修道院で生まれた娘~光魔法と不死の一族~

拓海のり

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38 ミハウの領地

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 ノヴァーク王国のミハウの領地はシェジェルという。
 シェジェルは戦場の村を含むその辺り一帯の公国が、相続や他国の干渉やらで分裂して出来た小さな公国群のひとつでノヴァーク王国に属する公国だ。
 シェジェル公ミハウ・クサヴェリ・ノヴァークというのがミハウの名前になる。

 戦場の村と境界を接し、連なる山々と森と麓になだらかな丘陵地帯が続き農地が広がり、村と町が散在する田舎の領地であった。
 戦場の村に近い山に小さな鉱山があり、それで何とか生き長らえているといった体の領地である。戦場の村という争いの絶えない、人が嫌がる場所が近い所為で、あまり人々の関心を引かない、隠れ家に恰好の場所であった。

 シェジェルの屋敷は森と湖と川に囲まれた静かで美しい場所にあった。転移場所は屋敷を囲む川に架かる橋の手前で、警備兵が馬車を待機させて出迎える。
 馬車に乗って橋を渡ってしばらく進むと、森の中にダークグレーの屋根とベージュの壁、正面に尖塔が二つある三階建てのお城のような建物があった。
「この城は昔からあった砦を改築したものだ。隠れるには絶好だが不便だ」

 屋敷に着くと五十年配の謹厳実直そうな家令が出迎えた。その後に使用人たちがぞろりと控える。ミハウは帰る時は直接離れに帰るので屋敷の方には殆んど寄らない。家令のクラウゼに任せっきりであった。
「彼は昔からの家令でクラウゼという」
 屋敷の使用人の人数に少し驚いたが、さりげなく紹介した。
「この前連絡したが、彼女がアストリ、私の花嫁だ」
「お帰りなさいませ。奥様ようこそ、お待ちしておりました」
 クラウゼ以下使用人が一斉に頭を下げる。奥様と言われてアストリは恥じらいながらも二コリと挨拶をした。
「アストリと申します。よろしくお願いします」

 森と湖に囲まれた美しい所に、お城のような建物が建っている。しかも中身は空調が行き届いて快適である。どうやって維持しているのだろうかとアストリはエントランスホールに下がった豪華なシャンデリアや絵画を見ながら思った。

「私の友人たちだ。しばらく滞在されるので部屋を用意してくれ」
 ミハウが仲間一同を紹介しても慌てることなくクラウゼは対応した。
「かしこまりました。お疲れでございましょう、こちらへどうぞ」
 各々侍従侍女が宛がわれ部屋を案内される。アストリとミハウもクラウゼに案内されて三階一番奥の部屋に案内される。正面が主寝室、左がアストリの部屋、右がミハウの部屋で続いて書斎と執務室がある。

 ミハウは執務室に向かい、アストリはルチナと紹介された茶色の髪のはきはきした侍女に案内され部屋に入る。
 部屋は落ち着いたピンク系と濃い赤の色調で纏められ明るくて広い。出窓の向こうは中庭で綺麗に仕切られた庭園には噴水があった。
「こちらがドレッシングルームでございます」
 侍女ルチナは伯爵家の三女だという。ルチナに案内されて覗くと広い部屋にワードローブが並び、鏡があちこちにあり手前に洗面所、真ん中に化粧台、奥にトイレとシャワールームがある。

「ベッドルームはあちらのドアから行けます」
 このドレッシングルームからも主寝室に行けるようになっていた。寝室には大きなベッドが真ん中に置かれている。周りにはカウチやテーブルやソファが配置よく置かれ「お風呂はあちらでございます」ルチナの案内でベッドの裏側の半円形の広いバスルームを見た後「あちらのドアは旦那様のお部屋へと続いております」と真ん中の主寝室を挟んで行き来できると説明され何となく頬が染まる。

「では奥様、お召し替えになって、皆様お集りのホールに案内いたします」
 アストリはルチナに手際よく服を剥ぎ取られシャワールームに追い立てられた。

 アストリは修道院と廃教会堂しか知らなかった。レオミュール侯爵家で立派な建物に怖気づき、沢山居る侍女を相手に借りてきた猫のように馴染めなかった。
 今は夫となったミハウがいるし、沢山の仲間と呼べる人がいて、侯爵家で少し侍女にも慣れて、臆することなく周りを見る余裕がある。

(このお屋敷は廃教会と同じように、魔道具で快適に設えられているわ)
 アストリの帰りたい所は、生まれ育った修道院ではなく、侯爵家でもなく、あの廃教会堂であった。
(ここも何となく、あの廃教会堂に近い雰囲気がある)
 ミハウの趣味嗜好を取り入れているからだろうかと、アストリは考えた。


  ◇◇

 アストリを側仕えになる侍女ルチナと共に部屋に送り出して、ミハウはクラウゼと共に執務室に行く。クラウゼはミハウが執務室に入ると早速切り出した。

「実は王家の血族が絶えます。お血筋の方はミハウ様しか残っていません」
「じゃあ、王家なんて無くしてしまえば」
「そういう手続きをミハウ様が滞りなく準備して進めて下されば」
「はー、前にちゃんと引き継いだじゃないか」
「それは大昔の事でございます。早くお跡を継いで頂きたいと、宰相閣下以下が嘆願書を提出しております」
 クラウゼはミハウの執務机の上にどさりと嘆願書の束を置く。

 溜め息を吐くミハウにクラウゼは別の書類を取り出す。それはこの領地の収支報告書でいつもミハウが決裁していた。嘆願書を脇に押しやって、決済書類を確認していたミハウが怪訝そうに顔を上げる。
「どうしたんだ、収入が増えている」
「実は──」
 クラウゼは声を潜めて話始める。
 どうも王家の継承問題より、こちらの方が最重要課題らしいと、ミハウは手紙に一行も書かれていなかった話を、謹厳実直な男がより緊張して告げるのを待った。

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