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12歳《中等部》
72 テオside
しおりを挟む兄上の静かな。それでも通る声の音頭で例の洞窟への進軍が始まった。
昨日の夜からずっと兄上は何かを考え込んでる。なにが心配なんだ?そんな心配することなんてないと思う。兄上がいるのだからなんでも上手くいく。
この帝国で兄上が負けるのなら誰も勝てないと思う。
兄上があてがってくれた剣技の師匠だって兄上ほどの圧も気迫も感じなかった。
それに俺が兄上についている。命にかけても守る。だから兄上が死ぬことはない。つまり俺たちが負けるはずがない。
兄上はドラゴンのような魔獣を想定してたらしいがドラゴンなんて、神話の話だ。いたとしても隠れずに暴れるはず。兄上の言うことに異を唱えることはあまりないがさすがにないと思う。
洞窟の入口で兄様が手で制した。
さっきの話なら俺が先頭。1番後ろが兄上のはずだ。
「テオ。」
そっと兄上に手を引かれて目線を横に向ける。いつになく神妙そうな顔。いつも微笑んでる兄上とは全く違くて心配になる。
そんな兄上は俺の手を取って胸元で握りしめた。
「兄
【闇の神よ 闇の精霊よ この者に守りを与え給え 】
これは…防御の神級魔法だ。
初めての大会。俺は観客席だったけど俺のために唱えてくれた魔法。今思えばあの時の兄上のこの魔法はボロボロで神級とはお世辞にも言えない魔法だった。それでも大切にされているようで嬉しかったな。
「もう1つの方は唱えて下さらないんですか?」
「そっちは初級防御魔法の方が強いからダメ。というか、覚えてたんだね。」
「兄上がしてくれたことは全部覚えてますよ。」
ふわっと優しげに微笑んだ兄上が俺を覗き込む。本当に綺麗に笑う人だ。
「良い子。テオは本当に良い子だよ。」
そう言うだけ言って、キリッと威厳のある顔に戻す。
そういう切り替えの速さも兄上の美徳だ。
「さてっと。待たせたね。敵が出るまでは僕とテオで先頭を歩くよ。後方の警戒も怠らないように。敵が現れたらすぐに僕は下がる。テオ、先頭は頼んだよ。」
「はい。兄上。シルヴェスター公爵閣下。」
ポスポスと頭を撫でてくれた兄上の顔は俺が下を向いたせいでよく分からなかった。
▽
▽
中に入っても何も変わらないただの洞窟。
綺麗に掘られているから昔は坑道だったりしたのだろうか。そこまでは兄上から伝えられていない。
俺が柄に手をかけた。
同時にスっと右手を上げる兄上。それに合わせて止まる騎士たち。
━━━━━なにかいる
「テオ、結界はさっき張った。僕が一撃打った後に反撃来たら倒すよ。」
「はい。」
兄上が作ったアクティースという魔法。それが洞窟を削りながらナニカに向かって放たれた。
それでも消えない気配。
兄上も動かずに待ってるから俺も待つ。
兄上の眉がほんの少しだけ歪んだ。どんな感情なんだろうか。面倒臭い?面白くない?腹が立つ?
未だに兄上のことはよく分からない。
チッと隣にいる俺にしか聞こえないような音で兄上が舌打ちした。珍しい…。
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