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第2話
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眩い光を抜けた瞬間、凛太郎は息を呑んだ。そこに広がっていたのは、かつての記憶と重なる景色だった。高層ビル群が林立し、光の洪水のように街を照らすネオン。鋼鉄とガラスで構成された都市は、第二世界の木造建築の静謐さとは正反対の喧騒を孕んでいた。
彼は膝に手をつき、深く息を吐いた。背後から少女が歩み出る。青色の瞳は、第一世界の人工の光に照らされてもなお、星空を思わせる輝きを放っていた。
「ここが……第一世界」
「ええ。あなたがかつて生き、そして罪を犯した場所」
少女の声は淡々としていたが、その奥底に哀しみが滲んでいた。
凛太郎の胸に、痛烈な記憶が蘇る。爆音。硝煙。人々の悲鳴。血の匂い。彼が引き起こしたあの事件。世界を震撼させ、多くの無辜の命を奪った愚行。
「俺は、ここに戻ってきたのか……」
自嘲するように呟いたその時、背後で風が揺らめいた。振り返ると、光の門は既に閉じていた。帰り道は消えた。彼と少女は、もはや前へ進むしかなかった。
都市の影
夜の街に足を踏み入れると、耳を突く喧騒が全身を包んだ。車のクラクション、群衆のざわめき、電子広告が放つ不協和音。第二世界の整然とした秩序とは正反対の、混沌とした生のエネルギー。
凛太郎は戸惑いを隠せなかった。第二世界で過ごした年月は、彼にとって「静けさ」そのものだった。今目にしている光景は、懐かしさと恐怖を同時に呼び覚ます。
「落ち着いて。ここではあなたの力は隠した方がいい」
少女が囁く。凛太郎は頷き、魂を見る眼を閉ざすように意識を集中した。群衆の中に宿る魂の光と影――その全てを直視すれば、彼は正気を失うだろう。
二人は裏通りへと入った。そこは表の光景とは一変し、暗闇と腐敗の臭気が支配していた。壁には無数の落書き、地面には割れた瓶、そして人々の絶望的な呻き声。
「……ここもまた、魂の牢獄だな」
凛太郎の呟きに、少女は小さく頷いた。
少女の告白
廃ビルの一室に身を潜めた二人。窓から差し込む街のネオンが、薄汚れた床を青白く照らしていた。
「改めて自己紹介をするわ。私は柚希(ゆずき)。輪廻の外部観測者」
「外部観測者……?」
「ええ。私は審判者のように魂を浄化する役目ではなく、輪廻そのものを監視する立場にあった。けれど、世界政府の真実を知ってしまった時、私は“システムにとっての異物”となった」
柚希の言葉に、凛太郎は眉をひそめた。
「真実……?」
「第二世界は、魂を安らげる場ではなかった。政府は魂を管理し、選別し、利用している。あなたが浄化してきた怨念も、実際には“兵器”として抽出され、第一世界に持ち込まれていたの」
凛太郎は息を呑んだ。自分が罪を償うために行ってきたことが、逆に更なる地獄を生み出していた――。
「じゃあ、俺は……」
「ええ。あなたは知らぬ間に加担していた。けれど、だからこそ今、この世界で真実を暴く役目を担える」
柚希の青い瞳は揺るがなかった。そこに映るのは、決意と赦し。
記憶との邂逅
数日後、二人は都市の地下へ潜った。柚希が探し出した資料によれば、第一世界には「審判機構」と呼ばれる組織が存在し、政府の意向を受けて魂を兵器として再利用しているという。
地下施設に侵入した彼らを待ち受けていたのは、巨大な水槽のような装置。そこには無数の魂の断片が閉じ込められ、電流のような光が脈動していた。
「これが……」
「魂兵器の中枢」
柚希の言葉を遮るように、低い声が響いた。
「やはり来たか、凛太郎」
振り向いた瞬間、凛太郎は凍りついた。その男は――かつて彼が爆破事件で奪った命の一人、被害者の父だった。
「……生きて、いたのか」
「俺は死んだ。だが、魂は奪われ、この機構の一部とされた。今の私は“管理された魂”だ。だが意識は残っている」
その言葉には、怒りと悲哀が混じっていた。
「お前を赦すつもりはない。だが……この地獄を終わらせたいのもまた事実だ」
男は魂の残滓を震わせながら、装置を指さした。
「破壊するのだ。この輪廻を」
裏切りと真実
彼らは共闘し、施設を破壊しようと動いた。しかしその最中、柚希が突如苦悶の声を上げた。全身を青白い光が包み込み、彼女は崩れ落ちる。
「柚希!」
「……ごめんなさい。私の正体を、隠していた」
柚希の瞳がかすかに光り、彼女の記憶が凛太郎の心へと流れ込む。そこには驚愕の事実があった。
彼女は“魂兵器”そのものだった。かつて政府によって人工的に作られた魂の集合体。しかし、システムの制御を逃れ、自我を獲得した存在。
「だから私は……この世界に居場所はないの。でも、凛太郎。あなたとなら、この鎖を断ち切れる」
涙を浮かべながら微笑む柚希。その姿は脆くも、美しかった。
審判機構との対峙
破壊を察知した審判機構の兵士たちが押し寄せた。彼らは肉体を持たず、魂そのものを武器とした存在。鋭利な光の刃が襲いかかる。
凛太郎は覚悟を決めた。第二世界で得た力を解き放ち、怨念を浄化する術を逆に攻撃へと転じた。魂の叫びを刃へと変え、兵士たちを次々と退ける。
だがその度に、彼の心は軋んだ。罪を抱えた自分が、また破壊を繰り返している――。
「凛太郎! あなたは壊すためじゃない、救うために力を使うのよ!」
柚希の声が響いた。彼女の魂の輝きが凛太郎の力と重なり合う。その瞬間、兵士たちの魂は浄化され、苦痛から解放されていった。
戦いの果て、施設は崩壊の兆しを見せる。柚希は凛太郎の手を取り、光の奔流の中で囁いた。
「この先に、輪廻の根源がある。そこへ行けば、全ての真実に辿り着ける」
旅の再開
炎と瓦礫に包まれた施設を後にし、二人は夜の街へと戻った。空には赤黒い月が浮かび、不穏な未来を予感させる。
「俺は、まだ救われていない。だけど……もう逃げない」
凛太郎の言葉に、柚希は微笑んだ。その青い瞳には、希望の光が宿っていた。
彼らの旅は終わらない。第一世界の更なる闇、そして輪廻の根源が待ち受けている。だが、凛太郎は知っていた。今度は一人ではない。
魂の祈りと共に歩む限り、たとえどれほど残酷な試練であろうと、前に進めるのだと。
街の喧騒の中、二人の影が闇へと溶け込んでいった。
輪廻の連鎖は、まだ終わっていなかった。
むしろ今、新たな始まりを告げていた。
彼は膝に手をつき、深く息を吐いた。背後から少女が歩み出る。青色の瞳は、第一世界の人工の光に照らされてもなお、星空を思わせる輝きを放っていた。
「ここが……第一世界」
「ええ。あなたがかつて生き、そして罪を犯した場所」
少女の声は淡々としていたが、その奥底に哀しみが滲んでいた。
凛太郎の胸に、痛烈な記憶が蘇る。爆音。硝煙。人々の悲鳴。血の匂い。彼が引き起こしたあの事件。世界を震撼させ、多くの無辜の命を奪った愚行。
「俺は、ここに戻ってきたのか……」
自嘲するように呟いたその時、背後で風が揺らめいた。振り返ると、光の門は既に閉じていた。帰り道は消えた。彼と少女は、もはや前へ進むしかなかった。
都市の影
夜の街に足を踏み入れると、耳を突く喧騒が全身を包んだ。車のクラクション、群衆のざわめき、電子広告が放つ不協和音。第二世界の整然とした秩序とは正反対の、混沌とした生のエネルギー。
凛太郎は戸惑いを隠せなかった。第二世界で過ごした年月は、彼にとって「静けさ」そのものだった。今目にしている光景は、懐かしさと恐怖を同時に呼び覚ます。
「落ち着いて。ここではあなたの力は隠した方がいい」
少女が囁く。凛太郎は頷き、魂を見る眼を閉ざすように意識を集中した。群衆の中に宿る魂の光と影――その全てを直視すれば、彼は正気を失うだろう。
二人は裏通りへと入った。そこは表の光景とは一変し、暗闇と腐敗の臭気が支配していた。壁には無数の落書き、地面には割れた瓶、そして人々の絶望的な呻き声。
「……ここもまた、魂の牢獄だな」
凛太郎の呟きに、少女は小さく頷いた。
少女の告白
廃ビルの一室に身を潜めた二人。窓から差し込む街のネオンが、薄汚れた床を青白く照らしていた。
「改めて自己紹介をするわ。私は柚希(ゆずき)。輪廻の外部観測者」
「外部観測者……?」
「ええ。私は審判者のように魂を浄化する役目ではなく、輪廻そのものを監視する立場にあった。けれど、世界政府の真実を知ってしまった時、私は“システムにとっての異物”となった」
柚希の言葉に、凛太郎は眉をひそめた。
「真実……?」
「第二世界は、魂を安らげる場ではなかった。政府は魂を管理し、選別し、利用している。あなたが浄化してきた怨念も、実際には“兵器”として抽出され、第一世界に持ち込まれていたの」
凛太郎は息を呑んだ。自分が罪を償うために行ってきたことが、逆に更なる地獄を生み出していた――。
「じゃあ、俺は……」
「ええ。あなたは知らぬ間に加担していた。けれど、だからこそ今、この世界で真実を暴く役目を担える」
柚希の青い瞳は揺るがなかった。そこに映るのは、決意と赦し。
記憶との邂逅
数日後、二人は都市の地下へ潜った。柚希が探し出した資料によれば、第一世界には「審判機構」と呼ばれる組織が存在し、政府の意向を受けて魂を兵器として再利用しているという。
地下施設に侵入した彼らを待ち受けていたのは、巨大な水槽のような装置。そこには無数の魂の断片が閉じ込められ、電流のような光が脈動していた。
「これが……」
「魂兵器の中枢」
柚希の言葉を遮るように、低い声が響いた。
「やはり来たか、凛太郎」
振り向いた瞬間、凛太郎は凍りついた。その男は――かつて彼が爆破事件で奪った命の一人、被害者の父だった。
「……生きて、いたのか」
「俺は死んだ。だが、魂は奪われ、この機構の一部とされた。今の私は“管理された魂”だ。だが意識は残っている」
その言葉には、怒りと悲哀が混じっていた。
「お前を赦すつもりはない。だが……この地獄を終わらせたいのもまた事実だ」
男は魂の残滓を震わせながら、装置を指さした。
「破壊するのだ。この輪廻を」
裏切りと真実
彼らは共闘し、施設を破壊しようと動いた。しかしその最中、柚希が突如苦悶の声を上げた。全身を青白い光が包み込み、彼女は崩れ落ちる。
「柚希!」
「……ごめんなさい。私の正体を、隠していた」
柚希の瞳がかすかに光り、彼女の記憶が凛太郎の心へと流れ込む。そこには驚愕の事実があった。
彼女は“魂兵器”そのものだった。かつて政府によって人工的に作られた魂の集合体。しかし、システムの制御を逃れ、自我を獲得した存在。
「だから私は……この世界に居場所はないの。でも、凛太郎。あなたとなら、この鎖を断ち切れる」
涙を浮かべながら微笑む柚希。その姿は脆くも、美しかった。
審判機構との対峙
破壊を察知した審判機構の兵士たちが押し寄せた。彼らは肉体を持たず、魂そのものを武器とした存在。鋭利な光の刃が襲いかかる。
凛太郎は覚悟を決めた。第二世界で得た力を解き放ち、怨念を浄化する術を逆に攻撃へと転じた。魂の叫びを刃へと変え、兵士たちを次々と退ける。
だがその度に、彼の心は軋んだ。罪を抱えた自分が、また破壊を繰り返している――。
「凛太郎! あなたは壊すためじゃない、救うために力を使うのよ!」
柚希の声が響いた。彼女の魂の輝きが凛太郎の力と重なり合う。その瞬間、兵士たちの魂は浄化され、苦痛から解放されていった。
戦いの果て、施設は崩壊の兆しを見せる。柚希は凛太郎の手を取り、光の奔流の中で囁いた。
「この先に、輪廻の根源がある。そこへ行けば、全ての真実に辿り着ける」
旅の再開
炎と瓦礫に包まれた施設を後にし、二人は夜の街へと戻った。空には赤黒い月が浮かび、不穏な未来を予感させる。
「俺は、まだ救われていない。だけど……もう逃げない」
凛太郎の言葉に、柚希は微笑んだ。その青い瞳には、希望の光が宿っていた。
彼らの旅は終わらない。第一世界の更なる闇、そして輪廻の根源が待ち受けている。だが、凛太郎は知っていた。今度は一人ではない。
魂の祈りと共に歩む限り、たとえどれほど残酷な試練であろうと、前に進めるのだと。
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