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勇者の国 番外編
番外編-ミラ-人生で初めて会った究極のバカ
しおりを挟むミラは子どもらの腫れた頬を濡れた布で冷やしながら、ふと思う。
「そういやお前はどうしてここに来たんだよ?二度と来るなって言っただろ」
「ん~?私?」
「お前しかいねぇだろ」
リアンはふわりと振り返る。
その美しい姿に、アミックは目を輝かせる。
「あ!そうだ!君に用があって来たんだった」
そう言いながら、軍服のポケットを探る。
すると、1枚の紙が出てきた。
「君を国立図書館司書に勧誘しにきたの!」
「「「「えええええええ!?!?」」」」
ミラ以外は口を大きく開けて驚く。
それもそのはず、司書はひと握りの人間しかなることが出来ない、エリート中のエリート。
「…なぜオレを」
「この前遊びに来た時、みんな君が本を大好きだって言ってたから」
「(隠してた意味ほんっっとに無かったな。いつアイツらにバレたんんだ…)」
「あとは私の勝手な想像。君に似合うと思ったんだ!」
「………」
ミラは司書として働く自分を想像する。
木漏れ日の中、今まで手が届かなかったような大量の本を読み漁る。
「…はぁ」
「どうかな!?」
「無理」
「はぁ!?どうしてだよキング!」
アミックは驚く。
まさか断るとは思っていなかったのだ。
これはミラが1番望む未来に近いと、そう思っていたからだ。
ミラは続ける。
「まず白竜団の言うことを聞きたくねぇ。大っっっ嫌いなんだよ」
「がーん…」
アミックが止めようとしたが間に合わず、リアンは傷つく。
「それに、……オレにはここでやる事がある」
「うぅ、そっかぁ。残念。無理には誘わないよ」
「………」
「とりあえず私はあの人連れて帰るね!」
と、白目を剥いて倒れている男性団員に目を向ける。
彼を縄でぐるぐるに縛り、引きずる。
「じゃ、怪我治ったら遊ぼうね!」
「二度と来るな」
「嘘嘘嘘!女神ちゃんいつでも来てくれよ~♪」
そう言って、リアンは王都へ戻って行った。
それとほぼ同時に、集会へ参加していたラフマら大人たちが帰ってきた。
子どもたち(特にアミック)の傷を見て驚く。
「おい!何があったんだ!襲撃か!?」
「どこのコミュニティだ。落とし前つけてやる」
「あー!違う違う♪スラムの奴じゃ無い。……白竜団の奴が、俺らの物を奪いに来た」
「「「…………!!!」」」
ラフマたちは目を見開く。
なぜ国民を守る正義の味方が、なぜスラムに、一体何を欲して、……。
子どもたちは誰1人、「ミラの本を狙いに来た」とは言わなかった。
それで大人たちがミラを責めるとは考えられなかったが、ミラが余計背負い込む事は目に見えていたからだ。
ミラはそれに気づき、歯を食いしばる。
────オレの、せいだ。
すると、アミックが小声でミラに囁いた。
「お前のせいじゃない。あのクソ野郎のせいだ」
「……」
「そしてお前のやる事は落ち込むことじゃない」
ミラは1度目を閉じ、開く。
そしてふと思い出したように、
「そういや…アイツ、『3日後』『いつもの場所で』とか呟いてたな」
「なんだそれ」「ソイツ頭おかしくなったんじゃね」
大人たちは口々に白竜団員をバカにする。
自分のテリトリーを荒らされて憤っているのだ。
結局リアンが殴り飛ばしたことを聞いた大人たちは、少し気分が晴れた様子だった。
そしてみんなで少ない夕食をとり、眠りにつく。
しかし、ミラだけは眠れなかった。
隠していた本を取り出す。
────これは…そんなに価値があるのか?
表紙を撫でる。
カルドの顔が思い出され、再び白竜団への怒りが湧き上がる。
「…クソ」
まさ目が覚めていたが、今すぐに眠りたくて、ミラは硬い地面に突っ伏した。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
翌日。
リアンは大きな荷物を抱えて街を歩いていた。
それはそれは大きな荷物である。
しかし街の人々は驚かない。
もはやリアンが何をしようと「死神ちゃんだから」で済むようになってしまった。
「おー、死神ちゃん。今日はすごい荷物だな」
「うん!」
「どこに行くんだ?」
「んー……────友達のとこ!」
❁
「じゃーーん!」
「「「「おおおお!!!」」」」
リアンは荷物を広げる。
中には大量の清潔な布、読み書きの本が入っていた。
子どもたちはもちろん、大人達も驚き、嬉しそうに布を広げたりしている。
「女神ちゃんは本当に女神だった…?」
「アミック、落ち着け」
しかし、ミラだけは不機嫌である。
リアンに向かってナイフを投げ飛ばす。
彼女は二本指のみでそれを止めた。
「ちょ、何してんだよキング!!」
アミックは慌てて2人の間に入る。
しかしリアンは気にしていない。
「はは、大丈夫だよ~。この程度目を瞑っても取れるからね!(ドヤ)」
「…は?喧嘩売ってんのか?」
「はいはいはい、2人とも待て待て」
身体能力が化け物級の2人に争われては周りが困る。
アミックは何とかミラを止める。
「も~、せっかく女神ちゃんが色々持ってきてくれたんだから、有難く受け取ろうぜ♪」
「そういう施しはいらねぇ。可哀想、とか思ってんのか?偽善者ぶるなよ」
「お、おい…」
その一言で場が凍りついた。
しかし、リアンは首を傾げる。
「ほどこし、って何?」
「は?」
「難しい言葉知ってるんだね!」
「……」
「キング…もしかしなくても、女神ちゃんって俺より頭悪いかも」
「……」
「あと、可哀想とは思ってないよ?うーん、なんだろう。むずかしいなぁ」
「もういい。分かった」
ミラはため息をつく。
そして睨みをきかせてリアンを見る。
「だが、『二度と来んな』って言ったよな?次はねぇぞ」
「やだ」
「何が『やだ』だ!!オレはお前が嫌いなんだよ。二度と来んな!」
「だってみんなと遊びたいもん」
「はあ!?!?」
ミラは思わず感情的になる。
そんな彼を見て、周りが笑い始めた。
「キングが表情変えるの久しぶりに見たな」
「怒ってるキング珍しい~」
ミラははっとして、真顔に戻る。
そして頭を搔き「お前ら白竜団に絆されんじゃねぇぞ」と言い放ってどこかへ行ってしまった。
大人達がリアンを囲む。
「まあまあ気にすんなよ。アイツは一生懸命なんだ」
「そうそう。それに親父さんの事があったんだ。簡単に白竜団の印象は変わらねぇ」
「うん!気にしてないよ。すごく家族思いだね」
「ガッハハハ!家族か!そうだな!」
「ところでこんなに色々貰っちまっていいのか?
流石に嬢ちゃんの金で買ったと思うと俺らは使いにくいっつーか…」
「それは大丈夫!これは、私が街の人のお手伝いをして受け取ったもう使わない布と、図書館で扱わなくなった本をお願いして貰ったものだよ!」
「はっはー、嬢ちゃんなかなかやり手だな?」
「ふふ」
❁
その翌日も、リアンはスラムを訪ねた。
今度は大量のリンゴを持ってきた。
「「おおお~!!すげぇ!!」」
「すっごく美味しいよ!」
ミラはまたもや苛立ちを隠せない。
今度は殴りかかる。
しかし、リアンは宙返りして避け、さらに回し蹴りを喰らわせようとする。
だが、ミラも常人でない。
右腕で蹴りを止めた後、彼も勢いよく蹴りを入れる。
リアンはそれを左手で流す。
そんな彼女を冷たい目で見下ろす。
「どうして来た。哀れんでるのか?弱者に与えるのがそんなに楽しいか?」
「おいキング、やめろよ。女神ちゃんはそういう子じゃない」
「お前は絆されすぎだ」
結局ミラとリアンは「帰れ」「やだ」の応酬を続け、ミラが折れた。
彼女は子どもたちとひとしきり遊ぶと帰って行った。
❁
その夜、アミックがミラに問う。
「なぁ、今日ってあの団員が来てから何日目だ?」
「…………2日目だ」
「ありがとな♪」
少し間のあったあと、ミラは答えた。
「どうしてそんなことを」と聞こうとしたが、それを言葉にする事はなかった。
嫌に生ぬるい風が彼の頬を撫でた。
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