異世界転移したら断罪の現場でした。頼る人が婚約破棄した王子しかいません

拓海のり

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七章 コルベルク公国編

幕間 ギードとファイアーボール

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 ギード・ヘーゲルは真面目な男、黒髪蒼い瞳の25歳。妻なし恋人なしのお気楽な独り者である。ランツベルク将軍がいてジョサイアの父親がいて、少々窮屈な騎士団の目立たない市中周りの警邏隊を率いる第三騎士団に所属していた。

 従って魔法省の市中警邏課所属のダフネ・ヘンケルスも見知っていた。濃い赤色の髪が魔法を使う時、火の粉をまき散らすように赤く染まる。通称『炎の魔女』と呼ばれていたが、それはゲスで下ネタな意味も含む、その種の下世話な噂話が広まっているからだ。

 ダフネはギードよりひとつ上の26歳で独身、恋人不特定多数と言われている。誘えばだれとでも寝てくれるとか、如何わしいパーティに出席していたとか、夜の街を彷徨っていたとか、流れる浮き名に事欠かない。

 しかし、真面目を絵に描いたようなギードは、噂話を聞いてはいるが実際にそんな場面に遭遇したことはない。さらに言えばダフネのひとつ下の妹がギードと同じ学年でそちらの方を良く知っていた。

 ダフネの妹は小狡い。悪いことは全部姉におっ被せて自分は口先だけで言い逃れするような人間だった。ダフネと違い金髪で見てくれが良いことで周りの人間が甘やかした結果だ。
 タウンハウスが近くでギードも子供の頃、遊びに行ったりしたが物を壊してそれをギードの所為にされたり、頼まれて街に出かけ遅くなったのを全てギードの所為にされてから、近付かなくなった。学校も中等科から国軍の兵学校騎士科に入り、寮生になって離れた。

 ギードにとってダフネとその妹は近付きたくない人種だった。が、仕事は別である。ダフネは知り合いだからといって特段馴れ馴れしいことはなく、街の警邏も真面目に取り組み、問題を起こさなかった。

 今回、クリスティアン殿下がコルベルク公国を賜って、ブルグンド帝国との戦争に出征していたギードも公国に随行することが決まった。ダフネもその中にいた。
 先遣隊に選ばれたのは市中警邏の実績があってのことだろう、ダフネもそうだろうと考える。ギードは行程を組み公都カランタニアに向けて出発した。

 予定は順調に消化した。ゆく先々でクリスティアン殿下の着任と戦争の終結、領地の安堵を説き騒がず心して待てと説いて、預かった物資を配り、先へ向かう。
 ダフネは魔族と仲良くなり魔術について勉強をしている。魔族たちは穏やかで一見人間と変わらないのは幻惑のピアスというものを装備しているからだと聞いた。魔力の多い者が見ると、ピアスを装備した者は元の姿とブレて見えて発見できるらしいが、魔力の少ない者には分からないのだという。


 公都カランタニアでは勝手知ったる魔族たちの助言があって宿舎の手配、破落戸や無法者の取り締まり、街の有志を募って自警団を作って取り締まりに当たる。一方、議会にも話を通してクリスティアン殿下が公都に来る準備を進める。

 気になるのはルーカス・ファン・コルベルク侯爵だ。議会も彼については言明を避けている。侯爵派もいるのだろうか。彼らの様子を魔族に頼んで調査してもらう。魔族は直ぐに引き受けた。

「嫌に簡単に引き受けるんだな。それにこの街についてよく知っている」
 ダフネがギードを見て肩を竦める。
「彼ら、前にこの街にいて、ブルグンド帝国の手下として働いていたの」
「どうしてそんなことを知っているんだ」
「だってあまりに街の様子をよく知っているから聞いたの」
「そんなことを話してくれたのか?」
「彼らにしたら裏切りじゃないんだって。目上の人がいなくなったので、それを斃した者に仕える事にしたんだって」
「そんな簡単なものなのか」
「彼らに言われたんだけれどギード。下っ端はそんなものなんだって」
 ダフネはじっとギードを見る。
「案外そんな簡単なものなのかもしれないわね」
「誰が奴らの主を斃したんだ」
「大公妃殿下」
「嘘だ」
「本当なんだって。あのまるで子供っぽい何も知らなさそうなお嬢様が、私の妹みたいに我が儘で嘘つきでずるい女かと思ったけれど全然違う。あの妃殿下が、魔族の四天王のひとりをタイマンで斃したの」
 ギードは口がきけない。それにダフネの様子がおかしい。

「それで、あなたは私のことをどう思っているわけ?」
 ギードは改めてダフネを見る。ダフネは彼女の妹より、顔もスタイルも、ずっともっと、綺麗だ。
「あなた結構モテていたわよね。何も、こんな所に来なくても、いい養子先があったんじゃないの。何でまだ独身なの? そのわけを教えてくれる?」
 ダフネのエビ茶色の髪が少し揺らめいて、先の方が少し赤く染まっている。
 もし今ファイアーボールをダフネが撃ったら、ギードは燃え尽きてしまうだろう。それもいいかもしれない。
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