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第2章 光と「ウール村」
53話 買い物Ⅱ
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ブルーノは、難しい顔で、何かを思案しているようだったが、しばらくすると静かな声で「少し、お待ちください」と言うと、馬車の中に姿を消した。
なんとなく、ただならない空気を感じて俺も、ルージュも、アマリージョも、誰ひとり声を発することなく、ただ沈黙が流れていた。
もうそろそろか、と馬車に視線をやると、ちょうどブルーノが出てくるところだった。
手にはいくつかの剣と防具らしきものが握られている。
「お待たせして、申し訳ありません」
ブルーノはそう言うと、さきほどの難しい顔とは打って変わったような、清々しい笑顔を向けてきた。
「まずは、ルージュさんの分からです」
ブルーノがそう言って、一本の剣を取り出して、抜刀してみせる。
淡く青白く光る美しい剣に、俺とルージュとアマリージョの顔が映る。
ブルーノ抜刀した剣を軽く振りながら説明する。
「こちらはミスリル合金で出来たロングソードです。刀身部分は100%ミスリル。ほかの部分のミスリルと銀などの合金で出来ています。ミスリルは金属ですが、重さは軽く、魔力を通しやすく、強度も高いです。魔力を剣に伝えることで、切れ味を増し、刃こぼれを防ぎ、非常に錆びにくく出来ています」
「それから、こちらがアマリージョさんの武器です」
ブルーノはそう言いながら細身の剣を取り出して、鞘から剣を抜く。
それは、とても綺麗な色をした細身のフェンシングで使うような剣だった。
「こちらは、さきほどのロングソードと同じミスリル合金で出来たレイピアです。相手に致命傷を負わせるには、切るというより刺すことになるので、扱いが非常に難しい剣ですが、鍔の部分に魔石を3個配置することで、剣自体が杖の役割も果たし、魔法発動の際に威力を増幅することが出来る高性能の剣です」
ルージュもアマリージョも、目が点になったまま大人しく説明を聞いている。
「最後にクロードさんの武器ですが・・・剣でも槍でも、どう言ったものがお好みですか?」
ブルーノが商人らしい顔つきで言う。
「え? そうだな・・そういえば具体的に考えたことがなかったな。槍よりは剣だけど、剣とかは持った事すらないし・・・あ、刀とかはないですか?」
「刀・・・ですか。私もまだ見たことはありません。ですが聞くところによれば、獣人の国・ティグリスにその昔、渡り人が伝えた製法があり、今だにティグリスの剣士は刀を好んで使うとか・・・しかしよくご存知でしたね。そんな武器のことを」
ブルーノが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「すみません。変なこと聞いちゃって。ほら、あの、旅の途中で名前だけは知っていたものですから。でもそうすると他に思いつかないかな。銃とかがあれば使いたいけど」
しまった、この世界で刀はそんな希少なものだったのか。
慌てて取り繕いながら、何でもないように話を続ける。
「銃ですか。あるにはあるんですが・・・」
ブルーノはあごを撫でながら、何かを考えているようだ。
「え、あるんですか?」
まさかの答えに、ビックリして問い直す。
「はい。でもとても戦闘に使えるものではありませんね。火薬というものを使って弾丸を発射するものは、火薬が手に入らない上に、かなりの至近距離から、しかも急所を撃たなければ相手を倒せませんからね。そもそも、その距離まで近づけるならば、剣のほうが早くて確実です。逆に離れて戦うなら、なおのこと魔法を打ったほうが楽ですし、確実ですので。そういう意味でも銃は貴族のコレクションアイテムといったところでしょうか」
『――もうバットやゴルフクラブでいいのでは?』
ヒカリから突然通信が入る。
――そんな寂しいことを・・・せっかくだし何か武器っぽいもの使ってみたいよ
『――何を装備しても、素人ですからね。名前は玄人でも、強さは変わらないですよ。ただ、刀が欲しいと言うのであれば、それまでは素手で良いと思います。変に癖がつくと刀が扱い辛くなりますし』
――あらら? ヒカリさん。相変わらずの毒舌ですね! 今さらっと傷つきましたよ・・・でもまぁいいか。 でも素手か・・・魔物ってなんか気持ち悪くて、あんまり触りたくないんだけど
『でしたら、グローブや小手、ナックルのようなもので殴るというはどうでしょう?』
――おぉ、それならいけるかも
「ブルーノさん。敵を直接殴ったりできるような武器ってありますか?」
気を取り直して、改めて聞いてみた。
「えぇ、もちろん。それだと格闘用ですから、直接殴るためのナックルと、甲の部分に爪がついたクローがありますね」
ブルーノの頭の中には、自分の店で取り扱う商品がすべて入っているのだろうか。全く淀みなく素早く答えてくれる。
「おぉ、爪か・・・格好いいな、それならそのクローっていうのを・・」
『――ナックルにしてください』
ヒカリが通信で割って入る。
――え!? なんで? 爪カッコイイよ! やっぱりここはクローで・・・
『――ナックルにしてください』
――・・・
「すみません、ブルーノさん・・・ナックルを見せてもらえますか」
「はい、こちらになります。いかかでしょうか?」
ブルーノはそう言って、大きめのナックルを取り出して見せてきた。
「こちらは、素材はもちろんミスリル合金です。特徴としては腕を通して装着するタイプですので、手の内側、掌はそのまま使えるのが利点となっています。握るタイプだとどうしても着脱は楽ですが、その分強度、特に防御には支障が出ますから。その点これは、腕全体、肘の手前までを覆うことで防御にも優れたものになっています」
ブルーノは、そう言いながら、今度は一枚の布を出してきた。
「それから、こちらが防具です。防具と言っても、生地の見本だけで仕立てをしなければならないのですが・・・。説明しますと、絹糸にミスリルを特殊な技法で定着させて、編み込んだ布です。この布で服を作ると服の中に魔力にを流すことで強度が上がり、ある程度の斬撃や衝撃から身を守ることができます。軽くて着やすいので、高価ですが冒険者には非常に人気のある素材です。一応、仕立てには1カ月ほどかかります」
「あの、ブルーノさん。さっきからとんでもなく立派な武器ばかりで・・・その布も素晴らしいもので、購入したいのはやまやまですが、とても残りのお金で買えるとは・・・」
せっかくの好意を踏みにじる気がして、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
ブルーノは、あっ! という顔をして、あわてて口を開いた。
「言葉足らずで申し訳ありません。一応、今、お出しした装備品ですが、値段にすると合計で850万ギリルほどになります。そこで提案なのですが、クロードさんさえよろしければ、後払いでお売りしようと考えているのですがいかがでしょう?」
「え・・・? 後払い?」
ブルーノの言葉をすぐに理解できず、一瞬ポカンとしてしまう。
「もちろん、利息は頂きません。先行投資と言いながら、まるっきり口だけでしたので、本当に先行投資しようと思ったまでのことです。口だけの中途半端な商人だと思われても困りますし。こちらの本気というものも見せておきませんと。商売人ならば、常に上の立場から取引したいというのは本音ですから」
ブルーノは顔は笑っているが、目には真剣な光が宿っていた。彼の真摯な気持ちが伝わってくるようなまなざしだった。
「とはいえ、額が額です。一方的な提案をばかり押しつける形になって申し訳ないのですが、何か私に売れそうな物はありませんか?」
「売れる物ですか・・・」
なにかあっただろうか、思案していると
『――宝石類はどうですか? あとは家電関係で日本の物なら売れるかも知れませんよ』
ヒカリが突然割って入ってきた。
「うーん、宝石類と家電? ・・・いや魔道具関係ですかね。たぶん動かないと思うんですけど・・・」
悪いことをしているわけではないのに、なんとなく口ごもってしまう。
「・・・困りましたね。・・・では、失礼を承知で単刀直入に聞かせてもらいます。それは、もしかして異世界のものですか?」
「・・・はい」
「やはり。村長さんも肝心なところは隠しておっしゃらないので・・・そうですか。ということはクロードさんは渡り人なんですね」
「・・・そうです」
ブルーノに嘘が通用するとは思えなかった。
「この事を知っているのは?」
「えーと、正確にはルージュとアマリ、あとケナ婆さまの3人です」
ルージュとアマリージョは何も言わず、心配そうに話を聞いている。
「あとの方は、気づいているかも知れないが知らないふりをしている・・・そんな所でしょうか」
「だと思います」
「実は、異世界から人や物が転移されてきた場合、見つけた人は領主様への報告の義務があるんです。目的としては渡り人の保護と、異世界の物資の回収です。それで私も二日後には、ここの領主様がいるハンク市まで行きますので、村長から領主様への手紙を預かっているのです。内容は不明でしたが、今ハッキリと分かりました。村長が手紙を渡すのははゆっくりで良いというので、それも気になっていましたが、クロードさんの事情を考えれば、時間的な猶予を作ってあげたかったのでしょう」
「・・・そうなんですか。村長さんは何も言っていなかったので」
ただひたすら、村長に対して申し訳ない気持ちだった。
「それは、お互いに知らないことになっていれば仕方が無いことでしょうね。正式に知ってしまえば早急に知らせなければならなくなる。ですから、おそらくこの手紙も、渡り人は既にいない。異世界の物があるようだ、程度の報告でしょう。それで最低限の義務は果たしていますから」
「だいぶ、迷惑をかけてたんですね・・・」
うなだれながら答えた。
「そうですね。通常ではありえないことです。クロードさんが渡り人だと言われても、魔素があるせいでそうは思えないのが、隠すに至った最大の理由だとは思いますけど」
「それは何度も言われました・・・」
「それはさておき、話の続きですが、と言うわけで魔道具以外は買い取りが出来るのです。特に異世界の貴金属は、そのものの価値は低いのですが、貴族などには人気でして・・・装備の後払いの件、承知してもらえるようであれば、見せて頂けますでしょうか?」
――ヒカリ、どう思う?
『――悪い話ではないように思います。それにブルーノは商人でもかなりやり手だと聞きました。そのやり手がそこまで考えているのであれば、乗ってみるのも良いと思います。ただ、ルージュとアマリにはなるべく迷惑がかからないように、万が一でも借金は残らないようにして下さい』
――わかった。ありがとう
「わかりました。では、ブルーノさんの提案を飲むことにします。それと確認ですが、もし私が死んだりして借金が残ったときはどうしますか? ルージュとアマリの分も俺の契約ですから、俺の遺した物から回収してもらえると有り難いのですが・・・」
「クロード・・」「クロードさん・・」
ルージュとアマリージョが不安そうにこちらを見ている。なんだか2人とも泣き出しそうな顔をしている。
「そうですね・・・その時は、諦めます」
ブルーノは肩をすくめながら、あっさりと言い放った。
「はぁ!? 850万ですよ! おかしいじゃないですか!? 俺が言うのも変ですけど・・・」
にわかには信じられず、思わず大きな声を出す。
「いいんですよ、諦めます。それは先行投資に失敗した訳ですから。ただ、自分に見る目が無かったというだけです。それに恐らくはそうならない。しかも利益が数十倍で返ってくる・・・そんな気がしてなりませんよ」
ブルーノは、不適な笑みを浮かべて、楽しそうに笑った。
なんとなく、ただならない空気を感じて俺も、ルージュも、アマリージョも、誰ひとり声を発することなく、ただ沈黙が流れていた。
もうそろそろか、と馬車に視線をやると、ちょうどブルーノが出てくるところだった。
手にはいくつかの剣と防具らしきものが握られている。
「お待たせして、申し訳ありません」
ブルーノはそう言うと、さきほどの難しい顔とは打って変わったような、清々しい笑顔を向けてきた。
「まずは、ルージュさんの分からです」
ブルーノがそう言って、一本の剣を取り出して、抜刀してみせる。
淡く青白く光る美しい剣に、俺とルージュとアマリージョの顔が映る。
ブルーノ抜刀した剣を軽く振りながら説明する。
「こちらはミスリル合金で出来たロングソードです。刀身部分は100%ミスリル。ほかの部分のミスリルと銀などの合金で出来ています。ミスリルは金属ですが、重さは軽く、魔力を通しやすく、強度も高いです。魔力を剣に伝えることで、切れ味を増し、刃こぼれを防ぎ、非常に錆びにくく出来ています」
「それから、こちらがアマリージョさんの武器です」
ブルーノはそう言いながら細身の剣を取り出して、鞘から剣を抜く。
それは、とても綺麗な色をした細身のフェンシングで使うような剣だった。
「こちらは、さきほどのロングソードと同じミスリル合金で出来たレイピアです。相手に致命傷を負わせるには、切るというより刺すことになるので、扱いが非常に難しい剣ですが、鍔の部分に魔石を3個配置することで、剣自体が杖の役割も果たし、魔法発動の際に威力を増幅することが出来る高性能の剣です」
ルージュもアマリージョも、目が点になったまま大人しく説明を聞いている。
「最後にクロードさんの武器ですが・・・剣でも槍でも、どう言ったものがお好みですか?」
ブルーノが商人らしい顔つきで言う。
「え? そうだな・・そういえば具体的に考えたことがなかったな。槍よりは剣だけど、剣とかは持った事すらないし・・・あ、刀とかはないですか?」
「刀・・・ですか。私もまだ見たことはありません。ですが聞くところによれば、獣人の国・ティグリスにその昔、渡り人が伝えた製法があり、今だにティグリスの剣士は刀を好んで使うとか・・・しかしよくご存知でしたね。そんな武器のことを」
ブルーノが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「すみません。変なこと聞いちゃって。ほら、あの、旅の途中で名前だけは知っていたものですから。でもそうすると他に思いつかないかな。銃とかがあれば使いたいけど」
しまった、この世界で刀はそんな希少なものだったのか。
慌てて取り繕いながら、何でもないように話を続ける。
「銃ですか。あるにはあるんですが・・・」
ブルーノはあごを撫でながら、何かを考えているようだ。
「え、あるんですか?」
まさかの答えに、ビックリして問い直す。
「はい。でもとても戦闘に使えるものではありませんね。火薬というものを使って弾丸を発射するものは、火薬が手に入らない上に、かなりの至近距離から、しかも急所を撃たなければ相手を倒せませんからね。そもそも、その距離まで近づけるならば、剣のほうが早くて確実です。逆に離れて戦うなら、なおのこと魔法を打ったほうが楽ですし、確実ですので。そういう意味でも銃は貴族のコレクションアイテムといったところでしょうか」
『――もうバットやゴルフクラブでいいのでは?』
ヒカリから突然通信が入る。
――そんな寂しいことを・・・せっかくだし何か武器っぽいもの使ってみたいよ
『――何を装備しても、素人ですからね。名前は玄人でも、強さは変わらないですよ。ただ、刀が欲しいと言うのであれば、それまでは素手で良いと思います。変に癖がつくと刀が扱い辛くなりますし』
――あらら? ヒカリさん。相変わらずの毒舌ですね! 今さらっと傷つきましたよ・・・でもまぁいいか。 でも素手か・・・魔物ってなんか気持ち悪くて、あんまり触りたくないんだけど
『でしたら、グローブや小手、ナックルのようなもので殴るというはどうでしょう?』
――おぉ、それならいけるかも
「ブルーノさん。敵を直接殴ったりできるような武器ってありますか?」
気を取り直して、改めて聞いてみた。
「えぇ、もちろん。それだと格闘用ですから、直接殴るためのナックルと、甲の部分に爪がついたクローがありますね」
ブルーノの頭の中には、自分の店で取り扱う商品がすべて入っているのだろうか。全く淀みなく素早く答えてくれる。
「おぉ、爪か・・・格好いいな、それならそのクローっていうのを・・」
『――ナックルにしてください』
ヒカリが通信で割って入る。
――え!? なんで? 爪カッコイイよ! やっぱりここはクローで・・・
『――ナックルにしてください』
――・・・
「すみません、ブルーノさん・・・ナックルを見せてもらえますか」
「はい、こちらになります。いかかでしょうか?」
ブルーノはそう言って、大きめのナックルを取り出して見せてきた。
「こちらは、素材はもちろんミスリル合金です。特徴としては腕を通して装着するタイプですので、手の内側、掌はそのまま使えるのが利点となっています。握るタイプだとどうしても着脱は楽ですが、その分強度、特に防御には支障が出ますから。その点これは、腕全体、肘の手前までを覆うことで防御にも優れたものになっています」
ブルーノは、そう言いながら、今度は一枚の布を出してきた。
「それから、こちらが防具です。防具と言っても、生地の見本だけで仕立てをしなければならないのですが・・・。説明しますと、絹糸にミスリルを特殊な技法で定着させて、編み込んだ布です。この布で服を作ると服の中に魔力にを流すことで強度が上がり、ある程度の斬撃や衝撃から身を守ることができます。軽くて着やすいので、高価ですが冒険者には非常に人気のある素材です。一応、仕立てには1カ月ほどかかります」
「あの、ブルーノさん。さっきからとんでもなく立派な武器ばかりで・・・その布も素晴らしいもので、購入したいのはやまやまですが、とても残りのお金で買えるとは・・・」
せっかくの好意を踏みにじる気がして、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
ブルーノは、あっ! という顔をして、あわてて口を開いた。
「言葉足らずで申し訳ありません。一応、今、お出しした装備品ですが、値段にすると合計で850万ギリルほどになります。そこで提案なのですが、クロードさんさえよろしければ、後払いでお売りしようと考えているのですがいかがでしょう?」
「え・・・? 後払い?」
ブルーノの言葉をすぐに理解できず、一瞬ポカンとしてしまう。
「もちろん、利息は頂きません。先行投資と言いながら、まるっきり口だけでしたので、本当に先行投資しようと思ったまでのことです。口だけの中途半端な商人だと思われても困りますし。こちらの本気というものも見せておきませんと。商売人ならば、常に上の立場から取引したいというのは本音ですから」
ブルーノは顔は笑っているが、目には真剣な光が宿っていた。彼の真摯な気持ちが伝わってくるようなまなざしだった。
「とはいえ、額が額です。一方的な提案をばかり押しつける形になって申し訳ないのですが、何か私に売れそうな物はありませんか?」
「売れる物ですか・・・」
なにかあっただろうか、思案していると
『――宝石類はどうですか? あとは家電関係で日本の物なら売れるかも知れませんよ』
ヒカリが突然割って入ってきた。
「うーん、宝石類と家電? ・・・いや魔道具関係ですかね。たぶん動かないと思うんですけど・・・」
悪いことをしているわけではないのに、なんとなく口ごもってしまう。
「・・・困りましたね。・・・では、失礼を承知で単刀直入に聞かせてもらいます。それは、もしかして異世界のものですか?」
「・・・はい」
「やはり。村長さんも肝心なところは隠しておっしゃらないので・・・そうですか。ということはクロードさんは渡り人なんですね」
「・・・そうです」
ブルーノに嘘が通用するとは思えなかった。
「この事を知っているのは?」
「えーと、正確にはルージュとアマリ、あとケナ婆さまの3人です」
ルージュとアマリージョは何も言わず、心配そうに話を聞いている。
「あとの方は、気づいているかも知れないが知らないふりをしている・・・そんな所でしょうか」
「だと思います」
「実は、異世界から人や物が転移されてきた場合、見つけた人は領主様への報告の義務があるんです。目的としては渡り人の保護と、異世界の物資の回収です。それで私も二日後には、ここの領主様がいるハンク市まで行きますので、村長から領主様への手紙を預かっているのです。内容は不明でしたが、今ハッキリと分かりました。村長が手紙を渡すのははゆっくりで良いというので、それも気になっていましたが、クロードさんの事情を考えれば、時間的な猶予を作ってあげたかったのでしょう」
「・・・そうなんですか。村長さんは何も言っていなかったので」
ただひたすら、村長に対して申し訳ない気持ちだった。
「それは、お互いに知らないことになっていれば仕方が無いことでしょうね。正式に知ってしまえば早急に知らせなければならなくなる。ですから、おそらくこの手紙も、渡り人は既にいない。異世界の物があるようだ、程度の報告でしょう。それで最低限の義務は果たしていますから」
「だいぶ、迷惑をかけてたんですね・・・」
うなだれながら答えた。
「そうですね。通常ではありえないことです。クロードさんが渡り人だと言われても、魔素があるせいでそうは思えないのが、隠すに至った最大の理由だとは思いますけど」
「それは何度も言われました・・・」
「それはさておき、話の続きですが、と言うわけで魔道具以外は買い取りが出来るのです。特に異世界の貴金属は、そのものの価値は低いのですが、貴族などには人気でして・・・装備の後払いの件、承知してもらえるようであれば、見せて頂けますでしょうか?」
――ヒカリ、どう思う?
『――悪い話ではないように思います。それにブルーノは商人でもかなりやり手だと聞きました。そのやり手がそこまで考えているのであれば、乗ってみるのも良いと思います。ただ、ルージュとアマリにはなるべく迷惑がかからないように、万が一でも借金は残らないようにして下さい』
――わかった。ありがとう
「わかりました。では、ブルーノさんの提案を飲むことにします。それと確認ですが、もし私が死んだりして借金が残ったときはどうしますか? ルージュとアマリの分も俺の契約ですから、俺の遺した物から回収してもらえると有り難いのですが・・・」
「クロード・・」「クロードさん・・」
ルージュとアマリージョが不安そうにこちらを見ている。なんだか2人とも泣き出しそうな顔をしている。
「そうですね・・・その時は、諦めます」
ブルーノは肩をすくめながら、あっさりと言い放った。
「はぁ!? 850万ですよ! おかしいじゃないですか!? 俺が言うのも変ですけど・・・」
にわかには信じられず、思わず大きな声を出す。
「いいんですよ、諦めます。それは先行投資に失敗した訳ですから。ただ、自分に見る目が無かったというだけです。それに恐らくはそうならない。しかも利益が数十倍で返ってくる・・・そんな気がしてなりませんよ」
ブルーノは、不適な笑みを浮かべて、楽しそうに笑った。
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