光の声~このたび異世界に渡り、人間辞めて魔物が上司のブラック企業に就職しました

黒葉 武士

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第2章 光と「ウール村」

55話 馬と木魚

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「ねえ、クロード、ヒカリの作った魔物を確認する前に、一つ聞いてもいい?」
 ルージュが馬車に乗り込みながら聞いてきた。

「うん、何?」

「さっきのヒカリの説明だと、クロードはヒカリから魔石をもらったのよね」

「そうだけど・・・」

「そうなると、クロードはヒカリの配下ってことになるわよね?」

「え・・あ、まぁ、そういうことになるかもね。配下というよりは部下って感じなんだけど・・・」
 なんとなく、釈然としないが事実は事実だし、仕方ない。

「へぇ~、そこは、結構あっさり認めるのね」
 ルージュが拍子抜けしたような口調で言った。

「まあ、本当のことだしね」

「そうなると、クロードは魔道具に使われる世界初の人間ってことね。おかしな話だけど・・・」
 ルージュは何かを思案しているように、腕を組んだ。

「で、何が言いたいの?」
 彼女の意図が分からず、不安が頭をもたげてくる。
 まだ、俺とヒカリに対して何か不信感があるのだろうか、それともただバカにしているのか・・・

「あ、違うのよ! ごめんなさい。バカにしてるつもりじゃないの。ヒカリは実際、優秀過ぎるほど優秀だし、クロードの強さを考えれば、ヒカリがまだまだ実力を隠していることも、理解してるつもりよ」
 ルージュは俺の不穏な空気を察知して、あわてて弁明してきた。

「・・・それで?」

「それで、今、ヒカリが作った魔石・・・いえ、魔物ね。動かないみたいだけど。それが馬車の中でたくさん、青く光っているのを見て思ったのよ・・・綺麗だなって・・・」

「あの、話が全然見えてこないけど・・・」
 ルージュは何かを迷っているのか、ためらいがちにポツリポツリと話している。
 彼女が何を伝えようとしているのかが全く読めない。

「そうよね、こんな言い方じゃ何も伝わらないわね・・・ごめんなさい。つまり、私とアマリージョを、ヒカリの部下にして欲しいの」
 ルージュが意を決したように真っ直ぐにこちらを見て告げてきた。

『・・・ルージュ』
「・・・姉さん」
「えぇぇぇー? どういうこと!?」
 ビックリしたのは俺だけだった。

「この村で眷属を倒す目的は同じ。でも私たちはその後、母親探しの旅に出たいと思ってる。でも、正直あてもなく、世界を旅するのは不安しかないのよ。そこで、ヒカリの登場ね。・・・私たちはヒカリの配下に入って、ヒカリとクロードの指示に従って、この世界で生きていくのに力を貸すわ。そのかわり、旅に同行して母親を探すのに協力してほしいのよ」

「でも、それルージュたちにとって負担が大きすぎない? 全然交換条件になってないような気がするけど・・・」

「クロードは・・・私たちと一緒にいるのは嫌?」
 ルージュにしては珍しく弱気な口調だった。

「あ、い、いや、別にそういう意味じゃ無くて・・」
 なぜか、あたふたしながら答える。

『ルージュさん。私からは3つ条件があります』
 ヒカリがその場を仕切り直すように、冷静な口調で語りかける。

「はい」
 ルージュが姿勢を正してヒカリの方を向いた。少し緊張しているのか、彼女はごくりと唾を飲み込んだ。

『まず、1つ目はアマリージョさんも同意見であること。2つ目に私たちとは対等にお付き合い下さい。そして3つ目に玄人と私は、いずれ元いた世界に帰ろうと思っています。それも、渡り人と呼ばれている私たちと同じ世界から来たであろう人たちの中から、帰りたいと望む人をできるだけ引き連れてです。お母さまを探すことに協力して欲しいということであれば、代わりに私たちが帰る手段を探すことにも協力していただけますか?』

「え、そうなんだ・・・ねぇ、もしもだけど、途中で帰る方法が・・・ううん、なんでもない。後はアマリ次第ね、どうする?」
 ルージュがアマリージョを気遣うように見つめながら問いかける。

「・・・私は、それで一緒に旅が出来るなら。ヒカリさんとクロードさんが帰ってしまうとなったら寂しくて、本当は嫌ですけど・・・でも、協力します」
 アマリージョは一瞬寂しそうな笑顔を浮かべたが、はっきりとした口調で答えた。

 ルージュはアマリージョの背中をポンと軽く叩くと、
「じゃあ決まりね! ヒカリ、クロード。今日からまた改めて仲間になった、ルージュです。よろしくお願いします!」
「アマリージョです。改めてよろしくお願いします」
 ルージュとアマリージョが再び自己紹介し、深々と頭を下げてきた。

「こ、こちらこそ、よろしく」
『これからも、よろしくお願いします』
 あわてて、ペコペコ頭を下げ返す俺と、落ち着いた口調のヒカリ。

 そんな俺たちを見て、ルージュとアマリージョがくすくす笑った。

     ♣

「さっきは、話の腰を折って悪かったわね。それでヒカリ、そのキラキラ光っている仲間を紹介してくれない?」
 ルージュが好奇心を抑えきれないと言った様子で、ヒカリを急かす。

『えぇ、では、まず自律型の魔物から。こちらはソーラー電源に魔石を埋め込んだ、その名もソーラー君です』

――え!? ダサっ! ヒカリは、いろいろすごいやつだけどネーミングセンス0だな・・・ 

『このソーラー君は、太陽光を電力に変換するだけでなく、魔素から電力、電力から魔素に変換することも可能になり、発電効率が飛躍的に上がりました。そして最大の特徴ですが、これまで有線でつながっていたものに、周辺の魔素を介して電力を送ることが可能になりました。これは受け側の魔石も必要にはなりますが、出力次第では1キロ先くらいまで、電力を飛ばすことが出来るようになりました』

 ヒカリがそう紹介すると、馬車の奥から、見覚えのあるソーラー電源がヨタヨタと歩・い・て・き・た・。

「ギャー!! 何これ、気持ち悪いよ!! 変な足みたいなの生えてるし、ふらふらして今にも倒れそうだし、すごい弱そう」
 あまりにも予想外の物が近づいてきたため、得体の知れない恐怖を感じて大声を出してしまう。

『戦闘力はほぼゼロです。ただ、周囲の魔素を電力に変換することが出来ますので、捕まえて持ち逃げするのは難しいでしょうね。それと電力で磁場を発生させることで、数秒なら飛ぶことも出来ますので、昼間は屋根の上などに登ってもらい、家や私に電力の供給をしてもらおうかと考えています』

「なるほど、これか・・・電力は大丈夫的なことを言ってたもんね。見た目は何とも言えないけど、たしかにこれは便利かも。あとは?」

『あとは、携帯電話に魔石を入れました。使えるのは1キロ圏内くらいで、ソーラー君で充電が可能です。それと、持ってきていただいたパソコンに魔石を入れ、私とリンクするようにしましたので、私の性能が762%向上しています』
 ヒカリが「どや!」と言わんばかりの得意そうな声で説明してくる。

「!? な、ななひゃく? ・・・なんかすごいっていうのは感じるけど、すごすぎて意味わかんないよ」

「私はさっきから、全部意味がわからないけど?」
「私もさっぱりわかりません!」
 ルージュとアマリージョは、話の意味がわからず、置いてきぼりになっていたようで、あからさまに不満げだった。

「あ! 二人ともごめんね。ほったらかしにするつもりはなかったんだけど・・・また食事の時にでもきちんと説明するから」
 拗ねている子供をあやすように、優しく語りかける。

「わかったわ。でも、もうそろそろお腹も限界だわ。馬車から出せるものだけ出して、ブルーノが来たら食事にしましょう」

「そうだね、注文したテーブルも来るだろうし、ちょうどいいかもしれないね。じゃあ、それまで運べるものから運んじゃうから、少し手伝ってくれる?」

「任せといて!」「はい!」
 ルージュとアマリージョが揃って返事をした。

 それから、馬車の荷物を手分けして運んだ。
 例によってアマリージョの風魔法が大活躍してくれ、冷蔵庫と電子レンジ、トースターなどは台所に、テレビなどのリビング家電は二階の一番奥の物置として使おうと思っていた部屋にとりあえず運んでもらった。
 細かい荷物は、夜にでものんびり整理するつもりだったので台所の奥の方に並べて置いておく。

「食料があったら、こっちにまとめて置いておいてくれる?」
整理して積んだとはいえ、きちんと仕分けが出来ている訳ではなかったので、カバンや段ボールを開けながら整理していった。

「次はこの箱か」
 中を開けると女性用の服や、ぬいぐるみ、花柄のテーブルクロス、綺麗な空き瓶や手鏡など可愛らしいものがたくさん詰まっていた。

「あっ! それ、私のです。こんなにたくさんすみません・・・」
 アマリージョが、ちょっとバツの悪そうな顔をしてあわてて駆け寄ってくる。

「いや、全然。それより気に入ったものがあって良かったよ。何も無かったらただ働きをさせるところだったから、気にしないで」
 そう言いながら、段ボールを閉じ直し、アマリージョに箱ごと手渡した。
「はい。ありがとうございます」
 アマリージョは嬉しそうにそう言うと、箱を大事そうに抱え直した。

「じゃあ、こっちの箱はなにかな?」
 アマリージョの箱の隣にあったダンボールを無造作に開けてみる。
 中には、鮭を咥えた木彫りの熊、大きな盾と槍を持った南米っぽい部族の人形、「王将」と書かれた大きな将棋の駒、バラエティ番組でよく見る馬の被り物、ソフビ人形のヒーローと怪獣。あと小さい木魚に、ただならない雰囲気の御札が数枚入っていた。

「うわっ! なんだコレ? そうか・・・最後のほうはあわてて適当に箱詰めしたから、関係ないものが混じっちゃったんだな。ってか、元の持ち主が気になる品々だな・・・」
 一人でブツブツ呟きながら、箱を閉じようとすると、

「キャー! 私の箱見つけてくれたのね、ありがとうクロード! さっきから見つからなくて探してたのよー」
 ルージュが大喜びで箱に駆け寄り、中身を取り出しはじめる。

「あの・・・ルージュ、これってジョセフへのおみやげ・・かな?」

「え? なに言ってんの、違うわよ! これは私のお気に入りのものたちよ。ジョセフには前にクロードが話してくれた乗り物・・ええと、車? あと電車だっけ? のおもちゃを持ってきたのよ」 

「・・・」

「見てよ! クロード、なかなかカッコいいでしょ。特にこの魔物の人形・・・良く出来てるわ。それにこの魚を食べるオグルベアみたいな奴、躍動感がなんとも言えないわ。この前は危うく殺されかけたから、家に帰ったらコイツの首を切り落として飾るのよ」

「あっ・・・うん、そうなんだ・・・」
 無邪気に話すルージュに返す言葉が見つからない。
 アマリージョも特に気にすること無く、自分のお気に入りのものたちをいそいそと取り出している。
 うん。そうだよね。ルージュは前から感性がひと味違ってたし、きっと彼女の目から見たら、この・・・ええと、個性的な品々もすごく価値のある物なんだろう。
 でも、御札は違うよね? コレ、多分ふざけたらダメなやつだよね?
 いくら異世界の人だからって、バチが当たらないとも限らないし、
 一応、伝えるだけは伝えておこう。

「ねぇ、ルージュ。その御札のことなんだけど・・・」

「ふぁに?」
 振り向くと、馬の被り物を被り、木魚を叩くルージュの姿があった。

ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、ポク・・・

「うーん、ほちつく」

 なんか、声がこもってて、何言ってるか良く分かんないけど、多分「落ち着く」って言ってるんだよな。
 顔、見えないけど全身から満足感があふれ出てるな。
 まぁ、気に入ったならいいか。ルージュの感性は本当に変わっ・・・

「えっ! 姉さん、何してるの!? 可愛い馬! 私にも被らせてよー!!」
 アマリージョの声が響く。

――うん。やっぱり似たもの姉妹だった。

ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、ポク・・・
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