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case F:森野算太1 捨てられたもん同士
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クリスマス直前、彼女にフラれた。
「あたしたち、別れよ?」
「……は?」
いつも二人で行ってるファミレスで、いきなり言われた。
え、ほんまにこんな漫画みたいな展開あるん?
「ちょ、ちょお待って。なんでそんな急に……」
「ごめんね、急じゃないんだ。あたしにとっては」
そう言って、彼女はホットコーヒーのカップに口をつける。
いや、やっばい。なんでこのタイミング?
もうすぐクリスマスやのに。俺、がんばってプレゼントも用意したのに。
「なんか、不満やったんか……?」
「あのさぁ……」
声のトーンが変わった。
やばい、地雷やったか?
がしゃんと、乱暴にコーヒーカップが置かれてこぼれそうになる。
「サンタくんとのデートって、いっっっっつも山とか森だよね!? それで川遊びとかバーベキューとかならまだわかるよ!? でも、森林浴とか植物観察とか、毎回付き合わされる身にもなってよ!?」
どん! とテーブルを叩いて、前のめりに言われた。
「わ、わかった……。じゃあ、これからは改めるから」
「もう、無理」
彼女はため息をついて立ち上がる。
「じゃあ、プレゼントだけでも受け取ってくれへん!?」
「え?」
「クリスマスプレゼント……。さっき買ったんやけど……」
包みを見せると、一瞬だけ止まってくれた。
「まあ……。じゃあ、開けるだけ開けてみていい?」
彼女は少しだけ興味を持った顔で、ストンと椅子に座り直した。
「どうぞ」
ガサゴソと包みを開ける彼女。
俺自身は、めちゃくちゃ悩んでいいものを購入したと思っとる。
けど、箱を開けた彼女は固まった。
「なに……これ……?」
「ウォーキングシューズ! 山歩きに適したやつでさ。いやぁ、一時間くらい悩んだわ。店員さんにも相談に乗ってもろてさぁ」
テーブルの向かい側で、彼女がわなわなと肩を振るわせている。
いやぁ、そんなに喜んでくれるとは────
「そういうところよーー!!」
「ぶべしっ!」
俺の渾身の想いを込めたシューズが、顔面に向かって投げられた。
「付き合ってみてわかったけど、サンタくんって彼女より植物の方が大事だよね」
「は……」
思い当たるフシがありすぎて、グゥの音も出んかった。
彼女がファミレスを出ていく姿を目で追っていると、すごい車に乗ったイケメンの男と話しているのが見えた。
「は……?」
そのまま、助手席に乗り込んで行ってしまった。
「はあああああっ!?」
*
「結局、金と顔かよ!!」
ファミレスを出て、街のど真ん中で叫んでいた。
いや、植物観察って、そんなにあかんか?
マイナスイオンやぞ?
癒やしやぞ?
彼女、最近ちょっと乾燥気味やったし、ちょうどよかったと思うんやけど。
でも、彼女とは言わんから、せめて彩りが欲しいよなぁ~。
残りの大学生活、真面目に学業とアルバイトで過ごすしかないんかなぁ。
クリスマスもぼっちや。
サンタさんにどうやってお願いすればええんやったっけ?
神社でお祈りでもすればええんか? いや、クリスマスに神社はないか……。
そういえば、小さい頃はクリスマスツリーに願い事を書いた紙をぶら下げてたっけ……。
いや、それ七夕か?
そう思いながら街をぶらぶら歩いていると、中央通りの大きなもみの木がライトアップされていた。
枝には、色とりどりのオーナメントと、願い事を書いたカードがぶら下がっている。
「お、やってるやん」
近づこうとしたその時、
ずる……ずる……。
アスファルトを引きずる音がした。
振り返ると、枯れた木を一本、ロープで縛って引っ張っている着物の女性がいた。
「……え?」
夜の街に、場違いな姿格好。
シルバーグレーの髪をきっちりまとめているが、せっかくの綺麗な着物にロープが食い込んでる。どう見ても、ライトアップされたもみの木より、そっちの方が目立っていた。
回収業者? いや、着物で?
「ちょ、ちょお、おばあちゃん何やってん?」
思わず声をかけてしまった。
「枯れた木を運んでいるんですよ。私は花屋なので」
花屋って木も運ぶんか? と疑問に思う。
枯れたもみの木には、もう光っていない電飾が取り付けられたままだった。
「そんな重そうに引きずってたら、なんや見てるこっちまで疲れるわ。運んだるから、どこ持っていけばええ?」
「あら、ありがとう」
自分でも、なんで声をかけたのかわからへん。
さっきフラれたばかりで、心はささくれ立っているはずやのに。
それでも、枯れた木を雑に扱われるのは、なんとなく気に食わんかった。
女性は、俺の横に並んで歩きながら言った。
「そうだわ、あなた。このもみの木を復活させてみない?」
「へ?」
間の抜けた声が出た。
「いやいや、これ完全にカラッカラやで? 葉っぱも茶色やし、幹もひび割れとるし。もう年末の燃えるゴミやろ」
「本当にそうかしら?」
女性が、くすりと笑う。
「植物はね、完全に死ぬまでは、死んでいないんですよ」
……なんやそれ、哲学か?
「水と、土と、愛情。ちゃんと向き合えば、応えてくれるものです」
胸の奥が、ちくりとする。
さっき彼女に言われた言葉が、頭の中をよぎる。
──彼女より植物の方が大事だよね。
俺は、ロープを握り直す。
「……復活、できるんか?」
「できますよ。あなたなら」
「なんで俺?」
「だってあなた、さっきからずっと、この子を見ているでしょう?」
言われて、はっとする。
たしかに。
フラれた彼女よりも、この枯れ木の方が気になっている自分がいる。
……終わっとるな、俺。
「私ね、こう見えても人を見る目はあるのよ。植物用の栄養剤を差し上げるから、どうかしら?」
そう言って、女性は懐から小瓶を取り出した。
「どう、言われても……」
戸惑う俺の手に、半ば強引にそれが握らされる。
気づけば、もみの木にちょうど合う植木鉢まで持たされていた。
──なんでやねん。
*
結局、家まで持って帰ってきてしまった。
ワンルームの真ん中で、枯れたもみの木を植木鉢に入れる。
電飾がきらきらしてると思ったら、照明に反射していた。
「たしかに、彩りが欲しいとは言うたけど……そういうこっちゃないんやけどな」
苦笑いがこぼれる。
彼女は去り、部屋にはクリスマスの残り香みたいな空気と、枯れ木だけが残った。
「……まあ、ほっとけんしな」
ため息をついて、コートを脱ぐ。
枯れた枝先が、かすかに揺れた気がした。
「あたしたち、別れよ?」
「……は?」
いつも二人で行ってるファミレスで、いきなり言われた。
え、ほんまにこんな漫画みたいな展開あるん?
「ちょ、ちょお待って。なんでそんな急に……」
「ごめんね、急じゃないんだ。あたしにとっては」
そう言って、彼女はホットコーヒーのカップに口をつける。
いや、やっばい。なんでこのタイミング?
もうすぐクリスマスやのに。俺、がんばってプレゼントも用意したのに。
「なんか、不満やったんか……?」
「あのさぁ……」
声のトーンが変わった。
やばい、地雷やったか?
がしゃんと、乱暴にコーヒーカップが置かれてこぼれそうになる。
「サンタくんとのデートって、いっっっっつも山とか森だよね!? それで川遊びとかバーベキューとかならまだわかるよ!? でも、森林浴とか植物観察とか、毎回付き合わされる身にもなってよ!?」
どん! とテーブルを叩いて、前のめりに言われた。
「わ、わかった……。じゃあ、これからは改めるから」
「もう、無理」
彼女はため息をついて立ち上がる。
「じゃあ、プレゼントだけでも受け取ってくれへん!?」
「え?」
「クリスマスプレゼント……。さっき買ったんやけど……」
包みを見せると、一瞬だけ止まってくれた。
「まあ……。じゃあ、開けるだけ開けてみていい?」
彼女は少しだけ興味を持った顔で、ストンと椅子に座り直した。
「どうぞ」
ガサゴソと包みを開ける彼女。
俺自身は、めちゃくちゃ悩んでいいものを購入したと思っとる。
けど、箱を開けた彼女は固まった。
「なに……これ……?」
「ウォーキングシューズ! 山歩きに適したやつでさ。いやぁ、一時間くらい悩んだわ。店員さんにも相談に乗ってもろてさぁ」
テーブルの向かい側で、彼女がわなわなと肩を振るわせている。
いやぁ、そんなに喜んでくれるとは────
「そういうところよーー!!」
「ぶべしっ!」
俺の渾身の想いを込めたシューズが、顔面に向かって投げられた。
「付き合ってみてわかったけど、サンタくんって彼女より植物の方が大事だよね」
「は……」
思い当たるフシがありすぎて、グゥの音も出んかった。
彼女がファミレスを出ていく姿を目で追っていると、すごい車に乗ったイケメンの男と話しているのが見えた。
「は……?」
そのまま、助手席に乗り込んで行ってしまった。
「はあああああっ!?」
*
「結局、金と顔かよ!!」
ファミレスを出て、街のど真ん中で叫んでいた。
いや、植物観察って、そんなにあかんか?
マイナスイオンやぞ?
癒やしやぞ?
彼女、最近ちょっと乾燥気味やったし、ちょうどよかったと思うんやけど。
でも、彼女とは言わんから、せめて彩りが欲しいよなぁ~。
残りの大学生活、真面目に学業とアルバイトで過ごすしかないんかなぁ。
クリスマスもぼっちや。
サンタさんにどうやってお願いすればええんやったっけ?
神社でお祈りでもすればええんか? いや、クリスマスに神社はないか……。
そういえば、小さい頃はクリスマスツリーに願い事を書いた紙をぶら下げてたっけ……。
いや、それ七夕か?
そう思いながら街をぶらぶら歩いていると、中央通りの大きなもみの木がライトアップされていた。
枝には、色とりどりのオーナメントと、願い事を書いたカードがぶら下がっている。
「お、やってるやん」
近づこうとしたその時、
ずる……ずる……。
アスファルトを引きずる音がした。
振り返ると、枯れた木を一本、ロープで縛って引っ張っている着物の女性がいた。
「……え?」
夜の街に、場違いな姿格好。
シルバーグレーの髪をきっちりまとめているが、せっかくの綺麗な着物にロープが食い込んでる。どう見ても、ライトアップされたもみの木より、そっちの方が目立っていた。
回収業者? いや、着物で?
「ちょ、ちょお、おばあちゃん何やってん?」
思わず声をかけてしまった。
「枯れた木を運んでいるんですよ。私は花屋なので」
花屋って木も運ぶんか? と疑問に思う。
枯れたもみの木には、もう光っていない電飾が取り付けられたままだった。
「そんな重そうに引きずってたら、なんや見てるこっちまで疲れるわ。運んだるから、どこ持っていけばええ?」
「あら、ありがとう」
自分でも、なんで声をかけたのかわからへん。
さっきフラれたばかりで、心はささくれ立っているはずやのに。
それでも、枯れた木を雑に扱われるのは、なんとなく気に食わんかった。
女性は、俺の横に並んで歩きながら言った。
「そうだわ、あなた。このもみの木を復活させてみない?」
「へ?」
間の抜けた声が出た。
「いやいや、これ完全にカラッカラやで? 葉っぱも茶色やし、幹もひび割れとるし。もう年末の燃えるゴミやろ」
「本当にそうかしら?」
女性が、くすりと笑う。
「植物はね、完全に死ぬまでは、死んでいないんですよ」
……なんやそれ、哲学か?
「水と、土と、愛情。ちゃんと向き合えば、応えてくれるものです」
胸の奥が、ちくりとする。
さっき彼女に言われた言葉が、頭の中をよぎる。
──彼女より植物の方が大事だよね。
俺は、ロープを握り直す。
「……復活、できるんか?」
「できますよ。あなたなら」
「なんで俺?」
「だってあなた、さっきからずっと、この子を見ているでしょう?」
言われて、はっとする。
たしかに。
フラれた彼女よりも、この枯れ木の方が気になっている自分がいる。
……終わっとるな、俺。
「私ね、こう見えても人を見る目はあるのよ。植物用の栄養剤を差し上げるから、どうかしら?」
そう言って、女性は懐から小瓶を取り出した。
「どう、言われても……」
戸惑う俺の手に、半ば強引にそれが握らされる。
気づけば、もみの木にちょうど合う植木鉢まで持たされていた。
──なんでやねん。
*
結局、家まで持って帰ってきてしまった。
ワンルームの真ん中で、枯れたもみの木を植木鉢に入れる。
電飾がきらきらしてると思ったら、照明に反射していた。
「たしかに、彩りが欲しいとは言うたけど……そういうこっちゃないんやけどな」
苦笑いがこぼれる。
彼女は去り、部屋にはクリスマスの残り香みたいな空気と、枯れ木だけが残った。
「……まあ、ほっとけんしな」
ため息をついて、コートを脱ぐ。
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三角関係だけど、みんなハッピーみたいなのが好きですねw
課長落ち着いてwww
植木鉢に足が刺さった状態の人間運んでいるとしか思えないよ!!www
本当に、「なにをやってるんだ!?」ですよね w w w 😂
話はものすごく真面目だし、二人とも真剣に結衣子のことを考えて話してるんですが、
運んでいる絵面がシュールすぎました w w w 😂