20 / 24
勇者の国 番外編
番外編-ミラ-大切の共有
しおりを挟む┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それから1ヶ月が経った。
最初は、トップのカルドがいなくなったことで、食料を狙う者が何人も現れた。
しかしその度にミラの強さがスラムに知れ渡ることとなる。
今では、誰もこの集落に喧嘩を売らない。
ミラは本を読んでいた。
すると、アミックが突然入ってくる。
慌てて本を隠した。
「キング~!遊ぼーぜ♪」
「勝手に入ってくるな」
「めんごめんご」
「今から迷いの森に行くから無理だ」
「残念。りょーかい♪」
このコミュニティでは、小さい子どもが多く住んでいる。
捨てられた子どもたちだ。
彼らはまだ強くないため、弱肉強食のこのスラムでは生きていけない。
そんな彼らの食料も賄うためには、迷いの森で調達しなければ足りないのだ。
ミラはナイフを腰に提げると、森へ向かった。
果物だけでなく、焚き火用の木や、水、恐ろしい肉食獣など。
彼にとって食料の宝庫なのだ。
「こんなもんか。えーっと、苔がこっち側に生えてるから…あっちが北か」
❁
ミラが戻ると、何やら楽しそうな声が聞こえた。
見ると、白銀の美しい髪に、妖しげな紅い瞳の、スラムに似つかわしくない少女が子どもたちと遊んでいた。
彼女は壁を蹴って宙返りし、缶を蹴飛ばす。
「うおお!すげぇ!またリアンの勝ちだ!」
「くっそぉ、強すぎだぜ~♪」
彼女が振り返り、ミラに気づいた。
「あっ!初めまして!もしかして君がキング?」
「…そうだが」
「私リアン!迷子になっちゃって、お邪魔してまーす」
「…」
ミラは彼女の格好を見る。
スラムに住む人とは違い、小綺麗な大きいパーカーに短パンだ。
王都の奴か、とミラは思う。
子どもたち(とアミック)が集まってきて、
「おかえりキング!この姉ちゃんすごいんだよ!」
「昼飯を奪われそうなとこを助けてくれたんだ!キングみたいに強い!」
「それに超絶可愛いぜ♪」
と口々に話す。
すると、1人の幼児が、
「そうだ!リアンちゃん泊まってってよ!」
とリアンにせがんだ。
ミラは男性団員が自分のことを侮蔑するような目で見てきたことを思い出す。
王都に住むやつがこんなとこで一晩過ごすわけない。
そう考えながら冷たい目でリアンを見る。
すると、彼女は晴れ渡るような笑顔で、
「え!?いいの!?やったあ!!」
と子どもと手を繋いで回り始めた。
ミラは驚く。
────なんなんだコイツ…
そして本当に泊まった。
王都の人間からすれば残飯以下の食事を喜んで食べ、汚い寝床で子どもたちと寝てしまった。
小綺麗だった服も汚れてしまっている。
その様子を見ていたアミックは、ミラに話しかける。
「なあなあ、あの子どこから来たんだろうな?天から舞い降りた女神的な♪」
「は?知らねーで一緒にいたのかよ。
てかどうせ王都の人間だ。服が綺麗すぎる」
「まあ、そうか。でもイメージと違うぜ?もっと嫌な奴らかと思ってた。アイツらは隠したいものをココに捨てていく」
「……」
ミラは答えなかった。
月明かりがスラムを照らしていた。
❁
翌朝。
引き留めようとする子供たちを宥め、リアンは帰ろうとする。
「やだやだ!もっと遊ぼうよ!」
「私も遊びたいよぉ。でも仕事しなきゃだから帰らないと」
「え!!働いてるの!?かっけー」
「うん。私白竜団だから」
その言葉に、ミラは目を見開いた。
そして子どもとリアンを引き離す。
「…帰れ。もう二度と来るな」
「え、どうして…」
「帰れ!!!」
「…」
リアンは寂しそうな目を向け、何も言わずスラムを出ていった。
子どもたちはミラが感情的になっているのを初めて見たので、驚いている。
どうして怒っているのか分からずあっけらかんとなってしまう。
そんな子ども達に代わり、アミックが口を開いた。
「お、おいおい。どうしたんだよキング、お前らしくない」
「……二度と外の人間を入れるな」
ミラはそう言い捨て、どこかへ行ってしまう。
残された者たちは心配そうにそれを見ていた。
1人でスラムの街を歩き、唇を噛む。
────どうせオレらの生活を心の中で嘲笑ってたんだ!あの女もアイツと同じ…!
「クソッ!」
壁を叩きつけた。
パラパラと砂が落ちてくる。
ミラは怒りをどこへやれば良いのか分からず、ただ心がグチャグチャのままだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それから1週間。
いつも通り迷いの森での調達を終えた。
今日は大人たちがスラムの集会に行っているので食料は子どもたちの分だけでいい。
しかも道中で捨てられた本を見つけて気分がよく、すぐにでも読みたくて少し早歩きでスラムに戻る。
すると、スラム街の入口で嫌な匂いがした。
────なんだ?……血の匂い…!!!
ミラは持っていた物を全て放って走り出した。
自分の集落に近づくほど匂いが強くなる。
最後の曲がり角を曲がった瞬間、衝撃の光景を目にした。
子ども達が隅で震えながら身を寄せ合っている。
数人腕や足に刃物で切られたようなキズがあり、血が流れている。
そして、アミックが白竜団員に胸ぐらを捕まれて宙吊り状態になっていた。
彼に至っては額からも血が流れている。
「おい!!さっさと吐かねぇと殺すぞ」
「…ハッ!そんなのが脅しになると思ってんの♪」
団員はアミックを殴る。
「最後だ。勇者が書いたとされる伝説の本はどこにある。ここのボスが持っていると聞いた」
「知らねーな。知っててもテメェに教えるわけね~だろ♪」
「そうか。死ね」
団員はアミックを乱暴に降ろし、持っていた剣で斬りつけようとした。
しかし、その前にミラの飛び蹴りが間に合った。
「オマエが死ね」
「ぐ…!」
その時に気づいた。気づいてしまった。
「…は?お前…」
白竜団員は、あの夜────カルドの様態が悪化したときに助けを求めた相手だった。
団員もミラに気づく。
「お前…あの時の奴か。まだ生きてたのかよ」
「………。これ、お前がやったのか?」
「お前らみたいな国になんの貢献もしない奴は生きてる意味がねぇだろ。俺がやってるのはただのゴミ掃除」
その瞬間、もはやミラは冷静ではなかった。
怒りが全てを侵食し、ただ団員を殴り続けた。
馬乗りになり何度も何度も殴る。
アミックが止めても、全く聞こえていないようだった。
ミラが大きく振りかぶった瞬間、その腕が止められた。
どれだけ力を入れても振り解けない。
彼は振り返る。
すると、そこには帽子を深くかぶるもう1人の団員がいた。
男性団員はミラの攻撃が止んだことで、立ち上がる。
「よ…よくやった…。助けに、きて…くれたのか」
「うん」
その瞬間、もう1人の団員は男性団員を思い切り殴った。
重たそうな身体が中を浮き、壁にヒビが入るほどぶつけられる。
そして団員はミラの方を向いた。
「助けに来たよ。君をね」
団員の帽子が落ちた。
はらりと白銀の髪が下ろされ、紅い瞳が現れる。
ミラとアミックは目を見開く。
「…お前!!」
「この前の女神ちゃん!?」
リアンは口角を上げる。
しかし、アミックは焦りの表情で、
「上司っぽい人を殴っちゃったけど大丈夫そ?」
「あ……つい」
「「つい!?!?」」
ミラは立ち上がると、リアンを見下ろす。
「お前、どうしてオレらに手を貸した?」
「?当たり前じゃん。私の仕事は国民を助けることだから」
「国民……」
「そんな事より君の家族の手当が優先だよ!」
リアンはアミックに駆け寄る。
彼の顔は何度も殴られた痕があり、腕にも複数の切り傷があった。
リアンは顔をしかめる。
「酷い……。なにか布とかない?───あ、これでいっか」
リアンは軍服の上着を脱ぐと、素手で引き裂いた。
アミックは驚愕の表情を浮かべる。
そして包帯代わりにして応急処置を施した。
だいぶ不格好な処置である。
「よし!」
「(なんかダサい…)」
すると、そんなアミックにミラが近づく。
「…あのさ、アイツの探してた本……多分、オレが持ってるやつだ。ごめん、お前は知らないのに…」
「あ、知ってるぜ~♪」
「…え?」
「ていうか、ここの皆知ってるぜ。お前がボスから貰った本を大切にしてることぐらい」
子どもたちがミラに近づく。
彼らにもキズがある。
きっと問われても答えなかったのだろう。
「どうして…お前ら!言っちまえばこんな事には…!」
「だって、あんな奴にキングの大切なもの奪われたくなかったんだもん」
「そうそう♪」
「…………ごめん、ごめん…」
「なに謝ってんだよ~」
アミックはミラの肩を抱き、優しくそう言った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~
あけちともあき
ファンタジー
冒険者ナザルは油使い。
魔力を油に変換し、滑らせたり燃やしたりできるユニークスキル持ちだ。
その特殊な能力ゆえ、冒険者パーティのメインメンバーとはならず、様々な状況のピンチヒッターをやって暮らしている。
実は、ナザルは転生者。
とある企業の中間管理職として、人間関係を良好に保つために組織の潤滑油として暗躍していた。
ひょんなことから死んだ彼は、異世界パルメディアに転生し、油使いナザルとなった。
冒険者の街、アーランには様々な事件が舞い込む。
それに伴って、たくさんの人々がやってくる。
もちろん、それだけの数のトラブルも来るし、いざこざだってある。
ナザルはその能力で事件解決の手伝いをし、生前の潤滑油スキルで人間関係改善のお手伝いをする。
冒険者に、街の皆さん、あるいはギルドの隅にいつもいる、安楽椅子冒険者のハーフエルフ。
ナザルと様々なキャラクターたちが織りなす、楽しいファンタジー日常劇。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる