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私の初恋
* さくらのかおり
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「嫌だよぉ~なんで私はまだ卒業しないの」
「そんなこと言ってもしょうがないじゃない!それよりも上崎先輩の写真撮るんでしょ?」
「あっ!そうだった!」
朝から乙葉に泣きついていた私は用意したカメラを握りしめて肩に力を入れた。
今日は樹君の卒業式。
二月のうちに運転免許も取得して大人になっていく樹君に置いていかれる気がして私は一人で焦っていた。
「四人で写真も撮りたいね!」
「うん、時間があったら撮ろう」
そんなことを話しながら体育館に私達は足を運んでいた。
大好きな樹君の最初で最後の卒業式の写真を撮れるのは写真部に入った特権だった。
私達が体育館についてから30分が経った。
いよいよ卒業式が幕を開ける。
吹奏楽部の演奏で三年生達が一組から順に入場してくる。
四組の担任の先生は葉月先生だから私達もよく知っている。
葉月先生が見えた途端私の視界は樹君を探すために必死になっていた。
あっ!樹君だ。
心の中で叫びながら樹君の姿をカメラに収めた。
樹君を見た瞬間、私の胸は高まりドキドキが溢れそうになった。
順調に進んでいく卒業式の中、私は涙をこらえるのに必死だった。
今日で高校生の樹君とはもう会えなくなっちゃうんだ。
二人で過ごした二年間は幸せそのもので、来年からの日常に不安も少しだけあった。
こうして無事に卒業式も終わり、私達は樹君のホームルームが終わるのを校庭の桜の木の前で首を長くして待っていた。
「ごめんっ!遅くなった!」
「まじで遅いっすよ崎先輩!」
私達を見つけて笑顔で走り寄ってくる樹君を見た私はやっぱり離れたくなくて涙が溢れた。
「おいっ!柚子?どしたんだ?」
「だってぇ、樹君が今日から学校に来なくなっちゃうんだもん…廊下で会ったり一緒にご飯食べたり一緒に帰ったり出来なくなっちゃうのが寂しくて…」
樹君はふわっと優しい笑みを浮かべると私の涙をそっと拭ってくれた。
「大丈夫だ!一生会えなくなるわけじゃねーし」
「だって…うっ…ひっ」
「あぁもう、泣くなよな…これやるからさ」
樹君は私の手に何かを手渡してきた。
掌にひんやりとした感覚が伝わってくる。
涙が溜まる目を掌に向けると、そこには可愛らしい兎のキーホルダーが付いた鍵があった。
「鍵?兎さん可愛い!」
樹君は少しだけ照れた顔をしながらポツリと呟いた。
「それ合鍵だから」
「合鍵?」
「俺が住む部屋の合鍵!いつでも入れるように渡しとく」
「へっ!?」
私は驚いて言葉を失って固まっていた。
そして私達二人は乙葉と霧島君の存在を忘れていた事を思い出す。
「ちょっと崎先輩たち何見せつけてくれてるんすか?俺たちも混ぜてくださいよ」
「本当にラブラブなんだから」
「わりぃお前達のこと忘れてた!よしっ仕切り直しな」
「あっ、誤魔化すんすか崎先輩」
「柚子!皆で写真撮るんだろ?」
「あっそうだった!」
誤魔化すように私に話を振る樹君に頷いて用意しておいたデジタルカメラのタイマー機能のスイッチを押した。
「皆!並んで!」
私が三人に駆け寄ると樹君を真ん中にしてカメラに収まった。
「柚子!せっかくだから二人で撮ってあげる!ほら純一はこっちに来て」
「はいはい」
二人がカメラから外れると私達は肩を寄せ合った。
乙葉の掛け声でカメラが光った。
「はい、いい笑顔でした!二人ともお幸せに!それと上崎先輩は卒業おめでとうございます!」
「ありがとう有坂さん」
「後、柚子を泣かしたら私、怒りますから」
「大丈夫、柚子のことは大切にする」
「樹君…うれしくてわたし泣いちゃう」
「有坂さん、流石にいまのはカウントされないよな」
嬉しくて泣きだす私を優しく撫でながら樹君は苦笑いを浮かべていた。
「まぁ、見逃してあげます」
「助かります」
乙葉と樹君の会話も今日以降聞く機会が減ってしまうんだ…。
だけど樹君の言う通り一生会えなくなるわけじゃないから大丈夫。
それに…合鍵も貰ったんだもん…。
「崎先輩、俺たちこれからデートに行くんでお二人で仲良くしてください」
「柚子!またね」
「えっ!?二人とも!?」
私達を置いて立ち去る二人に唖然としながらも樹君と二人きりになれたことが嬉しくもあった。
「純一なりに気を遣ったんだろうな、柚子と二人になりたかったしありがたい」
「いっ樹君!あのっこれありがとう!」
私は樹君から貰った鍵を見せながら頭を下げた。
「おっおう!あのな…柚子…卒業しても俺…柚子のこと大好きだから忘れんなよ」
「私だって大好きだもん!あっそうだ樹君の第二ボタンが欲しい」
私は前々から言おうと思っていたことが言えて安心していた。
「あっ!いけねー…第二ボタン中村にあげちゃた…第三でもいいか?」
「中村先輩に負けちゃった…だけど第三ボタンください!」
樹君は第三ボタンをプチんっと外すと私に手渡してくれた。
私はそれを握りしめた。
樹君との思い出、高校生最後の思い出。
「樹君ありがとう!」
「おう、なぁ柚子こっち見て」
不意に呼ばれて樹君を見つめた。
すぐに重なった唇の暖かさに私はゆっくり目を閉じた。
出会ってから二年間、ずっとずっと樹君に恋をしてました。
はじめてレンズ越しに貴方を見つけてからずっと。
*15年経った今も、あの日に撮った写真は大事に飾ってある。
結婚式の写真、二人で旅行した写真、私の生徒達の写真、それと二人の大事な子供の写真。
「ママ?早く!彩月がもうまてないって」
「ごめんごめんっ!今行くね、ママちゃんとお化粧できてる?」
「できてるよ!早く早く」
大切な可愛い娘に呼ばれて慌てて中庭に飛び出した私を待っていたのは愛しい旦那と可愛い息子だった。
「ママ遅いよ、おしっこ漏れちゃうよぉ~」
「さぁ、写真撮ったらおしっこ行こうね」
「じゃあ柚子撮るぞ」
家族四人で撮る彩月の入園式の写真も大切に飾らないとね。
貴方に出会えてよかった。
私が恋をしたのが樹君でよかった。
私はこれからも貴方に恋をし続ける。
初めて恋をした貴方に…。
「そんなこと言ってもしょうがないじゃない!それよりも上崎先輩の写真撮るんでしょ?」
「あっ!そうだった!」
朝から乙葉に泣きついていた私は用意したカメラを握りしめて肩に力を入れた。
今日は樹君の卒業式。
二月のうちに運転免許も取得して大人になっていく樹君に置いていかれる気がして私は一人で焦っていた。
「四人で写真も撮りたいね!」
「うん、時間があったら撮ろう」
そんなことを話しながら体育館に私達は足を運んでいた。
大好きな樹君の最初で最後の卒業式の写真を撮れるのは写真部に入った特権だった。
私達が体育館についてから30分が経った。
いよいよ卒業式が幕を開ける。
吹奏楽部の演奏で三年生達が一組から順に入場してくる。
四組の担任の先生は葉月先生だから私達もよく知っている。
葉月先生が見えた途端私の視界は樹君を探すために必死になっていた。
あっ!樹君だ。
心の中で叫びながら樹君の姿をカメラに収めた。
樹君を見た瞬間、私の胸は高まりドキドキが溢れそうになった。
順調に進んでいく卒業式の中、私は涙をこらえるのに必死だった。
今日で高校生の樹君とはもう会えなくなっちゃうんだ。
二人で過ごした二年間は幸せそのもので、来年からの日常に不安も少しだけあった。
こうして無事に卒業式も終わり、私達は樹君のホームルームが終わるのを校庭の桜の木の前で首を長くして待っていた。
「ごめんっ!遅くなった!」
「まじで遅いっすよ崎先輩!」
私達を見つけて笑顔で走り寄ってくる樹君を見た私はやっぱり離れたくなくて涙が溢れた。
「おいっ!柚子?どしたんだ?」
「だってぇ、樹君が今日から学校に来なくなっちゃうんだもん…廊下で会ったり一緒にご飯食べたり一緒に帰ったり出来なくなっちゃうのが寂しくて…」
樹君はふわっと優しい笑みを浮かべると私の涙をそっと拭ってくれた。
「大丈夫だ!一生会えなくなるわけじゃねーし」
「だって…うっ…ひっ」
「あぁもう、泣くなよな…これやるからさ」
樹君は私の手に何かを手渡してきた。
掌にひんやりとした感覚が伝わってくる。
涙が溜まる目を掌に向けると、そこには可愛らしい兎のキーホルダーが付いた鍵があった。
「鍵?兎さん可愛い!」
樹君は少しだけ照れた顔をしながらポツリと呟いた。
「それ合鍵だから」
「合鍵?」
「俺が住む部屋の合鍵!いつでも入れるように渡しとく」
「へっ!?」
私は驚いて言葉を失って固まっていた。
そして私達二人は乙葉と霧島君の存在を忘れていた事を思い出す。
「ちょっと崎先輩たち何見せつけてくれてるんすか?俺たちも混ぜてくださいよ」
「本当にラブラブなんだから」
「わりぃお前達のこと忘れてた!よしっ仕切り直しな」
「あっ、誤魔化すんすか崎先輩」
「柚子!皆で写真撮るんだろ?」
「あっそうだった!」
誤魔化すように私に話を振る樹君に頷いて用意しておいたデジタルカメラのタイマー機能のスイッチを押した。
「皆!並んで!」
私が三人に駆け寄ると樹君を真ん中にしてカメラに収まった。
「柚子!せっかくだから二人で撮ってあげる!ほら純一はこっちに来て」
「はいはい」
二人がカメラから外れると私達は肩を寄せ合った。
乙葉の掛け声でカメラが光った。
「はい、いい笑顔でした!二人ともお幸せに!それと上崎先輩は卒業おめでとうございます!」
「ありがとう有坂さん」
「後、柚子を泣かしたら私、怒りますから」
「大丈夫、柚子のことは大切にする」
「樹君…うれしくてわたし泣いちゃう」
「有坂さん、流石にいまのはカウントされないよな」
嬉しくて泣きだす私を優しく撫でながら樹君は苦笑いを浮かべていた。
「まぁ、見逃してあげます」
「助かります」
乙葉と樹君の会話も今日以降聞く機会が減ってしまうんだ…。
だけど樹君の言う通り一生会えなくなるわけじゃないから大丈夫。
それに…合鍵も貰ったんだもん…。
「崎先輩、俺たちこれからデートに行くんでお二人で仲良くしてください」
「柚子!またね」
「えっ!?二人とも!?」
私達を置いて立ち去る二人に唖然としながらも樹君と二人きりになれたことが嬉しくもあった。
「純一なりに気を遣ったんだろうな、柚子と二人になりたかったしありがたい」
「いっ樹君!あのっこれありがとう!」
私は樹君から貰った鍵を見せながら頭を下げた。
「おっおう!あのな…柚子…卒業しても俺…柚子のこと大好きだから忘れんなよ」
「私だって大好きだもん!あっそうだ樹君の第二ボタンが欲しい」
私は前々から言おうと思っていたことが言えて安心していた。
「あっ!いけねー…第二ボタン中村にあげちゃた…第三でもいいか?」
「中村先輩に負けちゃった…だけど第三ボタンください!」
樹君は第三ボタンをプチんっと外すと私に手渡してくれた。
私はそれを握りしめた。
樹君との思い出、高校生最後の思い出。
「樹君ありがとう!」
「おう、なぁ柚子こっち見て」
不意に呼ばれて樹君を見つめた。
すぐに重なった唇の暖かさに私はゆっくり目を閉じた。
出会ってから二年間、ずっとずっと樹君に恋をしてました。
はじめてレンズ越しに貴方を見つけてからずっと。
*15年経った今も、あの日に撮った写真は大事に飾ってある。
結婚式の写真、二人で旅行した写真、私の生徒達の写真、それと二人の大事な子供の写真。
「ママ?早く!彩月がもうまてないって」
「ごめんごめんっ!今行くね、ママちゃんとお化粧できてる?」
「できてるよ!早く早く」
大切な可愛い娘に呼ばれて慌てて中庭に飛び出した私を待っていたのは愛しい旦那と可愛い息子だった。
「ママ遅いよ、おしっこ漏れちゃうよぉ~」
「さぁ、写真撮ったらおしっこ行こうね」
「じゃあ柚子撮るぞ」
家族四人で撮る彩月の入園式の写真も大切に飾らないとね。
貴方に出会えてよかった。
私が恋をしたのが樹君でよかった。
私はこれからも貴方に恋をし続ける。
初めて恋をした貴方に…。
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