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2話
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村から少し離れた森の中で1人きり、私は手鏡をのぞいていた。
エテルが去った後も宿屋で働き続けたが、同僚のリネが早くに逝去してからは、何となく身に力が入らなくなった。
なので私は村から出て行ったふりをして、こうして森にいる。
この手鏡は最初から、このゲームの世界で目覚めた時から持っていた物だった。こんな時にしか使わない代物だ。
鏡面を見続けてしばらく、視界はぐにゃりと歪んで真っ暗になる。
意識しない内に閉ざしていたまぶたを上げると、鏡には10代の少女が映っていた。以前の私の面影はない。
この世界に来て、何故か私は自分の姿をキャラメイク出来るようになっていたのだった。
いつも通りの、宿屋の食堂。200年目。
「なんだぁ? おめーに花なんて似あわねぇな」
「えっ、そうですかね」
体格の良い男が橙の丸い花弁の花束を持っている。
それは私だった。私はタイミングを見計い、また宿屋で働く日々を送っていた。今度の私は料理人である。
私にぶっきらぼうに言葉を投げかけるのは、この宿の料理長だ。この村では今一番高齢なお方だ。
「宿に飾ったら華やかで良いでしょう? さ、個室にも飾ろう」
「何だぁ急に。来ねぇー客のために飾ったってどうしょうもねえよ」
「いやいや、今日は来そうな予感がしますよ。ビビビッとね」
食堂の窓際に花を飾ってから、2階へ向かう。此度は全部の部屋に花を飾った。これはエテルの他にも客が来ますようにというゲン担ぎだ。
最後の部屋に花を飾り、ふと枕を確認する。以前藁がはみ出していた箇所は白い糸で縫われていた。
「おぉい、ケビン!どこだあ!」
料理長の大きな声が耳に届いた。はいはいはいっと私は小走りで食堂へ向かう。
案の定、50年越しのエテルがいた。彼は椅子に座った状態から顔を向けてきたので、私はこんにちはと言いながらタッタッタと厨房の側に回った。
既に仁王立ちしていた料理長からメニューを聞き、一人でこさえていく。
料理長はほぼ引退したようなもので、作る私をじっと見続ける。毎回が卒業試験みたいなものだ。
「おまちどうさま」
しばらくして、エテルがいる机に鶏肉と野菜のソテーと硬いパン、水を運ぶ。肉も野菜もパンもこぶり。今だ栄えていた頃より劣る見た目だけど、美味しい肉の焼き方とかこだわりはあるものだ。と、今回の人生で学んでいる。
「ありがとうございます」
エテルの顔は何ら輝きを失わない。若いままだ。
彼と私ではそこが違っていた。私はあの手鏡で調整しないとそのまま老いていく。
もしやエテルも鏡を使っているのではないかと、考えることがあった。おそらく使ってはいないだろうとも思っていたけれど。
そこで100年目の邂逅の際は、行商から買った不思議な手鏡だと偽り彼に見せた。念じると自分の姿が変るらしいと言って試させたが、一切変らない。
そんな鏡がある事も知らぬ素振りで「詐欺にあったのでしょう……」と当時のエテルに哀れみのぬるい微笑みをもらった。
「おいしい」
意識を過去に飛ばしていたため、反応に遅れた。
「そそ、そっすか!? いやあ、はは。嬉しいです」
照れくさくなったので早々に厨房に引っ込んだ。
すると料理長は鶏肉の仕込みを始めていた。違いを見ていろってことだ。
料理長の腕前を見ているうちに、エテルは食事を終えて部屋に行ったようだった。
夜が深くなっていく。下働き用の部屋には私しかいない。
ベットにごろんと寝転がり200年前よりもっと昔、私がゲームを遊んでいた頃へと思いをはせる。
キャラメイクができるゲームが一番好きだった。
その先にある冒険よりも、姿を作る今その時が大切だった。そんな自分のハートをぐっさり射止めたゲームだった。
廃村に住民たちを配置し彼らの生活を見守るという、ただそれだけだった。いわゆる放置ゲームってやつだ。
村の住民全員をキャラメイクできた。身長、年齢、顔、職業、性格……
住民は村で生活したり、出て行ったり。帰ってきたり、何もかもさぼったり。最後には寿命で亡くなる。
私は神様の視点で再興した村を俯瞰し、その一生をながめるだけだった。
重要なのは「ロック」をかけたキャラは特別だった事。ロックをかければ死ぬ事はなく、状態を保存できたのだ。
一番最初に作った女キャラと男キャラにまずロックをかけて、その後は上手く作れた2人にかけた。
エテルは最初に作った男キャラだ。
エテルの職は冒険者タイプなので、作って早々村を出て行った。キャラの情報画面に「魔の洞窟を攻略」「剣士から騎士に転職」等と行動が羅列されていた。そして時たま村に里帰りしているのをながめていた。
……今の私は、ロックの外し方がわからない。
私の死後も彼らは生き続けると思うと、先に寿命を迎える選択ができなかった。
私が今見ているエテルは、永遠にゲームのキャラクターなのだろうか。
今、この村を、エテルや私を俯瞰し見ている者はいるのだろうか?
エテルが去った後も宿屋で働き続けたが、同僚のリネが早くに逝去してからは、何となく身に力が入らなくなった。
なので私は村から出て行ったふりをして、こうして森にいる。
この手鏡は最初から、このゲームの世界で目覚めた時から持っていた物だった。こんな時にしか使わない代物だ。
鏡面を見続けてしばらく、視界はぐにゃりと歪んで真っ暗になる。
意識しない内に閉ざしていたまぶたを上げると、鏡には10代の少女が映っていた。以前の私の面影はない。
この世界に来て、何故か私は自分の姿をキャラメイク出来るようになっていたのだった。
いつも通りの、宿屋の食堂。200年目。
「なんだぁ? おめーに花なんて似あわねぇな」
「えっ、そうですかね」
体格の良い男が橙の丸い花弁の花束を持っている。
それは私だった。私はタイミングを見計い、また宿屋で働く日々を送っていた。今度の私は料理人である。
私にぶっきらぼうに言葉を投げかけるのは、この宿の料理長だ。この村では今一番高齢なお方だ。
「宿に飾ったら華やかで良いでしょう? さ、個室にも飾ろう」
「何だぁ急に。来ねぇー客のために飾ったってどうしょうもねえよ」
「いやいや、今日は来そうな予感がしますよ。ビビビッとね」
食堂の窓際に花を飾ってから、2階へ向かう。此度は全部の部屋に花を飾った。これはエテルの他にも客が来ますようにというゲン担ぎだ。
最後の部屋に花を飾り、ふと枕を確認する。以前藁がはみ出していた箇所は白い糸で縫われていた。
「おぉい、ケビン!どこだあ!」
料理長の大きな声が耳に届いた。はいはいはいっと私は小走りで食堂へ向かう。
案の定、50年越しのエテルがいた。彼は椅子に座った状態から顔を向けてきたので、私はこんにちはと言いながらタッタッタと厨房の側に回った。
既に仁王立ちしていた料理長からメニューを聞き、一人でこさえていく。
料理長はほぼ引退したようなもので、作る私をじっと見続ける。毎回が卒業試験みたいなものだ。
「おまちどうさま」
しばらくして、エテルがいる机に鶏肉と野菜のソテーと硬いパン、水を運ぶ。肉も野菜もパンもこぶり。今だ栄えていた頃より劣る見た目だけど、美味しい肉の焼き方とかこだわりはあるものだ。と、今回の人生で学んでいる。
「ありがとうございます」
エテルの顔は何ら輝きを失わない。若いままだ。
彼と私ではそこが違っていた。私はあの手鏡で調整しないとそのまま老いていく。
もしやエテルも鏡を使っているのではないかと、考えることがあった。おそらく使ってはいないだろうとも思っていたけれど。
そこで100年目の邂逅の際は、行商から買った不思議な手鏡だと偽り彼に見せた。念じると自分の姿が変るらしいと言って試させたが、一切変らない。
そんな鏡がある事も知らぬ素振りで「詐欺にあったのでしょう……」と当時のエテルに哀れみのぬるい微笑みをもらった。
「おいしい」
意識を過去に飛ばしていたため、反応に遅れた。
「そそ、そっすか!? いやあ、はは。嬉しいです」
照れくさくなったので早々に厨房に引っ込んだ。
すると料理長は鶏肉の仕込みを始めていた。違いを見ていろってことだ。
料理長の腕前を見ているうちに、エテルは食事を終えて部屋に行ったようだった。
夜が深くなっていく。下働き用の部屋には私しかいない。
ベットにごろんと寝転がり200年前よりもっと昔、私がゲームを遊んでいた頃へと思いをはせる。
キャラメイクができるゲームが一番好きだった。
その先にある冒険よりも、姿を作る今その時が大切だった。そんな自分のハートをぐっさり射止めたゲームだった。
廃村に住民たちを配置し彼らの生活を見守るという、ただそれだけだった。いわゆる放置ゲームってやつだ。
村の住民全員をキャラメイクできた。身長、年齢、顔、職業、性格……
住民は村で生活したり、出て行ったり。帰ってきたり、何もかもさぼったり。最後には寿命で亡くなる。
私は神様の視点で再興した村を俯瞰し、その一生をながめるだけだった。
重要なのは「ロック」をかけたキャラは特別だった事。ロックをかければ死ぬ事はなく、状態を保存できたのだ。
一番最初に作った女キャラと男キャラにまずロックをかけて、その後は上手く作れた2人にかけた。
エテルは最初に作った男キャラだ。
エテルの職は冒険者タイプなので、作って早々村を出て行った。キャラの情報画面に「魔の洞窟を攻略」「剣士から騎士に転職」等と行動が羅列されていた。そして時たま村に里帰りしているのをながめていた。
……今の私は、ロックの外し方がわからない。
私の死後も彼らは生き続けると思うと、先に寿命を迎える選択ができなかった。
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