負け組の王太子と愛のない政略結婚をしました

拓海のり

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01 初夜

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 私の名はアガーテ。このレンジェル王国、ザルム侯爵の長女だ。今日は婚約者の王太子ヘルムート殿下との結婚式であった。
 無事に結婚式を終えた後、私は初夜の為に薄物の夜着を着せられ、大きなベッドのある夫婦の寝室で、夫になったヘルムート殿下を待った。

 やがてガチャリとドアを開けて、ヘルムート殿下が入ってきた。彼は何も言わなかった。頬は紅潮し、鼻息が荒く、瞳がギラギラとしている。私が見たこともない様相を呈していた。

 彼は部屋の中で緊張して待っていた私を認めると、つかつかとこちらに向かってきた。
 殿下は私を捕まえると、ベッドに投げ込んだ。すぐ彼もダイビングして私に襲い掛かってくる。悲鳴を上げる暇もない。
 何の言葉もなく彼は私の上に乗り上がり、身体を暴き、食らうように貪った。
 私は恐ろしくて声も上げられず、身を固くして嵐が過ぎ去るのを待った。

 ことが終わった後、殿下は新妻の私に向かって「アガーテ、お前の身体は硬い」と言った。
「がちがちで体温も感じられず、まるでドライアドみたいな魔物を抱いているようだ」

 私の閨教育は「全て夫に任せなさい」で終わった。
 その夫が、初夜なのに愛の言葉どころか、何らかの声掛けも話もなく、震える私をいきなりベッドに押し倒し、問答無用で身体を開いて乱暴にコトを押し進めた挙句、そんなことを言うのだ。最悪の展開であった。

 白い結婚の方がどれだけマシだろうか。

 夫になった殿下は、私の悪口を散々言い募り、詰り、コトを終えるとさっさと寝室を出て行った。


  ◇◇

 王太子ヘルムート殿下とは政略結婚であった。彼の母親は隣国ティユール王国の王女であったが、現在隣国は国王が亡くなってから後継者が定まらず、政情不安に陥っている。

 それで王妃は、国内に広大な領地を持ち、産業も盛んな我がザルム侯爵家を、自分の息子の後ろ盾にしようとしたのだ。
 だがこれは王妃にとって悪手であった。

 私は父ザルム侯爵の亡くなった先妻の娘で、侯爵には再婚した妻との間に跡取りの息子も可愛い娘もいる。私は父にとって、いつでも切れる政略の駒でしかない。


 王妃殿下のプライドは、隣国ティユール王国の姫君であった時から、山よりも高かった。
 しかしながら国王陛下は、その王妃殿下のプライドを傷つける行為をした。

 隣国から現王妃である王女ソランジュが押し付けられるまで、国王陛下には婚約者がいた。アルベルティン公爵令嬢ヘルミーネである。陛下は王妃ソランジュが懐妊すると、ヘルミーネを第二妃として娶った。王妃に対する裏切りである。


 王妃は焦って私を王太子の婚約者となしたのだ。ヘルムート王太子殿下が十三歳、私が十二歳の時だった。しかし、使い捨てのただの道具の私に価値なんかなかった。そして王妃がそれを知った時には遅かった。国王によって結婚は決められ、式は執り行われた。誰も止められなかった。

 斯くして、十九歳の花婿、十八歳の花嫁と相成った訳だが、私たちの結婚式に列席した貴族たちは、私たちをどういう目で見たか。憐みの目で見たか。墓場への一里塚と見たか。ざまあと嗤っていたか。
 どちらにしても私が贄であることに変わりはない。

 王妃と同じくヘルムート殿下も、何の役にも立たない私を娶ってしまったことで、その山のようなプライドを傷つけられ、か弱い贄の私に当たるしかなかったのか。

 痛みだけの交合、罵るだけの言葉、冷たく打ち捨てられて、私は絶望した。
 そして、それまで薄ぼんやりと、夢でも見ていたような前世の記憶を、はっきりと思い出したのだ。


 私は転生者だ。前世はごく普通の会社員だったような気がする。何で死んだかは思い出せないが、ひとりでアパートに住んでいて、暇があればスマホでゲームをしたり小説を読んでいた。
 だけど、どうしてこう、手遅れで思い出すんかね。私の場合、タイトルまんまの『負け組の王太子と愛のない政略結婚をしました』だよね。酷い……。


  ◇◇

(あのくそ王子め)
 あんなに乱暴に身体を開いて、捻じ込んで、三擦り半で果てて、クソ下手くそなくせに、花嫁を労わるどころか、グダグダと文句を垂れ流して、クソサイテー野郎。こんないたいけで華奢な令嬢を、無体にもほどがある。
(許せん)

 私は初夜のベッドで泣き濡れながら、前世のガラの悪い言葉でヘルムート殿下を、思いっ切りなじり罵った。口に出せないので、心の中でだが。

 しかし、考えてみれば自分の立場は王侯貴族は言うに及ばず、王宮に侍る召使たちにも劣る、周りのすべての人間より弱い。誰にないがしろにされ、いじめられ、蔑まれても逃げ場がない。頼れる者が誰もいなくて、いじめ殺されるのを待つばかり。そうなったところで、誰も苦情も文句も言わない。

 恐ろしい。
 この状況で前世を思い出しても、逃げ出せもしない。殺されるのを待つばかりとか、どうすればいいのか。

 とりあえず、初夜があったことで、侍女たちはせっせと私の面倒を見てくれるだろう。
 しかし殿下は、あれだけ文句を言ったからには、次はないだろう。月のものが来たら、侍女たちも態度を変えるだろう。

 スマホで読んだ小説のように、寄ってたかって冷遇されしいたげられる愛されない政略結婚の妻というテンプレの未来が見える。
 ヤバイ。非常にやばかった。

 それまでに何とかしなければ。しかし私は政略とか貴族の権謀術数とか、権力闘争とかが好きではない。将棋とかチェスとか戦略を練り何手も先を読んだり、相手に先んじ騙したりはめたりといったことは、下手で苦手で不得手だ。
 せいぜい思いもかけない幸運で、一歩か二歩程度、先んずることができるくらいだ。そんな幸運が続くわけもない。

 それに私は転生者なのだ。何か転生の特典とか加護とかギフトとか異能とか祝福とか、何でもいいから、もらっていないだろうか。あるいは侯爵令嬢であるならば、魔力がたくさんあるとか──。

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