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20.帰還と返還
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シュランを出て三日目、リンたちは順調に進んでいた。
途中、馬上で揺られすぎてリンが気持ち悪くなったが、オアシスもあったし途中すれ違う魔族の隊商も友好的であったし、何事もなくレーベの町に近づいていた。
リンは途中で気が付いたのだが、シンキもカリンもろくに休んでいるところを見なかった。
魔族とは根本的に人族とは違う何か別の体の構造をしているのだと改めて認識した。
カリンはシンキに言い含められたらしく、リンに対して特に敵対するような眼は向けてこなかったが、始終無言でシンキを追っているだけなのでリンは死ぬほど退屈していた。
いっその事シーマのように気絶してしまえば楽だったのにとか思ったが、シンキとは異なりカリンでは支えることが難しかったであろう。
シーマは夜になると回復し、あのまずい暗緑色の液体を飲んでいたし、食料も何かしら食べているようだったが馬に揺られて一時間ほどで眠ってしまっていた。もしかしたらシンキが何かしていたのかもしれない。
リンはカリンと会話がなかったが、暇だったので歌を歌うことにした。
歌謡曲より童謡の方が揺られながらなら歌いやすかった。
歌にはカリンも興味を示し、カリンも時々自分たちの歌を披露した。
レーベまであと二日といった日の明け方、リンとシーマが休んでいるとまだ日が昇る前の時間、右前方の遠くに火竜アレキサンドルが確認された。
巨大な岩の間に隠れるようにして一行はいたのだが、火竜は目ざとくその場所を見つけて咆哮した。
火竜は巨大な翼を持っていた。薄明りの地平線にいたものがあっという間に追いついてきて空から威嚇を続けている。
「今の時間帯はもうすぐ夜が明ける。昼は火竜エレクトラムの時間だからここに隠れていても無駄だ。火竜アレキサンドラは夜明けとともに巣に帰るはずだから、さっさと逃亡しよう」
シンキが岩の隙間から見上げ、馬を引き寄せた。
「よし、今だ」
朝日がさして上空の火竜アレキサンドラがそれを気にしたちょっとした隙を抜いて一行は馬を走りださせた。
火竜は飛び去り、リンたちを追っては来なかったが、しばらくして先ほどまで隠れていた岩の辺りから今度は別の咆哮が聞こえてきた。
「あれは火竜エレクトラムの声だ。まあ命拾いしたな」
おそらく火竜アレキサンドラを追って行ったのだろうとシンキは言った。
その日も滞りなく夜を迎えた。
「明日はようやくレーベに到着するが、面白い旅であったな」
シンキがリンに語り掛けるが、リンは連日の馬上の強行軍で疲れておりうつらうつらしていた。
「シンキ様、その娘はどうするつもりですか?」
カリンが尋ねる。このまま解放して魔族の情報を洩らされてはシュランの民としてもかなり困ることになるのだ。
「心配はしておらぬ。その娘には二十日ほど前に龍妃の印をつけておいたからな」
「まさか」
カリンは信じられないようだ。
「人族で龍妃の呪いがわずかでも発動したら全身にその証が浮き出てしばらく消えないはずではないですか」
シンキは満足そうに微笑んで、わずかも発動しなかったことだけでも信じるに値する稀有な存在だと思わぬか?
何をどのように育ったのかはわからないが、これだけ信義を重んじる娘なら信じても大丈夫だろう。
「そちらの小さな娘はどうなのですか?」
「こちらはわからぬが」
そう前置きしたうえで「リンを無条件で信じているので大丈夫だろう」と答えた。
龍妃の呪いに関しては龍人一人に対して一つしか持てないので、もしシーマに印をつけるなら同じ龍人のレンジュ或いはフウハが付けるしかない。
その二人はそのようなものをつけるぐらいなら殺してしまえという性格だし、ガイコウに至ってはシンキ自体にそれを施すなど龍人に対して目を光らせる存在なので人一人に対してわざわざ印をつけるようなことはないだろう。
「まあ、敵対するようなことはなかろう。少しづつ魔族と人族と情報共有すればより魔族は発展出来よう」
人族とのかかわりを極端に嫌うフウハなどからしたら受け入れがたいとは思うが、シンキは今回のことで限定的ながら人族の在り方を考え直すようになっていた。
翌日、レーベの町で宿をとり、そこシーマを寝かせてリンはシンキと共にオラレの待つ洞窟に入って行った。
「ご苦労であった」
金髪の少年、光龍のガイコウがカリンにねぎらいの言葉を伝え、しばらく休ませるようシンキに伝える。
シンキはカリンに休憩できる場所を手配し、首尾はうまくいったことを報告、氷魔酒についても復帰できそうだということを話した。
では約束通り連れの者を返そう。ガイコウはそう言うとオラレを氷から解放した。
解放されたオラレにリンは駆け寄り抱き上げた。
オラレは目を開けずまだ意識がないが、脈や呼吸はしっかりしている。
「やむを得ぬな。我が送り届けてやろう」
人とはもろいものだからのう、とシンキがつぶやきながら言う。
「シンキ、どういう心境の変化だ?」
レンジュが驚いたような声をかけた。人族に対して気を使うなどこれまで見たことがない。
「これからも面白いものを見せてもらえそうだからな。我の楽しみを奪う出ないぞ」
そこでレンジュは黙ったが、ガイコウは「シンキは何一つ変わっておらぬな」と言って笑った。
途中、馬上で揺られすぎてリンが気持ち悪くなったが、オアシスもあったし途中すれ違う魔族の隊商も友好的であったし、何事もなくレーベの町に近づいていた。
リンは途中で気が付いたのだが、シンキもカリンもろくに休んでいるところを見なかった。
魔族とは根本的に人族とは違う何か別の体の構造をしているのだと改めて認識した。
カリンはシンキに言い含められたらしく、リンに対して特に敵対するような眼は向けてこなかったが、始終無言でシンキを追っているだけなのでリンは死ぬほど退屈していた。
いっその事シーマのように気絶してしまえば楽だったのにとか思ったが、シンキとは異なりカリンでは支えることが難しかったであろう。
シーマは夜になると回復し、あのまずい暗緑色の液体を飲んでいたし、食料も何かしら食べているようだったが馬に揺られて一時間ほどで眠ってしまっていた。もしかしたらシンキが何かしていたのかもしれない。
リンはカリンと会話がなかったが、暇だったので歌を歌うことにした。
歌謡曲より童謡の方が揺られながらなら歌いやすかった。
歌にはカリンも興味を示し、カリンも時々自分たちの歌を披露した。
レーベまであと二日といった日の明け方、リンとシーマが休んでいるとまだ日が昇る前の時間、右前方の遠くに火竜アレキサンドルが確認された。
巨大な岩の間に隠れるようにして一行はいたのだが、火竜は目ざとくその場所を見つけて咆哮した。
火竜は巨大な翼を持っていた。薄明りの地平線にいたものがあっという間に追いついてきて空から威嚇を続けている。
「今の時間帯はもうすぐ夜が明ける。昼は火竜エレクトラムの時間だからここに隠れていても無駄だ。火竜アレキサンドラは夜明けとともに巣に帰るはずだから、さっさと逃亡しよう」
シンキが岩の隙間から見上げ、馬を引き寄せた。
「よし、今だ」
朝日がさして上空の火竜アレキサンドラがそれを気にしたちょっとした隙を抜いて一行は馬を走りださせた。
火竜は飛び去り、リンたちを追っては来なかったが、しばらくして先ほどまで隠れていた岩の辺りから今度は別の咆哮が聞こえてきた。
「あれは火竜エレクトラムの声だ。まあ命拾いしたな」
おそらく火竜アレキサンドラを追って行ったのだろうとシンキは言った。
その日も滞りなく夜を迎えた。
「明日はようやくレーベに到着するが、面白い旅であったな」
シンキがリンに語り掛けるが、リンは連日の馬上の強行軍で疲れておりうつらうつらしていた。
「シンキ様、その娘はどうするつもりですか?」
カリンが尋ねる。このまま解放して魔族の情報を洩らされてはシュランの民としてもかなり困ることになるのだ。
「心配はしておらぬ。その娘には二十日ほど前に龍妃の印をつけておいたからな」
「まさか」
カリンは信じられないようだ。
「人族で龍妃の呪いがわずかでも発動したら全身にその証が浮き出てしばらく消えないはずではないですか」
シンキは満足そうに微笑んで、わずかも発動しなかったことだけでも信じるに値する稀有な存在だと思わぬか?
何をどのように育ったのかはわからないが、これだけ信義を重んじる娘なら信じても大丈夫だろう。
「そちらの小さな娘はどうなのですか?」
「こちらはわからぬが」
そう前置きしたうえで「リンを無条件で信じているので大丈夫だろう」と答えた。
龍妃の呪いに関しては龍人一人に対して一つしか持てないので、もしシーマに印をつけるなら同じ龍人のレンジュ或いはフウハが付けるしかない。
その二人はそのようなものをつけるぐらいなら殺してしまえという性格だし、ガイコウに至ってはシンキ自体にそれを施すなど龍人に対して目を光らせる存在なので人一人に対してわざわざ印をつけるようなことはないだろう。
「まあ、敵対するようなことはなかろう。少しづつ魔族と人族と情報共有すればより魔族は発展出来よう」
人族とのかかわりを極端に嫌うフウハなどからしたら受け入れがたいとは思うが、シンキは今回のことで限定的ながら人族の在り方を考え直すようになっていた。
翌日、レーベの町で宿をとり、そこシーマを寝かせてリンはシンキと共にオラレの待つ洞窟に入って行った。
「ご苦労であった」
金髪の少年、光龍のガイコウがカリンにねぎらいの言葉を伝え、しばらく休ませるようシンキに伝える。
シンキはカリンに休憩できる場所を手配し、首尾はうまくいったことを報告、氷魔酒についても復帰できそうだということを話した。
では約束通り連れの者を返そう。ガイコウはそう言うとオラレを氷から解放した。
解放されたオラレにリンは駆け寄り抱き上げた。
オラレは目を開けずまだ意識がないが、脈や呼吸はしっかりしている。
「やむを得ぬな。我が送り届けてやろう」
人とはもろいものだからのう、とシンキがつぶやきながら言う。
「シンキ、どういう心境の変化だ?」
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