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04 マドハンド劇場
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説明しよう。
マドハンドというのは肘までの手の形をした魔物である。某有名ゲームに出てくるマドハンドは集団で仲間を呼んだり、上位の魔物を呼んだりと厄介な魔物だった。
しかし目の前にいるのは、綺麗に泥を落としたマドハンドだ。泥を被っていないのは何と呼べばいいのだろう。大きさもまちまちだし細いのやごついのや、色々な手がある。指輪をしたのやマニキュアをしたのもいる。何なのコイツら。
『ご安心ください。彼らは私共がちゃんと使役しております』
「そうなの? 同じ土仲間だから、使役できるのかしら」
するとマドハンドたちが二手に分かれた。一方はマドハンド、もう一方は剣士と魔法使いっぽい人形を被ったマドハンドで、土で作った剣を使って、戦いの場面を寸劇で披露するのだ。剣士と魔法使いの人形を被った方が、あっさりとマドハンドたちをやっつけて家来にしてしまった。マドハンド劇場である。
遠い昔、こんな劇を見たことがあるような、ないような。とりあえず拍手を送った。
多分、ニコルとウルバンがマドハンドと戦って勝ったんだな。あれほど危険なことはしないでって言っているのに。
私が二人のゴーレムを睨むと、横を向いて知らん顔をする。
それでもやっぱり私は注意してしまう。
「あまり危険なことはしないでね」
ソファに座るとニコルがお茶を出す。お茶っ葉からカップまでどうやって揃えたのか疑いたくなるが、猫の手ならぬマドハンドもいるとなると、何となく納得する。
「よそ様から、勝手に持ち出しては駄目よ」
整列したマドハンドが、合点承知の助みたいにうなずく。
『大丈夫でございますよ、アガーテ様。私共が管理しておりますので、大船に乗った気持ちでゆったりお過ごしくださいませ』
なんて気の利く侍女だろう。彼らを作ったのは、まだ婚約者が決まる前だった。それからずっと一緒だ。
自分の作った部屋は居心地が良い。私は時間が空くと部屋に籠って、彼らと共にコツコツと部屋を整備していた。もはや、何処が実家で誰が家族か分からないくらいだわ。
◇◇
父は決して私を蔑ろにしていたわけではなかった。家の駒として大事に育てた。ちょうど王太子ヘルムート殿下とひとつ下で年回りもよく、候補として押さえておきたかったのだろう。ザルム侯爵家は王妃派ではないが第二妃派でもなかった。
しかし、私は濃い茶色の髪と緑の瞳の、侯爵令嬢としてはボーダーラインだが飛び抜けて美しいということもなく、愛嬌も愛想もなかった。金髪碧眼の天真爛漫でにこやかな他の令嬢に比べて地味でもあった。だから選ばれないと思っていた。
「そんなつまらなそうな顔をしてはいけません」
「うっすらと微笑むように笑って」
教師たちにそう言われたが上手くできなかった。自分が今どんな表情をしているかと思うと余計にぐちゃぐちゃになる。表情一つでも悩んだ。お面があったら表情を見られずに済むだろう。夢で見たような気もするが、なんとも頼りない遠い記憶のようにおぼろだ。
そんな時、恐ろしい夢を見た。見たこともないのに知っているようなお面が出てきて、どんどん私に近付いて、大写しになって目の前に迫ってくるのだ。最後にはそのお面にどんとのしかかられて押しつぶされた。
夢から覚めて飛び起きる。どこからか、そのお面が見ているような気がして、怖くて眠れなかった。
その日は何をしても上手くいかず教師に叱られて、ぼんやりと穴倉のような土の部屋で粘土を捏ねた。あのお面が見ている。せっつかれているような気がする。私の手は知らず知らず、夢に出たお面を作っていた。
出来上がったお面を手に取ってみる。何だか笑っているような顔に見える。
(こんな顔で、うっすらと笑っていればいいのかしら)
私はお面を顔に当てる。ぴたりと納まった。
そのまま屋敷に戻ったが誰も咎める者はいない。部屋に戻って鏡を見たがうっすらと笑った私がいるだけだ。お面をかぶっているのに。私は怖くなってお面を外した。お面は簡単に外れて、いつもの私が少し驚いた表情で鏡の中にいた。
初めて会ったヘルムート殿下は王妃殿下に似て銀髪にアイスブルーの瞳の非常に美しい王子様だった。その色と相まって少し冷たい感じがした。
私はちょうどその頃作った、能面君一号と名付けたお面をつけていた。どういうわけか、あのお面が能面だと私は知っていた。どこで使われるのかは、当時は知らなかったけれど。
お面のお陰で何とか侯爵令嬢として顔を上げて生きていける。
隣国の国王陛下が崩御されて、王妃殿下が後ろ盾として選んだのがザルム侯爵家であった。
◇◇
その日ものんびりゆったりとして過ごした。ベッドにゴロゴロしていても誰も咎めたりしない。侍女たちは私が起きようとすると、かえってベッドやカウチソファに押し留めようとする。着るものもゆったりとしたドレスにガウンやストールを出してきて病人扱いである。
このまま夜ものんびりできると思っていたが甘かった。
その夜、私の夫になったヘルムート殿下が来ると言う。私は絶対来ないと思っていたのに。また鼻息荒くして来るんだろうか。痛い目に遭うのは嫌なので断固として断りたいところだ。
マドハンドというのは肘までの手の形をした魔物である。某有名ゲームに出てくるマドハンドは集団で仲間を呼んだり、上位の魔物を呼んだりと厄介な魔物だった。
しかし目の前にいるのは、綺麗に泥を落としたマドハンドだ。泥を被っていないのは何と呼べばいいのだろう。大きさもまちまちだし細いのやごついのや、色々な手がある。指輪をしたのやマニキュアをしたのもいる。何なのコイツら。
『ご安心ください。彼らは私共がちゃんと使役しております』
「そうなの? 同じ土仲間だから、使役できるのかしら」
するとマドハンドたちが二手に分かれた。一方はマドハンド、もう一方は剣士と魔法使いっぽい人形を被ったマドハンドで、土で作った剣を使って、戦いの場面を寸劇で披露するのだ。剣士と魔法使いの人形を被った方が、あっさりとマドハンドたちをやっつけて家来にしてしまった。マドハンド劇場である。
遠い昔、こんな劇を見たことがあるような、ないような。とりあえず拍手を送った。
多分、ニコルとウルバンがマドハンドと戦って勝ったんだな。あれほど危険なことはしないでって言っているのに。
私が二人のゴーレムを睨むと、横を向いて知らん顔をする。
それでもやっぱり私は注意してしまう。
「あまり危険なことはしないでね」
ソファに座るとニコルがお茶を出す。お茶っ葉からカップまでどうやって揃えたのか疑いたくなるが、猫の手ならぬマドハンドもいるとなると、何となく納得する。
「よそ様から、勝手に持ち出しては駄目よ」
整列したマドハンドが、合点承知の助みたいにうなずく。
『大丈夫でございますよ、アガーテ様。私共が管理しておりますので、大船に乗った気持ちでゆったりお過ごしくださいませ』
なんて気の利く侍女だろう。彼らを作ったのは、まだ婚約者が決まる前だった。それからずっと一緒だ。
自分の作った部屋は居心地が良い。私は時間が空くと部屋に籠って、彼らと共にコツコツと部屋を整備していた。もはや、何処が実家で誰が家族か分からないくらいだわ。
◇◇
父は決して私を蔑ろにしていたわけではなかった。家の駒として大事に育てた。ちょうど王太子ヘルムート殿下とひとつ下で年回りもよく、候補として押さえておきたかったのだろう。ザルム侯爵家は王妃派ではないが第二妃派でもなかった。
しかし、私は濃い茶色の髪と緑の瞳の、侯爵令嬢としてはボーダーラインだが飛び抜けて美しいということもなく、愛嬌も愛想もなかった。金髪碧眼の天真爛漫でにこやかな他の令嬢に比べて地味でもあった。だから選ばれないと思っていた。
「そんなつまらなそうな顔をしてはいけません」
「うっすらと微笑むように笑って」
教師たちにそう言われたが上手くできなかった。自分が今どんな表情をしているかと思うと余計にぐちゃぐちゃになる。表情一つでも悩んだ。お面があったら表情を見られずに済むだろう。夢で見たような気もするが、なんとも頼りない遠い記憶のようにおぼろだ。
そんな時、恐ろしい夢を見た。見たこともないのに知っているようなお面が出てきて、どんどん私に近付いて、大写しになって目の前に迫ってくるのだ。最後にはそのお面にどんとのしかかられて押しつぶされた。
夢から覚めて飛び起きる。どこからか、そのお面が見ているような気がして、怖くて眠れなかった。
その日は何をしても上手くいかず教師に叱られて、ぼんやりと穴倉のような土の部屋で粘土を捏ねた。あのお面が見ている。せっつかれているような気がする。私の手は知らず知らず、夢に出たお面を作っていた。
出来上がったお面を手に取ってみる。何だか笑っているような顔に見える。
(こんな顔で、うっすらと笑っていればいいのかしら)
私はお面を顔に当てる。ぴたりと納まった。
そのまま屋敷に戻ったが誰も咎める者はいない。部屋に戻って鏡を見たがうっすらと笑った私がいるだけだ。お面をかぶっているのに。私は怖くなってお面を外した。お面は簡単に外れて、いつもの私が少し驚いた表情で鏡の中にいた。
初めて会ったヘルムート殿下は王妃殿下に似て銀髪にアイスブルーの瞳の非常に美しい王子様だった。その色と相まって少し冷たい感じがした。
私はちょうどその頃作った、能面君一号と名付けたお面をつけていた。どういうわけか、あのお面が能面だと私は知っていた。どこで使われるのかは、当時は知らなかったけれど。
お面のお陰で何とか侯爵令嬢として顔を上げて生きていける。
隣国の国王陛下が崩御されて、王妃殿下が後ろ盾として選んだのがザルム侯爵家であった。
◇◇
その日ものんびりゆったりとして過ごした。ベッドにゴロゴロしていても誰も咎めたりしない。侍女たちは私が起きようとすると、かえってベッドやカウチソファに押し留めようとする。着るものもゆったりとしたドレスにガウンやストールを出してきて病人扱いである。
このまま夜ものんびりできると思っていたが甘かった。
その夜、私の夫になったヘルムート殿下が来ると言う。私は絶対来ないと思っていたのに。また鼻息荒くして来るんだろうか。痛い目に遭うのは嫌なので断固として断りたいところだ。
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