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勇者の国 編
アホに嘘つかせるのも不可能
しおりを挟む「っだぁー!疲れた!」
レオは芝生に寝転がる。
とりあえず素振り×1000、腕立て・腹筋・背筋×100が終わったのだ。
彼の横でレヴィが微笑んでいる。
「おつかれ。初めてなのにすごいね」
「まあ一応バスケ部副部長やしな」
「ばすけぶ?」
レヴィは首を傾げる。
「あー、いや、そんな事より次は何すんねやっけ」
「次は組手だよ。僕と組もうよ」
「ああ!分からんから教えてな~」
レヴィは「あの二人を見て」と、ナツとユキを指さす。
向き合った瞬間、ナツが先手を仕掛ける。
右ストレートでユキを狙うが、彼はそれを最小限の動きで避ける。
そしてユキは、ガードが緩くなった右腹を狙って左脚で蹴りを入れようとする。
が、目前で止めた。
そして「…一本。昨日と同じ手には乗らないよ」と言う。
ナツは悔しそうに「やるな!」と笑う。
それを見たレオは冷や汗をかく。
────いやいや、あんなん俺には出来ひんで!?
しかしレヴィはそれも考慮していた。
「とりあえず僕らは“合わせ”をしよっか。ゆっくり技を出し合って、考えながら相手の技に対応するんだ」
「おお、それなら出来そうな気がするわ!」
2人は向き合う。
「じゃあいくよ」とレヴィは言うと、右脚でレオの顔にゆっくりと蹴りを入れようとする。
────来た!なら俺は、
レオは左腕をゆっくりレヴィの足に近づけ、止めた。
レヴィは微笑む。
「うん、そんな感じ。これを続けるよ」
「おっす!」
レヴィは右手でストレートを打つ。
レオは、来た、と思い、右手でそれを止めようとゆっくり動かす。
しかし、2人の右手が近づいた瞬間、レヴィの右手が止まった。
────え?
レオは視界を動かす。
すると左側から、すぐそこまで蹴りが迫っている。
「そっちか────
レオは反射的に、素早く左側をガードしてしまう。
────あっ!」
ゆっくり組手を行う上で、身体を普段の速さで動かしてしまうことは、相手より思考が劣ったことを示す。
レヴィは笑う。
「ふふ、一本、だね」
「すごいなレヴィ!全然気づかんかったわ!」
レオは目を輝かせる。
その時、カレンが手を叩く音が聞こえた。
「皆さん。一度休憩してください。その後、剣を交えてもらいます」
❁
お次はアテナとペアを組む。
「はぁ、どうしてアタシが初心者の面倒を見なくちゃ行けないわけ」
「まあまあそう言わずにお願いやん~」
彼女は木刀を構える。
「申し訳ないけど、アタシ、手加減嫌いなの」
そう言った瞬間、レオに飛びかかる。
その刃は彼の頭を目掛ける。
彼は反射で防御する。
木刀同士がぶつかる音が響く。
「ぐっ」
木刀が押し切られそうな勢いである。
レオは冷や汗をかく。
────本気でやりに来てる…!!
彼はアテナの木刀を何とか払い除ける。
しかし次の瞬間には、彼女は木刀を振る。
その一撃はレオの横腹にヒットした。
「いっっっ!?」
「弱いわね」
「む」
レオは負けず嫌いである。
彼はアテナに一泡吹かせようと考える。
そしてなにか思いついたのか、走り出した。
アテナに直行する。
「愚策ね」
彼女は木刀を構える。
しかし目前まで来て、レオの姿がすっと消えた。
────一体どこに……、下!!!
レオは体勢を低くして滑り込んでいた。
そして彼女が気づいた頃には、後ろに回り込んでいる。
彼女は慌てて振り返りつつ木刀を振る。
しかし、彼女の予想に反してレオはまだ低い姿勢のままだった。
回り込んだ瞬間斬りかかっても、アテナに読まれると思ったのだ。
レオは「やっぱり」と考えながら、隙だらけのアテナと瞬時に距離を詰め、喉元に木刀を近づける。
「弱くないやろ?」
「……!!!」
レオはニッと笑う。
アテナは予想外の動きに驚き、レオを少し舐めていたことを後悔した。
「ふ、ふん。まあまあね」
「えへへ、ありがとな」
「調子に乗らないで。褒めてないわよ」
そして2人はもう一度構え、剣を交え続ける。
ちなみにこれ以降アテナから一本も取れず、ボコボコにされたのだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
レオはベッドに飛び込んだ。
「つっっっかれたぁぁ!!」
「初日お疲れ様」
隣で微笑んでいるのはレヴィ。
訓練を終えたあと、みんなで護衛班の寮に向かった。
食堂を紹介してもらい、そこでみんなで夕食をとり、大浴場で汗を流し、74期の男子部屋に連れていってもらった。
部屋は確かに、遠征班の1部屋より大きい。
だがそこに4、5人で生活すると言うので、1人あたりで言えば遠征班は大分広いことになる。
なんせ班員が2人しかいないからなのだが…。
部屋に戻ってから、ナツ・ユキ・レヴィが様々なことを教えてくれた。
「護衛班は100人以上いる。そん中で訓練中なのは、オレら74期だけだ。オレらももう少しで仕事に参加できるようになるんだぜ」
「……寮には先輩もいるから、すれ違ったら挨拶しなきゃならない。20歳以上年上の人もいる…」
「あと、色々ルールがあるんだ。例えば夜22時以降は外出禁止、とかね」
「へえ~!いかにも“寮”って感じやな!」
「ガハハ、遠征班が特殊なだけだけどな」
男4人、楽しく話していたらいつの間にか寝てしまっていた。
❁
深夜、レオは目を覚ます。
────あれ、いつの間にか寝ちゃってたんか
「もしかして起こしちゃったかな?」
声のする方を見る。
そこには、紅茶を入れるレヴィがいた。
彼はレオの分も用意し、机に置く。
いい香りがする。
レオは向かい合って座り、紅茶を飲む。
レヴィはしばらくレオを見たあと、口を開いた。
「……ねぇ、勇者の剣の保持者って、君のことでしょ?」
「ブーーーーッッ」
レオは紅茶を吹き出す。
「な、なななな何のこと!?」
カップを持つ手が尋常ではないほど震える。
「ふふ、落ち着いて。たぶん僕しか気づいてないから」
「……はー、隠し事苦手やねんなぁ…」
「いい事だよ」
「うーん」
レオは手袋を外し、甲を見せる。
そこには黒い紋章がある。
レヴィのオッドアイが見開かれる。
「わあ…。半信半疑だったけど、本当に勇者の剣は抜かれたんだね」
「絶対誰でも出来たと思うけどな…。あ、他の4人には秘密やで。『むやみに人に言うな』って言われてるねん」
「もちろん。言わないよ」
レヴィはそう言って微笑み、左手でカップを持ち上げて紅茶をすする。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
そして、5日が経った。
訓練を重ね、レオの技術は少しづつ上がっていた。
まず、組手。
普通の速度で対応できるようになり、さらに身体能力が元々高いため、有り得ない角度からの攻撃で相手を翻弄できる。
今日はナツと組んでおり、レオは彼の右ストレートを跳んで避け、空中で回転して回し蹴りを喰らわせる。
ナツはそれを両腕でガードする。
「よっしゃあ!一本!!」
「すごいなレオ!!死神ちゃんみたいじゃねえか!」
次に、剣術。
今日もアテナと木刀を交える。
お互いの木刀が幾度もぶつかり、どちらも引かない。
レオは、アテナが木刀を振り上げた一瞬の隙をつき、1歩詰めて彼女の横腹に軽く当てた。
「一本!!」
「くっ……。もう一度よ!」
「おう!」
その姿を、カレンは感心して見ていた。
────6日目とは思えない成長ですね…。元々の身体能力もありますが、戦闘IQが高いです。流石は選ばれし者、と言った所でしょうか。でも、まだまだ勇者の剣を持つには心もとない
彼女は目を細める。
────あと1週間と少し。リアン様と約束した以上、もっと強くなってもらわなければ…。ですが時間がありません。こうなったら……
「レオ!」
「はい!」
レオとアテナは剣を止める。
そしてレオはカレンの元へ走ってゆく。
呼ばれたら駆け足で集合、これは護衛班のルールだ。
「どうしたん?ですか」
「貴方はこれから、私と組んでもらいます」
「……え?」
レオは耳を軽く叩き、聞き返す。
「私と組んでもらいます」
カレンの目は鋭かった。冷たい闘気に包まれる。
レオは思わず後ずさりする。
「それ、私情入ってないやんな!?!?」
リアンと同じ班に入れた彼への腹いせに、ボコボコにされるのでは…と思う。
実際、ボコボコにされた。
若くして班長を勤めるだけあって、その剣術は圧倒的だった。
滑らかで、無駄がなく、すばやい。
初心者のレオがついてゆけるはずも無かった。
そして何より彼女は厳しかった。
「立ちなさい。もう1回です」
「はい!!!!」
「剣筋に無駄が多いです」
「はい!!!」
「自分の間合いを正確に把握しなさい」
「はい!!!」
「右からの振りばかりです。左も使えるようにしなさい」
「はい!!!」
しかし負けず嫌いなレオは必死で食らいつく。
2人を傍から見ていた班員らは、少し引いていたのであった。
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