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第三章 次世代編
名を継ぐ者(3)~蛾夢
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実は空蝉の術には、おみつも噛んでいた。
◇
秘薬『蛾楽』を手に入れた菜をはすぐにおみつの元へ向かった。色々調べたあとで、おみつは難しい顔で言った。
「まごうかたなき毒薬ね。
神経を麻痺させるんだわ。
痛い、とか怖い、とかいう気持ちをね。
それを人は『気持ちいい』と勘違いさせるの。
正直いって真っ当な人間には使わせてはならないわね」
姉の言葉に、菜をは難しい顔をして、呟いた。
「やはりそうか。
この薬を精製している谷の者が皆、モトになっている蛾の燐粉を体内に吸い込み続けている。
時が来ると体内から猛毒を発して死んでいくの。
あたしもその場に立ち会った」
菜をはひそかにぶるっと躯を震わせた。
蛾楽の里に滞在していたある日。
菜をの世話役をしてくれていた里の唯一の女、蛾楽がふっと、一人の男に目を向けた。
『菜を。面白いものをみせてやるよ』
そう呟いた女の貌は、凄絶なものが漂っていった。
蛾楽は行李から恭々しく芥子色の衣を取り出すと、そのままつかつかと男の側に近寄っていった。
その衣と見ると、みな、ぎょっとし、その衣から遠ざかろうとする。
男は蛾楽がまっすぐ自分のもとへ、その衣が自分のもとへやってくるのを絶望的な声を上げて認めた。
『まさか。もうなのか……っ?!』
周囲の男たちの深甚な恐怖。
あまりの恐怖の中に、男をそのまま殺しかねないような恐慌も見て取れた。
(なにが始るの?!)
菜をは胸騒ぎが収まらず見守ることしか出来なかった。なにか、おぞましいものが姿を顕す予感。
『蛾楽。
オレは……ッ、オレは死にたくないっ!!」
周囲を槍の穂先で囲まれて、逃げ出すことも敵わず。自暴自棄になることすら許されておらぬような雰囲気の中で、いつしか男は膝を折り蛾楽にしがみついていた。蛾楽は男をかき抱き、芥子色の衣を男にかけた。
ひいっ……ッ、声にならない声がそこここであがる。
『そばにいてあげるよ……』
菜をには蛾楽の囁きが聞こえた。
蛾楽が菜をを振り向いた。あごをしゃくり、ついておいでと促す。そのまま蛾楽は男を支えながら、里の奥まで歩んでいった。
男達がその様子を遠巻きにしていた。
岩肌のなかに洞窟の入り口のような裂け目が見えた。そのまま衣を頭から被った男を抱えたまま蛾楽は入っていく。男の体がぶるぶる震えているのが見えた。
菜をは既に死の匂いを感じ取っていた。
(生贄……?)
菜をは目を細めた。見た目健康そうな男にイキナリ与えられた芥子色の衣が死の合図らしい。
(どうして突然?)
基本的に瘤瀬衆は、諏和賀に害なす国でない限り、他国に干渉しない。
どんな理不尽なことが行われていようとも。
だからこの里で生贄が行われているならば、それは菜をの干渉すべきことではないのだ。
菜をもその男を知っていた。
しょっちゅう菜をにちょっかいを出し、罠をかけては失敗してきた男。抜けていて、愛嬌ものであった。
つん、と酸い匂いがする。
洞窟、と思ったのは誤りだった。先が明るくなっているのを見ると、通路であったらしい。
菜をが嗅ぎ取った匂い、はそちらから吹いてくる。
通り抜けると目の前に現れ出たそこは、異様な光景であった。
赤茶けた岩肌。
同じく赤茶けた池からは油膜でテラテラ光った泡がひっきりなしに湧き上がり、はじけていく。どうやらその泡が匂いの発生源であった。
そして。
『ここは酸が土中から染み出しているのよ。おかげで毒が撒き散らされずに済むわけ』
見渡す限り、石棺が並べてあった。
それらは蓋がしまっているものが多かったが、中には開いているものも何個かあった。それは丁度、大人の大きさをしていた。
ぞわり、とした感覚が体をつらぬく。
『そんな怖い顔おしでないよ』
蛾楽がとりなすように笑った。菜をはしらずしらず目を細め、臨戦体制をとっていたらしい。
『ここはね、あたしらの墓場さ』
蛾楽があたりを見回していた。
『今日はこの男の番なんだよ』
男はぶるぶると震えていた。恐怖ではなく、熱病のような瘧だと、菜をはあたらめて男を見て、思った。
『ごらん』
男の芥子色の衣をとって、菜をの方に振り向かせた。肌のそこここに、黄色い斑点が浮かんでいる。
『蛾楽の毒を体内に溜め込んでさ。
一杯になったら毒を撒き散らしながら死んでいくのよ。
死期になると、石棺の中に潜るのだよ。
……あたし達の毒を撒き散らさないようにね」
蛾楽は、男に開いている一つの石棺を指し示すと、優しく促した。男はおとなしく従って棺の中に横たわった。
『蛾楽っ、そばにいてくれ……ッ』
棺の中から男が懇願した。
『居てやるよ』
蛾楽は優しくうなづき、石の蓋をした。彼女が菜をを手まねきした。
はじまるよ。
蛾楽は棺の側にひざまづき、言葉にならない声で蛾楽はささやいた。
ぶしゅうーと何かが噴出す音。
ぱらぱらと細かい砂粒のようなものが棺の中に当たっているような音もする。
うあああああッ。
男の断末魔があたりを揺るがす。
がたがたと蓋が揺れた。知らず、菜をはこの毒が撒き散らされたらどうなるのだろう、とぞっとした。
しかし、蛾楽が渾身の力で押さえ込んでいただけではなく、寸分なく閉まる工夫が施されているのか。男の懸命な力と、噴出しようとする圧力にもかかわらず、蓋は開かなかった。
ぶしゅう、ぶしゅうーと、気体だけでなく、液体も噴出している音が続く。
そんな中、蛾楽はずっと唄を優しくうたってやっていた。
悪夢のようなときが、小半時も続いたであろうか。
気が付くと、男のうめき声が途絶え、噴出する音がなくなっていた。
蛾楽はすっと立ち上がった。菜をも蒼白な顔になりながら、立ち上がった。
『さすが、時苧が寄越しただけあって肝が据わっているわね。
これがあたし達の最後さ』
蛾楽は言った。
『あたし達は蛾楽で食って、蛾楽に食い尽くされて死んでいくの。
大昔は自暴自棄になって、外の世界で毒を撒き散らしながら死んでいったヤツもいたそうよ』
あらかじめわかっている運命とはいえ、人間という生き物は大人しく天命に従えないものだ。
周囲を同じ恐怖に陥れることで、その者は少しでも恐怖を紛らわせたのであろうか。
『媚薬であり、毒薬。
だから、他の人間は手出しが出来ず、あたし達の独占販売。
死に様も、外の世界に出しちゃならないのよ』
こういう運命を選び取る人生もあるのだと菜をはぼんやりと思った。
蛾楽を売った金で贅沢をし、蛾楽の燐粉を吸ったおかげで若い容姿を保ち、快楽を手にする。
そして、最後には蛾楽に貰ったものをすべて外に吐き出して、死んでゆく。
それから菜をは蛾楽の代用品が作れないかとずっと考えていたのだ。瘤瀬衆に禁じられた外政干渉であった。にもかからわず、蛾楽の毒に蝕まれている人たちへの、解毒を。
菜をから死に様をざっと聞かされたおみつは(ふん……)とでも言うような、冷静な顔で聞いていた。
「で、菜をはどうしたいのかしら?」
単刀直入にきりこんできた。対する妹も驚くべき率直さで応えた。
「蛾楽の代用品を作りたい!」
「……代用品?」
(また、なにを言い出すのか。この娘は)
おみつは思った。代用品というが、言うは易く成すは難しいことを、この妹は知っているのかいないのか。
「蛾楽の里の人達が扱っても大丈夫な媚薬を」
「菜を、それは……っ!」
言いかけたおみつを菜をは強い口調で遮った。
「わかっている。
外政干渉だってことも。
そんなおいしい薬を作ったら、最後、棟梁が門外秘出にすることも!」
(うん。あの爺なら、そうするわね)
時苧が幾度、おみつに好々爺とした顔で、恐ろしい毒薬を精製するように持ち掛けてきたことか。都度、きっぱりと断ったものの。時苧が忍ぶに戻るのか、試していたのだろうとは思う。
それにしても、いい気はしない。
「百歩譲って、瘤瀬の秘薬にしてもいい。
でも、蛾楽の匂いを纏っていて。
蛾楽ほどの効力がなくても……。
例えば、そうね。
吸引した者が思い描くままの、その、睦事の夢がみれるような。
効力の薄い幻覚の薬のようなものとか。
それと、蛾楽の毒に蝕まれている人への解毒薬っ!」
勢いこんでいった菜をに、おみつは少し、気おされた。
「そっちが本命なのね……」
おみつの呟きに、菜をは真っ赤になった。
「瘤瀬衆を離れた姉者に、こんなお願いするのもヘンなんけど……」
(このお人よしな妹は、蛾楽の里の人々を救うことを真剣に考えているのだ)
自らを滅ぼす毒を扱わなくていいように、もしくは蛾楽の毒を安全に体内から排出する方法を。
せめて、それがダメなら安らかな死出の旅路を。
瘤瀬の、諏和賀の為ですらない他人のために、この妹はここまで心を砕く。
(なんていうか……。この娘はほんと、お人よしなところは変わってないのね)
おみつは無性に嬉しくて、くすくすと笑った。
菜をが何かおかしいことをしでかしたのか、とますます赤くなる。
そんな処も瘤瀬の菜をのままで、おみつはどうしようもなく愛おしかった。
(誰に感謝していいのかわからないけど、この娘が諏名姫であったことに感謝したいわ!本当、この娘の為なら何でもしてあげたくなっちゃう。天性のご領主様なんだわ)
◇
……そんな訳で。空蝉の術のとき、阿蛾をして騙しおおせた蛾楽の香は、実はおみつによって作られた幻覚剤だったのだ。
効用は一晩いい夢を見られる、という程度のもの。金儲けの道具にはなりえないが、極力常用性を抑えた。
余談ではあるが、その薬の名を「蛾夢」という。
◇
秘薬『蛾楽』を手に入れた菜をはすぐにおみつの元へ向かった。色々調べたあとで、おみつは難しい顔で言った。
「まごうかたなき毒薬ね。
神経を麻痺させるんだわ。
痛い、とか怖い、とかいう気持ちをね。
それを人は『気持ちいい』と勘違いさせるの。
正直いって真っ当な人間には使わせてはならないわね」
姉の言葉に、菜をは難しい顔をして、呟いた。
「やはりそうか。
この薬を精製している谷の者が皆、モトになっている蛾の燐粉を体内に吸い込み続けている。
時が来ると体内から猛毒を発して死んでいくの。
あたしもその場に立ち会った」
菜をはひそかにぶるっと躯を震わせた。
蛾楽の里に滞在していたある日。
菜をの世話役をしてくれていた里の唯一の女、蛾楽がふっと、一人の男に目を向けた。
『菜を。面白いものをみせてやるよ』
そう呟いた女の貌は、凄絶なものが漂っていった。
蛾楽は行李から恭々しく芥子色の衣を取り出すと、そのままつかつかと男の側に近寄っていった。
その衣と見ると、みな、ぎょっとし、その衣から遠ざかろうとする。
男は蛾楽がまっすぐ自分のもとへ、その衣が自分のもとへやってくるのを絶望的な声を上げて認めた。
『まさか。もうなのか……っ?!』
周囲の男たちの深甚な恐怖。
あまりの恐怖の中に、男をそのまま殺しかねないような恐慌も見て取れた。
(なにが始るの?!)
菜をは胸騒ぎが収まらず見守ることしか出来なかった。なにか、おぞましいものが姿を顕す予感。
『蛾楽。
オレは……ッ、オレは死にたくないっ!!」
周囲を槍の穂先で囲まれて、逃げ出すことも敵わず。自暴自棄になることすら許されておらぬような雰囲気の中で、いつしか男は膝を折り蛾楽にしがみついていた。蛾楽は男をかき抱き、芥子色の衣を男にかけた。
ひいっ……ッ、声にならない声がそこここであがる。
『そばにいてあげるよ……』
菜をには蛾楽の囁きが聞こえた。
蛾楽が菜をを振り向いた。あごをしゃくり、ついておいでと促す。そのまま蛾楽は男を支えながら、里の奥まで歩んでいった。
男達がその様子を遠巻きにしていた。
岩肌のなかに洞窟の入り口のような裂け目が見えた。そのまま衣を頭から被った男を抱えたまま蛾楽は入っていく。男の体がぶるぶる震えているのが見えた。
菜をは既に死の匂いを感じ取っていた。
(生贄……?)
菜をは目を細めた。見た目健康そうな男にイキナリ与えられた芥子色の衣が死の合図らしい。
(どうして突然?)
基本的に瘤瀬衆は、諏和賀に害なす国でない限り、他国に干渉しない。
どんな理不尽なことが行われていようとも。
だからこの里で生贄が行われているならば、それは菜をの干渉すべきことではないのだ。
菜をもその男を知っていた。
しょっちゅう菜をにちょっかいを出し、罠をかけては失敗してきた男。抜けていて、愛嬌ものであった。
つん、と酸い匂いがする。
洞窟、と思ったのは誤りだった。先が明るくなっているのを見ると、通路であったらしい。
菜をが嗅ぎ取った匂い、はそちらから吹いてくる。
通り抜けると目の前に現れ出たそこは、異様な光景であった。
赤茶けた岩肌。
同じく赤茶けた池からは油膜でテラテラ光った泡がひっきりなしに湧き上がり、はじけていく。どうやらその泡が匂いの発生源であった。
そして。
『ここは酸が土中から染み出しているのよ。おかげで毒が撒き散らされずに済むわけ』
見渡す限り、石棺が並べてあった。
それらは蓋がしまっているものが多かったが、中には開いているものも何個かあった。それは丁度、大人の大きさをしていた。
ぞわり、とした感覚が体をつらぬく。
『そんな怖い顔おしでないよ』
蛾楽がとりなすように笑った。菜をはしらずしらず目を細め、臨戦体制をとっていたらしい。
『ここはね、あたしらの墓場さ』
蛾楽があたりを見回していた。
『今日はこの男の番なんだよ』
男はぶるぶると震えていた。恐怖ではなく、熱病のような瘧だと、菜をはあたらめて男を見て、思った。
『ごらん』
男の芥子色の衣をとって、菜をの方に振り向かせた。肌のそこここに、黄色い斑点が浮かんでいる。
『蛾楽の毒を体内に溜め込んでさ。
一杯になったら毒を撒き散らしながら死んでいくのよ。
死期になると、石棺の中に潜るのだよ。
……あたし達の毒を撒き散らさないようにね」
蛾楽は、男に開いている一つの石棺を指し示すと、優しく促した。男はおとなしく従って棺の中に横たわった。
『蛾楽っ、そばにいてくれ……ッ』
棺の中から男が懇願した。
『居てやるよ』
蛾楽は優しくうなづき、石の蓋をした。彼女が菜をを手まねきした。
はじまるよ。
蛾楽は棺の側にひざまづき、言葉にならない声で蛾楽はささやいた。
ぶしゅうーと何かが噴出す音。
ぱらぱらと細かい砂粒のようなものが棺の中に当たっているような音もする。
うあああああッ。
男の断末魔があたりを揺るがす。
がたがたと蓋が揺れた。知らず、菜をはこの毒が撒き散らされたらどうなるのだろう、とぞっとした。
しかし、蛾楽が渾身の力で押さえ込んでいただけではなく、寸分なく閉まる工夫が施されているのか。男の懸命な力と、噴出しようとする圧力にもかかわらず、蓋は開かなかった。
ぶしゅう、ぶしゅうーと、気体だけでなく、液体も噴出している音が続く。
そんな中、蛾楽はずっと唄を優しくうたってやっていた。
悪夢のようなときが、小半時も続いたであろうか。
気が付くと、男のうめき声が途絶え、噴出する音がなくなっていた。
蛾楽はすっと立ち上がった。菜をも蒼白な顔になりながら、立ち上がった。
『さすが、時苧が寄越しただけあって肝が据わっているわね。
これがあたし達の最後さ』
蛾楽は言った。
『あたし達は蛾楽で食って、蛾楽に食い尽くされて死んでいくの。
大昔は自暴自棄になって、外の世界で毒を撒き散らしながら死んでいったヤツもいたそうよ』
あらかじめわかっている運命とはいえ、人間という生き物は大人しく天命に従えないものだ。
周囲を同じ恐怖に陥れることで、その者は少しでも恐怖を紛らわせたのであろうか。
『媚薬であり、毒薬。
だから、他の人間は手出しが出来ず、あたし達の独占販売。
死に様も、外の世界に出しちゃならないのよ』
こういう運命を選び取る人生もあるのだと菜をはぼんやりと思った。
蛾楽を売った金で贅沢をし、蛾楽の燐粉を吸ったおかげで若い容姿を保ち、快楽を手にする。
そして、最後には蛾楽に貰ったものをすべて外に吐き出して、死んでゆく。
それから菜をは蛾楽の代用品が作れないかとずっと考えていたのだ。瘤瀬衆に禁じられた外政干渉であった。にもかからわず、蛾楽の毒に蝕まれている人たちへの、解毒を。
菜をから死に様をざっと聞かされたおみつは(ふん……)とでも言うような、冷静な顔で聞いていた。
「で、菜をはどうしたいのかしら?」
単刀直入にきりこんできた。対する妹も驚くべき率直さで応えた。
「蛾楽の代用品を作りたい!」
「……代用品?」
(また、なにを言い出すのか。この娘は)
おみつは思った。代用品というが、言うは易く成すは難しいことを、この妹は知っているのかいないのか。
「蛾楽の里の人達が扱っても大丈夫な媚薬を」
「菜を、それは……っ!」
言いかけたおみつを菜をは強い口調で遮った。
「わかっている。
外政干渉だってことも。
そんなおいしい薬を作ったら、最後、棟梁が門外秘出にすることも!」
(うん。あの爺なら、そうするわね)
時苧が幾度、おみつに好々爺とした顔で、恐ろしい毒薬を精製するように持ち掛けてきたことか。都度、きっぱりと断ったものの。時苧が忍ぶに戻るのか、試していたのだろうとは思う。
それにしても、いい気はしない。
「百歩譲って、瘤瀬の秘薬にしてもいい。
でも、蛾楽の匂いを纏っていて。
蛾楽ほどの効力がなくても……。
例えば、そうね。
吸引した者が思い描くままの、その、睦事の夢がみれるような。
効力の薄い幻覚の薬のようなものとか。
それと、蛾楽の毒に蝕まれている人への解毒薬っ!」
勢いこんでいった菜をに、おみつは少し、気おされた。
「そっちが本命なのね……」
おみつの呟きに、菜をは真っ赤になった。
「瘤瀬衆を離れた姉者に、こんなお願いするのもヘンなんけど……」
(このお人よしな妹は、蛾楽の里の人々を救うことを真剣に考えているのだ)
自らを滅ぼす毒を扱わなくていいように、もしくは蛾楽の毒を安全に体内から排出する方法を。
せめて、それがダメなら安らかな死出の旅路を。
瘤瀬の、諏和賀の為ですらない他人のために、この妹はここまで心を砕く。
(なんていうか……。この娘はほんと、お人よしなところは変わってないのね)
おみつは無性に嬉しくて、くすくすと笑った。
菜をが何かおかしいことをしでかしたのか、とますます赤くなる。
そんな処も瘤瀬の菜をのままで、おみつはどうしようもなく愛おしかった。
(誰に感謝していいのかわからないけど、この娘が諏名姫であったことに感謝したいわ!本当、この娘の為なら何でもしてあげたくなっちゃう。天性のご領主様なんだわ)
◇
……そんな訳で。空蝉の術のとき、阿蛾をして騙しおおせた蛾楽の香は、実はおみつによって作られた幻覚剤だったのだ。
効用は一晩いい夢を見られる、という程度のもの。金儲けの道具にはなりえないが、極力常用性を抑えた。
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