偽りのトリアーダ〜義兄弟の狂愛からは逃げられない〜

草加奈呼

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第二章 偽りの生活

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 今日は、カルステンとポポロムが学会に出かける日だった。
 朝からバタバタと準備していて、リアも玄関前で見送ることにした。
 二人ともスーツでピシッと決めている。普段は見られない姿だ。

「じゃあ、リアさん。行ってきますね」
「いってらっしゃい」

 清々しい空の下、リアは、ポポロムにカバンを手渡した。
 まるで家族になったような気分だった。

「あっ、お父様、ちょっと待ってください」

 リアはカルステンを呼び止め、振り向いたその頬に口付けする。

「うおっ!?」
「ええっ!?」
「行ってきますのキスです」

 リアは笑顔で言った。
 ポポロムの前で少し恥ずかしかったが、リアにとっては当たり前の、日常の行動だった。
 頬とはいえいきなりの口付けに、カルステンは動揺したが、なんとかリアに悟られないように平静を装った。

「お父様も」
「あ、ああ……」

 促され、カルステンはおそるおそる、ほのかに赤く染まったリアの頬に口づけした。

「久しぶりなので、恥ずかしいですね」
「そ、そうだな……」

(ダニエーーーール!!!!
 おまえ、なんてうらやま……けしからんことを!!!!)

 カルステンは、天に向かって叫びそうになった。

「叔父さん、ずるーい」
「ずるーい、じゃない! 心臓持たんわ!!」

(えっ、ポポロム先生も行ってきますのキスをご所望ですか!?
 さすがにそれは恥ずかしくてできません!)

 リアは、頬を押さえながら聞こえないフリをした。

 こんなことをしている場合ではないと、動悸を隠すようにカルステンは助手席のドアを開ける。

「じゃあ、リアさん。絶対に、誰が来ても開けちゃいけませんよ」

 ポポロムが釘を刺した。

「わかりました」
「ないとは思いますが……。テオさんが来てもですよ?」
「え……テオもダメなんですか?」
「ダメです」

 もう一度キッパリと、釘を刺した。
 
「以前も言いましたが、テオさんは警察に追われている身なんです。匿ったりしたら、リアさんも共犯になってしまいますからね。では、いってきます」

「いってらっしゃい……」

 二人は車に乗り込み出発した。
 リアは、寂しそうに手を振ってそれを送り出した。




 二人を見送ってリビングに戻ると、ポポロムに言われたことを、もう一度じっくりと心の中で噛み締めた。

(テオが警察に……。先生から聞いた時は信じられなかったけど、ニュースにまでなっていたから、もう信じざるを得ない……)

 リアは、スマホでそのニュースを連日何度も見た。ポポロムに、何度も見てはいけないと言われていたが、どうしても見てしまっていた。何かの間違いだと、心の中でずっと叫んでいた。
 コメントは、もうどうすることもできないほど大炎上している。

(でも、もしテオが助けを求めていたら……。私は、ちゃんとテオを正しい道に……導く事ができるの……?)

 ピンポーン!
 いきなりインターホンが鳴って、リアはビクッと肩を震わせた。

(……誰だろう?)
 開けなければ大丈夫だろうと、インターホンのマイクに向かって話した。
 インターホンは、カメラの付いていない旧式のものだった。

「……どちら様ですか?」
「ああ、リアちゃん。あたしよあたし。隣のばあばよ」
「えっ、おばあちゃん?」

 スピーカーから聞こえる優しそうな声の主は、数メートル離れた隣の家に住んでいる老婦人のものだった。カルステンの患者の一人である。
 リアは、ポポロムの言葉も忘れて玄関を開けた。
 彼女は、小柄で少々腰の曲がった朗らかで優しい老婦人だった。時々、息子夫婦が遊びに来ているのを見かけたことがあるが、夫に先立たれ普段は一人で暮らしている。

「おばあちゃん、どうしたの? 今日はお父様はいないんだけど……」
「昨日、忘れ物しちゃったのよ。どこかに、ハンカチ落ちてなかったかしら?」
「そういえば──」

 昨日リビングに、綺麗なハンカチが落ちていて、アイロンをかけたのを思い出した。

「はい、おばあちゃん」

 ハンカチを渡すと、老婦人はいつものように、ニコニコと話し始めた。

「ありがとうねぇ。リアちゃん、一人でお留守番なの?」
「ええ。今日は、先生もお父様も学会で──」

(“お父様”ねぇ……。かわいそうに)

 事情をカルステンから聞いていた老婦人は、リアに同情の目を向けた。

「どうしたの、おばあちゃん?」
「いいえ、なんでもないわ。後で、おやつの時間になったらお菓子でも持ってきましょうかね」
「わあ、嬉しい。じゃあ、お茶を用意しておきます」

 老婦人は、いつも診察の時にお菓子の差し入れを持ってきてくれる。手作りらしく、それがまた最高に美味しいのであった。

「……あっ、今日は誰も入れちゃダメなんだった」

 リアは、ポポロムの言葉を思い出した。

「まあまあ。リアちゃんは不用心ね」
「でも、おばあちゃんなら大丈夫です」
「じゃあ、2時ごろにもう一度来るわね」
「はい、お待ちしてます」

 老婦人が出たのを見て、すぐに玄関の鍵をかけた。

(隣のおばあちゃんなら……いいよね?)

 優しい老婦人の存在で、リアはすっかりご機嫌になり油断していた。

 ピンポーン、と、またインターホンが鳴った。

 あまりにもすぐだったので、老婦人が何か言い忘れでもしたのだろうかと、玄関を開けてしまった。
 そこには、数ヶ月ぶりに会う義弟おとうとが立っていた。

「姉さん、久しぶり──」

「テオ!?」

 笑顔いっぱいのテオが、するりと入ってきた。
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