蒼天の城

飛島 明

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第一部 再興編

瘤瀬の里(6)

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 一対一なら知らず。
 乱戦になり陣を組む時は、右手に菜を配し背に疾風がいると、戦いやすいのだ。
 理由は己にもわからない。
 それに甘えてはいけないのだが、反対の配置になると途端に落ち着かなくなる。

 疾風もわかっていて、鍛錬の時以外はわざと右にきたりはしない。

「まーな。他の妹どもをオレの横に立たせる訳にはいかんだろうが」
 せめてもの強がりだった。

 親も子もない。
 瘤瀬の里の棟梁の許、長幼の序に従って下の者は年長のものを「兄」「姉」と呼ぶ。上の者は年下の者をそれぞれ「弟」「妹」として、里自体が一つの家族として暮らしていた。

「菜をは妹じゃないってか」
 疾風が揶揄う。
 草太は疾風が込めた意味には気づいているのか。

「ッタリ前だろう。あれが、あの山猿が、お前には女には見えるのか?」
 小鷲は気づかず、真剣に答えた。
 ある意味、娘というよりは野性的でありすぎたので、たしかにあたっていなくもなかった。

「兄者には菜をは、女には見えてないっと。じゃあ……俺が、菜ををヤっちゃっていいか?」
 疾風がおそろしいことをさらっと言った途端。

 がすっ
 ごきっ
 ごげしゃ!!
 破壊音が辺りに響いた。

「ってぇ~……!なにするんだ、兄者!!」
 頭を右手で抱え、左手で腹を抑え、疾風はふっとんでいた。

「このうつけ者がっ! 明るいうちからナニをヤるとか口にしとるかっ!」
 小鷲が吠えた。
「暗くなってから行う作法だったか? そう、古来より、男と女でヤるといえばっ!」
 少年が、目をきらきらさせていた。

「……いえば?」
 この野郎、ことと次第によっては生かしてはおかん。

「アレしかありえんっっ」
「アレだと?」
(なにがアレだ、この色呆け悪童! 言ってみろ。お前の明日はないぞ)
 拳をすでに固めている小鷲であった。

「名乗りを上げることだっ」
 どて。
 力が抜けた処に、仕掛けた罠に脚をとられた。

 名乗り。瘤瀬の里では、求婚・その承諾といった意味合いである。

「兄者?どうかしたか?」
 不思議そうに訊ねる少年。
「……いや」
 小鷲は、深読みしすぎた己に思わず赤面し、俯いたまま罠を外そうと足掻いていた。
猟奇偏向好マニアックみだなー。なんで。よりによって、あの山猿なんだ?」

 ようやく罠から自由になった小鷲は、心底不思議そうに訊ねた。

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