君に呪いをかけた人

いつのひ

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おわり

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 朝だ。朝が来た。鳥のさえずりが耳に届く。
 扉がノックされた。ああ、そうだった。
「……どうぞ」
 エテルが入って来た。腰に剣をさげている。
「司祭にあいさつはしたのか」
「まだ、です。でもあの方、朝は絶対に起きない人なんです」
 エテルは考える素振りを見せ、肩にひっさげた荷物袋から羊皮紙を取り出した。
「字は?」
「書けます」
 羊皮紙とインク瓶と羽ペンを次々出し、私の机に置いていく。
 指でとんとんと机を叩いてきたので、私は上目で様子を伺いながら椅子に座った。
 私は羽ペンを手に取り、たどたどしくインクをつけて書く体勢をとる。
 と、エテルが横からぼそりと言った。
「遺書」
「!!」
 ぼたりと、ペンの先からインクが落ち、顔から血の気がひいていく。
 頭上からエテルの呆れた声が響いた。
「その体たらくで、よく覚悟してるなんて言ったな」
 か、書けない。文面が考えられない。
 わずか5年の付き合いである司祭に、私の遺書は重すぎるのではないか。いや、そもそも下手に文を残すとエテルの犯行がばれるのでは……?
 困りかねてエテルを見上げると、エテルも困った顔をした。
「……冗談だ。旅のあいさつを書けばいい」
「い、いいんですか」
 とんとん、とまた机をはじかれた。
 私は司祭への感謝と別れの言葉をしっかりと書き綴るつづことが出来た。
 椅子から立ち上がり、エテルにインク瓶と羽ペンを返す。
「ありがとうございます」
「ちゃんと方法を探すこと」
「はい。では、もう行きます」
 エテルよりも小さな荷袋をベルトにくくり付けてから部屋を出る。
 教会も出て、早朝のまだ暗い景色の中を歩いた。

 250年の歳月が急に感慨深く思えた。外からの客でにぎわっていた時の風景もだが、魔物の襲来で被害が出て、暗く寂しかった頃まで懐かしい。そのまま村は寂しいままだが、今も細く長く生活は続いている。

 村の入り口で振り返る。エテルがここまで見張りに来ていたからだ。
「さようなら。しっかり方法を探しますから」
「この先にある町に行こう。呪術師がいるか聞いて回る。
 呪術師同士で話をすれば、何か掴めるかもしれない」
「親切にどうも……」
「俺も同行する」
 寸の間。私とエテルは真顔で見合わせた。
 エテルの声が低くなる。
「解く方法がわかったとして合流はどうする。下手したら永遠にすれ違うだろう」
「……50年後にここで」
「さっさと行こう」
 エテルが私の先を行く。



 私とエテルの繰り返しは終わった……のではなく変化しただけだったが、それはとても大きな変化だった。
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