異世界転移したら断罪の現場でした。頼る人が婚約破棄した王子しかいません

拓海のり

文字の大きさ
11 / 70
二章 規格外スライムとエロ王子

10 逃げたい

しおりを挟む

「そういや、私、何でジェリーに食べられなかったのかしら?」
『フツーは、捕獲したエサが意識をもって喋るなんてー、有り得ないんだけどー』
「捕獲したエサ……」
 コイツ、他の召喚した人は食べたんだ。スライムの中で手やら顔やらが溶けて、目が飛び出して内臓が……。サーと顔が青くなる。梨奈は全力で想像するのを阻止した。
 クリス王子がころころ表情の変わる梨奈の様子を面白そうに見ている。
『なーんか、主の変な力で吸収できなくてー、その力が美味くてー、フェロモンとか酔っ払うほど美味いしー。もう、食べなくても全然オケーー』
「何? このスライム」
 訳分かんない。

「まあいいか。ところで、私、帰れるの?」
 梨奈は気を取り直して、両手を胸に握りしめ、スライムにせまった。
「元の世界に帰れるんでしょ? 帰して」
 しかしスライムは『オイラ知らないー』と無情な返事をする。その上『主、コイツとキスしたでしょー』と余計な事を言い出した。
 思わず口を押えて隣にいる王子を見上げる。
「え、それがどういう」
『こっちの世界の人間と仲良くなって、体液の交換をしたらー、こちらの繋がりが強くなって、元の世界の繋がりが薄くなるー。さっきので、大分薄くなったネー』

「……」
 唖然として言葉が出ない。
「ありがとう、ジェリー」
 代わりにクリス殿下が礼を言って梨奈を抱え上げた。
「いやっ、何すんの!」
「もう諦めろ」
『大丈夫。主、そいつと相性いいねー。たくさん体液交換したらー、元の世界の事忘れるー。ハッピーねー』
(何てこと言うんだ、このバカスライム!!)


  * * *

 ベッドに下ろされて、膝をそろえて座り直す。
 大人が何人も寝れそうな広いベッドで、ごつい柱には彫刻が施され、天蓋から薄いカーテンが幾重にも重なって降りている。
 クリスティアン殿下が梨奈の隣に腰を下ろすと、何だかいい匂いが身体を包む。
(これが曲者なのだ!)
 怒涛の展開に頭も体も追いつかないで、流されるままになっている。
 ちゃんと状況を整理しなければ──。
「ええと、ですね。やっぱり、きちんとケジメを付けてからの方がいいかと」
 そうだ。この方にはまだ、ちゃんとした婚約者様がいらっしゃるのだ。
 流されてはいけない。
 梨奈は拳を握る。

「そうだね、君が逃げないのなら」
 殿下が梨奈のこぶしを握った手を包む。大きな手。
「……逃げません」
(だって帰れないし、どうやって帰ったらいいか知らないし)
「私が落ちぶれて、廃嫡されて、平民になっても?」
 手を握って両手で持ち上げて聞く。状況的にありうることだった。彼は国王様に謹慎を言い渡された身で、しかも梨奈はその彼に匿われる身だ。
(大体、この人から逃げて何処へ行けばいいというのか? まだこっちに来たばっかりで、魔族やら人食いスライムがウロウロしている世界で──)
 持ち上げられたその手にくちづけされて、こういうのがダメなんだと思っても、すでに彼に絆されてしまっている。

「に、逃げません。だけど本当に私でいいんでしょうか? 私ガラッパチだし、粗忽ものだし、流されやすいし、ちゃらんぽらんだし、いい加減だし、男女って言われてたんですよ」
(う、取り柄がない……)
 梨奈は泣きたくなった。大体、このお見合いというか、プロポーズというかみたいな展開は、何?

「君といると楽しい。楽に息ができる」
 それってヒロインに言うセリフみたいだわ。
 逃げたい。この状況から──。

「君が帰ってしまうのは、どうしても嫌なんだ」
「あ、あのですね、か、帰ったりしないから……」
(冗談じゃない、帰りたいに決まっている! しっかりしろ、自分)
 こういうのって女性が圧倒的に不利っていうか、心が受け身な感じ、思考が受け身な感じ、体格も違うし、身分も上だし、エロ王子だし──。

(ううん、頑張るのよ。流されてはいけない)
 梨奈は自分の頬をペチペチと叩いた。王子が首を傾げてその様子を見る。
「本当に逃げませんから、行く所もありませんし、知り合いもいないし」
 全力で王子から身を離して、ベッドの上を逃げた。隅っこまで逃げて自分の身体を自分で抱いて、睨むような怯えて泣き出しそうなような顔をする。

 クリス王子はため息を吐いた。
「そうか、悪かった。少し有頂天になっていたようだ」
 王子は身を起こし、ベッドから降りた。
 梨奈は案外王子がすんなり引き下がったのでホッとした。あれだけ迫ったのにあっさり引き下がり過ぎじゃないのと、思う気持ちもあって少し眉根が寄った。
 初心者で駆け引きも出来ないのだ。駆け引きをするようなタイプでもなかった。

「あの……」
「一緒に寝たら、私は何をするか分からないからね」
「だったら、私はさっきの部屋で──」
「いや、リナを向こうの部屋に寝かせるのは危険だから──」
「うー、じゃあベッドの真ん中に仕切りを作って」
「面白いことを言うな、リナは。じゃあそれで行こうか」
「はい」

『オイラ仕切りになる―』
 何とスライムが申し出た。ベッドの上に乗ってびろんと伸びる。
「高さが足りないな」
「枕を置いたらどうかしら」
『枕、食べる―?』
 スライムって雑食性なのか。それでも枕は食べないだろう。
「そんなもの、食べないの」
『はーい―』
 ジェリーは枕に求肥のように巻きつく。ベッドにピンクの仕切りが出来た。
「リナは奥に寝て」
「はい」
 取り敢えず自分の安全な寝場所を確保できた。とても色々あって興奮していたけれど、この世界に来るまでずっと寝不足だった。疲れ果てて、変な雑音もなくなって、梨奈は案外くったりと眠ってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜

ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが…… この世界の文明レベル、低すぎじゃない!? 私はそんなに凄い人じゃないんですけど! スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...