百人の侍

daisuke

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百人の侍

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鬱蒼とした森を通り抜けると、山間の小さな村、水流長飯村が見えてくる。

稲穂が金色に実る美しい光景だが、顔には笑みがなかった。

五年続けて盗賊団に収穫物を奪われ、村人たちは飢えと絶望に苦しんでいた。

「もう耐えられぬ。今年こそは侍を雇い、盗賊から村を守るのだ」

村長の一言で、若者たちは江戸へ向かった。

「百両の報酬と食事を提供する」という触れ込みで侍を募集したところ、思いがけず百人もの侍が集まってきた。

その中に、ひとり、何の目的もなく参加した男がいた。

名を「安倍蒼生(あべ そうせい)」という。

「何故、この危険な任務に参加したのだ?」と問われるたび、蒼生は「なんとなく」とだけ答えた。

他の侍たちは皆、立派な理由を持っていた。

「盗賊どもに家族を殺された恨みを晴らすためだ」
「貧しい者を守るのが侍の務め」
「刀の腕を磨くため」

蒼生は周囲の熱意に圧倒され、自分の「なんとなく」という理由が恥ずかしくなった。

ある夜、蒼生は年長の知恵者として皆から尊敬される「沢村道真(さわむら みちざね)」に相談を持ちかけた。

「道真殿、私にはみなのような立派な志がありません。ただなんとなく、足が向いただけなのです」

道真は長い髭をなでながらゆっくりと答えた。

「それでよい。だが、もし何か理由が欲しいなら、私が考えてやろう。いざという時のためにな」

そして道真は、蒼生のための「参加理由」を考案した。


⛰️⛰️⛰️⛰️⛰️ ⛰️⛰️⛰️⛰️⛰️


秋も深まり、盗賊団の襲撃が近づいてきた。

村人たちは侍の指導の下、防御の準備を進めた。

そして運命の日が訪れた。

「来るぞ!」

百騎を超える盗賊団が山を下りてきた。

侍たちは各々の持ち場で迎え撃つ。

蒼生も刀を抜き、盗賊と渡り合った。

激しい戦いの中、蒼生は盗賊のリーダーと対峙し、深手を負わせることに成功した。

しかし同時に、自らも腹部に致命傷を負ってしまう。

「蒼生!大丈夫か!」

駆け寄ってきた同志の足立に、蒼生は血を吐きながら言った。

「足立殿...私が...ここに来た理由を...話そう...」

「今はそんな時ではない!医者を呼んでくる!」

「いや...聞いてくれ...」

蒼生は弱々しく足立の袖を掴んだ。

「私は...先祖の安倍晴明公が...夢枕に立ち...」

「安倍晴明だと?」

「左様...晴明公は...陰陽道の術で...この村に...災いが訪れると予言した...それは紫微垣の...」

蒼生の話は止まらなかった。

「そして...源義経公の霊が...東方の夢告げにより...私に示された道は...西行法師の歌の...」

足立は困惑しながらも、友の最期の言葉を聞こうと耳を傾けた。

「北条時宗公が...元寇の際に...風神の加護を...その時...楠木正成公の忠義の...」

蒼生の声は次第に弱まり、意識も朦朧としてきた。

周囲では戦いが終わりを告げ、盗賊たちは撃退されつつあった。

「豊臣秀吉公の...朝鮮出兵の折に...その正義は...伊達政宗公の...家康公の...」

「蒼生、もういい...」

「武田信玄公の...風林火山の...本多忠勝の...前田慶次の...真田幸村の...」

そして、彼の長すぎる「参加理由」が語り終わることなく、安倍蒼生は静かに息を引き取った。

村は救われた。百人の侍のうち、生き残ったのは七人だけだった。蒼生の墓前で、道真は微笑んだ。

「なんとなく来た男が、なんとなく英雄になった。理由など、本当はどうでもよかったのだ」

村人たちは毎年、収穫祭に蒼生を含む侍たちの勇気を讃え、語り継いだという。

人は時に「なんとなく」で大きな一歩を踏み出す。そして、その一歩が歴史を変えることもある──。​​​​​​​​​​​​​​​​

【糸冬】
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