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02 土魔法
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自分の中に、この世界に対する違和感があるのは感じていた。
しかし、庇護してくれる母親がいなくて、生きるのに必死だった私は、そんなことを考える余裕なんてなかった。ひたすら親にとっていい子でいるよう頑張るしかなかった。
この世界では七歳で魔力検査をする。魔法のある世界なのだ。魔力を多く持つ者はやはりと言うか貴族に多い。魔力と武力の多い集団が、戦で領地を勝ち取り、切り取ってできた国なのだ。
私の魔力は貴族令嬢としてまずまずのものであった。しかし属性魔法が土魔法であった。貴族令嬢に土魔法は相性が良くない。
土魔法で最初に覚えるのは防御魔法である。目の前に武骨な茶色の土壁が出現する“アースウォール”だ。とても地味で景観も損ねる。
着飾った令嬢たちは土壁を見ただけで逃げて行く。
次に覚えるのが穴を掘る魔法だ。屋敷の庭で“ディギングアホール”と唱えると、最初は指で掘ったくらいの小さな穴が開く。こんな小さな穴で何ができるというのか、小さな種を蒔くくらいしか思いつかない。
農民であれば少しは役に立つかもしれないが、私はみんなから穴掘り令嬢とバカにされた。
父はこの属性魔法であっさり私を見限った。そして、親に見限られた私はいい子でいることを諦めて、新たに手に入れた土魔法にのめり込んだ。
私はせっかくの魔法を諦められなかった。暇を見つけてはコツコツと練習し、庭師と一緒になって土を掘り返した。
私は大人しくて、引きこもりで、暇さえあれば土を捏ねているような変わった令嬢になった。髪は濃い茶色で緑の瞳をしており、鼻の周りにそばかすがある。真に土魔法に似つかわしい、十人並みの地味な令嬢であった。
◇◇
私の前世は農家ではなく、普通に電車で会社に通勤してアパートに帰っていた。
どんな会社とかどんな仕事とかは、覚えていない。大したことはできないから大した仕事をしていたわけでもないだろう。
どうしてこんな私が転生してしまったのか分からない。
王太子ヘルムート殿下は、私が婚約者であることをどう思っていたのか、その銀の髪、アイスブルーの瞳は冷たく、表情が動くことはなかった。結婚するまでの交流はあまりなかった。
多分、気に入らなかったんだろうな、と自分では思っている。
頃合いを見はからって、寝室にやってきた侍女たちは、私の涙に濡れてぐちゃぐちゃな惨状に眉を下げて、必死に介抱してくれた。
今は綺麗に身体を拭われ、手当てもされてきれいになったベッドにのんびり横になっている。
「くっ……」
しかし、少しでも寝返りをすれば身体が痛い。
(あのくそ野郎、こんな可愛い子に無体をして、許せん)
私はこんな無体をしたヘルムート殿下を心の中で罵った。
侍女たちが出払ったのを見計らって、私はそっとテラスから外に出た。テラスの外には中庭がある。外からは侵入できないようになっている。
中庭に出て、そっと膝を折り、地面に手をついた。
(ああ、土だわ)
結婚式の支度と結婚式とで、私はしばらく土に触れる暇もなかった。私はゆっくりと地面に膝をつき、両手を広げて大地を抱き締めるように触れ、呪文を唱える。
「“ディギングアホール” 穴掘り」
説明しよう。
土魔法の穴掘りとは、“ディギングアホール”と唱えて穴を掘る。ただそれだけの魔法である。
初めの内は、小さな穴しか掘れない。しかし、レベルが上がると深く、やがて広く、掘れるようになるのだ。掘る速さも速くなる。地面の下は無敵に近いが、たまにモグラなんかに遭遇する。
そんな時は“アースガード”で防御壁を作ったり“ストーンバレット”で小石を弾丸のごとくぶつけて逃げる。なんとモグラよりも穴を掘るのがうまくなっていた。
土の中にはいろんなものが埋まっているのだ。縦横無尽に掘り進められるようになると楽しい。そして土魔法のレベルもどんどん上がっていったのだ。
そういうわけで呪文を唱えると、中庭にぽっかりと穴が開く。縦長のかなり深い穴だ。私はその穴に飛び降りて、穴の底にふんわりと着地する。
「“アースヒール” 土の癒し」
穴の中で呪文を唱えると、王太子ヘルムートにつけられた心と身体の傷が見る見る癒されてゆく。そう、私は土の中で心を癒し、傷を癒すことができる。もちろん土の中に居なくても“アースヒール”はできるが効果は小さい。
次に穴の壁に片手を置き、持ってきた茶色くて滑らかなキューブを取り出した。壁に穴を開けてキューブを填め込む。
ザルム侯爵家で私は庭に穴を掘って、地下に部屋を作って遊んでいた。せっせと拡張し、思いつくままに改装した。最初は武骨な穴倉だった部屋は、どんどんその様相を変えていった。
私は自分で作った部屋に愛着を持った。部屋には私の作った二体のゴーレムがいる。もし結婚した王太子に離縁されたら、作った部屋やゴーレムがきっと必要になる。そう思った。
だから、結婚するにあたって、持って行く方法を考えた。ある程度近くにある部屋なら、穴を延ばして部屋に入れるけれど、屋敷の敷地程度までだろう。王宮に行くなら部屋を持っていかなければならない。
土魔法には圧縮とか圧迫とか重力をかける魔法がある。私はそれを応用して部屋を圧縮して小さなキューブにしたのだ。
中庭の穴の中で、キューブを設置して圧縮の魔法を解く。
「“コンプレッションキャンセル” 圧縮解除」
しばらく待つと、部屋ができたのか、ドアが出現した。ドアを開くと、侯爵家で作ったお部屋があって、そこには私の作った侍女と護衛のゴーレムが出迎えてくれた。
『『お帰りなさいませ、アガーテお嬢様』』
「ただいま、ニコル、ウルバン」
※ グーグルで穴を掘るで翻訳すると(Digging A Hole)が出てきます。ググったらゲームでした。ちょっと面白そう。
しかし、庇護してくれる母親がいなくて、生きるのに必死だった私は、そんなことを考える余裕なんてなかった。ひたすら親にとっていい子でいるよう頑張るしかなかった。
この世界では七歳で魔力検査をする。魔法のある世界なのだ。魔力を多く持つ者はやはりと言うか貴族に多い。魔力と武力の多い集団が、戦で領地を勝ち取り、切り取ってできた国なのだ。
私の魔力は貴族令嬢としてまずまずのものであった。しかし属性魔法が土魔法であった。貴族令嬢に土魔法は相性が良くない。
土魔法で最初に覚えるのは防御魔法である。目の前に武骨な茶色の土壁が出現する“アースウォール”だ。とても地味で景観も損ねる。
着飾った令嬢たちは土壁を見ただけで逃げて行く。
次に覚えるのが穴を掘る魔法だ。屋敷の庭で“ディギングアホール”と唱えると、最初は指で掘ったくらいの小さな穴が開く。こんな小さな穴で何ができるというのか、小さな種を蒔くくらいしか思いつかない。
農民であれば少しは役に立つかもしれないが、私はみんなから穴掘り令嬢とバカにされた。
父はこの属性魔法であっさり私を見限った。そして、親に見限られた私はいい子でいることを諦めて、新たに手に入れた土魔法にのめり込んだ。
私はせっかくの魔法を諦められなかった。暇を見つけてはコツコツと練習し、庭師と一緒になって土を掘り返した。
私は大人しくて、引きこもりで、暇さえあれば土を捏ねているような変わった令嬢になった。髪は濃い茶色で緑の瞳をしており、鼻の周りにそばかすがある。真に土魔法に似つかわしい、十人並みの地味な令嬢であった。
◇◇
私の前世は農家ではなく、普通に電車で会社に通勤してアパートに帰っていた。
どんな会社とかどんな仕事とかは、覚えていない。大したことはできないから大した仕事をしていたわけでもないだろう。
どうしてこんな私が転生してしまったのか分からない。
王太子ヘルムート殿下は、私が婚約者であることをどう思っていたのか、その銀の髪、アイスブルーの瞳は冷たく、表情が動くことはなかった。結婚するまでの交流はあまりなかった。
多分、気に入らなかったんだろうな、と自分では思っている。
頃合いを見はからって、寝室にやってきた侍女たちは、私の涙に濡れてぐちゃぐちゃな惨状に眉を下げて、必死に介抱してくれた。
今は綺麗に身体を拭われ、手当てもされてきれいになったベッドにのんびり横になっている。
「くっ……」
しかし、少しでも寝返りをすれば身体が痛い。
(あのくそ野郎、こんな可愛い子に無体をして、許せん)
私はこんな無体をしたヘルムート殿下を心の中で罵った。
侍女たちが出払ったのを見計らって、私はそっとテラスから外に出た。テラスの外には中庭がある。外からは侵入できないようになっている。
中庭に出て、そっと膝を折り、地面に手をついた。
(ああ、土だわ)
結婚式の支度と結婚式とで、私はしばらく土に触れる暇もなかった。私はゆっくりと地面に膝をつき、両手を広げて大地を抱き締めるように触れ、呪文を唱える。
「“ディギングアホール” 穴掘り」
説明しよう。
土魔法の穴掘りとは、“ディギングアホール”と唱えて穴を掘る。ただそれだけの魔法である。
初めの内は、小さな穴しか掘れない。しかし、レベルが上がると深く、やがて広く、掘れるようになるのだ。掘る速さも速くなる。地面の下は無敵に近いが、たまにモグラなんかに遭遇する。
そんな時は“アースガード”で防御壁を作ったり“ストーンバレット”で小石を弾丸のごとくぶつけて逃げる。なんとモグラよりも穴を掘るのがうまくなっていた。
土の中にはいろんなものが埋まっているのだ。縦横無尽に掘り進められるようになると楽しい。そして土魔法のレベルもどんどん上がっていったのだ。
そういうわけで呪文を唱えると、中庭にぽっかりと穴が開く。縦長のかなり深い穴だ。私はその穴に飛び降りて、穴の底にふんわりと着地する。
「“アースヒール” 土の癒し」
穴の中で呪文を唱えると、王太子ヘルムートにつけられた心と身体の傷が見る見る癒されてゆく。そう、私は土の中で心を癒し、傷を癒すことができる。もちろん土の中に居なくても“アースヒール”はできるが効果は小さい。
次に穴の壁に片手を置き、持ってきた茶色くて滑らかなキューブを取り出した。壁に穴を開けてキューブを填め込む。
ザルム侯爵家で私は庭に穴を掘って、地下に部屋を作って遊んでいた。せっせと拡張し、思いつくままに改装した。最初は武骨な穴倉だった部屋は、どんどんその様相を変えていった。
私は自分で作った部屋に愛着を持った。部屋には私の作った二体のゴーレムがいる。もし結婚した王太子に離縁されたら、作った部屋やゴーレムがきっと必要になる。そう思った。
だから、結婚するにあたって、持って行く方法を考えた。ある程度近くにある部屋なら、穴を延ばして部屋に入れるけれど、屋敷の敷地程度までだろう。王宮に行くなら部屋を持っていかなければならない。
土魔法には圧縮とか圧迫とか重力をかける魔法がある。私はそれを応用して部屋を圧縮して小さなキューブにしたのだ。
中庭の穴の中で、キューブを設置して圧縮の魔法を解く。
「“コンプレッションキャンセル” 圧縮解除」
しばらく待つと、部屋ができたのか、ドアが出現した。ドアを開くと、侯爵家で作ったお部屋があって、そこには私の作った侍女と護衛のゴーレムが出迎えてくれた。
『『お帰りなさいませ、アガーテお嬢様』』
「ただいま、ニコル、ウルバン」
※ グーグルで穴を掘るで翻訳すると(Digging A Hole)が出てきます。ググったらゲームでした。ちょっと面白そう。
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