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第1章
想定外の人物。
しおりを挟むまだ本調子ではない私は、ベッドの上での安静が必要だった。
ただの疲労から来た熱だというのに、お医者様に何度も私が死なないか確認をしていたらしい公爵様は、私が目を覚ましたと知るなり、酷く慌てた様子で私の元へとやって来た。
私の存在を確かめるかのように強く抱きしめ、何度も名前を呼ばれたことは記憶に新しい。…というか、つい一昨日の出来事だ。
毎日夜遅くまで勉強をし、マナーやダンスの練習までしていた私の体は、既にキャパシティが限界の状態にあったらしい。
そんな中で、社交界という慣れない場に参加したおかげで、私の体は限界を越えたようだった。
随分と無茶な生活をしている自覚はなんとなくあったけれど、なんとか過ごせていたから、案外自分は丈夫な人間なのだと過信していた。
私がそんな日々を送っていたことを知るや否や、公爵様は私に『暫くは何もするな』という命令を下した。大事なことから強調して言うが、お願いではない。“命令”だ。そんなもの、此処に来てから初めてされた。
どうして公爵様が私の最近の生活スケジュールを知っているのだろうかと思ったけれど、恐らくスザンヌあたりが告げ口でもしたのだろう。
公爵様は『無理をするなと言っただろう』と言うと、悲しげに顔を歪めた。なんだか私にはその表情が、自分を責めているように見えた。
そんなこんなで、最近やっていたことの全てを禁止された私は、とにかく暇を持て余していた。仕方がないから、恋愛小説を読んで暇を潰す。
本当は、経営学とか、歴史学とか、知識になるような本が読みたかったのだけれど、公爵様に全て没収された。私の部屋には今、スザンヌから借りた恋愛小説しか残っていないような状態だ。
ここまでするだろうか、普通。…とは、思うものの、心配をかけた以上、文句も言えない。そもそもの話、私なんかを心配する理由も必要もない筈なのだけれど。
そんなことを思いながら、ぱらり、と読み終わったページをめくる。
久々に読んだ恋愛小説は、相変わらずファンタジーだった。
静かな部屋で本をめくる音だけが聞こえていた中、不意に扉を叩く音が響いた。私は『どうぞ』と部屋に入る許可を出す。
「やあ。」
入ってきたのは、なんとアリソン殿下だった。予想外の人物に、少し驚く私。
いったい何の用だろうかと思いつつも、不敬に当たられては困る為、とりあえず挨拶をする。
「割と元気そうで良かったよ。」
「お陰様で。」
「俺は何もやってないけどね。」
肩を竦めた後に、ベッドの横に置かれていた椅子に座ったアリソン殿下。一応、見舞いのつもりのようで『今、果物を切らせているから』と言う。
王族がわざわざ婚約者でもない女の元に見舞いに来るなど、前代未聞なのではないだろうか。とは思うものの、お引き取り願えるわけもない私は、見舞いに来てくれたことに対する感謝の言葉を述べる他なかった。
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