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第三章 次世代編
幕間 風の懊悩(3)
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『残酷じゃがの。
他人のモノに惚れとるなら、相手から奪う気概でないとのー。
でないと、さっさと他の女に乗り換えんか。
おまえへの恨み言をわしが一心に受けておるのじゃぞ』
祖父が恨めしそうにいう。
『なに言ってんだよ、じい様。
失意の女を慰めちゃ、つまみぐいしてるって阿蛾が嘆いてたぞ』
『え」
爺はあからさまにぎくりとした。
形としては阿蛾がおしかけ女房だが、この47も年下の幼妻に祖父は滅法弱い。
「そ、それというのも、ぬしがっ。
百一番目のくせに、片付かぬからじゃ!』
爺はだだっ子のように喚いた。
『じい様の女遊びとオレの縁組は、関係ないだろー。
オレは女を作らないんだよ』
疾風はえっへん、と胸を張った。
『作らない、んじゃなくて、作れないんじゃろが』
脱兎のごとく走り出した時苧の背に、疾風から鉄の礫がとぶ。祖父とのじゃれあいとの後、思いのほか、祖父の言葉が胸に沁みる。
『さっさと乗り換えんか』
妹のような存在から、遥か遠い存在になった娘。
そして、娘の傍らには、彼自身がそうあれと願っていた兄が寄り添っていた。
三人で遊んだ頃が懐かしく、寂しいのは無論、ある。
(オレはまだあいつのことをあきらめてないのか?)
彼は自問する。
答えは出ない。
彼は幼い頃病勝ちで動けなかったからその分、人の気持ちを読むことに長けている。
娘を小さい頃よりみつめていた。しかし、娘の思いはいつも兄に向かっていることをいつしか知った。兄もまた娘をずっと見ていることを知って、身をひいた。
彼は兄の片腕として働くことに生き甲斐を見出し、娘の公私に亘る相談役を兼ねている。
娘も兄も、幼い頃からと同じように彼に接している。
変わったのは彼の方だった。
やたらと二人に遠慮するようになった。
彼としては、逢瀬もままならぬ二人に時間を作ってやっているのだが、二人はあからさまに寂しそうな顔をする。
(どうしろっていうんだよ!独り者に、わざわざあてつけるつもりかよ?!)
兄と娘にそんな気がこれっぽちもないことは重々承知しているものの、伴侶がいない寂しさが彼の心の中を吹き抜ける。
彼自身、真剣に探しているのだ。
理想の女は、というと確かに娘の顔が浮かぶ。娘のどこが理想なのか、と言われると……。それも悩む。
美しい。
強い。
慈悲深い。
そんな言葉では娘の真髄には至らない。
美しいだけなら、強いだけなら、慈悲深いだけなら、そんな女は他に沢山いる。
あえていうなら、凍てついた頃の己を溶かしてくれた、娘の笑顔なのだろうか。
邪心のない、太陽のような朗らかな命そのもののような。
(あんな女はしばらく出てはこないだろう)
強くて、勇ましいのに、護ってあげたい女。
儚い表情の下に雄雄しい心を持っている女。
天を仰ぎ見る。
(長嶺。あんたも同じ気持ちだったのか。菜をでなければいらぬと。菜をの代わりの女などおらぬと)
正直、引く手数多であった長嶺が火炉を選んだときには驚いた。
確かに火炉は人を温かくさせる。家庭、という言葉を具現化した女であった。
しかし彼が熱望してやまぬ菜をとは容姿は無論、魂の色も、似ても似つかぬ娘であったのだから。
啓示のように、今更ながらに火炉を選んだ理由がわかった気がしたのだ。
(あんたは菜をの身代りを作らなかったんだな)
菜をを投影した妻を選ばなかった長嶺に疾風は心底、偉いと思った。
己が虚しくなるとわかっていても虚像を投影して、慰めを得ようとする者のなんと多いことか。
(オレもオレだけの女をのんびりと捜すさ)
そう思うと疾風は気が楽になった。
疾風が運命の片割れと出逢うのは、もうしばらくかかりそうであった。
他人のモノに惚れとるなら、相手から奪う気概でないとのー。
でないと、さっさと他の女に乗り換えんか。
おまえへの恨み言をわしが一心に受けておるのじゃぞ』
祖父が恨めしそうにいう。
『なに言ってんだよ、じい様。
失意の女を慰めちゃ、つまみぐいしてるって阿蛾が嘆いてたぞ』
『え」
爺はあからさまにぎくりとした。
形としては阿蛾がおしかけ女房だが、この47も年下の幼妻に祖父は滅法弱い。
「そ、それというのも、ぬしがっ。
百一番目のくせに、片付かぬからじゃ!』
爺はだだっ子のように喚いた。
『じい様の女遊びとオレの縁組は、関係ないだろー。
オレは女を作らないんだよ』
疾風はえっへん、と胸を張った。
『作らない、んじゃなくて、作れないんじゃろが』
脱兎のごとく走り出した時苧の背に、疾風から鉄の礫がとぶ。祖父とのじゃれあいとの後、思いのほか、祖父の言葉が胸に沁みる。
『さっさと乗り換えんか』
妹のような存在から、遥か遠い存在になった娘。
そして、娘の傍らには、彼自身がそうあれと願っていた兄が寄り添っていた。
三人で遊んだ頃が懐かしく、寂しいのは無論、ある。
(オレはまだあいつのことをあきらめてないのか?)
彼は自問する。
答えは出ない。
彼は幼い頃病勝ちで動けなかったからその分、人の気持ちを読むことに長けている。
娘を小さい頃よりみつめていた。しかし、娘の思いはいつも兄に向かっていることをいつしか知った。兄もまた娘をずっと見ていることを知って、身をひいた。
彼は兄の片腕として働くことに生き甲斐を見出し、娘の公私に亘る相談役を兼ねている。
娘も兄も、幼い頃からと同じように彼に接している。
変わったのは彼の方だった。
やたらと二人に遠慮するようになった。
彼としては、逢瀬もままならぬ二人に時間を作ってやっているのだが、二人はあからさまに寂しそうな顔をする。
(どうしろっていうんだよ!独り者に、わざわざあてつけるつもりかよ?!)
兄と娘にそんな気がこれっぽちもないことは重々承知しているものの、伴侶がいない寂しさが彼の心の中を吹き抜ける。
彼自身、真剣に探しているのだ。
理想の女は、というと確かに娘の顔が浮かぶ。娘のどこが理想なのか、と言われると……。それも悩む。
美しい。
強い。
慈悲深い。
そんな言葉では娘の真髄には至らない。
美しいだけなら、強いだけなら、慈悲深いだけなら、そんな女は他に沢山いる。
あえていうなら、凍てついた頃の己を溶かしてくれた、娘の笑顔なのだろうか。
邪心のない、太陽のような朗らかな命そのもののような。
(あんな女はしばらく出てはこないだろう)
強くて、勇ましいのに、護ってあげたい女。
儚い表情の下に雄雄しい心を持っている女。
天を仰ぎ見る。
(長嶺。あんたも同じ気持ちだったのか。菜をでなければいらぬと。菜をの代わりの女などおらぬと)
正直、引く手数多であった長嶺が火炉を選んだときには驚いた。
確かに火炉は人を温かくさせる。家庭、という言葉を具現化した女であった。
しかし彼が熱望してやまぬ菜をとは容姿は無論、魂の色も、似ても似つかぬ娘であったのだから。
啓示のように、今更ながらに火炉を選んだ理由がわかった気がしたのだ。
(あんたは菜をの身代りを作らなかったんだな)
菜をを投影した妻を選ばなかった長嶺に疾風は心底、偉いと思った。
己が虚しくなるとわかっていても虚像を投影して、慰めを得ようとする者のなんと多いことか。
(オレもオレだけの女をのんびりと捜すさ)
そう思うと疾風は気が楽になった。
疾風が運命の片割れと出逢うのは、もうしばらくかかりそうであった。
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