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秘密の夫婦遊戯①
月曜の夜、雑居ビルの4階にある熟女キャバクラ『月夜の華』のフロアは、静かな空気に包まれていた。
美津子は、控えめなポップスのBGMが流れる中、常連客が数組ゆったりとグラスを傾ける様子を眺めていた。
月曜はいつも静かで、熟女キャバクラらしい落ち着いた雰囲気が漂い、美津子はその穏やかな空気の中に身を置いていた。
エレベーターのドアがそっと開く音が聞こえ、美津子の視線が自然とそちらに向いた。
悠一が少しぎこちない足取りで店内に踏み入れた。
彼は、いつもとは違うかっこいいスーツを、身体に吸い付くように着こなしていた。
美津子の心には、悠一の穏やかな顔に宿る、ふだんとは違う緊張が、なぜか強く伝わってきた。
営業職である悠一は、若い頃にキャバクラに行っていたことは美津子も知っていた。
でも結婚してからは家庭を一番に考えて、キャバクラにはもうほとんど行っていない。
美津子は、仕事の疲れも忘れて今日のこの訪問を心待ちにしている悠一の姿を見て、そっと心が温かくなった。
店長の西田が悠一を出迎える姿が見えた。
どこか気弱そうな、柔らかな微笑みを浮かべている。
「いらっしゃいませ。ご指名はございますか?」と尋ねる彼を、美津子は少し離れた場所からじっと見ていた。
少し照れたように、悠一は顔に笑みを浮かべた。
それから、わざとらしく咳払いして、「えっと、ミナミさんでお願いします」と告げた。
悠一の顔を見た美津子は、その表情の中に、久しぶりのキャバクラに来たことへの照れと、自分に会うことへの期待が混ざっているのを確かに感じ取った。
西田は静かに頷いて、「かしこまりました。こちらでご案内します」と言うと、悠一をフロアの奥にあるソファ席へと導いていった。
店長の西田が、落ち着いた声で「ミナミさん、ご指名が入りました」と告げた。
美津子は、フロアの奥から、悠一の元へと歩き出した。
美津子は、いつものグリーンのワンピースドレスに身を包んでいた。
胸元のスクエアカットからは、豊かなバストがはちきれんばかりに盛り上がり、深い谷間を惜しげもなく覗かせていた。
しなやかな生地が、弾むような柔らかな肉感を余すところなく拾い、むっちりとした曲線的な輪郭をくっきりと浮かび上がらせる。
本来は控えめなはずのこのドレスが、美津子の豊満な身体を通すと、どうしようもなく誘惑的な色気を放っている。
そんな自分が、柔らかな照明の下で、普段の家庭的な姿とはまったく違う、別の女として輝いていることに、美津子自身も胸の奥が熱くなるのを感じていた。
「いらっしゃいませ、ミナミです。初めてのご来店ですか?」
美津子は、周りの客に夫婦であることがバレないよう、自然なプロの表情を作って悠一に話しかけた。
悠一はグラスを手に持ったまま、少し照れているのがわかるような表情で答える。
「うん、この店は初めてだよ。実はキャバクラ自体、めっちゃ久しぶりなんだ。ミナミちゃん、めっちゃ華やかだね。指名して正解だったかなって、ドキドキしてるよ!」
美津子は、悠一の言葉に胸が弾むのを抑えつつ、プロの笑顔で話を続けた。
「ありがとうございます、お客さん。どんなお仕事されてるんですか?」
プロとしての落ち着きを保ちたいのに、悠一への愛情が隠しきれなくて、声にほのかな温かみが滲んでいるのを、美津子自身も感じていた。
悠一はグラスを傾けて、目を輝かせて答えた。
「ただのサラリーマンだよ。地味な妻と平凡な生活さ。ミナミちゃんみたいな華やかな人に会うと、なんかドキドキするな。俺、最近はこういう場所に来るなんて全然なかったから、ミナミちゃん見てたら、ちょっと冒険したくなるよ」
悠一の言葉に、美津子は目を細めて、控えめに首を振った。
「ふーん、そんなこと言ってると、地味な奥さんに逃げられちゃいますよ?」
悠一は、そんな美津子の言葉をどこ吹く風とばかりに、にこりと自信満々な笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。うちの妻は、俺のこと大好きだからね。俺がいなくちゃ生きていけないってタイプなんだ」
悠一の自信に満ちた言葉を聞いて、美津子は小さく肩をすくめた。
彼の言葉は紛れもない真実でもあり、美津子は照れと呆れを同時に感じていた。
美津子は、表面上は完璧な笑顔を保ちながらも、内心では、悠一への深く、諦めにも似た愛おしさに、胸がいっぱいになっているのを感じていた。
周りに夫婦だと悟られないよう、二人の間では軽やかな会話が響き、そこには普段の夫婦にはない、秘密めいたドキドキした楽しさと温かい感情が広がった。
互いを深く知る愛情と、今、悠一見せている自分の新しい側面に触れる喜びが、美津子の胸を満たしていく。
ふと悠一の視線が、美津子のグリーンのワンピースドレスの大胆に露出した谷間の奥へと吸い込まれるように滑り、彼は顔を近づけて、周囲には聞こえないよう甘く声を潜めた。
「ねえ、ミナミちゃんってさ、おとなしそうな雰囲気に見えるのに、こんなに谷間を見せちゃうなんてびっくりだよ。俺の知ってる誰かさん、絶対こんなアピールしないなあ、なんてね?」
悠一の甘く、挑発的な囁きに、美津子の心臓は跳ね上がった。
周囲に聞こえないようにと、ひそひそ声でからかうその様子に、夫として普段の自分を知り尽くした愛情と、彼の悪戯っぽい遊び心を感じて、美津子の頬は燃えるように赤くなった。
「ち、違うの! このドレス、普通の人が着たらこんなに谷間は見えないタイプのドレスなんだから! 私が着ると……その、どうしてもこうなっちゃうの!……なのです」
美津子からは、素の動揺が溢れ出ていた。ミナミとしてうまく取り繕おうとする戸惑いが声に混ざり、その愛らしい葛藤が、美津子自身にもはっきりと感じられた。
悠一は目を細めて小さく笑うと、肩をすくめて応じた。
「まあグラマーだと意図せず谷間が出ちゃうものですよね。僕の妻もグラマーだからわかるんですけど、うーん、でもミナミちゃんの方がグラマーかもなあ?」
悠一のその言葉に、美津子の心には、楽しさの中にも抑えきれない嫉妬のような感情が波紋のように広がった。
悠一が自分をからかっているとわかっていても、美津子と他の女性(自分自身であるミナミだが)と比較され、その「ミナミ」が勝っていると言われることに、複雑な感情が芽生えていた。
フロアの向こうでは、香織が常連客と談笑していたが、その視線はしばしば美津子の席へと向けられていた。
まるで、二人の様子を探るかのように。
香織のブラックドレスは、深いデコルテと太もものスリットがセクシーさを引き立てていた。
同い年の高校の同級生である香織は、悠一と面識はなかったが、以前、美津子のスマホの待ち受け画面に映る彼の姿を見たことがあった。
だが、その時の記憶と、美津子の目の前の男性が同一人物であるという認識は、香織の中にはまだなかった。
悠一が席を立ち、お手洗いに向かうと、美津子はおしぼりを手に、その出口で彼を待った。
店の奥にあるトイレの前で悠一が出てくるのを待っていると、香織がスッと隣に滑り寄ってきた。
「ねえ、美津子。あのスーツの客、すごくノリノリで絡んでくるね。なんか見たことある顔みたいだし、怪しい雰囲気! まさか知り合い?」
香織は、興奮を抑えきれない様子で、美津子の耳元に問いかけた。
美津子は、香織の瞳に宿る昔からの優越感と、獲物をからかうような鋭い輝きに、心臓が跳ねるのを感じた。
「そんなんじゃないよ……ただの指名客」と誤魔化したが、声が上ずるのを抑えきれなかった。
香織のニヤリとした笑みに美津子は唇を噛みしめ、夫婦だとは絶対にバレてはいけないと心の中で強く誓った。
美津子が心の中で誓いを立てたその時、トイレのドアが開き、悠一がひょっこりと顔を出した。
素早くプロの顔に戻り、おしぼりを悠一に差し出す。
「どうぞ」悠一がそれを受け取ると、香織がすかさず悠一に軽く会釈した。
彼も心得たように、にこやかに香織に視線を返す。
美津子は悠一を促すように軽く背を押し、二人は自分たちの席へと戻った。
席に戻ると、悠一は小声で美津子に尋ねた。
「さっきの人、仲いいの?」
美津子はグラスを置き、視線を香織のいる方へ向けた。
「あれが高校の同級生の香織。私をこの仕事に誘った人だよ」
悠一は驚いたように目を見開いた。
「え、そうなの!?ちゃんと挨拶しなきゃ!」
美津子は、呆れたような、しかしどこか楽しそうな表情で悠一の腕を軽く叩いた。
「そんなことしたら、悠一が夫だってバレちゃうでしょ」
悠一は、美津子の言葉にハッとしたように口を閉じた。
そして、ばつが悪そうに、しかしすぐに面白そうに美津子を見た。
「そっか。危ない危ない。バレたら恥ずかしいもんね」
悠一は、この秘密の「遊び」がさらにスリリングになったことに、満足げな笑みを浮かべた。
フロアの端でボーイの山本がじっと立ち、その視線は美津子に向けられていた。
威圧的な顔に鋭い光を宿す彼の目は、美津子の内に秘めた緊張を敏感に察知したようだった。
山本は黒スーツの袖を整えながら、ゆっくりと美津子の元へ近づいてきた。
「ミナミさん、大丈夫ですか? 何かあればすぐ言ってくださいね」と、山本は低く、しかし確かな響きで囁いた。
その心配そうな瞳に、美津子は保護者のような温かさを感じた。
美津子がちらりと悠一に目をやると、彼の顔は恐怖に引きつっていた。
「あ、ありがとうございます、山本さんっ……大、大丈夫です!」
美津子の言葉に、山本は小さく頷いた。
そして、特に何も言わず、悠一に一瞥をくれると、来た時と同じようにゆっくりとフロアの端へと去っていった。
山本の背中からは、相変わらずの威圧感と、どこか満ち足りたような雰囲気が漂っていた。
悠一はぎこちなく笑顔を作りながらも、身体を少し傾け、美津子の耳元に届くほどの小声で尋ねた。
「な、なんだあの人……こ、怖いんだけど……」
美津子は、悠一の言葉に苦笑した。
「山本さんは、見た目は怖いけど優しい人よ。私がここまでやってこられたのも、彼のおかげみたいなものなの」
悠一は、美津子の言葉を聞いてまじまじと山本の方を見た。
その表情は、まだ警戒心を残しつつも、どこか納得したようでもあった。
「へぇ……そうなんだ。なんか、見るからに強面だけど、そういう人なんだね」
悠一は、自分が見知らぬ場所で、妻が意外な形で支えられていることに、不思議な感覚を覚えていた。
そして、美津子の店での別の顔を垣間見たような、少しの興奮が胸の内で広がった。
香織は客と会話をしながら、美津子の席を意識し、頻繁に視線を投げかけていた。
彼女の胸には、疑念がくすぶっていた。
「美津子、何か隠してるんじゃない?あの客、どう見てもどこかで見た顔だよな。でも常連じゃない気がするんだけど?」
香織は、独り言のように呟いた。
月曜の夜らしい穏やかな喧騒の中、山本の鋭い視線がフロアを巡る。
山本の鋭い目に見守られながらも、美津子は「ミナミ」として悠一の席を盛り上げ、夫婦の秘密を守りながらこの夜を乗り切ろうと奮闘していた。
悠一が「いやー、このままだとミナミちゃんに惚れちゃいそうだなー」と、少し呂律が回らない声で言った。
彼ののまなざしは、妻である美津子が初めて見せる「ミナミ」の特別な魅力に釘付けになっているのを、美津子は感じていた。
視線を引きつけ、今にも零れ落ちそうなほどの谷間と、弾むような肉感的なボディライン。
それに加えて、ミナミの聞き上手な会話、巧みな笑顔、そして時折見せる色っぽい仕草が、妻として知る彼女自身との違いを悠一に与え、「ミナミ」として、夫を魅了できた誇りと喜びが入り混じった感情だった。
しかし同時に、「ミナミ」という虚像に彼がこれほど夢中になっていることに、ほんのわずかな寂しさと、言いようのない嫉妬のような感情が、美津子の胸に波のように押し寄せていた。
美津子は、控えめなポップスのBGMが流れる中、常連客が数組ゆったりとグラスを傾ける様子を眺めていた。
月曜はいつも静かで、熟女キャバクラらしい落ち着いた雰囲気が漂い、美津子はその穏やかな空気の中に身を置いていた。
エレベーターのドアがそっと開く音が聞こえ、美津子の視線が自然とそちらに向いた。
悠一が少しぎこちない足取りで店内に踏み入れた。
彼は、いつもとは違うかっこいいスーツを、身体に吸い付くように着こなしていた。
美津子の心には、悠一の穏やかな顔に宿る、ふだんとは違う緊張が、なぜか強く伝わってきた。
営業職である悠一は、若い頃にキャバクラに行っていたことは美津子も知っていた。
でも結婚してからは家庭を一番に考えて、キャバクラにはもうほとんど行っていない。
美津子は、仕事の疲れも忘れて今日のこの訪問を心待ちにしている悠一の姿を見て、そっと心が温かくなった。
店長の西田が悠一を出迎える姿が見えた。
どこか気弱そうな、柔らかな微笑みを浮かべている。
「いらっしゃいませ。ご指名はございますか?」と尋ねる彼を、美津子は少し離れた場所からじっと見ていた。
少し照れたように、悠一は顔に笑みを浮かべた。
それから、わざとらしく咳払いして、「えっと、ミナミさんでお願いします」と告げた。
悠一の顔を見た美津子は、その表情の中に、久しぶりのキャバクラに来たことへの照れと、自分に会うことへの期待が混ざっているのを確かに感じ取った。
西田は静かに頷いて、「かしこまりました。こちらでご案内します」と言うと、悠一をフロアの奥にあるソファ席へと導いていった。
店長の西田が、落ち着いた声で「ミナミさん、ご指名が入りました」と告げた。
美津子は、フロアの奥から、悠一の元へと歩き出した。
美津子は、いつものグリーンのワンピースドレスに身を包んでいた。
胸元のスクエアカットからは、豊かなバストがはちきれんばかりに盛り上がり、深い谷間を惜しげもなく覗かせていた。
しなやかな生地が、弾むような柔らかな肉感を余すところなく拾い、むっちりとした曲線的な輪郭をくっきりと浮かび上がらせる。
本来は控えめなはずのこのドレスが、美津子の豊満な身体を通すと、どうしようもなく誘惑的な色気を放っている。
そんな自分が、柔らかな照明の下で、普段の家庭的な姿とはまったく違う、別の女として輝いていることに、美津子自身も胸の奥が熱くなるのを感じていた。
「いらっしゃいませ、ミナミです。初めてのご来店ですか?」
美津子は、周りの客に夫婦であることがバレないよう、自然なプロの表情を作って悠一に話しかけた。
悠一はグラスを手に持ったまま、少し照れているのがわかるような表情で答える。
「うん、この店は初めてだよ。実はキャバクラ自体、めっちゃ久しぶりなんだ。ミナミちゃん、めっちゃ華やかだね。指名して正解だったかなって、ドキドキしてるよ!」
美津子は、悠一の言葉に胸が弾むのを抑えつつ、プロの笑顔で話を続けた。
「ありがとうございます、お客さん。どんなお仕事されてるんですか?」
プロとしての落ち着きを保ちたいのに、悠一への愛情が隠しきれなくて、声にほのかな温かみが滲んでいるのを、美津子自身も感じていた。
悠一はグラスを傾けて、目を輝かせて答えた。
「ただのサラリーマンだよ。地味な妻と平凡な生活さ。ミナミちゃんみたいな華やかな人に会うと、なんかドキドキするな。俺、最近はこういう場所に来るなんて全然なかったから、ミナミちゃん見てたら、ちょっと冒険したくなるよ」
悠一の言葉に、美津子は目を細めて、控えめに首を振った。
「ふーん、そんなこと言ってると、地味な奥さんに逃げられちゃいますよ?」
悠一は、そんな美津子の言葉をどこ吹く風とばかりに、にこりと自信満々な笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。うちの妻は、俺のこと大好きだからね。俺がいなくちゃ生きていけないってタイプなんだ」
悠一の自信に満ちた言葉を聞いて、美津子は小さく肩をすくめた。
彼の言葉は紛れもない真実でもあり、美津子は照れと呆れを同時に感じていた。
美津子は、表面上は完璧な笑顔を保ちながらも、内心では、悠一への深く、諦めにも似た愛おしさに、胸がいっぱいになっているのを感じていた。
周りに夫婦だと悟られないよう、二人の間では軽やかな会話が響き、そこには普段の夫婦にはない、秘密めいたドキドキした楽しさと温かい感情が広がった。
互いを深く知る愛情と、今、悠一見せている自分の新しい側面に触れる喜びが、美津子の胸を満たしていく。
ふと悠一の視線が、美津子のグリーンのワンピースドレスの大胆に露出した谷間の奥へと吸い込まれるように滑り、彼は顔を近づけて、周囲には聞こえないよう甘く声を潜めた。
「ねえ、ミナミちゃんってさ、おとなしそうな雰囲気に見えるのに、こんなに谷間を見せちゃうなんてびっくりだよ。俺の知ってる誰かさん、絶対こんなアピールしないなあ、なんてね?」
悠一の甘く、挑発的な囁きに、美津子の心臓は跳ね上がった。
周囲に聞こえないようにと、ひそひそ声でからかうその様子に、夫として普段の自分を知り尽くした愛情と、彼の悪戯っぽい遊び心を感じて、美津子の頬は燃えるように赤くなった。
「ち、違うの! このドレス、普通の人が着たらこんなに谷間は見えないタイプのドレスなんだから! 私が着ると……その、どうしてもこうなっちゃうの!……なのです」
美津子からは、素の動揺が溢れ出ていた。ミナミとしてうまく取り繕おうとする戸惑いが声に混ざり、その愛らしい葛藤が、美津子自身にもはっきりと感じられた。
悠一は目を細めて小さく笑うと、肩をすくめて応じた。
「まあグラマーだと意図せず谷間が出ちゃうものですよね。僕の妻もグラマーだからわかるんですけど、うーん、でもミナミちゃんの方がグラマーかもなあ?」
悠一のその言葉に、美津子の心には、楽しさの中にも抑えきれない嫉妬のような感情が波紋のように広がった。
悠一が自分をからかっているとわかっていても、美津子と他の女性(自分自身であるミナミだが)と比較され、その「ミナミ」が勝っていると言われることに、複雑な感情が芽生えていた。
フロアの向こうでは、香織が常連客と談笑していたが、その視線はしばしば美津子の席へと向けられていた。
まるで、二人の様子を探るかのように。
香織のブラックドレスは、深いデコルテと太もものスリットがセクシーさを引き立てていた。
同い年の高校の同級生である香織は、悠一と面識はなかったが、以前、美津子のスマホの待ち受け画面に映る彼の姿を見たことがあった。
だが、その時の記憶と、美津子の目の前の男性が同一人物であるという認識は、香織の中にはまだなかった。
悠一が席を立ち、お手洗いに向かうと、美津子はおしぼりを手に、その出口で彼を待った。
店の奥にあるトイレの前で悠一が出てくるのを待っていると、香織がスッと隣に滑り寄ってきた。
「ねえ、美津子。あのスーツの客、すごくノリノリで絡んでくるね。なんか見たことある顔みたいだし、怪しい雰囲気! まさか知り合い?」
香織は、興奮を抑えきれない様子で、美津子の耳元に問いかけた。
美津子は、香織の瞳に宿る昔からの優越感と、獲物をからかうような鋭い輝きに、心臓が跳ねるのを感じた。
「そんなんじゃないよ……ただの指名客」と誤魔化したが、声が上ずるのを抑えきれなかった。
香織のニヤリとした笑みに美津子は唇を噛みしめ、夫婦だとは絶対にバレてはいけないと心の中で強く誓った。
美津子が心の中で誓いを立てたその時、トイレのドアが開き、悠一がひょっこりと顔を出した。
素早くプロの顔に戻り、おしぼりを悠一に差し出す。
「どうぞ」悠一がそれを受け取ると、香織がすかさず悠一に軽く会釈した。
彼も心得たように、にこやかに香織に視線を返す。
美津子は悠一を促すように軽く背を押し、二人は自分たちの席へと戻った。
席に戻ると、悠一は小声で美津子に尋ねた。
「さっきの人、仲いいの?」
美津子はグラスを置き、視線を香織のいる方へ向けた。
「あれが高校の同級生の香織。私をこの仕事に誘った人だよ」
悠一は驚いたように目を見開いた。
「え、そうなの!?ちゃんと挨拶しなきゃ!」
美津子は、呆れたような、しかしどこか楽しそうな表情で悠一の腕を軽く叩いた。
「そんなことしたら、悠一が夫だってバレちゃうでしょ」
悠一は、美津子の言葉にハッとしたように口を閉じた。
そして、ばつが悪そうに、しかしすぐに面白そうに美津子を見た。
「そっか。危ない危ない。バレたら恥ずかしいもんね」
悠一は、この秘密の「遊び」がさらにスリリングになったことに、満足げな笑みを浮かべた。
フロアの端でボーイの山本がじっと立ち、その視線は美津子に向けられていた。
威圧的な顔に鋭い光を宿す彼の目は、美津子の内に秘めた緊張を敏感に察知したようだった。
山本は黒スーツの袖を整えながら、ゆっくりと美津子の元へ近づいてきた。
「ミナミさん、大丈夫ですか? 何かあればすぐ言ってくださいね」と、山本は低く、しかし確かな響きで囁いた。
その心配そうな瞳に、美津子は保護者のような温かさを感じた。
美津子がちらりと悠一に目をやると、彼の顔は恐怖に引きつっていた。
「あ、ありがとうございます、山本さんっ……大、大丈夫です!」
美津子の言葉に、山本は小さく頷いた。
そして、特に何も言わず、悠一に一瞥をくれると、来た時と同じようにゆっくりとフロアの端へと去っていった。
山本の背中からは、相変わらずの威圧感と、どこか満ち足りたような雰囲気が漂っていた。
悠一はぎこちなく笑顔を作りながらも、身体を少し傾け、美津子の耳元に届くほどの小声で尋ねた。
「な、なんだあの人……こ、怖いんだけど……」
美津子は、悠一の言葉に苦笑した。
「山本さんは、見た目は怖いけど優しい人よ。私がここまでやってこられたのも、彼のおかげみたいなものなの」
悠一は、美津子の言葉を聞いてまじまじと山本の方を見た。
その表情は、まだ警戒心を残しつつも、どこか納得したようでもあった。
「へぇ……そうなんだ。なんか、見るからに強面だけど、そういう人なんだね」
悠一は、自分が見知らぬ場所で、妻が意外な形で支えられていることに、不思議な感覚を覚えていた。
そして、美津子の店での別の顔を垣間見たような、少しの興奮が胸の内で広がった。
香織は客と会話をしながら、美津子の席を意識し、頻繁に視線を投げかけていた。
彼女の胸には、疑念がくすぶっていた。
「美津子、何か隠してるんじゃない?あの客、どう見てもどこかで見た顔だよな。でも常連じゃない気がするんだけど?」
香織は、独り言のように呟いた。
月曜の夜らしい穏やかな喧騒の中、山本の鋭い視線がフロアを巡る。
山本の鋭い目に見守られながらも、美津子は「ミナミ」として悠一の席を盛り上げ、夫婦の秘密を守りながらこの夜を乗り切ろうと奮闘していた。
悠一が「いやー、このままだとミナミちゃんに惚れちゃいそうだなー」と、少し呂律が回らない声で言った。
彼ののまなざしは、妻である美津子が初めて見せる「ミナミ」の特別な魅力に釘付けになっているのを、美津子は感じていた。
視線を引きつけ、今にも零れ落ちそうなほどの谷間と、弾むような肉感的なボディライン。
それに加えて、ミナミの聞き上手な会話、巧みな笑顔、そして時折見せる色っぽい仕草が、妻として知る彼女自身との違いを悠一に与え、「ミナミ」として、夫を魅了できた誇りと喜びが入り混じった感情だった。
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