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勇者の国 編
アホに空気を読ませるのは不可能
しおりを挟むレオとカレンは訓練場に戻った。
彼女が「昼休みにする」と告げると、班員は喜んで隣の広場へ向かった。
レオはレヴィ(優しそうな少年)に連れられ、共に昼食をとることになった。
「じゃじゃーん!」
ハル(元気な少女)が大きな弁当箱を開ける。
そこには全員分のサンドウィッチが入っていた。
「おばちゃんが今日はみんなの好きな具を入れてくれたって!」
「よっしゃあ!ツナサンドあるじゃねえか!」
「はは、ナツくんは本当にツナサンドが好きだね」
「ったりめーよ!そういやこの前レヴィと2人で食べたのもツナだったっけか…あれ、そうだよな?」
ナツ(ガタイのいい少年)は頭に痛みを覚える。
サンドウィッチに右手を伸ばすレヴィが頭に思い浮かべられる。
「そうだよ。この前も食べてた」
レヴィは口を押さえて笑う。
ナツも「やっぱそうだったよな」と豪快に笑う。
一方でレオは首を傾げる。
「おばちゃん?」
「ああ、食堂のおばちゃんがいつも昼ごはんを持たせてくれんだ」
「え、食堂なんかあるん?」
「は?どこの寮もあるだろ?」
ナツは逆に首を傾げる。
レオは遠征班の寮について話してみた。
「…へえ、寮って言うよりただ部屋の多い家って感じだ」
「護衛班の寮はもっと大きいからね。100人以上が生活してるの」
「すごいねんな!」
「2週間泊まるんだよね?その時に色々紹介するよ」
レヴィは優しく笑う。
レオは想像を膨らませてワクワクする。
そんなことを話しながら、仲良くサンドウィッチを食べた。
❁
食べている途中、レオの視界の端に、1人で食事をするアテナ(気の強い少女)の姿が映った。
レオは「ちょっとごめん」と言って席を外し、そちらの方へ向かう。
近づくと、彼女もサンドウィッチを持っていた。
しかし、美味しくなさそうに下を向いて食べている。
レオは彼女を覗き込む。
「美味しくないん?」
「…!!な、何しに来たのよ」
「いや~、みんなと食べへんのかなって思って」
「余計なお世話。アタシに関わらないで」
「えぇ~」
レオは彼女の隣に座る。
阿呆なので空気を読むことが出来ないのだ。
「近づかないで。庶民がうつるわ」
「なあ、それ具何入ってるん?」
「アナタ話聞いてるの!?」
あまりの自由さにアテナはたじろぐ。
そしてレオの流れに乗ってしまう。
「……トマトとタマゴよ」
「へえ!ええなぁ」
「………」
レオは彼女のサンドウィッチを見つめる。
「あー、もう!鬱陶しいわねアナタ。これあげるからどっか行って!」
アテナはそう吐き捨てて、無愛想にサンドウィッチをひとつ押し付ける。
レオは嬉しそうに受け取る。
「やった~!ありがとうな!やっぱり優しいねんな」
「な…!」
しかもレオは、その場を動かず隣で食べ始めた。
アテナは、コイツなんなの、と驚愕の表情でレオを見る。
すると、
「…1人で食事をするのは、俺、嫌やねん」
と、レオが小さく呟き、その顔が曇る。
アテナは驚いた。
ただの阿呆だと思っていたが、その表情はあまりに暗く、重いものを抱えていることが察せられたからだ。
しかしレオはすぐに表情を変えた。
「うん!やっぱ誰かと一緒に食べる方がおいしいな!」
レオは晴れ渡るような笑顔でアテナを見る。
彼女は目を見開き、慌てて逸らす。
「…まぁ、一理あるわね」
「ん?なんて?」
「なにも言ってないわ」
その時。
遠くでカレンが「訓練を再開します」と呼ぶ声が聞こえた。
❁
「では素振り1000回、腹筋・腕立て・背筋それぞれ100回、終わったものから組手です」
「「「「「は、はい…」」」」」
「はーーい!!!!」
無慈悲なカレンの言葉に班員が気落ちする中、レオだけが嬉しそうにしていた。
────なんか部活思い出すわ!
バスケ部で汗をかいた時間を思い出し、むしろわくわくしている。
元々運動神経がよく、運動も嫌いでは無い。
「……どうして君は嬉々としてるんだ…」
ユキはレオを見てため息をついた。
そして、カレンが手を叩いた。
「では、始めてください」
────よっしゃ、2週間で強くなったる!
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
一方リアン。
レオを送り届けたあと、ケイトの書記室に戻っていた。
「カレンに手紙渡してきたよ~」
「おお、ありがとな」
「今日は仕事ある?」
「あー、そうだな…」
ケイトは資料をめくる。
今日は王女様の出かける予定はない。
加えて、事件の発生もない。
あるのは大量の報告書作成だけだ。
こういう作業をリアンにやらせるとろくな事にならないことをケイトは知っている。
というより身をもって体験したことがある。
「特にないな。久しぶりに街で“なんでも屋”をやってきたらどうだ?」
「うん!そうする!」
リアンは扉を開けて帰ろうとする。
ケイトは慌てて、
「ちょ、ちょっっと待て。この犬…じゃなくてこの方を連れて帰ってくれ」
ふたりが訓練場へ向かってる間、ケイトはすごく気まずい思いをしていたのだ。
リアンは「この方?」とケイトの言い方に疑問を覚えながら、ヴァナルガンドをひょいと抱える。
「じゃあね~」
そう言って彼女は出ていった。
最後にヴァナルガンドがケイトに一瞥をくれた。
彼は緊張が解ける。
「はああ、ほんっと団長といると飽きる暇が無いな」
❁
「よし」
軍服を脱ぎ、代わりに大きめのパーカーを着る。
半ズボンを履く。長い脚がよく映える。
長い白銀の髪をポニーテールにまとめる。
そして、仕上げにヒゲ付きメガネをかける。
彼女は腰に手を当て、鏡の前でポーズをとる。
そんな彼女をドン引きした顔で見ているものがいた。ミラだ。
「お前、余計バカに見えるぞ」
「ちっちっち、分かってないなぁミラ」
リアンはメガネを一旦外す。
パーティメガネが無ければただの超絶美少女である。
彼女は外したメガネを、ミラの目の前に近づける。
「これがあることで完成するんだよ!!!」
彼は冷たい顔でメガネを払い除ける。
「そうかよ。それより街に降りるんなら買い物を頼みたいんだが」
そう言ってメモを渡す。
「ん、りょーかい。行ってきます!」
『わん!(我も行くぞ)』
「あれ、君も行きたいの?一緒に行こっか!」
❁
ヴァナルガンドは街で動き回るリアンを見ていた。
『ふむ、彼奴は人気者のようだな』
街に降りた途端、
「死神ちゃ…じゃなくてなんでも屋のお姉さん!うちの屋根の修理を手伝ってくれないかい?」
「しにが…なんでも屋さん、荷物運びを手伝って欲しいな!」
「死神ちゃん…に似てるなんでも屋のお姉ちゃんだ!いっしょに遊ぼうよ!!」
と、次々街の人が集まってきた。
当たり前だが、皆リアンの変装に気づいており、逆に気を使っている。
ヴァナルガンドはそんな様子を見て『人間とは面白いな』と呆れたのだった。
リアンはまず、野菜屋の壊れた屋根を修理した。
修復したあと、ひょいと屋根から飛び降り「できたよ!」と報告する。
修復の跡は不格好だったが、野菜屋は嬉しそうにリアンにお礼を言い、野菜を渡す。
彼女はとびきりの笑顔で「わあ!ありがとう!」と言う。
その笑顔で周囲の人もみな笑顔になる。
次に、魚屋で店主が釣ってきた魚を運ぶのを手伝い、お礼に魚をもらう。
そして次に、食堂で配膳の手伝いをする。
「ごめんねぇ、死神ちゃ…なんでも屋さん。いつもの子が無断で休んじゃって」
「え?サムが?そんな子じゃないと思うけどな~」
リアンは食堂で目まぐるしく動き回り、何人分もの仕事量をこなした。
食堂の店主は大喜びで冷えたジュースをお礼に渡した。
さらに次に、リアンは街の子供たちと遊んだ。
このとき既に夕暮れだった。
おにごっこ、だるまさんが転んだ、ゴム飛びなど、彼女は全力で楽しんだ。
リアンは人間離れした動きをするので、子供たちに大人気なのだ。
「すごいすごい!さすが死にが…なんでも屋のお姉ちゃん!」
「へっへへ~!あれ、今日はリカちゃんはいないの?」
「うん、なんか昨日から来ないんだよね」
「そうなんだ?忙しいのかな」
ちなみにリアンも忙しくあるべきなのだが。
代わりにケイトが忙しくしている。
その時、女性がリアンの方に走ってきた。
顔は蒼白で弱々しい。
「なんでも屋さんっ!オリバーが、息子が2日も帰って来ないんです!!いつも晩御飯には帰ってきていたんです!!」
「2日も…!?」
「“帰らずの森”に行ったきり、戻ってこないんです…。心配で…、どうか助けてください」
リアンが断るわけがなかった。
「もちろん。私が探してくるよ」
だからそんなに心配しないで、とその母親を励まし、リアンは帰らずの森に向かおうとする。
しかし正直なところ、帰らずの森から2日帰ってこないとなると、不安を抱かずにはいられない。
なぜなら迷いの森は羅針盤があれば誰でも帰れる。
しかし、帰らずの森は「帰りたい」という気持ちを持ち、逆に森を恐れる気持ちを持ってはいけない。
────2日も帰ってないとなると…
リアンは眉をひそめる。
すると、全て聞いていたヴァナルガンドが、力を解放し少し大きめのオオカミの姿になる。
『ガウ(乗れ)』
「君…。天才なの…?」
リアンはなんの疑いもなくヴァナルガンドにまたがる。
その時、リアンを呼び止める声が聞こえた。
「おい、馬鹿。遅え」
「ミラ!!買い出し忘れてたごめん、あと説明してる時間ない!」
「そうかよ。行ってこい」
リアンは力強く頷く。
そして「預かってて」とヒゲ付きメガネを渡す。
「行ってきます」
淡く金色に光るオオカミの背が、暗闇の中去っていく。
そして残されたミラは、リアンの受け取った大量のお礼の品とヒゲメガネを、1人で抱えて帰ることになったのだった。
「クソが」
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