た。
「シリル・ドゥ・リュクサンブールだ」
銀の髪、青い瞳の少年だ。まだ十一歳だという。まだ細いが体幹のいい身体。アストリは夢の中の男に似ていないかと少年を見る。
「母親がお産で実家に帰っていて無事だった」
「ディミトリさんの子供ですか……?」
「弟の子供だ。彼は兄のディミトリと一緒に死んだ。母親が私たちの一族でこっちに里帰りしていたんだが、母親も死産して死んだ」
辺境伯とエドガールが交互に説明する。
「ディミトリは顔の事もあるし結婚していない。家督は弟に譲ってこちらにいたが、帝国が攻めて来て城に戻ったんだ」
「お墓は……」
「リュクサンブール家の者の遺体は、城に廟所があるから帝国兵が片付けた」
辺境伯は悼む眼差しで答える。
「やっぱりお城に行くしかないです」
アストリはきっぱりと言うが、ミハウに引き止められる。
「それは後だ。後方支援が先だ。戦場の雰囲気に慣れておけ」
「はい」
アストリは唇を引き結んで拳を握る。身体が震えるのはきっと武者震いだと自分に言い聞かせた。
分かっているのだ。自分は弱い。心も身体も。とっさに雷撃も出来ない程弱い。
◇◇
リュクサンブール城から東に一日行った場所になだらかな丘陵地帯がある。そこが今回の帝国との決戦場になると予想された。帝国は今回かなりの人数を裂いている。ネウストリア王国にとっても正念場である。負ければ辺境の地を失うかもしれない、そうすれば帝国は怒涛の勢いで王国に攻め入るだろう。
だが今、ネウストリア王国に辺境に出兵する余裕はない。近隣諸国に檄を飛ばして帝国の包囲網を強化し、この戦争の終結を早めるよう手を回すだけだ。
レオミュール侯爵らの助言を入れて、国王は各方面との条約を強化し、国内の体勢を盤石にして辺境を支援する。
レオミュール侯爵は自ら兵を率いて辺境に行こうとしたが、ブルトン男爵夫人が来て引き止められた。
「院長は行かないのか」
「私は身軽ではないので最後に登場するくらいでいいのですよ。侯爵様もそのような重石の役目の方がお似合いかと思います」
「一時はそう思っていたが、アストリが薬を作ってくれて、それが身体によいのだ。失った月日が戻って来たようだ」
「まあ、そうでしたのね」
「あなたも飲んでみればよい」
侯爵はアストリの調合した丸薬を取り出す。白と濃い緑の混ざった小さな丸薬が小瓶に半分以上残っている。侯爵は瓶ごと男爵夫人に渡す。
「薬以外にも色々作っていた。アストリは何かを作るのが性に合っているようで、暇さえあればせっせと作っていた」
「修道院でこき使っていましたからねえ」
申し訳なさそうな顔でブルトン夫人が謝罪する。
「何処に出ても立ちゆくようにと、厳しく躾けましたが」
「ここでゆったりと暮らして欲しかったが」
侯爵と夫人は顔を見合わせて溜め息を吐く。思いは辺境へと飛ぶのだった。
◇◇
矢玉の飛び交う戦場では、とにかく怪我をしないよう傷を負わないよう、兵士達となるべく接近しないよう気を配る。後方で待機し、傷を負って戻って来た兵士の手当てや、食料備品などの補充をする。
帝国軍のかなりの人数が城から決戦場に入ったと聞く。アストリとミハウ、マガリとクルト、そしてエドガールが物見に出る。
「鳥を出しておけ。奴らにこちらの事を知られないように、隠蔽をかける」
『ミアちゃん』
アストリが呼ぶと、一つ目の魔獣が現れて頭に乗る。それぞれの頭や肩に魔獣が乗ったのを確認して、ミハウが魔法をかける。
『隠蔽』
五人の姿が闇に紛れる。
アストリは一連の出来事にただ驚くばかりだが、他の三人は当然のように身を低くしてそれぞれの目指す場所に移動を開始する。
『行くぞ』
ミハウの合図でアストリも身を低くして、ミハウの邪魔にだけはなるまいと動き出す。
領主館の執務室でデュラック辺境伯エドマンドと会見する。
案の定というか、開口一番辺境伯はアストリたちが戦場に行く事に反対した。
「か弱い女性だ。屈強な兵士に囲まれたらどうしようもない。ここで帰りを待っていた方がいい。我々も安心する」
しかしアストリは首を横に振る。
「私は行きます」
髪は三つ編みにしてズボンに皮鎧を身に着けて、靴も編み上げブーツを履いて行く気満々である。
辺境伯エドマンドは首を横に振って「ピクニックに行くんじゃないんだ。あなたも何故引き止めない」とミハウに苦情を言う。
だがミハウも引き下がらない。
「我々の人数は少ないが使い道はある。普通の人々にとって危険な相手がいるのだ。そいつらには我々でないと通用しない。あなたも部下を無駄に失いたくないだろう」
ミハウにそう言われると黙るしかない。現につい最近、リュクサンブール城に偵察に行った者たちが血塗れで死んでいるのを、帰りが遅くて探しに行った者が発見した、という事があったばかりだ。
「それに彼女はひとりにすると何をするか分からない。側にいた方が対処できる。そいつらの居場所が分かるまで、我々は後方支援をする」
「それは助かるが、くれぐれも馬鹿な真似はしないでくれ」
分かったとミハウは頷く。
それからは辺境伯が地図を出して、戦場の確認になった。
ミハウが思い出したように聞く。
「ところで、リュクサンブール家には生き残りはいないのか」
「子供がひとりいる。エドガール殿から聞いていたんでここに連れてきている」
辺境伯が呼んで侍従が子供を連れて来た。
「シリル・ドゥ・リュクサンブールだ」
銀の髪、青い瞳の少年だ。まだ十一歳だという。まだ細いが体幹のいい身体。アストリは夢の中の男に似ていないかと少年を見る。
「母親がお産で実家に帰っていて無事だった」
「ディミトリさんの子供ですか……?」
「弟の子供だ。彼は兄のディミトリと一緒に死んだ。母親が私たちの一族でこっちに里帰りしていたんだが、母親も死産して死んだ」
辺境伯とエドガールが交互に説明する。
「ディミトリは顔の事もあるし結婚していない。家督は弟に譲ってこちらにいたが、帝国が攻めて来て城に戻ったんだ」
「お墓は……」
「リュクサンブール家の者の遺体は、城に廟所があるから帝国兵が片付けた」
辺境伯は悼む眼差しで答える。
「やっぱりお城に行くしかないです」
アストリはきっぱりと言うが、ミハウに引き止められる。
「それは後だ。後方支援が先だ。戦場の雰囲気に慣れておけ」
「はい」
アストリは唇を引き結んで拳を握る。身体が震えるのはきっと武者震いだと自分に言い聞かせた。
分かっているのだ。自分は弱い。心も身体も。とっさに雷撃も出来ない程弱い。
◇◇
リュクサンブール城から東に一日行った場所になだらかな丘陵地帯がある。そこが今回の帝国との決戦場になると予想された。帝国は今回かなりの人数を裂いている。ネウストリア王国にとっても正念場である。負ければ辺境の地を失うかもしれない、そうすれば帝国は怒涛の勢いで王国に攻め入るだろう。
だが今、ネウストリア王国に辺境に出兵する余裕はない。近隣諸国に檄を飛ばして帝国の包囲網を強化し、この戦争の終結を早めるよう手を回すだけだ。
レオミュール侯爵らの助言を入れて、国王は各方面との条約を強化し、国内の体勢を盤石にして辺境を支援する。
レオミュール侯爵は自ら兵を率いて辺境に行こうとしたが、ブルトン男爵夫人が来て引き止められた。
「院長は行かないのか」
「私は身軽ではないので最後に登場するくらいでいいのですよ。侯爵様もそのような重石の役目の方がお似合いかと思います」
「一時はそう思っていたが、アストリが薬を作ってくれて、それが身体によいのだ。失った月日が戻って来たようだ」
「まあ、そうでしたのね」
「あなたも飲んでみればよい」
侯爵はアストリの調合した丸薬を取り出す。白と濃い緑の混ざった小さな丸薬が小瓶に半分以上残っている。侯爵は瓶ごと男爵夫人に渡す。
「薬以外にも色々作っていた。アストリは何かを作るのが性に合っているようで、暇さえあればせっせと作っていた」
「修道院でこき使っていましたからねえ」
申し訳なさそうな顔でブルトン夫人が謝罪する。
「何処に出ても立ちゆくようにと、厳しく躾けましたが」
「ここでゆったりと暮らして欲しかったが」
侯爵と夫人は顔を見合わせて溜め息を吐く。思いは辺境へと飛ぶのだった。
◇◇
矢玉の飛び交う戦場では、とにかく怪我をしないよう傷を負わないよう、兵士達となるべく接近しないよう気を配る。後方で待機し、傷を負って戻って来た兵士の手当てや、食料備品などの補充をする。
帝国軍のかなりの人数が城から決戦場に入ったと聞く。アストリとミハウ、マガリとクルト、そしてエドガールが物見に出る。
「鳥を出しておけ。奴らにこちらの事を知られないように、隠蔽をかける」
『ミアちゃん』
アストリが呼ぶと、一つ目の魔獣が現れて頭に乗る。それぞれの頭や肩に魔獣が乗ったのを確認して、ミハウが魔法をかける。
『隠蔽』
五人の姿が闇に紛れる。
アストリは一連の出来事にただ驚くばかりだが、他の三人は当然のように身を低くしてそれぞれの目指す場所に移動を開始する。
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