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第1章

私自身の為、私自身の責任。

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少しして、食べやすい大きさに切られた果物を緊張した面持ちのスザンヌが持って来た。


何故そんな顔も体も強ばっているのだろうかと不思議に思ったけれど、私の隣に座っている人物を見て納得する。


決して忘れていたわけではないし、なんならさっきまで王族がどうのこうの思っていたばかりだけれど、アリソン殿下はその敬称通り“殿下”だった。


滅多に関わることが許されない圧倒的に高貴な存在が目の前に居るとなれば、スザンヌの反応は当然のものだった。


それはどうやらアリソン殿下も思ったようで、瑞々しい桃を食べながら『いかに君が鉄仮面なのかが分かるでしょ』などと厭味を言ってきた。


見舞いの品である筈の果物を我が物顔で食べていることに関しては、もはや何も言わないでおこう。


アリソン殿下は私のことを鉄仮面と言うけれど、私だって感情を表に出すこともある。夢の中で、だけれど。


そう付け足せば、アリソン殿下はきっと『夢の中じゃん』と呆れたように言うのだろう。


シャク、と林檎を一口食べる。想像していたよりも、ずっと甘くて美味しい。


会話もせず、ただひたすらに果物を食べ続けていく私達。美味しくて夢中になっていたというよりかは、アリソン殿下が何か言いたそうにしていたから、黙ってその発言を待っているという状況だ。


 「…あのさ。」

 「はい。」

 「悪かった…と思ってる。」

 「…何がですか?」

おずおずと口を開いたかと思えば、謝罪ともとれる言葉を発したアリソン殿下に、私は思わず、怪訝な表情かおを向けてしまう。


謝られることなどされた覚えのない私には『悪かった』という言葉の真意が分からなかったのだ。


 「倒れたの、俺のせいなんでしょ?」

 「…違いますけど。」

 「俺が、ウィンストン家の人間なんだから、満点を取れて当たり前だとか、頑張ったところで結果がこんなじゃ意味がないだとか…そういうことを言ったから、体調を崩したんでしょ?」

 「…ああ、そういう…。」


ここで初めて、アリソン殿下の言っている意味を理解することが出来た。


つまり彼は『自分がウィンストン家に相応しい令嬢になるよう焚き付けたから、こうなったのだろう?』…そう言いたいわけだ。


確かに私が無茶な努力を始めたきっかけは、アリソン殿下にあるかもしれない。散々馬鹿にされ、人と比べられ、挙句には半端者と言われたことで、自棄になっていたのは認める。


けれど、倒れた原因がアリソン殿下にあるわけではない。


言い方はどうあれ言っていることは一理あると思っていたし、私が無茶な努力を重ねたのは、私自身の為であり、私自身の責任だ。







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