黄昏一番星

更科二八

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3章 バーンデッドディザスター

536話 グール獲り

シャンデール王都から北に約45キロ、王都周辺の平野を囲うダロス山脈の麓近くの農村に俺とザーグは飛んできていた。

「リルディ村ってここ?」
「地図見る限りは」
「まあまあ大きめな村だなー。人口456人。普人族が347人、男が308人、明らか子供が63人、年寄り170人、家畜がいろいろ合計406ぐらい」
「それ今探知で数えたのか?」
「おう!」
「すげえ精度してるよなー」
「毎日訓練してるからな」

氣での広域探知は一度に大量の情報を感じ取るのでそれを処理しきれずに苦手意識を持つものが多い。
それでも地道に丁寧に訓練していけば自然と情報の取捨選択ができるようになり、さらには複数の物事を同時に頭の中で処理するという複雑なこともできるようになってくる。ついでに計算速度とかも上がって桁の多い足し算が感覚で分かるようにもなる。
実はこれは魔法を複数扱う上でも重要な要素に繋がるので、広域探知氣の鍛錬の中でも俺はかなり重要視している技術だ。

「さて、人の形をして人じゃないのが4体いるな」
「侵入経路とか調べた方がいいか、とりあえずサクッと捕まえようぜ」

このリルディ村は特に街道に面しているというわけではなく、主要な街道から徒歩数時間ぐらいという割と辺鄙な村だ。
普通に考えるとグールなんてやってきそうもない村ではあるのだが、実際出てしまっているので調べる必要があるだろう。

グールの情報は既に去年あたりからシャンデール各地に警戒するように伝えられていたようで、もしもグールと思わしき者が現れたなら直ぐに近隣の町へ連絡をするようにとされていたらしい。
そんなわけでこの村でもグールっぽいのが現れたとあり、衛兵が王都まで馬をかっ飛ばして報告に来たのが昨日のことで、そして対処のために俺らがよこされたというわけ。

「村人は全員屋内か?」
「だな、王都から人がきて対応終わるまでは引きこもってろなり指示があったんだろ」

俺たちがこの村についたのは正午を少し過ぎたぐらいの時間帯。今は冬だがだからといって農村の村人全員が引きこもるわけもないはずなので、誰も外に出ていない村というのは現在危険に晒されているという状況を物語っていた。

とはいえ大騒ぎになっているよりかは明らかにマシ。グールっぽい存在の場所まで感知できているのでサクッと捕まえて村の平穏を取り戻してやろうと思う。

そして向かったのは鶏を飼育している簡素な小屋。
そこでは1人の男の犬獣人が鶏を捕まえて貪っていた。

「衛生観念」
「俺の地元じゃ鳥刺しはご馳走だったけどな」
「鳥刺しってなんだ?もしかして生?」
「うめえよ」
「うえー蛮族!」
「ぐぅぅぅ!!!うがぁぁーーー!!!」

ザーグに地元飯をドン引きされていたところ、こちらに気がついた犬獣人グールが猛烈な勢いで飛びかかってきたので水牢の魔法をつかってサクッと捕獲した。

「ジュ!」

「あっ!」
「ああっ!!」

あっという間だった。
水牢の魔法に入れた瞬間に肉は全て蒸発し骨だけになり、そして骨すらもボロボロと水中で崩れながらキラキラと輝きマナへと変換。
ほんと一瞬の間にグールの全てが浄化されて消え去り、残されたのは綺麗になった衣服のみ。

「おい!これじゃ身元もなんも特定難しくなったじゃねえか!」
「すまん!忘れてた!でもここまで抜群に効くとは俺も思ってなかった!!」

グールはヴァンパイア系統の魔物で、ヴァンパイアは分類としてはアンデットになる。
そしてアンデット対策といえば聖水であり、そして浄化という性質を持つ俺が生み出す水魔法の水はもちろん強力な浄化能力を宿した聖水だ。

そんな聖水にグールを体全体漬け込もうものならばこうもなる。
にしても限度があるだろうとも思うが、起こってしまった以上はそれが現実。
ザーグもグールなのだが、俺の血を飲ませたり俺の沸かした風呂にいれたりしてもここまでの事にはならない。
それはザーグが半分グールという曖昧な状態だったり、あらかじめ俺の血を分けて生き返らせていたり、何度も血を飲ませて耐性つけてきたりで浄化が効きにくい、というか最近は浄化の力を宿してきているまである特殊個体だからだ。
最近は血を与える時に回復魔法もかけなくていいぐらいになっているから忘れていた。

しかし、水魔法でサクッと捕獲して連れて帰ればいいと思っていたからこの現状割と厄介な事に気がついてしまった。

「聖水に限らず、俺が直接触れるのもまずいか。他の魔法使うにも魔力に浄化の力が乗るからなー」
「周辺も常に浄化魔法働いてるんだよな。俺はなんともなかったけど」
「ザーグには俺の血を大量にやってたし同質のもの扱いになってたとか、無意識に浄化しないようにとかしてたのかもなー」
「コントロールできるのか?」
「いやー・・できる気がしねえ」

俺の浄化能力はほんと無意識に発動している。
俺という存在そのものが発しているという状態にまでなっているものだ。
これを意識的にどうこうしようと思ったこともないので急に止められるわけもなく、またできる気もしない。

「つうわけで頼んだ」
「大丈夫かな?」

俺がグールの捕獲に向かないので、しょうがなくザーグに頼らざるを得なくなったわけだが、ザーグもザーグで俺の浄化能力の影響受けまくりで、浄化能力宿すまでになっているので俺ほどでもないが普通のグールにはかなり影響があると思われる。でもまあ消滅しなければオッケー。

次のグールも家畜小屋でヤギを齧ってした。子供の姿をしている。
村の子だろうか?流石に捕まえて実験しますというのは親もいい顔をしなさそうなので、今度は身元確認をちゃんとしなければいけない。

「よし、行ってくる」

捕獲用のロープを手にしたザーグはゆっくりと子供グールに近づいて行き、多少の抵抗はされつつも危なげなく抑え込みロープをかけて捕獲成功した。

「いや待って!なんか溶けてる!」
「ザーグ!!」

ザーグがグールを担ぎ上げたところで違和感を感じ、グールはぐったりと動かずそのままドロドロと溶け出して、そしてザーグの体にまとわりつき、そのままザーグに吸い込まれるようにして消えてしまった。
これも一瞬の出来事で理解する間もなく終わった。

「なに???なにが起こった??大丈夫か??」

訳のわからない事が起きたザーグは手を額にあてて膝を落としていた。

「具合悪いのか?」
「・・・・・なんだよこれ・・・なんなんだよ・・・」
「ザーグ?」
「俺の中に入ってきちまった・・・見えたんだ・・この子の記憶が」
「一旦休もう」

ただでさえ血の気のない顔を更に青くしたザーグを抱え、一度村を出て、オリーブ林に入り腰を下ろしてザーグが落ち着くのを待つ事にした。

「すまん」
「なんで謝るんだよ」

ザーグの中に先程のグールが入ってきたと言っていた。
それがザーグによるものなのかグールによるものなのかは現状不明。ザーグにどんな影響があるのかも不明だ。見る限りではザーグの体には悪影響があるようには感じない。メンタル面以外には変わったところなどはなさそうだ。
気になる事といえば、ザーグの中に入ったグールは魂すら感じる事ができなくなっていたという事。
もしかすると魂すらもザーグに取り込まれてしまっているかもしれない。

「さっきの子・・・アッカラの町から逃げてきた子供だ。グールがうじゃうじゃいる町で親と逸れて、さっきタイガが浄化させたやつに助けられて町を出てた」
「助かってたのにグールになったのか」
「人の時の最後の記憶が、他の避難者と一緒に飯を食って眠った時で終わってる。次の記憶がこの村の近く、多分畑の中に倒れててて、目が覚めてからは血を求めてこの村に入ってた」

ザーグの証言から推察すると他の避難者の中にグールになりかけてたやつがいて、寝てる間に襲われてグールになってしまったという感じだろうか。
ただ不自然な点はアッカラからここまでは地図を見せてもらった限りだとまだかなりの距離がある。
グールをこの辺まで運んできたやつが居そうだが、その辺りの記憶はザーグは持っていないようだった。
かなりきな臭い。

「気分落ち着いたらその目覚めた畑の場所に行ってみるか」
「そうだな、大丈夫もう行ける」

ザーグはまだ自分の身に起こった事に対して飲み込めてはいないようだが、じっとしててもしょうがないので切り替えたようだ。
ザーグの事は考えたところで今の俺たちには答えに辿り着く知識が足りてないので王都に戻ったらシモンに調べさせよう。

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