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第1章
義弟の訪問。
しおりを挟む“ウィンストン”というブランドを欲する者は多いだろう。それだけで言うならば、今の私にも十分価値はある。けれど、それ以外に求められる何かが欲しい。
用意されたブランドに甘んじるのではなく、プラスで何かしらの価値を身につければ、私という人間の使い道が広がる筈だ。
この国で結婚が許されるのは男女共に18歳から。私は今年で10歳になった。つまり残りの8年間は、ウィンストン家の役に立てないというわけだ。
ただ贅沢しているわけにもいかない。その8年間で出来る努力は何でもしなければ。
「そんなことは今から考えなくていいと思うけど…、アイヴィが勉強をしたいと言うのなら、父さんに話しておくよ。きっと反対はしないよ。」
「ありがとう。」
「ううん。俺もアイヴィの力になれるのなら、嬉しいから。」
ヒューゴが優しい笑みを浮かべて、私の頭を撫でる。
私は少し、驚いてしまった。こんなにも優しく頭を撫でられたのは久しぶりだったから。それこそ、お母様が亡くなって以来だろうか。
エルズバーグもよく私の頭を撫でていたけれど、こんなに優しい手付きではなかった。なんだか嫌な記憶が上書きされていくようだった。
ヒューゴと別れて、部屋に戻る私。今度はドレスに足を引っ掛けないように、気を付けて歩いた。
スザンナにオススメしてもらった恋愛小説を読みながら、夕食までの暇な時間を潰していく。
以前スザンナが言っていた呪われたヒーローと、その呪いを解く為に懸命に頑張るヒロインの話はもう既に読み終えてしまった。
人生で初めて恋愛小説というものを読んだが、中々にファンタジーだった。あまり現実的な内容ではないが、現実的ではないからこそ、こういう作品が人気なのかもしれない。
今読んでいるのは、幼い頃に一度だけ会ったことのある男女が、大人になって偶然街で再会し、恋に落ちるという物語だ。
スザンナ曰く、こういった運命で結ばれた物語のことを巷では“デスティニーストーリー”と呼んでいるらしく、結構な人気があるんだとか。どうでもいいが、その馬鹿げたネーミングセンスはどうにかならないのだろうか。そのまんま過ぎる。
最初から読んでいたこの本も、すっかり半分まで読み終わってしまった。
面白いかと聞かれれば、面白いのかもしれない。確かにこれは、女性が好みやすい作品だと思う。けれど、憧れるかと聞かれれば、答えは“否”である。
こんな恋愛をしてみたい、と思えるスザンナは、純粋なのだろう。私は穢れているから、恋愛小説を読んでも結婚や異性に対する理想が膨らむことはない。
栞も挟まずに、パタンと本を閉じる。
少し疲れてしまった。横にでもなるか。
そう思ったとき、部屋の扉が軽く叩かれた。
「どうぞ。」
「お義姉ちゃんっ!」
「カーシー?」
此処に来て1週間。
私の部屋の扉を叩く人物といえば、大抵がスザンナだった。だから今回もスザンナだと思って返事をしたのに、実際に扉からひょっこり顔を覗かせたのがカーシーだったから、少し驚いた。
いったい私に何の用だろうか。
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