君に呪いをかけた人

いつのひ

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 小さな村の小高い丘に、一軒の宿屋が建っている。
 どこを歩いても床がきしむ、でかいだけのボロ小屋のような宿屋。
 過去、魔物が村に襲来した時でも倒壊せず、なんだかんだで百年以上の歴史があるのだから侮れないが。
 現在の私はここで下働きをしている。

 昼下がり。私は1階の食堂の窓から外を見て、葉を茂らした木の枝に鳥の巣があるのをながめていた。
「ねぇねぇねぇ!」
 ギィギィ床を踏む音が聞えたかと思えば、後ろから同僚のリネに肩をばしばしと叩かれる。
 リネは小さな声を保とうとしているものの興奮がにじみ出ていた。
 何、と言いつつも、私には予想がついている。
「久々のお客さん、かっこいいの!」
 内緒話のように身を近づけてきたリネは私の手を引く。リネは私と同じく25歳だが、行動にうら若さを感じて微笑ましい。
 
 一緒に食堂の壁に隠れながら向こうの受付をのぞき見ると、そこには金髪碧眼の青年が立っていた。
 長身で、あたりまえのようにかっこいい顔だ。その身奇麗さはこの寒村では異質の輝きだった。
「すてきー!」
「そうだねぇ」
 聞えたのか、宿の主人に金を払っていた青年がこちらへ顔を向けた。私達は慌てて顔をひっこめる。
 宿の主人が苦笑ぎみに謝る声と、構わない、という低く落ち着いた声が聞えた。
 それから青年は食堂にすっと入ってきて、私たちを見やるとさわやかに微笑んだ。
「昼食を頂けるかな」
「はいっ喜んで!」
 リネは頬を赤くして答え、料理長を呼びに行く。
 私は受付へと向かい、宿の主人にどの部屋を使うかを尋ねて2階へと上った。

 2階の角部屋の窓を開けて換気をし、花瓶にささやかな装飾として入った小ぶりの白い花を整えつつ考える。
 私はあの青年を知っている。
 名前はエテル。150年前のこの村に滞在していて、その時の職業は剣士だった。
 コンセプトは王子様だったから、金髪碧眼という王道な配色にした。ツリ目は単に私の好みだ。

 「エテル」は私が作ったキャラクターだ。
 150年前、この村は私がゲームでキャラメイクした者達ばかりが住んでいた。
 地球という世界で、キャラメイクが出来るアプリのゲームで遊んでいて……私はゲームのことしか覚えていない。
 村の住民らの寿命はだいたい40歳程度だ。顔ぶれはもう変ってしまった。 宿屋だって老朽化していくのに、エテルは何ら変らない。
 そして何故か、エテルは50年ごとにこの宿屋に帰ってくる。
 花はエテルが来る度に、花の色を変えて飾ることにしていた。何となくだ。

 ベットシーツを整えていると、枕の端からわらが飛び出ているのを見つけた。
 指で押し込んでみたが、布に穴が開いているのはとても気になった。
 仕方なく枕を抱え、隣の空き部屋の物と交換するべく部屋を出る。ギッと扉を開けると、エテルが目の前にいた。
 私の心臓は跳ね上がり反射的に謝る。
「うわっすみません。これ、枕に穴が開いていて」
「いや、気にしないから」
「いえいえ、せっかく来ていただいたのですから」
 150年前の遭遇も角部屋を出た時だったと思い出し、途端に汗をかいた。
 エテルのわきを通り過ぎささっと隣部屋の枕を取る。同じ貧相な枕だが、穴は無い。
 エテルが入った部屋をノックすると「どうぞ」と声がした。
 扉を開くと、エテルはベットに腰をおろしていた。ベットと机と花瓶しかないボロ小屋に、綺麗な彼がいるのは違和感しかなかった。
「こちらをどうぞ」
「ありがとう」
 エテルは枕を受け取ると、しみじみと言った。
「良い宿だね、ここは。料理がおいしかった」
「そうですかね……?」
 村が栄えていた頃に出ていた料理の方が、種類豊富でおいしかったと思うのだが。
 最近は国自体が貧しいと宿の主人がつぶやいていたから、もしかしたらこの村は意外とまともな方なのかもしれない。
 宿を褒められたのに首をかしげてしまった私は、それを訂正するように深くおじぎをする。用は済んだのだから退出してしまおう。
「あの」
 出かかったところをエテルが呼び止めた。
 ハナ、と彼は口にした。
「花を置いているのはあなたですか」
「えーと……今日は私ですが、私の同僚が置く日もありますよ」
 会話を長引かせまいと、私は再び礼をして扉を閉めた。
 エテルは数日ここに滞在し、また村を出て行った。
 私は日常に戻り、村での日々を繰り返し、そして老いていく。
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