光の声~このたび異世界に渡り、人間辞めて魔物が上司のブラック企業に就職しました

黒葉 武士

文字の大きさ
28 / 119
第1章 光と「クロード・ハーザキー」

28話 ミス・オレンジ

しおりを挟む
「あ、えーと、さっきも言ったんだけど、改めて俺は玄人くろと、はこざきくろと」

「なんで今まで話せないフリをしていたか分からないけど、私の名前はルージュ。あと危ないところを助けてくれたばかりか、妹の命まで救ってくれて。本当にありがとう」

「まぁ、成り行きというか、状況が状況だったからね」

「でも、あなた一撃で魔石の熊オグルベアを倒してたわよ。成り行きなんかでどうこうなる相手じゃないわ」

「オグルベア? あぁ、さっきの熊のことか・・・あれって、そんなに強かったの?」

「強いも何も、あんなのがいるなんて知ってたら誰も森に近づかないわよ」

「あ、そうそう・・そもそも君たちはなんであんなところにいたわけ?」

「私たち、ウール村に住んでるんだけど、1年くらい前から井戸が枯れてきて、生活するにも苦労してたの。それでいつもは少し離れた川まで水を汲みに行くんだけど、最近、森に入った人の話だと、森のあちこちに湧き水が出始めたというから。それで川よりも近い森の方が楽だし。農作物を育てるのも大変だから、ついでに野ウサギでも狩ろうかっことになったのよ。それで二人で森に入ったってわけ」

「それで死にかけたってことか」

「途中までは順調だったのよ。そりゃあ・・まぁ・・・ちょっと欲張って奥に入りすぎたのは認めるけど・・」

「まぁ、別に責めてるわけじゃないから」

「・・・・・」

「そっちの子はまだ寝てるけど、お腹空いたでしょ。何か食べようか?」

「アマリージョ・・・」

「ん?」

「そっちの子じゃないわ。アマリージョ。ちゃんと名前があるわ。一つ下の妹よ」

「へー。ルージュとアマリージョか・・・可愛い名前だ」

「えっ・・・べ・・別に普通よ」
 なんか不機嫌?
 名前を褒めるのは、なにか失礼にあたるのか?
 この世界の常識が分かるまでは、あまり余計なことを言わないように気をつけないと。

 携帯用のガスコンロに火を付けて、フライパンにミートソースを入れて温める。

「クロードのそれ、変わった魔法ね・・火魔法の一種なの?」

「ん?クロードって何? っていうか今、魔法って言った?」

「え?、言ったけど。あなたのそれも魔法か魔道具の一種じゃないの?」

「魔道具?」

『魔法の道具の一種ですよね』

「!!ギャー!  誰? なに? ビックリした~」
 突然、普通に声を発したヒカリにルージュが死ぬほど驚いた。

『えーと、驚かせてすみません。魔道具のヒカリでぇす。会話が出来る魔道具ですっ』
 ヒカリは何を可愛い子ぶっているんだ・・・しかも自分を魔道具だとか紹介してるし。

『――ずっと黙っていようか思いましたが、丁度よいワードが出てきましたので、思い切って会話に入ってしまいました』
 通信で言い訳してきた。

――突然で俺もビックリしたけど、話して大丈夫なの?

『――命の恩人ですし、悪い流れにはならないと思います』

――ならいいけど。次からはちゃんと前もって知らせてよ。

『――はい』

「えーと、これは俺の魔道具でヒカリ・・・です」
 いい年をして、気の利いた説明一つ出来ないなんて・・・ちょっと情けない。

「へぇー、変わった形のゴーレムね。これ」

『「ゴーレム?」』
 ヒカリと二人で揃って聞き直す。

「魔法とか魔石を使って、命令通りに動かせる魔道具をゴーレムっていうのよ。あなたの住んでるところじゃそう呼ばないの?」

「あ、あー、呼ぶかな。だいたい呼ぶね。うん、たぶん呼んでたかな」

『――それはいくらなんでも不自然ですよ』
 通信で怒られた。

「なんだ、呼ぶんじゃない。さっきから知らないふりばっかりして。そんな子供じゃないんだから、からかわないでよ」

――あーこの子・・・たぶんアホな子だ。アホでよかった

 パスタも冷めていたので、フライパンでミートソースと絡めてから皿に盛る。
 ルージュをイスに座らせて、「どうぞ」とフォークと共に机に置く。

「・・・・なに?これ」
 匂いをかぎながらルージュが訪ねてきた。

「え、スパゲティ? パスタ? ミートソース?なんて言えばいいんだろ。口に合うかは分からないけど、とりあえず食べてみてよ」

 腹も減っていたし、自分が食べないとルージュも食べづらいと思って、先に食べ始める。

――久しぶりのミートソース。ちゃんと味のついた食事は美味しいや・・・

 節約のため、塩胡椒だけのパスタばかり食べていたせいで、濃い味の食べ物がものすごく美味しかった。
 ルージュはどうだろうか?

「あ・・・」
 ルージュは、何も言わず、一心不乱にミートソースを口に運んでいた。
 既に口の周りはオレンジ色。

「もう少しあるけど食べる?」
 残りは妹のアマリージョの分だが、そんなに食べるならと思わず声をかけてしまった。

「んぶ? はぁぃ、おがぷわりぐぷだざい」
 ルージュが慌てた様子で、残りのミートソースをまとめて口に押し込んで、皿を突きだしてきた。

「はい」
 急いで残り全部を皿に入れてあげた。
 結局、ルージュはおかわりの分も、ものすごい勢いで完食した。
 コップに湧き水を入れてやる。

「べほっ!!なにこれ美味しい。こんな水・・初めて・・」

「あぁ、それ・・この近くの湧き水」

「え、あ、そうなの? そうなんだ・・水もだけどこの料理もまあまあ美味しかったわ。初めて食べた味で表現が難しいけど・・・ごちそうさまでした。ありがとう」
 急にすました顔でお礼を言ってきた。
 あんなに夢中で食べてたくせに。

 口の周りをオレンジ色に染めながら、何事もなかったように涼しい顔しているルージュ。
 ポニーテールが似合う、見るからに活発そうな女の子。
 意志が強そうな瞳とはうらはらに、笑うと出来るえくぼが可愛い。
 でも絶対この子は、アホだ。
 それはそれで、また可愛い感じもするけど・・・。

『――手を出したらダメですよ』

――出さないよ!
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...