光の声~このたび異世界に渡り、人間辞めて魔物が上司のブラック企業に就職しました

黒葉 武士

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第4章 光と「ブルクハント王国の誘拐犯」

104話 キメラ

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 適当に敵を蹴散らしながら、ホールの反対側へ走っていくモンロー。
 俺は敵に囲まれ、後ろ姿を確認するだけで精一杯。

 唯一出来たことと言えば、
「え!? マジで!?」の一言を呟くだけ。

 迫り来る敵に向かって、必死に銃を撃ちまくる。

 反動? 

 余計なことを言ってすみませんでした。
 今は反動がないことに感謝しています。

 弾切れも起こさない。
 一番弱いはずの魔法なのに殺傷力は抜群。
 遠くから撃ち続けられる銃は、臆病な俺にとって最良の武器といえた。

 だんだんシューティングゲームの作業のようになってきた。

 敵の数も減ってきた。
 二重、三重に折り重なって飛びかかってくることもない。
 だんだんと遠巻きで囲むようになり、闇雲に襲ってくることもなくなった。
 おかけで少しずつ余裕が出来た。

 反対側に走って行ったモンローは何をしているか?
 暗いので良くは分からなかったが、向こうは向こうで魔物と戦っているようだった。

「当たり前だけど、逃げるわけないか」
 今更ながら、当たり前のことを思う。

 俺は目の前にいる魔物の群れを全て倒し、モンローの元へ走って行いった。

「あんちゃん! それ以上近づくな! おそらくコイツ、あんちゃんの武器とじゃ相性が悪い」
 モンローが近づいてきた俺に気づき、大声で叫んだ。

 俺はその場に止まり、モンローを見る。
 モンローは傷こそ負ってはいなかったが、上半身の衣服は破れ、見た目は既にボロボロになっていた。

 戦っている敵はというと、小型の虎のような生き物で、尻尾が7本生えていた。
「化け猫じゃん」
 だが、よく見ると、尻尾だと思ったそれは尻尾ではなく、一つ一つが意志を持った蛇だった。

 虎の動きとは関係に無く、一匹一匹が完全に独立した動きをしている。
 だからと言って、お互いに動きを邪魔しているわけでもない。

 動きだけを見れば、うねうねと気持ち悪く、まさに〝化け物〟。
 しかし、虎の攻撃を止めれば蛇が、蛇の攻撃を止めれば虎が、互いに連携のとれた動きは〝強者〟というに相応しかった。

 このままでは、モンローは負ける事がなくとも、勝てない。
 少しでもモンローに助けになればと思い、隙を見て銃を放つ。
 弾丸が虎の身体に命中する。

 だが、乾いた音とともに火花が散って弾かれる。

「コイツ、身体が鋼より固い素材で出来てやがるんだ。おそらくミスリル以上の強度がないと傷が付けられねぇ。しかもちょっと見てろ!」
 モンローはそう言うと、正面から虎に突っ込んでいった。

 虎が臨戦態勢で待ち構え、前足を振り下ろす。
 モンローはそれをさらりと躱し、虎の横側に回り込んだ。
 尻尾の蛇が、3本同時に襲いかかる。
 残りの4本の口からは、緑色の液体と黒い煙、それに火の玉、卵のようなものが吐き出された。
 ・・・が、モンローの姿はもうそこには無かった。

 気がついたときには、蛇の首を一つ落として、2本目と3本目の蛇の頭を火魔法で丸焦げに焼いていた。 


「おーっ! 凄っ! やりましたよ! モンローさん!」
 俺は思わず感嘆の声を上げた。

「ここからだ。よく見とけ」
 モンローが、虎の化け物と距離を取り、俺の隣まで戻ってきてそう言うと、斬ったはずの蛇の胴体から、新しい頭が生えてきた。

 隣の丸焦げに焼いた蛇の頭は、脱皮でもするかのように、中から新しい顔が姿を現した。

「・・・再生ですか?」

「あぁ、硬質の身体に再生能力。こいつはただの魔物じゃねぇ。おそらくは合成魔物キメラだな。誰かは知らねぇが、厄介なオモチャを作ってくれたもんだ・・・」
 そう言って、モンローが大きくため息をついた。

「倒せるんですか? あれ・・・」
 不安ながらも、単刀直入に聞いてみた。

「おそらくだが、こういうやつはコアに魔石を破壊するか、出来なきゃ全部同時に首を切ってやれば再生しないんだが・・・。おそらく虎の首も同時に落とさなきゃならんからな。本気でやれば、後ろの蛇は全部やれると思うが、前の虎の首までは手が回らん。それに、あんちゃんの武器じゃ首は切れそうにねぇしな。それに問題がもう一つあるんだよ」
 モンローがそう言って、魔物が更に後ろの方を指差した。

 モンローの指差す方を見ると、蛇が吐き出したと思われる卵が10個ほど散乱していた。
「あれ・・・何ですか?」

「卵だ。よく見てみろ」
 モンローがアゴで卵を見るように促す。

「あっ!」
 言われた通り、卵に目をやると、その中の一つが割れて、中から小さいサイズの虎の魔物が姿を現した。

 小型の虎は生まれると同時に立ち上がり、こちらを視認したと同時に一直線に襲ってきた。
 モンローが一撃で切り伏せる。

 こちらは再生能力がないらしい。

「固さもそんなに固くないから、こっちは楽なんだが・・・首を落とすためにギリギリまで無理すると、どうしてもこっちの小さい奴が受けきれなくなる。それに生まれるペースが速くてな。あっちにも30個ほど散らばってるだろ」

「あっほんとだ・・・」

「しかも厄介なことに、生まれるタイミングをデカい奴が操作しているみたいでな。隙を見せると、おそらく全部同時に孵化して襲ってくる」

「・・・でも、やるんですよね」
「ああ、こう見えて俺はなぁ、こういう状況を楽しめる側の人間なんだよ。バトルジャンキーとでも言うのか・・・」
「え!? モンローさん。それ見たまんまですけど・・・」

「ははっ、言うな・・・あんちゃん。言ったついでに虎の首の方、任せても大丈夫か?」

「・・・なとんかします」
 俺は覚悟を決めてモンローに横に並んで立つ。

「なんとかか・・・本当になんとか出来そうで、怖えーな」
 モンローが俺を見て、笑いながらそう言った。

 二人で武器を構え直す。
 気合いは充分。

「よし、行くかっ」
 モンローがそう言った瞬間、天井から何かが割れる音がして、ホール床を埋め尽くすほど大量に何かが降ってきた。

 確認するまでも無かった。

 それは天井に張り付けられた卵から孵化した、合成魔物キメラの大群だった。
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