45 / 75
9-5.
しおりを挟むそれから5日、フォン・ヴァッハヴェルからの連絡もなく、遙香は、部屋でイザベルとリンジーと一緒に話をしたり、中庭に出て日光浴をしたりしながら過ごした。
「こんなに何もないと、貴族院での議論がどうなっているのか不安になるわね。」
午後のお茶をしながら、遙香は言った。
「こんなに長くかかることはめったにないのですが。」
イザベルが言った。
「大方、貴族の利害が絡んで、まとまらないんだろう。」
アルベルトも言った。
遙香は日記帳を手に取った。
表紙を開き、間にはさんでいた折りたたまれたカレンダーを開く。
子供向けのカレンダーは、季節のイラストがついていて、見た目にも可愛らしいものだ。
以前聞いていた通り、1年は365日、10日ごとに週というくくりになっている。第1週から第36週。最後の5日間は週とは呼ばず、「終わりと始まりの期」と言うそうだ。
日本の冬至に当たる日が、1年の始まりである「第1週第1日」。
遙香が召喚された日は、第10週第1日。
今日は、第10週第10日だ。
あれから毎日、遙香はお茶の時間に知りたかったことを順々に聞いていった。
残念ながら、地図を見ることはできなかったが、この国の大まかな形と近隣の国の位置関係については、アルベルトから教えてもらうことができた。
グリーンバル王国は、大きな大陸の北側に位置し、北と西は海に面している。
大陸には複数の国があるが、南北に走るいくつかの山脈と、王国の南東に位置する魔の森の影響から、陸路で行き来できるのは、東の隣国、エルランダ共和国と、南の隣国、コーダード王国のみとなっている。
王都は、国の西南西方向に位置しており、港を持つ平地にあるとのことだが、遙香のいる別邸からは海を望むことはできない。
アルベルトからは、「こことここは馬で何日。」などと説明されたが、遙香にはその距離感はピンと来なかった。
王国内は、地方、街ごとに大小様々な領に分けられ、その領を統治しているのが貴族である。
貴族院に参集されているのは、リンジーによれば、ある条件を満たした貴族のみだという。
「貴族には、血や歴史ももちろん大事なんですけど、どれだけ王国に税を納められるかも重要なんですよ。」
「よく知ってるね。」
「私の実家は商家ですからね。お金のまわるところの話には敏いですよ。」
リンジーは国内の物流を担う商家の次女で、初めは行儀見習いのために、ある男爵家の侍女になったそうだ。
実家の商家で物を見る目が養われていたこともあり、準備する衣装、アクセサリー、小物のセンスの良さが噂となり、引き抜き、引き抜かれ、今のヴァッハヴェル家にやってきた。
「結局、行儀見習いとしての成果はあんまり出てないんですが、貴族の家々の裏事情にはとても詳しくなりました。」
「守秘義務がありますから、言いませんけどね。」と、付け加えながらリンジーは言う。
「それでですね、貴族院はどうも今日で終わりみたいです。」
「どうして分かるの?」
遙香は、リンジーに聞いた。
「お菓子の仕入れがなかったからですよ。」
「お菓子?」
「はい。お茶会用のお菓子です。ここ数日、王都にあるいくつかのケーキ店から、王城へ毎日お菓子を配達する依頼がありました。ですが、明日の配達の依頼はなくなったと、先ほど実家から連絡がありました。
お菓子の配達がないのは、王妃様のお茶会がないから。そして、王妃様のお茶会がない、と言うことは貴族院が終わったから、と見ています。」
「リンジー、すごい。名推理だね。」
「物流は、情報です。」
リンジーは、拳を握り、自信を持ってそう言った。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
二度目だから容赦なし!元聖女のやり直し冒険記
ゆう
ファンタジー
金曜の夜。仕事を終えた私は、最寄り駅から自宅までの道を歩いていた。
今日も残業。クタクタだ。
だけど、コンビニで買った缶ビールがカバンに入っていると思うと、それだけで足取りが少し軽くなる。
(あー早く帰ってシャワー浴びて、ぐいっといきたい……!)
そんなことを考えながら信号を渡ろうとした時だった。
よくある召喚ものです。
カクヨム様で柊ゆうり名義で公開していたものをリメイクしつつ公開します。
完結していないので、完結は同じとこに落ち着く予定ですが中は修正しつつ公開します。
恋愛…になかなかならない、、むしろ冒険ものに、、、
ファンタジーに変えました(涙)
どうぞよろしくお願いします。
※本作は、他投稿サイト(カクヨム様/小説家になろう様)にも掲載しています。
他サイトでは一部表現や構成を調整した改稿版を公開しています。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる