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第4章 光と「ブルクハント王国の誘拐犯」
94話 ギルドマスターと魔素レベル
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「おぉ、でかいな、ギルドって結構儲かるのかな?」
俺たちは、屋台を巡り、分からない何かの肉を焼いた物などを食べながら、南側下層の冒険者ギルドの前にやってきた。
横幅は学校の体育館を横から見た感じで、高さは倍くらい。
建物の真ん中にある入り口は大きく開けっ放しの状態で、入り口の上には「商業ギルド」と「冒険者ギルド」と書かれた看板が掲げられていた。
『とりあえず入りましょうか』
ヒカリの一言で全員一緒に緊張しながら中へ入る。
薄暗い室内だが、窓から差し込む太陽の光が暖かい。
幾人かの冒険者と思われる人達が、あちこちで談笑しているが見える。
正面奥には一際目立つ大きなカウンターがあり、そこには受付らしい女性が座っていた。
「すみません。ちょっとお聞きしたいのですが・・・」
一番先頭にいた俺が受付の人に話しかける。
「よ、よ、よ、ようこそ冒、あ、商業ギルド、あ、商業&冒険者ギルドへ。何かお困りです、でしょうか?」
よく見ると、ルージュたちより年下だろうか?
受付の少女がしどろもどろになりながら挨拶してきた。
「す、すいません。わたす・・・あ、わたし、いつもはあっちの冒険者ギルドで依頼の整理係をしとる、いや、してるんですけど、今日、受付の人が急に体調崩して帰ってしまって・・・田舎出身で、言葉使いは、お許しを・・・」
「要は緊張してるって話ね。私たちも田舎から出てきたばかりのただ冒険者志望だから、気にしないでいいわよ」
緊張しまくる受付の少女に、ルージュが話しかける。
「え、あぁ・・・そうなんですか・・・受付を変わって最初に来たお客さんが、いきなり貴族の方かと思って・・・緊張しますた。はあー」
少女の腰が砕け、全身の力が抜けていくのが分かった。
「うそ。貴族? 私たちが? どこをどう見たらそう見えるのよ」
「いえ! 格好は鎧じゃないですし、全員同じデザインのなんだか高そうな服ですし、だいたい武器を持ってませんよね。どこが冒険者ですか!? 髪の毛もツヤツヤで綺麗ですし。そんなの、どう見たって格の高い商人か貴族かと思うじゃないですか! 商人の方は顔も分かるし・・・そしたら、ほらあとは貴族の人かなーって。だいたいギルドにそんな格好で来るからいけないんですよ!」
ルージュの言葉に逆ギレする少女。
「逆ギレしてきたわ・・・」
「ああ、普通に逆ギレしてきた」
「クロードさんも姉さんも、もうそれくらいにして下さい」
アマリージョが、呆れた顔をしていた俺とルージュをなだめた。
『そんな事より、受付の方。私たちは冒険者ギルドに冒険者の登録をしにきたのですが、案内してくれませんか?』
「そ、そんなことって・・・まあ、そりゃそうですけど」
受付の少女が口をとがらす。
『はい、ではお願いします』
不満を口に出せない少女と、無視して話を進めるヒカリ・・・シュールだ。
「・・・では改めまして。ここは商業ギルドと冒険者ギルドの受付です。向かって左側が食堂で、冒険者なら誰でも安く利用出来ます。私の後ろの階段を上がると商業ギルドです。登録業務や銀行は2階で、素材の買取りは階段を降りた地下でやっています。そして、向かって右側が冒険者ギルドです。依頼の受注や達成報告まで、全て奥のカウンターで出来ます。それと登録は右奥の冒険者ギルドのカウンター横の階段を上がった所に受付があるので、そちらでお願いします。ちなみに冒険者ギルドの階段を下りると地下練習場になっていますので、利用の際はあっちのカウンターで申請してください」
『ご丁寧に、受付の方、ありがとうございました』
意外と丁寧な説明にヒカリがお礼をいい、全員で頭を下げた。
「ロザリーよ。名前・・・受付の人じゃなくロザリー。普段はあっちで依頼の管理をしているから、依頼を受けたいときは相談してよね」
機嫌は直ったのか、ロザリーと名乗った少女がちょっと偉そうな口ぶりで言った。
「ありがと。じゃその時はお願いね」
ルージュは、そう言いながらロザリーの頭を撫でた。
「あぁぁぁ、もう子供扱いしないでよっ」
「はいはい。ルージュもほら」
今度は俺が仲裁に入る。
「とにかくありがと。助かったよ」
俺は少女にお礼を言ってから、少女を挑発しようとするルージュを抱えて、足早に冒険者ギルドのカウンター横の階段を上がった。
二階へ上がると、そこは少し広めの待合室のようなスペースになっており、ベンチと椅子、それに小さな机が壁に沿って置かれていた。
机の上には、「ご用の方は鳴らしてください」と書かれた札とベルが置かれている。
ルージュがベルを鳴らしたいと言うので、ルージュにベルを鳴らしてもらい、全員で椅子に座って待つ事にした。
「誰も来ないわね。もう一度鳴らした方がいいわね」
ルージュが立ち上がり、ベルを鳴らそうとするのを全員で止めに入る。
「姉さん。まだ10秒も経っていませんよ。恥ずかしいからやめて下さい」
「ルージュ・・・ただ鳴らしたいだけだろ・・・ベル」
「そ、そんなことないわよ。聞こえてないかも知れないじゃない。だから」
『ルージュ、後でベル買って上げますから、大人しく待ちましょう』
「え! ま、まあ、私も大人だし・・・待つのも悪くないわね」
ヒカリの一言で、ルージュが納得したところで、一番奥のドアが開き、中から一人の男が現われた。
♣
男の年は50くらい。
立ち振る舞いは綺麗だが、顔にいくつかの傷跡があり少し強面。
だがよく見ると、とても優しそうな目をしていた。
「お待たせ。本日はどのようなご用件で?」
「あ、はい。えーと今日は冒険者ギルドに登録をお願いしたくて・・・」
男の質問に、俺が答える。
「おぉ、そうか・・・それは嬉しいな。じゃあこっちで説明しながら、登録するか」
男はそう言うと、元いた部屋に戻っていった。
男に続き、部屋に入ると椅子に座るよう促される。
全員着席すると、すぐに冒険者についての説明が始まった。
まず男の名前はモンロー。
この冒険者ギルドのギルドマスターだそうで、隣の商業ギルドのギルド長も兼任しているとの事だった。
両方のギルドの役割については、商業ギルドは、商取引の許可を出すことと、銀行業務を行うこと。
そして、冒険者ギルドは、依頼を受けて解決する、いわゆる何でも屋だそうだ。
注意点として気になったのは、冒険者ギルドには個人では登録が出来ず、必ずチームという形で入会をするシステムらしい。一人の時は一人でチームを作るらしい。
そして、チーム全員が死亡した場合は、チームの財産などはギルドに所有権が移るとの事だった。
若干胡散臭い感じもするが、内容が大して難しいこともなかったので助かった。
「では、簡単に説明が終わったところで、次に個人の魔素を登録して、ギルドタグを作ってやろう」
「「「「ギルドタグ?」」」」
全員で首をひねる。
「なんだ? 知らないのか? こういうやつだぞ・・・・」
モンローは自分の首にぶら下げていたネックレスのようなものを取り出して見せた。
「全然・・・初めて見ました」
「私も」
「私もです」
『私も知りませんでした』
「まあ、いいか。このタグは個人の魔素を記録するもので、いわば個人の認識票というべきものだな。魔素の質は個人個人で微妙に違うからそれを登録して管理しておくんだ。簡単に言うと、死んじまったときに本人確認と遺産の手続きが出来るようにするためだ。まあ、実際は一度ギルドで没収して、中身を確認してから、家族に返却されるんだがな。それと情報はこのタグ・・・プレート部分に魔法で書き込まれる。書き込まれるのは魔素情報と名前、それにチーム名、拠点ギルド、冒険者ランク、魔素量レベル、主な戦績、賞罰、それと銀行預金だな。人によっては遺言や隠し財産の地図なんかも登録したりしてるぞ」
「銀行? 魔素量レベル?」
銀行は分かるが、こんなプレートで管理できるのか不安なのと、そもそもレベルって何だ?
「銀行は商業ギルドの管轄で、お金をギルドに預けて置けるから便利だぞ。他人だとタグが反応しないから盗まれる心配もないし。それと魔素量レベルは、タグに情報を入る時についでに調べるもので、ほら魔素量が多いほど肉体的にも強い訳だから。ギルドとして依頼を出すときに、ランクだけじゃなく、魔素レベルも参考にする場合があるんだよ。同じBランクでも強さは結構ピンキリだからな。それに魔素も3倍以上の差がつくと、ダメージがほとんど与えられなくなるから・・・大事だぞ。魔素レベルは」
詳しい話自体は、ヒカリも含めて全員初耳だったらしく、その後も誰かが質問をする度に、全員で頷き合いながら納得していた。
「じゃ、まず・・・誰から魔素を登録しようか」
「じゃあ私ね、こういうのはやっぱり」
モンローの言葉に一番に反応したのは、やはりルージュだった。
「それじゃあ、この石版の上に両手を乗せてもらっていいかな?」
「・・・ええ」
ルージュがキラキラと光る不思議な石版に両手を乗せると、手を置いた部分がうっすらと光り出した。
10秒ほど手を置いた状態で待つ。
「よし、もういいぞ。じゃあ次、誰がやる?」
次にアマリージョが手を置くとルージュと同じように光る。
続いてヒカリが手を置く。前の二人よりも石版がかなり明るく光っている。
最後に俺が手を置く・・・・ほとんど光らない。
「あれ?」
俺の時は石版が無反応だったが登録はちゃんと終わったようだった。
「えーと次になんだっけか・・・そうだ、タグに情報を書き込むから順番に質問に答えてくれるかい? じゃあ最初のお嬢ちゃんから」
モンローはそう言うと、石版の上に銀色のネームプレートのようなネックレスを置いて、自分の手をかざした。
「じゃあまずは名前から」
「ルージュよ。ルージュ・ロズトレッフル」
「はい。ルージュ・ロズトレッフル・・・・ロズトレッフル? ロズトレッフル? ロズトレッフルって・・・あのロズトレッフル?いや、まさか・・・違うか。ごめん、ごめん。気にしないでくれ。後はチーム名とチームの代表者を」
「チーム名は株式会社エンハンブレ。代表はヒカリ、ね」
「かぶしきがいしゃえんはんぶれ・・・と変わった名前だな・・・ってエンハンブレ? エンハンブレ? エンハンブレ? ってあのエンハンブレ? いやまさかね。ごめん。ごめん。いやでも」
「たぶんそのエンハンブレよ。クリチュート騎士団のイケメン団長の紹介なら私たちの事よ」
「!! そうなのか・・・どうりで・・・。君たちには、後でギルドから報奨金が出ているから、この登録が終わったらもう少し付き合ってくれ。それと、この魔素量は凄いな・・・君たち、年はいくつだ?」
「え? 私たち? クロードは25、6だっけ? 私たちはもうすぐ16と15よ。ヒカリは・・・そう言えばいくつなの?」
「16と15・・・か。うーん・・・君たちが知っているかは分からないが、人間の魔素量というものは、普通に暮らしているだけで少しずつ増えていくものなんだ。ギルドでは何もせずに1年で増える魔素量を100として計算をしていて、だから1才の赤ん坊なら100。10才なら1000、という感じになる。実際は個人差もあるから、ただの目安でしかないがな。まあ、これがさっき言った魔素レベルというやつだ。それで、君は年齢が16・・・だから魔素量は通常1600前後という所だが、ルージュ君、君の魔素は4852もある。冒険者をやっていると魔素を多く取り込む機会が増えるから、冒険者は通常年齢よりも魔素が多いのだが・・・それでも5000弱の数字は10年以上冒険者をやっている奴のレベルだ。ちょっと驚きだよ。それに、えーとだな、そっちの子は4708。そしてそっちのおチビちゃんは7965もある。ちょっと今、驚きを通り越して、おじさん、ちょっと引いちゃってるかな・・・」
「ななせん・・・って、ヒカリ、あんたどんだけよ・・・って当たり前か。気にすると疲れるから、あんまり気にしないようにするわ」
「そうですね。ヒカリさんはちょっと規格がおかしいですもんね。それで、クロードさんはどのくらいなんですか? クロードさんも強いですもんね」
「え? おれ? どうなんだろ。モンローさん、ちなみに俺は・・・?」
「・・・・あ、クロード君だっけか・・・えーと君は、何故か328・・・だね・・・」
「さ、さんびゃ・・・」
数字を聞いて何故か血の気が引いていく。
ヒカリとアマリージョは俺の方を見ないようにしている。
「うひょっ! うははははははははははははは・・・クロード3歳児! やばい、今度こそ死ぬかも・・・・笑い死に・・・する・・・・うひゃひゃひゃひゃひやはははははははは・・・ゲホッ ゲホッガババババ・・・ばははは・・」
ルージュがちらちらと俺を見ては笑い転げる。
「またこのパターンかよ・・・死にたいのは俺の方だよ・・・ほんと」
俺は一人落ち込みながら、ルージュが馬鹿笑いする姿を眺めていた。
俺たちは、屋台を巡り、分からない何かの肉を焼いた物などを食べながら、南側下層の冒険者ギルドの前にやってきた。
横幅は学校の体育館を横から見た感じで、高さは倍くらい。
建物の真ん中にある入り口は大きく開けっ放しの状態で、入り口の上には「商業ギルド」と「冒険者ギルド」と書かれた看板が掲げられていた。
『とりあえず入りましょうか』
ヒカリの一言で全員一緒に緊張しながら中へ入る。
薄暗い室内だが、窓から差し込む太陽の光が暖かい。
幾人かの冒険者と思われる人達が、あちこちで談笑しているが見える。
正面奥には一際目立つ大きなカウンターがあり、そこには受付らしい女性が座っていた。
「すみません。ちょっとお聞きしたいのですが・・・」
一番先頭にいた俺が受付の人に話しかける。
「よ、よ、よ、ようこそ冒、あ、商業ギルド、あ、商業&冒険者ギルドへ。何かお困りです、でしょうか?」
よく見ると、ルージュたちより年下だろうか?
受付の少女がしどろもどろになりながら挨拶してきた。
「す、すいません。わたす・・・あ、わたし、いつもはあっちの冒険者ギルドで依頼の整理係をしとる、いや、してるんですけど、今日、受付の人が急に体調崩して帰ってしまって・・・田舎出身で、言葉使いは、お許しを・・・」
「要は緊張してるって話ね。私たちも田舎から出てきたばかりのただ冒険者志望だから、気にしないでいいわよ」
緊張しまくる受付の少女に、ルージュが話しかける。
「え、あぁ・・・そうなんですか・・・受付を変わって最初に来たお客さんが、いきなり貴族の方かと思って・・・緊張しますた。はあー」
少女の腰が砕け、全身の力が抜けていくのが分かった。
「うそ。貴族? 私たちが? どこをどう見たらそう見えるのよ」
「いえ! 格好は鎧じゃないですし、全員同じデザインのなんだか高そうな服ですし、だいたい武器を持ってませんよね。どこが冒険者ですか!? 髪の毛もツヤツヤで綺麗ですし。そんなの、どう見たって格の高い商人か貴族かと思うじゃないですか! 商人の方は顔も分かるし・・・そしたら、ほらあとは貴族の人かなーって。だいたいギルドにそんな格好で来るからいけないんですよ!」
ルージュの言葉に逆ギレする少女。
「逆ギレしてきたわ・・・」
「ああ、普通に逆ギレしてきた」
「クロードさんも姉さんも、もうそれくらいにして下さい」
アマリージョが、呆れた顔をしていた俺とルージュをなだめた。
『そんな事より、受付の方。私たちは冒険者ギルドに冒険者の登録をしにきたのですが、案内してくれませんか?』
「そ、そんなことって・・・まあ、そりゃそうですけど」
受付の少女が口をとがらす。
『はい、ではお願いします』
不満を口に出せない少女と、無視して話を進めるヒカリ・・・シュールだ。
「・・・では改めまして。ここは商業ギルドと冒険者ギルドの受付です。向かって左側が食堂で、冒険者なら誰でも安く利用出来ます。私の後ろの階段を上がると商業ギルドです。登録業務や銀行は2階で、素材の買取りは階段を降りた地下でやっています。そして、向かって右側が冒険者ギルドです。依頼の受注や達成報告まで、全て奥のカウンターで出来ます。それと登録は右奥の冒険者ギルドのカウンター横の階段を上がった所に受付があるので、そちらでお願いします。ちなみに冒険者ギルドの階段を下りると地下練習場になっていますので、利用の際はあっちのカウンターで申請してください」
『ご丁寧に、受付の方、ありがとうございました』
意外と丁寧な説明にヒカリがお礼をいい、全員で頭を下げた。
「ロザリーよ。名前・・・受付の人じゃなくロザリー。普段はあっちで依頼の管理をしているから、依頼を受けたいときは相談してよね」
機嫌は直ったのか、ロザリーと名乗った少女がちょっと偉そうな口ぶりで言った。
「ありがと。じゃその時はお願いね」
ルージュは、そう言いながらロザリーの頭を撫でた。
「あぁぁぁ、もう子供扱いしないでよっ」
「はいはい。ルージュもほら」
今度は俺が仲裁に入る。
「とにかくありがと。助かったよ」
俺は少女にお礼を言ってから、少女を挑発しようとするルージュを抱えて、足早に冒険者ギルドのカウンター横の階段を上がった。
二階へ上がると、そこは少し広めの待合室のようなスペースになっており、ベンチと椅子、それに小さな机が壁に沿って置かれていた。
机の上には、「ご用の方は鳴らしてください」と書かれた札とベルが置かれている。
ルージュがベルを鳴らしたいと言うので、ルージュにベルを鳴らしてもらい、全員で椅子に座って待つ事にした。
「誰も来ないわね。もう一度鳴らした方がいいわね」
ルージュが立ち上がり、ベルを鳴らそうとするのを全員で止めに入る。
「姉さん。まだ10秒も経っていませんよ。恥ずかしいからやめて下さい」
「ルージュ・・・ただ鳴らしたいだけだろ・・・ベル」
「そ、そんなことないわよ。聞こえてないかも知れないじゃない。だから」
『ルージュ、後でベル買って上げますから、大人しく待ちましょう』
「え! ま、まあ、私も大人だし・・・待つのも悪くないわね」
ヒカリの一言で、ルージュが納得したところで、一番奥のドアが開き、中から一人の男が現われた。
♣
男の年は50くらい。
立ち振る舞いは綺麗だが、顔にいくつかの傷跡があり少し強面。
だがよく見ると、とても優しそうな目をしていた。
「お待たせ。本日はどのようなご用件で?」
「あ、はい。えーと今日は冒険者ギルドに登録をお願いしたくて・・・」
男の質問に、俺が答える。
「おぉ、そうか・・・それは嬉しいな。じゃあこっちで説明しながら、登録するか」
男はそう言うと、元いた部屋に戻っていった。
男に続き、部屋に入ると椅子に座るよう促される。
全員着席すると、すぐに冒険者についての説明が始まった。
まず男の名前はモンロー。
この冒険者ギルドのギルドマスターだそうで、隣の商業ギルドのギルド長も兼任しているとの事だった。
両方のギルドの役割については、商業ギルドは、商取引の許可を出すことと、銀行業務を行うこと。
そして、冒険者ギルドは、依頼を受けて解決する、いわゆる何でも屋だそうだ。
注意点として気になったのは、冒険者ギルドには個人では登録が出来ず、必ずチームという形で入会をするシステムらしい。一人の時は一人でチームを作るらしい。
そして、チーム全員が死亡した場合は、チームの財産などはギルドに所有権が移るとの事だった。
若干胡散臭い感じもするが、内容が大して難しいこともなかったので助かった。
「では、簡単に説明が終わったところで、次に個人の魔素を登録して、ギルドタグを作ってやろう」
「「「「ギルドタグ?」」」」
全員で首をひねる。
「なんだ? 知らないのか? こういうやつだぞ・・・・」
モンローは自分の首にぶら下げていたネックレスのようなものを取り出して見せた。
「全然・・・初めて見ました」
「私も」
「私もです」
『私も知りませんでした』
「まあ、いいか。このタグは個人の魔素を記録するもので、いわば個人の認識票というべきものだな。魔素の質は個人個人で微妙に違うからそれを登録して管理しておくんだ。簡単に言うと、死んじまったときに本人確認と遺産の手続きが出来るようにするためだ。まあ、実際は一度ギルドで没収して、中身を確認してから、家族に返却されるんだがな。それと情報はこのタグ・・・プレート部分に魔法で書き込まれる。書き込まれるのは魔素情報と名前、それにチーム名、拠点ギルド、冒険者ランク、魔素量レベル、主な戦績、賞罰、それと銀行預金だな。人によっては遺言や隠し財産の地図なんかも登録したりしてるぞ」
「銀行? 魔素量レベル?」
銀行は分かるが、こんなプレートで管理できるのか不安なのと、そもそもレベルって何だ?
「銀行は商業ギルドの管轄で、お金をギルドに預けて置けるから便利だぞ。他人だとタグが反応しないから盗まれる心配もないし。それと魔素量レベルは、タグに情報を入る時についでに調べるもので、ほら魔素量が多いほど肉体的にも強い訳だから。ギルドとして依頼を出すときに、ランクだけじゃなく、魔素レベルも参考にする場合があるんだよ。同じBランクでも強さは結構ピンキリだからな。それに魔素も3倍以上の差がつくと、ダメージがほとんど与えられなくなるから・・・大事だぞ。魔素レベルは」
詳しい話自体は、ヒカリも含めて全員初耳だったらしく、その後も誰かが質問をする度に、全員で頷き合いながら納得していた。
「じゃ、まず・・・誰から魔素を登録しようか」
「じゃあ私ね、こういうのはやっぱり」
モンローの言葉に一番に反応したのは、やはりルージュだった。
「それじゃあ、この石版の上に両手を乗せてもらっていいかな?」
「・・・ええ」
ルージュがキラキラと光る不思議な石版に両手を乗せると、手を置いた部分がうっすらと光り出した。
10秒ほど手を置いた状態で待つ。
「よし、もういいぞ。じゃあ次、誰がやる?」
次にアマリージョが手を置くとルージュと同じように光る。
続いてヒカリが手を置く。前の二人よりも石版がかなり明るく光っている。
最後に俺が手を置く・・・・ほとんど光らない。
「あれ?」
俺の時は石版が無反応だったが登録はちゃんと終わったようだった。
「えーと次になんだっけか・・・そうだ、タグに情報を書き込むから順番に質問に答えてくれるかい? じゃあ最初のお嬢ちゃんから」
モンローはそう言うと、石版の上に銀色のネームプレートのようなネックレスを置いて、自分の手をかざした。
「じゃあまずは名前から」
「ルージュよ。ルージュ・ロズトレッフル」
「はい。ルージュ・ロズトレッフル・・・・ロズトレッフル? ロズトレッフル? ロズトレッフルって・・・あのロズトレッフル?いや、まさか・・・違うか。ごめん、ごめん。気にしないでくれ。後はチーム名とチームの代表者を」
「チーム名は株式会社エンハンブレ。代表はヒカリ、ね」
「かぶしきがいしゃえんはんぶれ・・・と変わった名前だな・・・ってエンハンブレ? エンハンブレ? エンハンブレ? ってあのエンハンブレ? いやまさかね。ごめん。ごめん。いやでも」
「たぶんそのエンハンブレよ。クリチュート騎士団のイケメン団長の紹介なら私たちの事よ」
「!! そうなのか・・・どうりで・・・。君たちには、後でギルドから報奨金が出ているから、この登録が終わったらもう少し付き合ってくれ。それと、この魔素量は凄いな・・・君たち、年はいくつだ?」
「え? 私たち? クロードは25、6だっけ? 私たちはもうすぐ16と15よ。ヒカリは・・・そう言えばいくつなの?」
「16と15・・・か。うーん・・・君たちが知っているかは分からないが、人間の魔素量というものは、普通に暮らしているだけで少しずつ増えていくものなんだ。ギルドでは何もせずに1年で増える魔素量を100として計算をしていて、だから1才の赤ん坊なら100。10才なら1000、という感じになる。実際は個人差もあるから、ただの目安でしかないがな。まあ、これがさっき言った魔素レベルというやつだ。それで、君は年齢が16・・・だから魔素量は通常1600前後という所だが、ルージュ君、君の魔素は4852もある。冒険者をやっていると魔素を多く取り込む機会が増えるから、冒険者は通常年齢よりも魔素が多いのだが・・・それでも5000弱の数字は10年以上冒険者をやっている奴のレベルだ。ちょっと驚きだよ。それに、えーとだな、そっちの子は4708。そしてそっちのおチビちゃんは7965もある。ちょっと今、驚きを通り越して、おじさん、ちょっと引いちゃってるかな・・・」
「ななせん・・・って、ヒカリ、あんたどんだけよ・・・って当たり前か。気にすると疲れるから、あんまり気にしないようにするわ」
「そうですね。ヒカリさんはちょっと規格がおかしいですもんね。それで、クロードさんはどのくらいなんですか? クロードさんも強いですもんね」
「え? おれ? どうなんだろ。モンローさん、ちなみに俺は・・・?」
「・・・・あ、クロード君だっけか・・・えーと君は、何故か328・・・だね・・・」
「さ、さんびゃ・・・」
数字を聞いて何故か血の気が引いていく。
ヒカリとアマリージョは俺の方を見ないようにしている。
「うひょっ! うははははははははははははは・・・クロード3歳児! やばい、今度こそ死ぬかも・・・・笑い死に・・・する・・・・うひゃひゃひゃひゃひやはははははははは・・・ゲホッ ゲホッガババババ・・・ばははは・・」
ルージュがちらちらと俺を見ては笑い転げる。
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そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
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