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第1章
幸せとは程遠い生活。
しおりを挟むローナン家を出る際、嫌味なのか、お父様とエヴィとサンドラが見送りに来た。罪の意識なんてこれっぽっちもないのだろう。なんなら邪魔者が居なくなって嬉しいのか、サンドラなんて清々しい顔を隠そうともしていなかった。
お母様が亡くなってから、関わりが減ったエヴィ。
私は数年前に購入したサイズの合っていないドレスを未だに着ているというのに、エヴィはお父様にお強請りでもしたのか、真新しいピンクの可愛らしいドレスを着ていた。私はなんだか、それがとても気に食わなかった。
このとき、ハッキリと双子の妹に対して思ったのだ。
裏切り者――と。
エヴィは、『お姉様!』と私の元へ駆け寄って来ては、ぎゅう、と手を握り、こう言ったのだ。
「私ね、ず~っとお姉様のことが嫌いだったの。お姉様が私よりも上の爵位になるのは気に食わないけど…、まあ幸せとは程遠い生活だろうから許してあげる。精々、私達の生活の為に頑張ってきてね?」
8歳の子供とは思えない程、性格の悪い発言だ。
本ばかり読んでいる大人しくて内向的な妹だと思っていたが、どうやらそれは大間違いだったようだ。こんなにも嫌われていたことに気づかないなんて、私も愚かだな。
エルズバーグの養女になったところで、幸せが待っているだなんて最初から思っていなかった。けれど、ここで何も言わないのも癪だった。無様だな、と強がる自分を心の中で嘲笑いながら、私は最期に言う。
「精々楽しみなさいよ。そのくっだらない家族ごっこをね。」
お父様から気に掛けられなくなっても、楽しそうに笑い合う3人の姿を見ても、伯爵家に売られることになっても、私は最後までその和に入りたいとは思わなかった。
そして、エルズバーグの養女になった私は、エヴィの言っていた通り、幸せとは程遠い生活を送っていた。
エルズバーグ伯爵家には、私と歳の近い子供が何人か居た。勿論、全員女の子だ。
彼女達は皆、物語に出てくるお姫様のように可愛らしく着飾っていたけれど、表情は一貫として暗いままだった。
それもそうだ。“養女”なんて、名ばかり。私達は、この変態クソ親父のコレクションでしかないのだから。
特に私は、お父様の言っていた通り、偉く気に入られているようで、エルズバーグは、何度も何度も私の名前を呼んだ。
「アイヴィ、こっちにおいで。」
私に、…いや、私達に拒否権などない。もし嫌がろうものなら、痛い目を見る。
これは、先に此処へ来ていた子から聞いた話だが、エルズバーグの要求を断ろうものなら、清い体ではいられなくなるそうだ。年端も行かない小娘に欲情するなんて、本当にどうしようもない変態クソ親父だと思う。
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