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『マキパイ』の誕生
かれこれ20年ほど前のこと、地方にある私立高校1年B組の教室は、春の温かい空気でちょっとムッとする感じだった。
窓から入ってくる光で、黒板に残るチョークの粉がふんわりと舞い上がって見えて、放課後の賑やかな話し声が廊下から響いてきていた。
教室の後ろの席に座る牧田美津子は、数学のノートを丁寧にまとめるのに夢中だった。
地味な制服をきちんとした感じで着ていて、長い髪はシンプルに一本に結ばれていた。
化粧っ気がない肌のせいで、美津子の整った顔立ちが、より清らかで優しい印象に見えた。
しかし、肉付きの良い体型と、豊かな胸のせいで、美津子はいつも恥ずかしそうに猫背になってしまうのが悩みだった。
そのせいで、美津子は普段から少し俯き加減だった。
「……早く終わらせて、図書室行こ……」
美津子はごく小さな声でつぶやいた。
彼女はクラスではあまり目立たない子だった。
美津子は真面目でおとなしくて、休み時間はいつも本を読んでいるか、親しい友達と静かにしゃべっているだけだった。
恋愛のうわさとは無縁で、男子の視線に気づいても、自分の豊かな胸をいやらしい目で見られているとか、太っていることを笑われているんじゃないかと感じて、顔を伏せて、その視線に気づかないふりを精一杯するしかできなかった。
美津子のセーラー服姿は、紺色のセーラー襟がうなじの白い肌とのコントラストを際立たせ、首筋にかかった黒髪が、その繊細さを物語っていた。
しかし、何よりも目を引くのは、その胸元だった。
白いセーラー服の生地は、内側から押し上げるような強烈な膨らみによって、今にも張り裂けそうにピンと張っていた。
本来はまっすぐ下に垂れるはずのスカーフは、豊かな胸に押し出され、その下半分ほどがふわりと宙に浮いてた。
深い呼吸をするたびに、豊かな胸の曲線に合わせてスカーフが微かに揺れ動き、さらに歩くたびに、その下半分が小さく前後に跳ねるのだった。
胸元を覆う胸当ての布も、胸の豊かな膨らみに押し上げられて、本来の平らな形が大きく歪んでいた。
その布地は、奥にあるボリュームを隠しきれないほどぴんと張り、そこに確かな肉付きの良さが感じられることで、見る者の想像力を掻き立てた。
腕を下ろしたとき、セーラー服の袖口と、膨らんだ胸との間には、服が体から離れて膨らんでしまうような、妙な隙間ができていた。
それは、制服が美津子の体型に完全に合っていない証拠であり、そのせいで生まれるシルエットのちぐはぐさこそが、かえって制服の下に隠された、彼女の成熟した女性の肉体を強く感じさせていた。
セーラー服の裾は、豊かなバストによってぐっと持ち上げられ、ウエスト部分が通常よりも短く見えていた。
胸の豊かな膨らみが、セーラー服の生地をテントのように前へ押し出し、ウエストのくびれを無視してそのまま真下へストンと垂れ下がっていた。
そのせいで、体型が少しずんぐりとした印象になり、美津子は実際より太って見えていた。
それが美津子にとっては悩みの種だった。
ただ、ウエスト付近がキュッと絞られて、胸の大きさが強調されるような服を着るよりは、まだこの方がマシだと美津子は思っていた。
透き通るような肌、優しそうな目元、それと控えめな笑顔――そして、その清楚な雰囲気とは対照的な、豊かな胸のふくらみ。
しかしそんな美津子を、男子はただの地味で、少し体格が良いだけの女子だと思っていた。
言葉を選ばずに言えば、ぶっちゃけ「デブだな」と内心で見下している者もいた。
美津子にとって、それは慣れっこだった。
むしろ、いやらしい目で見られるより、ただのデブだと思われている方が、ずっとマシだとさえ思っていた。
美津子の状況が一変するきっかけが、図らずも訪れることになる。
それは、美津子が長年隠し続けてきた身体の真実が、美津子を深く苦しめる最初の出来事となった。
そして、最初にその『真実』を知ることになったのは、1年A組とB組の男子たちだった。
1年の夏の終わり、プールの授業でのことだ。
普段は男女が同じ時間帯に水泳の授業をしないように配慮されていた。
しかし雨で水泳の授業が中止になったりで、日程が詰まっていた兼ね合いで、この日は男子と女子の水泳の授業が、同じ時間帯に同じプールで行われていた。
1年A組とB組の男子生徒と女子生徒が、プールを左右に分けて授業を行っていた。
眩しい日差しが照りつける屋外プールで、泳ぎ終わった美津子がプールの縁に両手をついた。
そして、プールサイドに上がるための力を込めるように、ぷつりと息を止め、プールの底を力強く蹴り上げる。
ざばーっ、と勢いよく水しぶきを上げながら、その豊満な上半身が水面からせり上がってくる。
水に濡れて体にぴったりと張り付いた紺色のスクール水着は、第二の皮膚のように、これまで水中に隠されていた胸の本当のボリュームを露わにした。
一瞬、プールサイドに両手と両膝をついて、四つん這いの体勢になったとき、水着の薄い生地は、重力でたわんだ豊満な胸の谷間をはっきりと浮かび上がらせ、その艶めかしい膨らみが、眩い陽光の下でぴんと張っていた。
そして、偶然にもその美津子の正面には、体調不良で見学している男子生徒たちがプールサイドのベンチに座っていた。
男子生徒たちの視線が、凍り付いたように一点に集中した。
濡れた水着の生地は、二つの膨らみを文字通り「支えきれていない」かのように張り詰め、その中央には、深く吸い込まれるような谷間がはっきりと見えていた。
男子生徒たちは口元がにやけ、目には明らかな欲望が宿っている。
美津子は、その視線に気づき、たまらず顔を赤らめた。
慌てて立ち上がると、そのまま足早にその場を離れようと、小走りした。
美津子は俯きながら、プールサイドを小走りに、女子生徒たちが泳ぎ始めるスタート地点へと向かった。
焦る気持ちからか、気が付くと男子生徒たちが使用しているプールサイド側へと小走りしてしまっていた。
そのため、先生の話を聞くために体育座りをして並ぶ男子生徒たちの列の前を通らなければ、女子生徒たちが泳ぎ始めるスタート地点へと戻ることができなくなってしまった。
そして、その列に近づくにつれて、彼らの視線が、一点に、そして自分に集中していることに美津子は気づいてしまった。
薄い生地のスクール水着に包まれた胸は、美津子の焦るような小走りに合わせて、その豊かな若々しい弾力を、見る者の視線を挑発するかのように、ぷるぷると、小刻みな震えを伴いながら、大きく波打つように揺れた。
体育座りの男子生徒全員が、顔を見合わせ、にやにやと、しかし隠しきれない興奮を帯びた声で、ひそひそと何かを言い合っていた。
「おい!何よそ見してんだ!話をちゃんと聞け!」
男子生徒たちの異様な雰囲気に気づいた体育教師が、鋭い声で注意を促す。
同時に、彼らが一斉に視線を向けている先を確かめるように、体育教師は斜め後ろを振り返った。
その視線の先に、焦るように小走りで列を通り過ぎようとする美津子がいた。
体育教師は、普段制服に隠されていては想像もつかないほど、美津子の胸元が薄い水着の生地越しにぷるぷると、豊かな弾力をもって波打つのをまざまざと見て、一瞬、目を見開いた。
その一瞬の教師の反応を、美津子は確かに見て取った。
クラスメートの男子全員に衆目に晒されているだけでも恥ずかしさで死にそうだったのに、その上、体育教師は、美津子の胸元が薄い水着の生地越しに、揺れるたびに強調されるその肉感的なボリュームを、まざまざと見て、一瞬、目を見開いたのだ。
美津子の全身から血の気が引いていくのが分かった。
顔だけでなく、体中が熱く燃えるように感じた。
美津子のコンプレックスは、その日、衆目の前で剥き出しにされたのだった。
男子生徒に向き直った教師の表情は、呆れたような、しかしどこか納得したような半笑いに変わった。
「俺が話してるときはよそ見するなよ……それにしても見事なもんだな」と、注意している体裁を取りながら、どこか含みのある調子で呟いた。
教師の言葉に、男子生徒たちはドッと笑いをこぼした。
その笑いは、注意されたことへの反省よりも、教師も同じものを「理解」していることへの連帯感や、美津子の身体を「共有」しているかのような下品な響きを含んでいた。
制服を着ていると、だらしなく太って見える。
そのせいでクラスメートの男子からは「デブ」と揶揄されることもあった美津子。
だが、このプールの授業を通して、クラスメートの男子たちは、美津子の本当の姿を知ることになった。
彼らは、美津子が決してただの「デブ」ではないことを、初めて思い知らされた。
多少のぽっちゃり感はあれど、その正体は、健康的な肉付きと、制服ではわからない圧倒的なボリュームのバストを持つ、成熟した女性の体つきなのだと、クラスメートの男子全員が悟った瞬間だった。
それは、一緒に授業を受けていたA組の男子生徒たちも同じだった。
水泳の授業が終わり、着替えのために更衣室に戻ると、そこは美津子の話題で持ちきりだった。
彼らは、プールサイドで見た衝撃的な光景を忘れられずにいたのだ。
「おい、今日のあのすげぇ女子誰だよ? B組の女子だろ?」
「B組にあんな女子いたのか? 今まで全然気づかなかったわ!」
「あれだよ、牧田だよ」
「は? 牧田? 誰それ?……あ、あのデブ? 嘘、マジで?」
「マジマジ、俺らも今日見るまでただのデブだと思ってたよ」
「ただのデブどころか、その辺のグラビアアイドルなんか目じゃねえってレベルだぜ!」
彼らにとって、美津子は突然現れた「見つけもの」のような存在だった。
その日を境に、クラスメートの男子にとって美津子の存在は、ただの「地味なデブ」から、男子たちの間でひそかに囁かれる「マキパイ」へと変わっていったのだった。
苗字が牧田であることから、「マキ」と「おっぱい」を合わせた、男子高校生らしい、どこか下品な響きのあだ名だった。
そして、その秘められた真実が、体育祭という公の場で、全校生徒に露呈し、美津子の苦悩をさらに深めることになる。
それは夏の半袖体操着の生地が汗で体に張り付くような1年秋の真夏日――体育祭での出来事だった。
まずは、全校生徒が見守る徒競走。
スタートラインに立つ美津子の白い半袖体操着は、すでに胸元が限界まで張っていた。
スタートの合図とともに、美津子は走り出した。
途端、その豊かな胸は、薄い体操着の生地の中で主張するように激しく上下動を始め、重力に逆らうたびにぶるんぶるんと、視線を絡め取るようにいやらしい波を描いた。
薄い体操着の生地が伸縮の限界を迎え、その向こうの生々しいボリュームが、跳ねるたびに歪み、弾けるように波打つ。
その激しい揺れによって、ハーフパンツに押し込んでいたはずの体操着の裾が、内側からじわじわと引っ張り出され始めた。
美津子はただがむしゃらに前を見て走った。
この揺れと、裾が上がっていく嫌な予感が、どれほど周囲の視線を集めているかなど、考えたくもなかった。
その時だった。前につんのめり、美津子の体は地面に投げ出された。
衝撃と同時に、豊満な胸は地面に押し潰され、その柔らかな肉が嫌な形で大きく波打ちながら、薄い体操着の生地越しに不快な刺激が全身を駆け巡った。
「痛い……」と心の中で叫ぶ間もなく、周囲のざわめきが耳に飛び込んでくる。
捲れ上がった体操着の裾はさらに広がり、胸元の生地は大きくよれて、その豊かな膨らみに張り付くように歪んでいた。
打ち付けられた衝撃の後も、まだ胸には重々しい震えが残っていた。
痛みと、何よりも大勢の人の前で転んでしまったという羞恥で、美津子の目はみるみるうちに潤んでいく。
このまま地面に伏せて、誰にも見つからずに消えてしまいたい。
立ち上がりたくない。
胸の痛みと、熱くなる顔、そして打ち付けられた身体の余韻のような震えが、美津子を激しく責め立てるようだった。
その震えの中、胸元の不快感に、ブラジャーが衝撃で少しずれたことに美津子は気づいた。
それでも、美津子は意を決してゆっくりと立ち上がった。
体操着の胸元には土埃がべったりとつき、濡れた汗と相まって薄い生地にこびりついている。
視線を上げられなかった。
ただひたすらに下を向いたまま、美津子はゴールへ向かって再び走り出した。
転んだ衝撃でずれてしまったブラジャーが、小走りに合わせてその縁が胸の最も敏感な先端を不快に擦りつけ、思わず息を詰めるほどの痛みと羞恥が襲う。
体操着の裾は相変わらずズボンから大きくはみ出し、胸の柔らかな膨らみは、土で汚れてぶるんぶるんと、見苦しいほどに波打って揺れるのだった。
すべての視線が、自分に突き刺さっているのが分かった。
さらに、綱引きの最中だった。
美津子が綱を引くたびに、ハーフパンツにねじ込まれた白い体操着が、胸のボリュームに合わせて激しく上下する。
そのたびに、薄い生地が豊かな胸の起伏に吸い付くように張り詰め、その向こうの生々しいボリュームが、揺れるたびに弾むように波打ち、見る者の視線を絡め取る。
周囲からグラウンドにどよめきにも似たざわめきが広がる。
美津子は、引っ張る綱の感触よりも、自分の胸が揺れる不快感と、それに伴う周囲の視線が気になって仕方がなかった。
早く、この競技が終わってほしい。
そう願うしかなかった。
徒競走での胸の揺れと派手な転倒、綱引きでの尋常ならざる迫力は、体育祭に参加した全校生徒の記憶に、あるいは教師や保護者までにも、ある種の「インパクト」として刻み込まれたのだ。
授業中の廊下や、昼休み、美津子が通り過ぎるたびに、今まで美津子に見向きもしなかった他のクラスの男子たちが、ひそひそと囁き合うのが聞こえる。
「なあ、あれって……」
「マキパイだろ? すげぇな、まじでヤバいって」
最初は、何のことか分からなかった。
ただ自分に向けられた、いつもとは違う、奇妙な視線に戸惑うだけだった。
ある日、昇降口で靴を履き替えていると、反対側の下駄箱で上級生の男子二人がコソコソと話しているのが耳に入った。
「あの1年、なんで『マキパイ』なの? 」
「あー苗字が牧田だからじゃねー? 」
その瞬間、美津子の脳裏に、自分の苗字である「牧田」からとられたであろうその呼び名と、その響きから連想される自分の体の一番のコンプレックスが、電撃のように結びついた。
耳の奥で、その響きがこだまする。
途端に顔がカッと熱くなり、美津子は反射的に自分の胸元を隠すように腕で覆った。
体育祭で露呈した身体の特徴は、全校生徒に下品なあだ名となって定着してしまったのだと、美津子は絶望的なまでに理解したのだった。
男子生徒たちが送る、熱を帯びた視線を感じながら、美津子はただ俯くことしかできない。
その視線の先にあるのは、清楚な制服に閉じ込められた、若々しくも成熟した女性の肉体の存在感なのだから。
美津子の意識とは裏腹に、その身体は、周囲の視線を否応なく惹きつけ、禁断の果実のような魅力を放っているのだった。
窓から入ってくる光で、黒板に残るチョークの粉がふんわりと舞い上がって見えて、放課後の賑やかな話し声が廊下から響いてきていた。
教室の後ろの席に座る牧田美津子は、数学のノートを丁寧にまとめるのに夢中だった。
地味な制服をきちんとした感じで着ていて、長い髪はシンプルに一本に結ばれていた。
化粧っ気がない肌のせいで、美津子の整った顔立ちが、より清らかで優しい印象に見えた。
しかし、肉付きの良い体型と、豊かな胸のせいで、美津子はいつも恥ずかしそうに猫背になってしまうのが悩みだった。
そのせいで、美津子は普段から少し俯き加減だった。
「……早く終わらせて、図書室行こ……」
美津子はごく小さな声でつぶやいた。
彼女はクラスではあまり目立たない子だった。
美津子は真面目でおとなしくて、休み時間はいつも本を読んでいるか、親しい友達と静かにしゃべっているだけだった。
恋愛のうわさとは無縁で、男子の視線に気づいても、自分の豊かな胸をいやらしい目で見られているとか、太っていることを笑われているんじゃないかと感じて、顔を伏せて、その視線に気づかないふりを精一杯するしかできなかった。
美津子のセーラー服姿は、紺色のセーラー襟がうなじの白い肌とのコントラストを際立たせ、首筋にかかった黒髪が、その繊細さを物語っていた。
しかし、何よりも目を引くのは、その胸元だった。
白いセーラー服の生地は、内側から押し上げるような強烈な膨らみによって、今にも張り裂けそうにピンと張っていた。
本来はまっすぐ下に垂れるはずのスカーフは、豊かな胸に押し出され、その下半分ほどがふわりと宙に浮いてた。
深い呼吸をするたびに、豊かな胸の曲線に合わせてスカーフが微かに揺れ動き、さらに歩くたびに、その下半分が小さく前後に跳ねるのだった。
胸元を覆う胸当ての布も、胸の豊かな膨らみに押し上げられて、本来の平らな形が大きく歪んでいた。
その布地は、奥にあるボリュームを隠しきれないほどぴんと張り、そこに確かな肉付きの良さが感じられることで、見る者の想像力を掻き立てた。
腕を下ろしたとき、セーラー服の袖口と、膨らんだ胸との間には、服が体から離れて膨らんでしまうような、妙な隙間ができていた。
それは、制服が美津子の体型に完全に合っていない証拠であり、そのせいで生まれるシルエットのちぐはぐさこそが、かえって制服の下に隠された、彼女の成熟した女性の肉体を強く感じさせていた。
セーラー服の裾は、豊かなバストによってぐっと持ち上げられ、ウエスト部分が通常よりも短く見えていた。
胸の豊かな膨らみが、セーラー服の生地をテントのように前へ押し出し、ウエストのくびれを無視してそのまま真下へストンと垂れ下がっていた。
そのせいで、体型が少しずんぐりとした印象になり、美津子は実際より太って見えていた。
それが美津子にとっては悩みの種だった。
ただ、ウエスト付近がキュッと絞られて、胸の大きさが強調されるような服を着るよりは、まだこの方がマシだと美津子は思っていた。
透き通るような肌、優しそうな目元、それと控えめな笑顔――そして、その清楚な雰囲気とは対照的な、豊かな胸のふくらみ。
しかしそんな美津子を、男子はただの地味で、少し体格が良いだけの女子だと思っていた。
言葉を選ばずに言えば、ぶっちゃけ「デブだな」と内心で見下している者もいた。
美津子にとって、それは慣れっこだった。
むしろ、いやらしい目で見られるより、ただのデブだと思われている方が、ずっとマシだとさえ思っていた。
美津子の状況が一変するきっかけが、図らずも訪れることになる。
それは、美津子が長年隠し続けてきた身体の真実が、美津子を深く苦しめる最初の出来事となった。
そして、最初にその『真実』を知ることになったのは、1年A組とB組の男子たちだった。
1年の夏の終わり、プールの授業でのことだ。
普段は男女が同じ時間帯に水泳の授業をしないように配慮されていた。
しかし雨で水泳の授業が中止になったりで、日程が詰まっていた兼ね合いで、この日は男子と女子の水泳の授業が、同じ時間帯に同じプールで行われていた。
1年A組とB組の男子生徒と女子生徒が、プールを左右に分けて授業を行っていた。
眩しい日差しが照りつける屋外プールで、泳ぎ終わった美津子がプールの縁に両手をついた。
そして、プールサイドに上がるための力を込めるように、ぷつりと息を止め、プールの底を力強く蹴り上げる。
ざばーっ、と勢いよく水しぶきを上げながら、その豊満な上半身が水面からせり上がってくる。
水に濡れて体にぴったりと張り付いた紺色のスクール水着は、第二の皮膚のように、これまで水中に隠されていた胸の本当のボリュームを露わにした。
一瞬、プールサイドに両手と両膝をついて、四つん這いの体勢になったとき、水着の薄い生地は、重力でたわんだ豊満な胸の谷間をはっきりと浮かび上がらせ、その艶めかしい膨らみが、眩い陽光の下でぴんと張っていた。
そして、偶然にもその美津子の正面には、体調不良で見学している男子生徒たちがプールサイドのベンチに座っていた。
男子生徒たちの視線が、凍り付いたように一点に集中した。
濡れた水着の生地は、二つの膨らみを文字通り「支えきれていない」かのように張り詰め、その中央には、深く吸い込まれるような谷間がはっきりと見えていた。
男子生徒たちは口元がにやけ、目には明らかな欲望が宿っている。
美津子は、その視線に気づき、たまらず顔を赤らめた。
慌てて立ち上がると、そのまま足早にその場を離れようと、小走りした。
美津子は俯きながら、プールサイドを小走りに、女子生徒たちが泳ぎ始めるスタート地点へと向かった。
焦る気持ちからか、気が付くと男子生徒たちが使用しているプールサイド側へと小走りしてしまっていた。
そのため、先生の話を聞くために体育座りをして並ぶ男子生徒たちの列の前を通らなければ、女子生徒たちが泳ぎ始めるスタート地点へと戻ることができなくなってしまった。
そして、その列に近づくにつれて、彼らの視線が、一点に、そして自分に集中していることに美津子は気づいてしまった。
薄い生地のスクール水着に包まれた胸は、美津子の焦るような小走りに合わせて、その豊かな若々しい弾力を、見る者の視線を挑発するかのように、ぷるぷると、小刻みな震えを伴いながら、大きく波打つように揺れた。
体育座りの男子生徒全員が、顔を見合わせ、にやにやと、しかし隠しきれない興奮を帯びた声で、ひそひそと何かを言い合っていた。
「おい!何よそ見してんだ!話をちゃんと聞け!」
男子生徒たちの異様な雰囲気に気づいた体育教師が、鋭い声で注意を促す。
同時に、彼らが一斉に視線を向けている先を確かめるように、体育教師は斜め後ろを振り返った。
その視線の先に、焦るように小走りで列を通り過ぎようとする美津子がいた。
体育教師は、普段制服に隠されていては想像もつかないほど、美津子の胸元が薄い水着の生地越しにぷるぷると、豊かな弾力をもって波打つのをまざまざと見て、一瞬、目を見開いた。
その一瞬の教師の反応を、美津子は確かに見て取った。
クラスメートの男子全員に衆目に晒されているだけでも恥ずかしさで死にそうだったのに、その上、体育教師は、美津子の胸元が薄い水着の生地越しに、揺れるたびに強調されるその肉感的なボリュームを、まざまざと見て、一瞬、目を見開いたのだ。
美津子の全身から血の気が引いていくのが分かった。
顔だけでなく、体中が熱く燃えるように感じた。
美津子のコンプレックスは、その日、衆目の前で剥き出しにされたのだった。
男子生徒に向き直った教師の表情は、呆れたような、しかしどこか納得したような半笑いに変わった。
「俺が話してるときはよそ見するなよ……それにしても見事なもんだな」と、注意している体裁を取りながら、どこか含みのある調子で呟いた。
教師の言葉に、男子生徒たちはドッと笑いをこぼした。
その笑いは、注意されたことへの反省よりも、教師も同じものを「理解」していることへの連帯感や、美津子の身体を「共有」しているかのような下品な響きを含んでいた。
制服を着ていると、だらしなく太って見える。
そのせいでクラスメートの男子からは「デブ」と揶揄されることもあった美津子。
だが、このプールの授業を通して、クラスメートの男子たちは、美津子の本当の姿を知ることになった。
彼らは、美津子が決してただの「デブ」ではないことを、初めて思い知らされた。
多少のぽっちゃり感はあれど、その正体は、健康的な肉付きと、制服ではわからない圧倒的なボリュームのバストを持つ、成熟した女性の体つきなのだと、クラスメートの男子全員が悟った瞬間だった。
それは、一緒に授業を受けていたA組の男子生徒たちも同じだった。
水泳の授業が終わり、着替えのために更衣室に戻ると、そこは美津子の話題で持ちきりだった。
彼らは、プールサイドで見た衝撃的な光景を忘れられずにいたのだ。
「おい、今日のあのすげぇ女子誰だよ? B組の女子だろ?」
「B組にあんな女子いたのか? 今まで全然気づかなかったわ!」
「あれだよ、牧田だよ」
「は? 牧田? 誰それ?……あ、あのデブ? 嘘、マジで?」
「マジマジ、俺らも今日見るまでただのデブだと思ってたよ」
「ただのデブどころか、その辺のグラビアアイドルなんか目じゃねえってレベルだぜ!」
彼らにとって、美津子は突然現れた「見つけもの」のような存在だった。
その日を境に、クラスメートの男子にとって美津子の存在は、ただの「地味なデブ」から、男子たちの間でひそかに囁かれる「マキパイ」へと変わっていったのだった。
苗字が牧田であることから、「マキ」と「おっぱい」を合わせた、男子高校生らしい、どこか下品な響きのあだ名だった。
そして、その秘められた真実が、体育祭という公の場で、全校生徒に露呈し、美津子の苦悩をさらに深めることになる。
それは夏の半袖体操着の生地が汗で体に張り付くような1年秋の真夏日――体育祭での出来事だった。
まずは、全校生徒が見守る徒競走。
スタートラインに立つ美津子の白い半袖体操着は、すでに胸元が限界まで張っていた。
スタートの合図とともに、美津子は走り出した。
途端、その豊かな胸は、薄い体操着の生地の中で主張するように激しく上下動を始め、重力に逆らうたびにぶるんぶるんと、視線を絡め取るようにいやらしい波を描いた。
薄い体操着の生地が伸縮の限界を迎え、その向こうの生々しいボリュームが、跳ねるたびに歪み、弾けるように波打つ。
その激しい揺れによって、ハーフパンツに押し込んでいたはずの体操着の裾が、内側からじわじわと引っ張り出され始めた。
美津子はただがむしゃらに前を見て走った。
この揺れと、裾が上がっていく嫌な予感が、どれほど周囲の視線を集めているかなど、考えたくもなかった。
その時だった。前につんのめり、美津子の体は地面に投げ出された。
衝撃と同時に、豊満な胸は地面に押し潰され、その柔らかな肉が嫌な形で大きく波打ちながら、薄い体操着の生地越しに不快な刺激が全身を駆け巡った。
「痛い……」と心の中で叫ぶ間もなく、周囲のざわめきが耳に飛び込んでくる。
捲れ上がった体操着の裾はさらに広がり、胸元の生地は大きくよれて、その豊かな膨らみに張り付くように歪んでいた。
打ち付けられた衝撃の後も、まだ胸には重々しい震えが残っていた。
痛みと、何よりも大勢の人の前で転んでしまったという羞恥で、美津子の目はみるみるうちに潤んでいく。
このまま地面に伏せて、誰にも見つからずに消えてしまいたい。
立ち上がりたくない。
胸の痛みと、熱くなる顔、そして打ち付けられた身体の余韻のような震えが、美津子を激しく責め立てるようだった。
その震えの中、胸元の不快感に、ブラジャーが衝撃で少しずれたことに美津子は気づいた。
それでも、美津子は意を決してゆっくりと立ち上がった。
体操着の胸元には土埃がべったりとつき、濡れた汗と相まって薄い生地にこびりついている。
視線を上げられなかった。
ただひたすらに下を向いたまま、美津子はゴールへ向かって再び走り出した。
転んだ衝撃でずれてしまったブラジャーが、小走りに合わせてその縁が胸の最も敏感な先端を不快に擦りつけ、思わず息を詰めるほどの痛みと羞恥が襲う。
体操着の裾は相変わらずズボンから大きくはみ出し、胸の柔らかな膨らみは、土で汚れてぶるんぶるんと、見苦しいほどに波打って揺れるのだった。
すべての視線が、自分に突き刺さっているのが分かった。
さらに、綱引きの最中だった。
美津子が綱を引くたびに、ハーフパンツにねじ込まれた白い体操着が、胸のボリュームに合わせて激しく上下する。
そのたびに、薄い生地が豊かな胸の起伏に吸い付くように張り詰め、その向こうの生々しいボリュームが、揺れるたびに弾むように波打ち、見る者の視線を絡め取る。
周囲からグラウンドにどよめきにも似たざわめきが広がる。
美津子は、引っ張る綱の感触よりも、自分の胸が揺れる不快感と、それに伴う周囲の視線が気になって仕方がなかった。
早く、この競技が終わってほしい。
そう願うしかなかった。
徒競走での胸の揺れと派手な転倒、綱引きでの尋常ならざる迫力は、体育祭に参加した全校生徒の記憶に、あるいは教師や保護者までにも、ある種の「インパクト」として刻み込まれたのだ。
授業中の廊下や、昼休み、美津子が通り過ぎるたびに、今まで美津子に見向きもしなかった他のクラスの男子たちが、ひそひそと囁き合うのが聞こえる。
「なあ、あれって……」
「マキパイだろ? すげぇな、まじでヤバいって」
最初は、何のことか分からなかった。
ただ自分に向けられた、いつもとは違う、奇妙な視線に戸惑うだけだった。
ある日、昇降口で靴を履き替えていると、反対側の下駄箱で上級生の男子二人がコソコソと話しているのが耳に入った。
「あの1年、なんで『マキパイ』なの? 」
「あー苗字が牧田だからじゃねー? 」
その瞬間、美津子の脳裏に、自分の苗字である「牧田」からとられたであろうその呼び名と、その響きから連想される自分の体の一番のコンプレックスが、電撃のように結びついた。
耳の奥で、その響きがこだまする。
途端に顔がカッと熱くなり、美津子は反射的に自分の胸元を隠すように腕で覆った。
体育祭で露呈した身体の特徴は、全校生徒に下品なあだ名となって定着してしまったのだと、美津子は絶望的なまでに理解したのだった。
男子生徒たちが送る、熱を帯びた視線を感じながら、美津子はただ俯くことしかできない。
その視線の先にあるのは、清楚な制服に閉じ込められた、若々しくも成熟した女性の肉体の存在感なのだから。
美津子の意識とは裏腹に、その身体は、周囲の視線を否応なく惹きつけ、禁断の果実のような魅力を放っているのだった。
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ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
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