5 / 5
おわり
しおりを挟む
朝だ。朝が来た。鳥のさえずりが耳に届く。
扉がノックされた。ああ、そうだった。
「……どうぞ」
エテルが入って来た。腰に剣をさげている。
「司祭にあいさつはしたのか」
「まだ、です。でもあの方、朝は絶対に起きない人なんです」
エテルは考える素振りを見せ、肩にひっさげた荷物袋から羊皮紙を取り出した。
「字は?」
「書けます」
羊皮紙とインク瓶と羽ペンを次々出し、私の机に置いていく。
指でとんとんと机を叩いてきたので、私は上目で様子を伺いながら椅子に座った。
私は羽ペンを手に取り、たどたどしくインクをつけて書く体勢をとる。
と、エテルが横からぼそりと言った。
「遺書」
「!!」
ぼたりと、ペンの先からインクが落ち、顔から血の気がひいていく。
頭上からエテルの呆れた声が響いた。
「その体たらくで、よく覚悟してるなんて言ったな」
か、書けない。文面が考えられない。
わずか5年の付き合いである司祭に、私の遺書は重すぎるのではないか。いや、そもそも下手に文を残すとエテルの犯行がばれるのでは……?
困りかねてエテルを見上げると、エテルも困った顔をした。
「……冗談だ。旅のあいさつを書けばいい」
「い、いいんですか」
とんとん、とまた机をはじかれた。
私は司祭への感謝と別れの言葉をしっかりと書き綴ることが出来た。
椅子から立ち上がり、エテルにインク瓶と羽ペンを返す。
「ありがとうございます」
「ちゃんと方法を探すこと」
「はい。では、もう行きます」
エテルよりも小さな荷袋をベルトにくくり付けてから部屋を出る。
教会も出て、早朝のまだ暗い景色の中を歩いた。
250年の歳月が急に感慨深く思えた。外からの客でにぎわっていた時の風景もだが、魔物の襲来で被害が出て、暗く寂しかった頃まで懐かしい。そのまま村は寂しいままだが、今も細く長く生活は続いている。
村の入り口で振り返る。エテルがここまで見張りに来ていたからだ。
「さようなら。しっかり方法を探しますから」
「この先にある町に行こう。呪術師がいるか聞いて回る。
呪術師同士で話をすれば、何か掴めるかもしれない」
「親切にどうも……」
「俺も同行する」
寸の間。私とエテルは真顔で見合わせた。
エテルの声が低くなる。
「解く方法がわかったとして合流はどうする。下手したら永遠にすれ違うだろう」
「……50年後にここで」
「さっさと行こう」
エテルが私の先を行く。
私とエテルの繰り返しは終わった……のではなく変化しただけだったが、それはとても大きな変化だった。
扉がノックされた。ああ、そうだった。
「……どうぞ」
エテルが入って来た。腰に剣をさげている。
「司祭にあいさつはしたのか」
「まだ、です。でもあの方、朝は絶対に起きない人なんです」
エテルは考える素振りを見せ、肩にひっさげた荷物袋から羊皮紙を取り出した。
「字は?」
「書けます」
羊皮紙とインク瓶と羽ペンを次々出し、私の机に置いていく。
指でとんとんと机を叩いてきたので、私は上目で様子を伺いながら椅子に座った。
私は羽ペンを手に取り、たどたどしくインクをつけて書く体勢をとる。
と、エテルが横からぼそりと言った。
「遺書」
「!!」
ぼたりと、ペンの先からインクが落ち、顔から血の気がひいていく。
頭上からエテルの呆れた声が響いた。
「その体たらくで、よく覚悟してるなんて言ったな」
か、書けない。文面が考えられない。
わずか5年の付き合いである司祭に、私の遺書は重すぎるのではないか。いや、そもそも下手に文を残すとエテルの犯行がばれるのでは……?
困りかねてエテルを見上げると、エテルも困った顔をした。
「……冗談だ。旅のあいさつを書けばいい」
「い、いいんですか」
とんとん、とまた机をはじかれた。
私は司祭への感謝と別れの言葉をしっかりと書き綴ることが出来た。
椅子から立ち上がり、エテルにインク瓶と羽ペンを返す。
「ありがとうございます」
「ちゃんと方法を探すこと」
「はい。では、もう行きます」
エテルよりも小さな荷袋をベルトにくくり付けてから部屋を出る。
教会も出て、早朝のまだ暗い景色の中を歩いた。
250年の歳月が急に感慨深く思えた。外からの客でにぎわっていた時の風景もだが、魔物の襲来で被害が出て、暗く寂しかった頃まで懐かしい。そのまま村は寂しいままだが、今も細く長く生活は続いている。
村の入り口で振り返る。エテルがここまで見張りに来ていたからだ。
「さようなら。しっかり方法を探しますから」
「この先にある町に行こう。呪術師がいるか聞いて回る。
呪術師同士で話をすれば、何か掴めるかもしれない」
「親切にどうも……」
「俺も同行する」
寸の間。私とエテルは真顔で見合わせた。
エテルの声が低くなる。
「解く方法がわかったとして合流はどうする。下手したら永遠にすれ違うだろう」
「……50年後にここで」
「さっさと行こう」
エテルが私の先を行く。
私とエテルの繰り返しは終わった……のではなく変化しただけだったが、それはとても大きな変化だった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます
碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」
そんな夫と
「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」
そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。
嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる