聖女の母と呼ばないで

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5日目

「おはよう。」

「おはようございます、ハルカ様。」

朝の支度をリンジーと整えた遙香を、イザベルが出迎える。これまでと変わらない朝だった。

朝食を終えた遙香に、イザベルが告げた。

「昨日、お休みの間に、ヴァッハヴェル様とミッドリード夫人からそれぞれ連絡がありました。

ヴァッハヴェル様は、貴族院での審議が終了するまでこちらに来ることができなくなりました、申し訳ありません、とのことです。

ミッドリード夫人も同じく、教育の延期を伝えるものでした。貴族院での決定を受けてから、改めて教育の内容を検討しましょう、とのことです。」

「フォンさんは、特に要望もないし、まぁいいんだけど。教育がないのは困ったなぁ。」

遙香は、言った。

「こっちのことを知りたいんだけれど、イザベルとリンジーは忙しいよね?」

「私は、ハルカ様のためならいつでも大丈夫です!」

「リンジー、ありがとう。でも、本来の仕事に負担をかけてまで時間を割いて欲しくはないの。」

「それでしたら、午後のお茶の時間を少し長くとって、お話の時間を設けるのはいかがでしょう?
私達も負担になりませんし、休憩にもなります。」

「それだけじゃハルカ様が足りない。。。」

もっと、癒しをっ。と、リンジーが呟く。

「もし、嫌じゃなかったら、お昼は昨日みたいに一緒に食べない?
仕事が混んでいるときは、無理にとは言わないし、先に席を立ってもよいから。」

「ぜひ!」

遙香の提案に、飛びつかんばかりの勢いのリンジーを抑えながら、イザベルは聞いた。

「よろしいのですか?」

「私は皆と食べたい。それとも、他の侍女とかから何か言われる?」

「それは大丈夫です。」

「なら、一緒に食べよう。忙しくないときだけでもいいから、ね。

家族なんだし。」

最後は、少し小さな声で、恥ずかしそうに遙香が言った。

「ありがとうございます。そう言っていただけてとても嬉しいです。」

遙香の言葉で、さらに興奮したリンジーを涼しい顔で押さえ込みながら、イザベルは言った。








**************************************

イザベルとリンジーが午前中の業務に移り、屋敷の中を行き来している間、遙香はメモ帳と日記帳を目の前のテーブルに置き、何かを考えるように唸っていた。

「うーん。」

「今度は何を考えているんだ。」

見かねたアルベルトは、遙香に声をかけた。

「うーん、数日生活をしていて、昨日の夜みたいに気になることが色々あるんだけど、大したことじゃないし、急ぎでもないから、聞いていいのかなぁと。」

「それを解消するための時間を、2人に作ってもらう約束をしたんじゃないのか?」

「そうだけど。。。

イザベルも、リンジーなんて特に、私が言ったことに「駄目」って言わない気がして。無茶なこと、言ってないかなと心配に。」

「なら、自然に覚えていくまで待つか?」

「それは、無理。」

遙香は、はっきりと言った。

「日本で当たり前だったことと、何が違うのか、ちゃんと比べて理解しないと、きっと、この国で生活していけない。」



遙香は昨日、夜空を見上げたときに月が「出ていない」と考えた。
でも、実際には、この世界には「月がない」が正しかった。

アルベルトに話した通り、太陰暦は月の満ち欠けを元に作られていた。
たしか、今の暦に変わったのは、明治時代だったはず。
それまでの日本人の生活や文化は、月と共にあったのだ。

それに、月の引力は潮の満ち引きに関わっている。
この国では、きっと、海があっても潮位の変化はないのだろう。
そうしたら、潮干狩りもないのだろうか。


昨夜、そんなことを思ってしまったら、あとは全てが気になってしまった。

重力は?
生態系は?
生活様式は?
国の規模は?
身分は?
教育体制は?


ここって、どこなんだろう。










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