蒼天の城

飛島 明

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第一部 再興編

硬い決意(3)

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「なにが?」
 八雲が不審気な声で訊ねた。
 人は、相反する性格を求めるのだろうか。八雲は勝気な娘であった。

 菜をも、耳をそばだてた。
 もしや羅生丸は、子が出来たのを喜んではいないのか?

「今日、こはとが土雲の間者だと頭領は言ったのを訊いてたろう? だから、始末したと」
 だが、羅生丸の言った言葉は意外なものであった。
「そうだね」
 それがどうしたの?という風に八雲は相槌をうった。
 八雲もその場にいたのだ。

「ここは戦場になる」
 思ってもみなかった事を言われて八雲は、そして菜をは固まった。
「土雲にも、間者を始末したことは伝わっているであろうと」
 羅生丸は暗く、言葉を続けた。

「でも、そうならないように。こちらから討伐隊を編成すると……。策を講じるって……」
 八雲の声の調子が、思い至ってなかった可能性に低く、弱く翳った。

「おみつ。ここを逃げ出さないか」
 羅生丸が思いつめたように言った。
「……なにを、何を言ってるのよ……」
 喘ぐようにいう八雲。
 彼女がおみつという名なのだと、菜をは初めて知った。
「皆、戦うんだよ? あんたは今迄一緒に暮らしてきた兄姉弟妹あのこ達を見捨てるの?」

 そして。
 里からの逃亡は死を意味した。
 里から脱走しようとした者がいなかった訳ではない。
 しかし、脱走者が土雲衆に囚われることを時苧は嫌った。

 ――その口から里の存在と、そして菜をの存在がばれる事を、時苧は恐れたのだ。

 ゆえに最初の逃亡者は見せしめの為、衆目の前でむごたらしく殺された。
(以来、里からの脱走者は居ない)
 菜をは思う。
(しかし)

 再び出奔するものがあれば、時苧もしくは草太が直々に追う事は目に見えていた。そうすれば、脱走者は死者となって里に帰ってくるしかない。
 八雲の逡巡は、友を裏切る事よりも死の報復の方を懸念していた。
 それでも。

「卑怯者って言われたっていい。お前と子供を安全な処に逃したいんだ」
 羅生丸は必死に言った。
 彼の顔が、夫の、父親の顔になっていた。

「……そんなことしたら。二度と瘤瀬の地を踏めないよ」
 八雲の声が弱々しくなった。
 彼女も、我が子を護る、母の苦悩の顔であった。

「いいよ。お前と子供が居たら、他に何も要らない。
二度とこの地を踏めなくたって、構うものか。
ここを離れたら、土雲の影に怯えずにすむんだ」
 羅生丸が勁く言った。

 八雲も菜をも、そんな彼を観た事が無かった。

 菜をは感動していた。
(羅生丸兄者は本当は勁い人だったんだ……!)
 八雲も、自分の良人おとこが想ったよりも逞しいことを知ったようだ。
 自分の女を護ろうとする守護神であろうとする姿に、改めて感動しているようだった。

 菜をには、八雲が羅生丸の申し出に傾きかけているのを見てとった。
「でも」
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