聖女の母と呼ばないで

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実際の契約の話は、随分とスムーズに進んだ。アルベルトは、遙香を連れて国外に行きたいということをそのままリンジーに伝えた。

リンジーも、アルベルトにその理由を問うことはなく、行き先のみ確認すると、「移動手段、経路、日数の算出」、および「必要な物品リストの作成」については即座に請け負った。

「この後お時間いただけるのなら、夕食時には概算として提出できると思います。一度確認いただいてから、物品を購入していきます。
道中の宿などの手続きと、国外の滞在先の斡旋については、提供可否を一度商会に確認してからの回答となります。暫くお待ちください。」

リンジーは、サクサクと進めていく。

「リストを確認後、どのくらいで必要なものが揃う?」

「そうですねー。ざっくりとですが、最短で1日、いえ、今回は3日位でしょうか。長くとも1週間でご提供できると思いますよ。」

「早いね。」

「物流には自信があります。任せてください!」

遙香が驚くと、リンジーは胸を張って答えた。

リンジーとアルベルトは、その後も淡々と調整を続けた。











**************************************

アルベルトと契約を終えたリンジーが部屋を出たあと、イザベルがテーブルの上を片付けながら言った。

「あっという間に決まってしまいましたね。それにしても、リンジーは理由については何も聞いてきませんでしたが、大丈夫なのでしょうか。」

「私も心配。あとから、国や貴族からイチャモンつけられたりしないかな。」

遙香も不安そうに言った。

「あれは、大筋で気づいているぞ。あえて聞かないだけだ。」

「え!?どういうこと?」

「秘密裏にという俺が提示した条件、貴族院の動き、その他の情報から、俺達がただの旅行に行くとは考えていないはずだ。目的地もルーリー連合だと伝えている。」

「そうね。」

「だが、それを問い正せば、レクレスター商会は俺達の協力者になってしまう。あくまで、売買契約の相手方でおさまる範囲でいられるように、あえて聞いてこなかったんだと俺は思う。」

「リンジーがそこまで考えていますかね?」

イザベルが失礼なことを言った。

「あいつは、正しく「会長代理」だ。侍女をやるよりよほど腕がいい。」

アルベルトは、言葉少なくリンジーを褒めた。

「リンジーが次の会長になるのかな。」

遙香の何気ない一言に、イザベルが首を振って答えた。

「どうでしょうか。リンジーにはお姉さまがいますし、商会は継がないのではないでしょうか。」

「家業は長子が継ぐ慣習があるからな。」

「でも、お婿さん探してるって、今朝、言っていたよね。」

「そうですね。。。行儀見習いに来ていますし、てっきり、リンジーは嫁ぎ先を探しているのだとばかり思っていましたが。」

イザベルが、ふむ、と考える。そこに、アルベルトが口を挟んだ。

「あれだけ出来るんだ。商会の一員としての目的を持って潜り込んでいたとしても、今なら驚かない。」

「どういうこと?」

「レクレスター商会は、貴族のスポンサーを持たず、派閥に関与しない姿勢を貫いている。だが、貴族も利用する、国有数の物流を担う商会だ。各方面で、有力なコネクションを持っていてもおかしくはない。それと同じだけ、大きな情報網を構築しているだろう。」

「聖女の情報が、商会の利になるか見ていたってこと?」

「いや、直接じゃなくても、国や貴族の動向を知る手段にはなる。行儀見習いのほうがついでかもしれないぞ。」

アルベルトの立てた予想に、遙香は暗い顔をする。イザベルがそれに気づき、遙香に声をかけた。

「目的がどうであれ、リンジーがハルカ様を慕っているのは本心だと思いますよ。皆、立場に合わせて色々な顔があるものです。侍女もリンジーの一部、商会の会長代理もリンジーの一部、そう捉えても良いのではないでしょうか?」

「・・・そうだね。リンジーが会長代理として言ってくれたから、助かっているんだもの。」

「そうですよ。普段のところどころ抜けたリンジーだってリンジーですよ。」

「ははっ。そうだね。」

イザベルの言葉に、遙香は笑った。



「さて、夕方まではまだ少し時間があります。ハルカ様は体調が悪いとのことなので、ゆったりとした物にお召換えをして少しお休みになりますか?」

イザベルは遙香に聞いた。

「んー、このままだと、なにかまずいんだっけ?」

「今朝来た連絡係の者が、夕方、挨拶に来ることになっています。普段着のままよりは、横になっていた様子が伺える方が良いかと。」

「忘れてた。イザベル、策士だね。」

遙香は、イザベルの提案にのって、髪をゆるく編み直してもらい、服も柔らかな素材で出来た室内着に着替えた。

胎児の成長が書かれた冊子を持って、寝室に向かう。

「アルベルトとイザベルも、休めるなら休んでね。いつもありがとう。」

遙香はそう言って、ベッドに横になった。





アルベルトの翻訳を見ながら、遙香は考えた。

日本にいた頃、職場の人は妊娠5ヶ月位になってから皆に報告していた。それまでは、時々休んでるなぁと思う位で、お腹も目立たず、遙香は全く気づかなかった。

きっと、上司などの一部の人には、休みを取る理由も含めてもっと早くに伝えていたのだろう。だが、安定期に入るまでは流産なども考え、あまり公にしていないようだった。

遙香は、セドリックの言っていた言葉を思い出す。異常がないと確認できる安心感は、確かに重要だ。何が起こっても、遙香には初めてのこととなる。どこまでなら大丈夫と、自分で判断できるとは思えない。

お腹の子は、雄飛との唯一の繋がりだ。大切にしていきたかった。









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