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第1章
羨望と嫉妬の眼差し。
しおりを挟む「相手にしてくれば。」
「俺は堅苦しい運動は好きじゃない。」
またその理由か、と思う。確かマナーに関しても、堅苦しい決まりは苦手だとか言っていなかっただろうか。
ヒューゴやカーシーがダンスの練習に付き合ってくれる中で、エイダンだけは一度も付き合ってくれなかった。私と関わりたくないのだろうと勝手ながらに思っていたけれど、どうやら違う理由があったようだ。
「お前は踊れるようになったわけ?」
「微妙。」
「何だそれ。」
なんとか踊れるようにはなったけれど、言ってしまえば付け焼き刃だ。上手だとは、言い難い。
これからは、学問とマナーの勉強だけではなく、ダンスの練習にも力を入れる必要がありそうだ。
「ん。」
そんなことを思っていれば、私に対して、ぶっきらぼうに手を差し出してきたエイダン。いったいどういう意味だと目で訴えかけてみれば、『練習』だと言う。
本番の間違えではないだろうか。
他の令嬢を差し置いて踊ってしまっていいのだろうかと悩む私に、今度はエイダンが『早くしろ』と目で訴えかけてくる。
おずおずと、差し出されたエイダンの手に自分の手を重ねれば、ぐいっと前に引かれた腰。
「転ぶんじゃねえぞ。」
「転ばない。…踏んづけはするかもしれないけど。」
「おい。」
「気を付ける。」
「是非そうしてくれ。」
羨望と嫉妬の視線を受けながら、エイダンと踊る。
堅苦しい運動は苦手だなんて言っていたけれど、やはりウィンストン公爵家の次男なだけはある。きちんと踊れている上に、リードまでしてくれる。
有言実行をしたつもりはなかったのだが、本当に足を踏んでしまったときは、やってしまったと思った。しかし、エイダンは文句の1つも言わずに、最後まで私のぎこちないダンスに付き合ってくれた。
「本当に、微妙ってとこだな。」
「ごめん。」
「まあ、頑張った方じゃね?」
エイダンは仕方がなさそうに笑うと、ポンと私の頭へと手を置いた。
「お義姉ちゃんっ!今度は僕と一緒に踊ろう!」
ドーン!とエイダンを押し飛ばして、私の前に立ったカーシー。押し飛ばされたエイダンは、『テメェ…』と苛立った様子だったけれど、カーシーはどこ吹く風。反省する気など一切見せず、私の手を取りダンスを始めた。
「貴方を囲っていた令嬢を放っておいて、大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫!むしろお義姉ちゃんと踊らずに、誰と踊るのって感じだし。」
「…そう。」
下手な私と踊ったところで楽しくなんてない筈なのに、カーシーは、次の曲も私と踊ろうとした。それを、令嬢の囲いから脱出して来たヒューゴが『次に踊るのは俺だから』と止める。
カーシーは、納得がいっていない様子だったけれど、兄から優しく窘められたことにより、渋々といった感じで私から離れた。
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