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第1章

茶会の誘い。

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 「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。オーウェンズ様。アイヴィ・ウィンストンにございます。こちらこそ、以後お見知りおきを戴きたく存じます。」

 「ヒューゴ様がお話されていた通り、お方ですのね。」

 「そうでしょう?弟も可愛いけど、義妹いもうとも可愛いなって思うよ。」

 「…そうですわね。」


ほんの一瞬、オーウェンズ様から笑顔が消えたように見えたけれど、気のせいだっただろうか。


 「…そうだっ!アイヴィ様、今度うちの茶会へいらっしゃりませんか?」

 「茶会…ですか。」


突然の誘いに、目をぱちくりさせる私。


 「そう!美味しいお茶とお菓子をお供に、他のお家のご令嬢と交流をするだけの会だから、そんなに気負う必要もありませんし、どうかと思いまして。」


公爵様や奥様に相談せずに、勝手に決めてしまっていいものだろうか?そう思った私は、チラリとヒューゴを見遣る。


「いいんじゃないかな?何事も経験だよ。少しでも興味があるなら、行っておいで。」


ヒューゴは私が何を言いたいのか分かっていた様子で、悩む私の背中を押すようなことを言った。


私は、こくりと頷くと、オーウェンズ様からの茶会の誘いを受け入れた。


 「随分とヒューゴ様のことを信頼していらっしゃるのですね…。」

 「え?」


オーウェンズ様が、ボソリと何かを呟くも、その声があまりにも小さかった為、聞き取ることが出来なかった。


 「何でもありませんわ。茶会の招待状は、改めてウィンストン家に送らせて頂きますので、当日はそれを持参の上、ご参加くださいませ。」

 「…分かりました。」

 「それでは私は、失礼致しますわ。ヒューゴ様、バーサ先生、本日はありがとうございました。」

 「あっ、待って。ドロシー嬢。」


綺麗な一例をしてから、部屋を出ていこうとしたオーウェンズ様に『玄関ホールまで送るよ』とヒューゴ。オーウェンズ様は、頬を赤く染めた後に『ありがとうございます』と感謝の言葉を述べた。


バタン、と閉ざされた扉をじっと見つめる私に、バーサ先生が『始めましょうか』と声を掛ける。私は、それに対して返事をすると、いつもの席についた。


 授業が終わり、部屋へと戻ろうとしたところに、カーシーがやって来た。やけにタイミングが良いなと思ったら、私を待っていたのだそう。


カーシーが私に用があるときは決まって、「お義姉ちゃん!絵のモデルになって!」…これだ。


ウィンストン家へ来て3ヶ月と半分。


既に何度もモデルになっているというのに、カーシーは飽きることなく、私を自分のアトリエへと連れて行く。


肖像画が書きたいのであれば、たまには、ヒューゴやエイダンでも描いてみたらどうかと提案した私に、カーシーは『男を描いたってつまらない』と言った。それならば、奥様を描いてみるのはどうかと違う提案をしてみるも『描き飽きた』とのことだった。


奥様のような優美な人物モデルを前にして、よく『描き飽きた』などと言えるなと思う。恐らく、世界中の何処を探しても、そんなことを言える絵描きは、カーシーぐらいだ。





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