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第一部 再興編
土雲(1)
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土雲。
いつから、そう呼ばれているのか、わからない。
騎馬で行動し、後には殺戮と砂塵しか残さないことからつけられた名前か。
その姿は闇を纏うように、黒衣に包まれている。
屈強な体のものばかりだが、男なのか女なのかもわからない。
声を聞いたことも姿を見たこともないのだ。
――そもそも、彼らに襲撃されて生き延びた者がいないのだ。
おそろしく統制がとれているらしく、声による命令も怒号も彼らの口から漏れることはない。
首領と目される者と脇を固める4人衆。
それだけが、襲撃によってあいまみえた諏和賀の武士の一人によって語られた全てだ。
その武士は首領らしき者の容貌を伝えたうえで事切れた。
無論、忍ぶ里の吉蛾が手を拱いていたわけではない。
土雲の本拠地と目された場所に探索の者を放ったことは数度ではない。
だが、探索に出た者達は、物言わぬ姿でしか還って来なかった。……悪戯のように、城門の前に置かれた首級のみとなって。
その、土雲の居所。
「諏和賀の生き残りがいると?」
蝋燭の照らさない闇から張りのある声がいう。
聞きようによっては五十にも、二十にも思える。
敏感な者であっても、思慮深そうなその声の中に因業を感じとれた者は少ないであろう。
「先の戦の折りに皆殺しにした。我らの網を逃れる事が出来る者は、おらぬ」
違う闇から男にしては甲高い、しかし女にしては太い。だが艶めかしい響きがする声が、訝しげに反論する。
「替え玉だったそうだな」
違う声が別の闇に揺らめいた。壮年の男のような声音。
「あの吉蛾の少年がか?!」
二番目の声の主が、驚愕を消しきれず、驚いたように聞き返した。
「名にしおう、吉蛾の太郎一よ。手前の双子を、一人は替え玉として城内へ。一人は本物として、吉蛾へ住まわせたのよ」
三番目の声が誰かに遠慮したようにいう。
「……なるほどなあ。よく、あそこまで似た替え玉を、あの奇襲に合わせて用意出来たと思うてたわさ」
むしろ相手の周到な用意に感嘆したかのようなに呟いたのは、四番目の声の主であった。
少女のみが発することの出来る銀の鈴のような声。
その声には、信じがたいような妖艶さと側にいる者の肌に粟を立たせるような、嗜虐性を滲ませていた。
「そのような話を、誰が」
「頭目が懇ろにしている女が口にしたそうだ」
「ああ」
頭目の男に太郎一の仕掛けの種明かしを与えたのは、男の伽をしている女の呟きであった。
「あの狂い女が……っ」
二番目の声の主は忌々しげに口に出しかけ、言葉を飲み込んだ。
その言葉をうっかり口にした者が、何人も狂刃に啖われた。
「何故、頭目は」
たしかに美しい、だが年増のしかも狂女に固執するのだ?
だが、そのようなことを頭目に訊いたところで無駄だ。
嗤って殺されるだけだ。
「くっく」
その時、座の中で一番昏い声が不気味に嘲った。
いつから、そう呼ばれているのか、わからない。
騎馬で行動し、後には殺戮と砂塵しか残さないことからつけられた名前か。
その姿は闇を纏うように、黒衣に包まれている。
屈強な体のものばかりだが、男なのか女なのかもわからない。
声を聞いたことも姿を見たこともないのだ。
――そもそも、彼らに襲撃されて生き延びた者がいないのだ。
おそろしく統制がとれているらしく、声による命令も怒号も彼らの口から漏れることはない。
首領と目される者と脇を固める4人衆。
それだけが、襲撃によってあいまみえた諏和賀の武士の一人によって語られた全てだ。
その武士は首領らしき者の容貌を伝えたうえで事切れた。
無論、忍ぶ里の吉蛾が手を拱いていたわけではない。
土雲の本拠地と目された場所に探索の者を放ったことは数度ではない。
だが、探索に出た者達は、物言わぬ姿でしか還って来なかった。……悪戯のように、城門の前に置かれた首級のみとなって。
その、土雲の居所。
「諏和賀の生き残りがいると?」
蝋燭の照らさない闇から張りのある声がいう。
聞きようによっては五十にも、二十にも思える。
敏感な者であっても、思慮深そうなその声の中に因業を感じとれた者は少ないであろう。
「先の戦の折りに皆殺しにした。我らの網を逃れる事が出来る者は、おらぬ」
違う闇から男にしては甲高い、しかし女にしては太い。だが艶めかしい響きがする声が、訝しげに反論する。
「替え玉だったそうだな」
違う声が別の闇に揺らめいた。壮年の男のような声音。
「あの吉蛾の少年がか?!」
二番目の声の主が、驚愕を消しきれず、驚いたように聞き返した。
「名にしおう、吉蛾の太郎一よ。手前の双子を、一人は替え玉として城内へ。一人は本物として、吉蛾へ住まわせたのよ」
三番目の声が誰かに遠慮したようにいう。
「……なるほどなあ。よく、あそこまで似た替え玉を、あの奇襲に合わせて用意出来たと思うてたわさ」
むしろ相手の周到な用意に感嘆したかのようなに呟いたのは、四番目の声の主であった。
少女のみが発することの出来る銀の鈴のような声。
その声には、信じがたいような妖艶さと側にいる者の肌に粟を立たせるような、嗜虐性を滲ませていた。
「そのような話を、誰が」
「頭目が懇ろにしている女が口にしたそうだ」
「ああ」
頭目の男に太郎一の仕掛けの種明かしを与えたのは、男の伽をしている女の呟きであった。
「あの狂い女が……っ」
二番目の声の主は忌々しげに口に出しかけ、言葉を飲み込んだ。
その言葉をうっかり口にした者が、何人も狂刃に啖われた。
「何故、頭目は」
たしかに美しい、だが年増のしかも狂女に固執するのだ?
だが、そのようなことを頭目に訊いたところで無駄だ。
嗤って殺されるだけだ。
「くっく」
その時、座の中で一番昏い声が不気味に嘲った。
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