15 / 38
秘密の夫婦遊戯②
フロアの静かな空気が、突然の騒ぎでガラッと変わった。
エレベーターのドアが次々に開き、スーツ姿のサラリーマンたちが、酔っ払った勢いで『月夜の華』にドカドカと流れ込んできた。
ネクタイを緩めた彼らの大きな笑い声が、店内に響き渡る。
ボーイの山本が強面の顔に冷静な光を宿し、団体客をスムーズに席に案内している。
熟女キャバクラらしい落ち着いたムードはまだ少し残っていたが、急な活気で店の中は熱っぽく、なんだかドキドキする空気に包まれていた。
美津子は、悠一の席でシャンパンをそっと注ぎながら、チラッとフロアを見渡した。
心臓がトクントクンと速く打つのが分かる。
団体客の賑やかさが、美津子の内気な心にじわっと圧迫感を押し付けてきた。
でも、悠一の優しい笑顔が目に入ると、美津子はキャスト「ミナミ」としての自分を取り戻した。
悠一はグラスを手に、賑わうフロアを興味津々で眺めていた。
ふと顔を近づけ、声をひそめて囁いた。
「なあ、美津子、にぎやかになってきたね」
苦笑いしながら、夫婦らしい温かさと驚きが声に混じる。
「月曜でこんなに混むの、ほんと珍しいよ」
美津子の声は、夫婦らしい気楽な調子で、笑いをこらえるような親しさが漂い、頬がほんのりピンクに染まった。
山本がフロアの真ん中でテキパキと動いていた。
さっきまでの穏やかな雰囲気はどこへやら、ポップスのBGMは彼らの声に押しつぶされ、グラスがカチャカチャぶつかる音や注文の声がフロアを埋め尽くした。
山本は低く響く声で「すみません、少々お待ちください。すぐキャストを回します」と客に応じながら、店長の西田に少し強めに言った。
「店長、かなり混雑してきました。2階の『星屑の夜』にヘルプをお願いしないと、回らなくなりそうです」
西田は山本の言葉に背中を押され、やや気弱な声で電話をかけた。
「あの、西田です。すみません、4階が混み合ってしまって……。ヘルプを2、3人、あと、もし可能ならボーイもお願いしたいのですが……」
数分後、エレベーターのドアが再び開き、2階の『星屑の夜』からヘルプのキャストがやってきた。
ユカを含む若い女の子二人とボーイが現れ、『月夜の華』のキャストとはまた違うキラキラした華やかさで、フロアの視線を一気に集めた。
ピンクのドレスに身を包んだユカは、明るい笑顔と軽やかな動きで店内をパッと明るくし、彼女の若さと派手な魅力が、熟女キャバクラの落ち着いた雰囲気を一瞬で鮮やかに塗り替えた。
サラリーマンたちから「おお、すげえ!」と歓声が上がる。
ユカは美津子の席を通り過ぎる時、軽く手を振って「ミナミさん、久しぶり!」と元気いっぱいに声をかけた。
そして、悠一に目を向け、前かがみになって艶めかしく微笑む。
ピンクのドレスの胸元は、今にも弾けそうなほどの豊満さを強調し、深く影を落とす谷間が悠一の意識を奪うかのように迫ってきた。
ユカはそっと腕を組み、胸元の膨らみを押し上げる。
息がかかるほどの距離で、「私はユカ、よろしくね!」と魅惑的に告げた。
悠一はユカの谷間に完全に釘付けになり、視線が動かない。
「あっ、はい、よろしくお願いします」と、その豊かな胸元に話しかけるかのように、深々と頭を下げていた。
隣で見ていた美津子は、悠一のあまりにも正直な反応に呆れ顔で、「まったく……この人は、どうしてこうもあの膨らみに弱いんだろう」と心の中でつぶやきながら、思わず笑いをこらえた。
山本のテキパキとした指示で、ユカたちは瞬時に団体客の席に付き、軽やかにグラスを傾けながら、たちまち会話の中心となっていった。
「ねえ、お兄さんたち、仕事お疲れ? ユカが盛り上げちゃうよ!」とユカが視線を合わせて語りかけると、テーブルは一気に盛り上がった。
悠一は、突然現れたヘルプのキャストたちを目で追い、どこか困惑したような顔をしていた。
いきなり派手な女の子たちが現れたのは、まるで別世界の光景だった。
特にユカのまばゆいばかりの姿に悠一の目が吸い寄せられ、ピンクのドレスから溢れる柔らかな膨らみに、思わず心臓が跳ねたのがわかった。
悠一は顔を近づけて、小声で美津子に囁いた。
「なあ、美津子、あの子たち何? 急に派手なのが来たんだけど……あのピンクのドレスの子、ユカって言ってた子、知り合い? なんていうか……あれは、やばいね」
悠一の声は周りには届かないよう配慮されていたが、最後の「やばいね」という呟きには、隠しきれない本音がにじみ出ていた。
その「やばいね」という言葉を聞いて、美津子の身体が小さく跳ねた。
悠一が女性の豊かな膨らみに弱いことをよく知っている美津子は、それがユカの谷間を指しているのだと瞬時に理解した。
美津子も顔を近づけ、小声で答えた。
「2階に同じオーナーさんがやってるキャバクラがあって、そこからヘルプで来てくれた子たちなの。忙しくなると、こうやって応援に来るのよ……少し派手だよね、ふふ。ユカさんは、まあ、顔見知りってところかな」
夫婦の会話らしい柔らかなトーンで説明を終えると、美津子はすかさず冷たい視線を悠一に突き刺した。
「で……お客様、ユカさんが『やばい』って何のことなんですかね?」
小声で問いかける美津子の声には、接客っぽいトーンを装いつつ、からかうような軽いイタズラが込められていた。
悠一は焦ったように首を振って弁解した。
「いや、違うって! 俺はミナミちゃんが一番だよ、ほんと! ただ、急に目の前に現れたから、びっくりしただけでさ……ごめん」
声には焦りと申し訳なさがにじみ出ており、悠一の額にはうっすらと汗がにじんでいた。
美津子は小さく「ふーん」と呟いて視線を逸したが、その頬にはほんのり赤みが差していた。
悠一はヘルプの仕組みに納得したように頷き、ユカの華やかな姿をチラチラと目で追いながら、ふと思いついたように小声で囁いた。
「じゃあ、美津子も2階にヘルプで行ったりするの?」
悠一の声には、純粋な好奇心が宿っていた。
美津子はクスッと笑って、小声で答えた。
「それはないよ。2階の店は普通のキャバクラだから。若い子が熟女キャバクラにいても平気だけど、逆は……ねえ、さすがに苦情くるよ、たぶん」
夫婦らしい気楽なトーンで、軽い冗談を交えながらも、美津子らしい控えめさが感じられた。
悠一はからかうようにニヤッと笑い、美津子にだけ聞こえるような小声で畳みかけた。
「ふうん、だったら、2階の店にも一度顔を出してみるか」
悠一の声には、妻の反応を楽しもうとする、意地悪な響きが込められていた。
美津子はポカンと口を開けて目を丸くすると、慌てて小声で言い返した。
「……え、もう、ほんと、やめてよ……ユカちゃん目当てで行くんでしょ……」
夫婦らしい砕けた調子ながら、いじけたような不満げな声が混じり、美津子は口ごもりながら、さらに頬を赤くした。
悠一は慌てて、少し声を張り上げて弁解した。
「冗談だよ、冗談!俺はミナミちゃんしかいないって!」と愛おしそうに呼びながら、悠一は愛情と茶目っ気を含んだ笑みを見せた。
「ちょっと、声が大きいって!」
美津子が焦るように小声で嗜めると、悠一はハッとしたように口元を押さえ、きょろきょろと周りを見回した。
彼女は照れを隠すように、視線を伏せた。
香織は、団体客のテーブルで、黒のスリット入りドレスを鮮やかに翻し、自信に満ちた態度で接客していた。
胸元の大きく開いたデコルテと、太ももまで切れ込んだスリットが照明に煌めき、香織はサラリーマンたちの羨望の眼差しを独り占めにした。
「さあ、もっと飲んで、今日はとことん楽しんじゃお!」
ハスキーな声が陽気に誘いかけ、香織がグラスを勢いよく持ち上げるたびに、楽しげなざわめきと笑い声が湧き上がった。
しかし、どれほど忙しくても、香織の視線は美津子の席へと度々向けられていた。
「美津子のあの客……知り合いっぽいな……でもあんなに胸の谷間が丸見えの姿、知り合いに見られて平気なわけないか……あっ……まさか、旦那!?」
その推測が脳裏をよぎった途端、美津子のスマホの待ち受けにいた悠一の顔が鮮明に思い出され、香織の疑念はたちまち確信へと変わった。
「旦那か、それなら納得だわ。知り合いって言っても、相手が旦那なら胸の谷間の一つや二つ見られても美津子も恥ずかしくないだろうし」と小さく口にした。
美津子の恵まれた状況への複雑な嫉妬、そして好奇心が、ざわめきながら渦巻いていた。
香織は内心で「まあ、とりあえず美津子には何も言わないでおこう」と口元に笑みを浮かべ、グラスを掲げてサラリーマンたちをさらに盛り上げた。
山本もまたミナミのテーブルの様子が気になっていた。
フロアの賑わいが少し収まってきたことを察知し、応援に来た若いキャストたちが団体客の場を盛り上げ、ボーイも手際よくドリンクを配る状況を見届ける。
その研ぎ澄まされた目は、自然とミナミのテーブルへ。
客とキャストという関係を超えた、特別な親しみがその場を満たしていた。
山本は、ミナミが応対しているスーツ姿の男性に目を凝らした。
その間に漂う妙な親しげな雰囲気が、彼の直感を刺激する。
本来、人見知りなミナミが、旧知の仲のように初めての客と接していることに、山本は強い違和感を覚えた。
山本は内心で「あの二人の関係は……まさか、ミナミさんのご主人か?」と推測し、ミナミの控えめな笑みにも何かを感じ取っていた。
サラリーマンたちの楽しそうな笑い声と、ヘルプの若いキャストたちの華やかな動きが加わり、フロアは活気で満ち溢れていた。
グラスを掲げ、客を煽る香織だったが、その視線はしばしば美津子の席を捉えていた。
山本は静かに指示を出し、フロアを統制しつつ、店の和やかなムードを維持しながら、この慌ただしい夜を切り抜けていた。
美津子は悠一の席で「ミナミ」としての役割を完璧に演じ切り、賑やかなフロアの喧騒の中で、着実に自信を深めていた。
悠一は、まさしくスポットライトを浴びるかのように輝く妻の姿から、片時も目を離せなかった。
「美津子がこんなに輝いてる姿、初めて見た……。やばい、完全に惚れ直した」
悠一は心の中でそう独りごち、彼女の微笑みに静かにグラスを傾けた。
エレベーターのドアが次々に開き、スーツ姿のサラリーマンたちが、酔っ払った勢いで『月夜の華』にドカドカと流れ込んできた。
ネクタイを緩めた彼らの大きな笑い声が、店内に響き渡る。
ボーイの山本が強面の顔に冷静な光を宿し、団体客をスムーズに席に案内している。
熟女キャバクラらしい落ち着いたムードはまだ少し残っていたが、急な活気で店の中は熱っぽく、なんだかドキドキする空気に包まれていた。
美津子は、悠一の席でシャンパンをそっと注ぎながら、チラッとフロアを見渡した。
心臓がトクントクンと速く打つのが分かる。
団体客の賑やかさが、美津子の内気な心にじわっと圧迫感を押し付けてきた。
でも、悠一の優しい笑顔が目に入ると、美津子はキャスト「ミナミ」としての自分を取り戻した。
悠一はグラスを手に、賑わうフロアを興味津々で眺めていた。
ふと顔を近づけ、声をひそめて囁いた。
「なあ、美津子、にぎやかになってきたね」
苦笑いしながら、夫婦らしい温かさと驚きが声に混じる。
「月曜でこんなに混むの、ほんと珍しいよ」
美津子の声は、夫婦らしい気楽な調子で、笑いをこらえるような親しさが漂い、頬がほんのりピンクに染まった。
山本がフロアの真ん中でテキパキと動いていた。
さっきまでの穏やかな雰囲気はどこへやら、ポップスのBGMは彼らの声に押しつぶされ、グラスがカチャカチャぶつかる音や注文の声がフロアを埋め尽くした。
山本は低く響く声で「すみません、少々お待ちください。すぐキャストを回します」と客に応じながら、店長の西田に少し強めに言った。
「店長、かなり混雑してきました。2階の『星屑の夜』にヘルプをお願いしないと、回らなくなりそうです」
西田は山本の言葉に背中を押され、やや気弱な声で電話をかけた。
「あの、西田です。すみません、4階が混み合ってしまって……。ヘルプを2、3人、あと、もし可能ならボーイもお願いしたいのですが……」
数分後、エレベーターのドアが再び開き、2階の『星屑の夜』からヘルプのキャストがやってきた。
ユカを含む若い女の子二人とボーイが現れ、『月夜の華』のキャストとはまた違うキラキラした華やかさで、フロアの視線を一気に集めた。
ピンクのドレスに身を包んだユカは、明るい笑顔と軽やかな動きで店内をパッと明るくし、彼女の若さと派手な魅力が、熟女キャバクラの落ち着いた雰囲気を一瞬で鮮やかに塗り替えた。
サラリーマンたちから「おお、すげえ!」と歓声が上がる。
ユカは美津子の席を通り過ぎる時、軽く手を振って「ミナミさん、久しぶり!」と元気いっぱいに声をかけた。
そして、悠一に目を向け、前かがみになって艶めかしく微笑む。
ピンクのドレスの胸元は、今にも弾けそうなほどの豊満さを強調し、深く影を落とす谷間が悠一の意識を奪うかのように迫ってきた。
ユカはそっと腕を組み、胸元の膨らみを押し上げる。
息がかかるほどの距離で、「私はユカ、よろしくね!」と魅惑的に告げた。
悠一はユカの谷間に完全に釘付けになり、視線が動かない。
「あっ、はい、よろしくお願いします」と、その豊かな胸元に話しかけるかのように、深々と頭を下げていた。
隣で見ていた美津子は、悠一のあまりにも正直な反応に呆れ顔で、「まったく……この人は、どうしてこうもあの膨らみに弱いんだろう」と心の中でつぶやきながら、思わず笑いをこらえた。
山本のテキパキとした指示で、ユカたちは瞬時に団体客の席に付き、軽やかにグラスを傾けながら、たちまち会話の中心となっていった。
「ねえ、お兄さんたち、仕事お疲れ? ユカが盛り上げちゃうよ!」とユカが視線を合わせて語りかけると、テーブルは一気に盛り上がった。
悠一は、突然現れたヘルプのキャストたちを目で追い、どこか困惑したような顔をしていた。
いきなり派手な女の子たちが現れたのは、まるで別世界の光景だった。
特にユカのまばゆいばかりの姿に悠一の目が吸い寄せられ、ピンクのドレスから溢れる柔らかな膨らみに、思わず心臓が跳ねたのがわかった。
悠一は顔を近づけて、小声で美津子に囁いた。
「なあ、美津子、あの子たち何? 急に派手なのが来たんだけど……あのピンクのドレスの子、ユカって言ってた子、知り合い? なんていうか……あれは、やばいね」
悠一の声は周りには届かないよう配慮されていたが、最後の「やばいね」という呟きには、隠しきれない本音がにじみ出ていた。
その「やばいね」という言葉を聞いて、美津子の身体が小さく跳ねた。
悠一が女性の豊かな膨らみに弱いことをよく知っている美津子は、それがユカの谷間を指しているのだと瞬時に理解した。
美津子も顔を近づけ、小声で答えた。
「2階に同じオーナーさんがやってるキャバクラがあって、そこからヘルプで来てくれた子たちなの。忙しくなると、こうやって応援に来るのよ……少し派手だよね、ふふ。ユカさんは、まあ、顔見知りってところかな」
夫婦の会話らしい柔らかなトーンで説明を終えると、美津子はすかさず冷たい視線を悠一に突き刺した。
「で……お客様、ユカさんが『やばい』って何のことなんですかね?」
小声で問いかける美津子の声には、接客っぽいトーンを装いつつ、からかうような軽いイタズラが込められていた。
悠一は焦ったように首を振って弁解した。
「いや、違うって! 俺はミナミちゃんが一番だよ、ほんと! ただ、急に目の前に現れたから、びっくりしただけでさ……ごめん」
声には焦りと申し訳なさがにじみ出ており、悠一の額にはうっすらと汗がにじんでいた。
美津子は小さく「ふーん」と呟いて視線を逸したが、その頬にはほんのり赤みが差していた。
悠一はヘルプの仕組みに納得したように頷き、ユカの華やかな姿をチラチラと目で追いながら、ふと思いついたように小声で囁いた。
「じゃあ、美津子も2階にヘルプで行ったりするの?」
悠一の声には、純粋な好奇心が宿っていた。
美津子はクスッと笑って、小声で答えた。
「それはないよ。2階の店は普通のキャバクラだから。若い子が熟女キャバクラにいても平気だけど、逆は……ねえ、さすがに苦情くるよ、たぶん」
夫婦らしい気楽なトーンで、軽い冗談を交えながらも、美津子らしい控えめさが感じられた。
悠一はからかうようにニヤッと笑い、美津子にだけ聞こえるような小声で畳みかけた。
「ふうん、だったら、2階の店にも一度顔を出してみるか」
悠一の声には、妻の反応を楽しもうとする、意地悪な響きが込められていた。
美津子はポカンと口を開けて目を丸くすると、慌てて小声で言い返した。
「……え、もう、ほんと、やめてよ……ユカちゃん目当てで行くんでしょ……」
夫婦らしい砕けた調子ながら、いじけたような不満げな声が混じり、美津子は口ごもりながら、さらに頬を赤くした。
悠一は慌てて、少し声を張り上げて弁解した。
「冗談だよ、冗談!俺はミナミちゃんしかいないって!」と愛おしそうに呼びながら、悠一は愛情と茶目っ気を含んだ笑みを見せた。
「ちょっと、声が大きいって!」
美津子が焦るように小声で嗜めると、悠一はハッとしたように口元を押さえ、きょろきょろと周りを見回した。
彼女は照れを隠すように、視線を伏せた。
香織は、団体客のテーブルで、黒のスリット入りドレスを鮮やかに翻し、自信に満ちた態度で接客していた。
胸元の大きく開いたデコルテと、太ももまで切れ込んだスリットが照明に煌めき、香織はサラリーマンたちの羨望の眼差しを独り占めにした。
「さあ、もっと飲んで、今日はとことん楽しんじゃお!」
ハスキーな声が陽気に誘いかけ、香織がグラスを勢いよく持ち上げるたびに、楽しげなざわめきと笑い声が湧き上がった。
しかし、どれほど忙しくても、香織の視線は美津子の席へと度々向けられていた。
「美津子のあの客……知り合いっぽいな……でもあんなに胸の谷間が丸見えの姿、知り合いに見られて平気なわけないか……あっ……まさか、旦那!?」
その推測が脳裏をよぎった途端、美津子のスマホの待ち受けにいた悠一の顔が鮮明に思い出され、香織の疑念はたちまち確信へと変わった。
「旦那か、それなら納得だわ。知り合いって言っても、相手が旦那なら胸の谷間の一つや二つ見られても美津子も恥ずかしくないだろうし」と小さく口にした。
美津子の恵まれた状況への複雑な嫉妬、そして好奇心が、ざわめきながら渦巻いていた。
香織は内心で「まあ、とりあえず美津子には何も言わないでおこう」と口元に笑みを浮かべ、グラスを掲げてサラリーマンたちをさらに盛り上げた。
山本もまたミナミのテーブルの様子が気になっていた。
フロアの賑わいが少し収まってきたことを察知し、応援に来た若いキャストたちが団体客の場を盛り上げ、ボーイも手際よくドリンクを配る状況を見届ける。
その研ぎ澄まされた目は、自然とミナミのテーブルへ。
客とキャストという関係を超えた、特別な親しみがその場を満たしていた。
山本は、ミナミが応対しているスーツ姿の男性に目を凝らした。
その間に漂う妙な親しげな雰囲気が、彼の直感を刺激する。
本来、人見知りなミナミが、旧知の仲のように初めての客と接していることに、山本は強い違和感を覚えた。
山本は内心で「あの二人の関係は……まさか、ミナミさんのご主人か?」と推測し、ミナミの控えめな笑みにも何かを感じ取っていた。
サラリーマンたちの楽しそうな笑い声と、ヘルプの若いキャストたちの華やかな動きが加わり、フロアは活気で満ち溢れていた。
グラスを掲げ、客を煽る香織だったが、その視線はしばしば美津子の席を捉えていた。
山本は静かに指示を出し、フロアを統制しつつ、店の和やかなムードを維持しながら、この慌ただしい夜を切り抜けていた。
美津子は悠一の席で「ミナミ」としての役割を完璧に演じ切り、賑やかなフロアの喧騒の中で、着実に自信を深めていた。
悠一は、まさしくスポットライトを浴びるかのように輝く妻の姿から、片時も目を離せなかった。
「美津子がこんなに輝いてる姿、初めて見た……。やばい、完全に惚れ直した」
悠一は心の中でそう独りごち、彼女の微笑みに静かにグラスを傾けた。
あなたにおすすめの小説
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。