32 / 60
32 帝国軍にいた仲間
しおりを挟む仲間かもしれない彼らがどこにいるか分からない。しかし彼らは帝国の兵士達と一緒には戦わない。傷を負えば一緒にいる味方にも被害が出るからだ。
そして次の日、マガリとクルトが帝国の兵士から思わぬ情報を仕入れて来た。
「何か焦ってるんですかね」と魔獣が拾ってきた情報を、作戦会議の席で将校たちに見せたのだ。それによれば帝国の将兵たちは国内に問題を抱えていて、この遠征は早期に終わるものと踏んでいたらしい。
しかし実際は決戦場で双方睨み合ったままで、動きもない。そうなれば遠征している方が不利だろう。元々出城で食料は辺境領から仕入れていた。流通が止まり帝国からは山越えで遠い。
『いつまでこんな所に閉じ籠っているんだ』
『なら、お前ら行ってこい』
『冗談だろ、俺っち二人しかいねえのに』
『辺境兵の奴ら逃げて、遠くからしか攻撃しないんだぜ』
『敵も味方も分からぬ殺人兵器など役に立たぬな』
『散々こき使っておいて、くそう』
クルトとマガリはそろっとお酒の付け届けを城兵に差し出したらしく、酒宴になって、城兵たちの不平不満の声が続く。その隅に、毒見で呼ばれた仲間らしき者がいる。
「相手は二人か」
「首輪をしているようだが」
「隷属の首輪だろうか」
「待遇が悪そうだな」
五人は作戦会議場の隅に固まって、帝国側にいる仲間について話す。
「帝国にいる教授たちは大丈夫なのか? 捕まらないか?」
今更ながらミハウが心配するとエドガールが説明した。
「帝国は一枚岩ではない。今の皇帝は老齢で妃は多いし皇子も多い。長子は側妃の子で、正妃の子は三男で足の引っ張り合いらしい」
「それは知っているが、モンタニエ教授は変わり者で派閥に入っていないと聞いている。余計な事をして目を付けられたりしていないか?」
「いや、あの女魔道具士だ。女性だと蔑ろにされて、作品を盗られたり、休む暇もなくこき使われたりと、酷い目にあったようだ。今はお返しとばかりに、昔の伝手から女同士の情報を手に入れているらしい」
アストリは大柄の赤い髪の女性を思い出す。自信に溢れた女性に見えたがそんな過去があったらしい。
「前は皇帝も元気だったし帝国も盤石だったが、この最近、急に衰えたようだと聞いたぞ」
その言葉に作戦会議をしていた辺境の将校たちがチラリとこちらを見る。
アストリはミハウの側でローブを被って控えている。そういえば言われるままに様々な薬を作っていた。薬効が分かって薬の売れる先が分かれば、そういう事も分かるのだと気付く。多分あの魔道具士も色々な物を作っているのだろう。
「敵が焦っているようなら誘い込んでみるか」
将校のひとりが提案して、皆が身を乗り出す。
「乗るかな」
「まあ、動かねばそれでもよい」
「作戦は──?」
辺境伯の作戦会議はたけなわであった。
◇◇
辺境伯は次の日の夜動いた。リュクサンブール城の南方向に疎らな木の生えた雑木林が広がっている。リュクサンブール家の者達がいた頃は、果樹やオリーブなどを植えて手入れをしていたようだが、今は見るも無残に荒れ果てている。
城を建て家を建て、人が集まりその地に根付き繁栄する。人の営みの根底を覆すものが戦争だ。土地を奪って人を奪って、そして更なる繁栄を願うならまだしも、無骨な砦に使い、廃墟として置き去りにする。
辺境伯は軍を二手に分け、片方をその雑木林を抜けて、敵陣の後ろ側に出て挟み撃ちにする戦法を取った。城兵は極端に少ない。城を出て追いすがってもあっさり返り討ちに出来る程の人数だ。だが、辺境伯の派兵に気付いた城兵はここぞとばかりに仲間と思しき彼らを派遣した。恰好の獲物であった筈だ。
しかし、辺境伯の軍に襲い掛からんとした彼らの周りを、突如結界が張り巡らされる。捕らえられたかと思ったが中に人がいる。片手で足りる程に少数だ。
「馬鹿め」
男は携えた剣を抜き指を切って走り出した。正面に剣を抜いて佇んだ男がいる。しゃにむに斬りかかった。弾かれてたたらを踏む。ここまでは予想通りだった。
しかし、男の血を浴びてもその男は平然としている。
「むっ、何故死なない!」
「お前、やっぱり仲間か」
「仲間ぁー? へえ? 俺ら以外にいるんだ、へえ」
後ろから来た大きな男が彼を押さえる。
「何をするんだ」
正面の男があっさり、実にあっさり彼の首輪を外してくれた。
「へっ?」
あれほど悩まされた隷属の首輪が、あっさりと外れてぽとりと地面に落ちた。男は信じられない思いで自分の首を探る。
もう一人の男はその隙に一番弱そうな者に向かった。ローブを着た細っこい弱っちそうな者を羽交い絞めにしてナイフをちらつかせる。
「おい、仲間を──」と脅そうとした。
『プティ・トネール』
ドッシャン!
「がっ! ぐががが……」
小さな雷撃が男の頭を直撃して、男は痺れて倒れた。
「すごいぞ、アストリ。無詠唱だ」
「はい、出来ました」
ミハウがアストリを褒めて、痺れて転がっている男の首輪を外す。男の身体を蹴って離し「怪我はないか?」とアストリの身体を調べる。
「大丈夫です。ついでに浄化しますね」
頷いたミハウに頷き返して、真剣な表情で手を組んだ。
「地に封じられし巨人よ、光の触媒として蘇り、浄化せよ『ピュリフィエ』」
ゴゴゴゴゴゴ…………
大地より湧き出た巨人は、前回よりかなり大きかった。
「わああ、何だ、これはぁぁぁーーーー!」
巨人は両手を広げ、結界の中を光が渦巻いた。
転がっていた男も目を覚まし「ぎゃああーー!」と恐怖の声を上げる。
結界の中をすさまじい浄化の嵐が吹き荒れ、結界の外に流れて行った。
「流れるような連帯でございますね」
「いや、聞いていたがこれ程とは──」
「浄化だけです」
アストリが済まなさそうに言うが皆消え去って行く巨人を呆然と見るのだった。
1
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる