3 / 5
第3話
しおりを挟む
夜の街に吹く風は、焼け焦げた鉄と瓦礫の匂いを運んでいた。崩壊した地下施設の残骸は、地上にまで衝撃を及ぼし、周囲一帯を静まり返らせていた。だが静寂の裏では、政府の監視網が確実に広がっていた。
凛太郎と柚希は、裏路地を抜け、人気のない倉庫に身を潜めた。薄暗い室内で、柚希は疲労の色を隠せなかった。彼女の魂は先の戦闘で多くの力を消耗し、時折、身体が霞のように透けて見える。
「……無理をしているだろう」
「私は兵器として造られた存在。多少の消耗では消えないわ。でも……人の温もりに触れてからは、前のように無感覚ではいられなくなった」
柚希は微笑み、凛太郎の手に触れた。彼女の指は微かに震えていた。
「凛太郎。輪廻の根源に辿り着けば、きっとすべてが変わる。私の存在理由も、あなたの贖罪も」
凛太郎は深く頷いた。しかし胸中には恐怖が渦巻いていた。根源に辿り着くことは、すなわち己の罪を完全に暴かれることと同義だと、直感していたからだ。
追跡者
翌日、二人は街を離れ、古代の神殿が点在する郊外へと足を進めた。そこには「虚無回廊」と呼ばれる伝説の場所があるという。魂が世界を行き来するための本来の通路。政府に奪われる前の、純粋な輪廻の流れ。
だが、その道程は容易ではなかった。
夜半、月明かりの下で足を止めた凛太郎の耳に、乾いた靴音が響いた。
「やはり……お前たちか」
廃墟の影から現れたのは、一人の男。漆黒の外套を纏い、鋭い眼光を放つ。彼の背後には黒い羽のような魂の残滓が漂っていた。
「……お前は、審判者か?」
「かつては、な。俺の名は篠生(しのう)。輪廻に絶望し、政府に背いた男だ」
柚希が身構える。しかし篠生は剣を抜かず、ただ二人を見据えていた。
「俺も根源を目指している。だが一人では辿り着けない。手を組もう」
「罠じゃないのか?」
凛太郎の問いに、篠生は嗤った。
「罠と思うなら背を向ければいい。だが時間は残されていない。柚希――お前の魂は既に政府に感知されている。街は今や“監獄”に変貌しつつある」
柚希の顔が青ざめた。その言葉が真実であることを、彼女自身が感じ取っていた。
魂の監獄
三人が街に戻った時、光景は一変していた。高層ビル群を覆うように巨大な結界が張り巡らされ、空は鈍色に染まっていた。人々は無表情のまま歩き、瞳からは光が失われていた。
「これは……」
「魂の監獄。政府が柚希を捕えるために発動させた。住民の魂を眠らせ、兵士として使役する術だ」
篠生の声は冷酷だった。だがその瞳には、憤りが宿っていた。
次の瞬間、無数の住民が一斉に振り返り、凛太郎たちへと襲いかかった。彼らの動きは人形のように機械的で、感情は一切なかった。
「こんなことまで……!」
凛太郎は心を抉られる思いで彼らを受け止めた。剣ではなく、魂を浄化する力を全開にして。住民たちの目から再び光が戻るたび、彼の胸は痛んだ。
「俺はまた……奪うことになるのか……」
「違う!」柚希の叫びが夜を裂いた。「あなたは奪っていない。救っているのよ!」
凛太郎は拳を握りしめ、涙を飲み込んだ。
それでも前へ進むしかなかった。
篠生の影
逃走の末、三人は地下水路に潜り込んだ。苔むした石壁に水滴が響き、冷気が肌を刺す。そこで篠生は立ち止まった。
「ここから先は虚無回廊の入口だ。だが……行く前に、確かめねばならない」
彼の瞳が妖しく光り、剣が抜かれた。
「俺は政府を憎んでいる。だが同時に……柚希を利用する気持ちもある。お前たちは俺を信じられるか?」
凛太郎は剣を抜いた。互いの刃が交差し、冷気がさらに深まる。
「信じるかどうかじゃない。俺は、お前を選ぶしかない」
篠生は数秒間沈黙した後、剣を収めた。
「……それでいい。裏切るとすれば、それは俺ではなく、この世界そのものだ」
その言葉に、柚希は不安げに凛太郎を見つめた。だが凛太郎は頷いた。今はただ、前へ進むのみ。
虚無回廊
水路を抜けると、そこには巨大な門が待ち構えていた。古代の文字が刻まれ、中央には渦巻くような光が集まっていた。それが「虚無回廊」――輪廻の根源へ通じる唯一の道。
しかし、門の前に立ちはだかる影があった。
全身を銀の甲冑に覆い、顔を仮面で隠した巨躯の存在。
「来たか……凛太郎。そして、柚希」
低く重厚な声が響いた。
「私は第一世界審判機構の最高位、“白蓮(びゃくれん)”。輪廻の守護者にして、魂の選別者。お前たちを、ここで終わらせる」
空気が震え、虚無回廊の光が揺らぐ。白蓮の背後には、無数の魂の刃が宙に浮かび、まるで軍勢そのものだった。
凛太郎は一歩踏み出し、柚希の手を握った。
「ここで引くわけにはいかない。俺は、すべての罪を背負ってでも前へ進む」
柚希の瞳が輝く。その青は、絶望をも穿つ希望の色。
「凛太郎。共に行きましょう。輪廻を超えるために」
白蓮の刃が一斉に放たれ、虚無回廊の闇が彼らを包み込む。
決戦の幕は、静かに上がった。
凛太郎と柚希は、裏路地を抜け、人気のない倉庫に身を潜めた。薄暗い室内で、柚希は疲労の色を隠せなかった。彼女の魂は先の戦闘で多くの力を消耗し、時折、身体が霞のように透けて見える。
「……無理をしているだろう」
「私は兵器として造られた存在。多少の消耗では消えないわ。でも……人の温もりに触れてからは、前のように無感覚ではいられなくなった」
柚希は微笑み、凛太郎の手に触れた。彼女の指は微かに震えていた。
「凛太郎。輪廻の根源に辿り着けば、きっとすべてが変わる。私の存在理由も、あなたの贖罪も」
凛太郎は深く頷いた。しかし胸中には恐怖が渦巻いていた。根源に辿り着くことは、すなわち己の罪を完全に暴かれることと同義だと、直感していたからだ。
追跡者
翌日、二人は街を離れ、古代の神殿が点在する郊外へと足を進めた。そこには「虚無回廊」と呼ばれる伝説の場所があるという。魂が世界を行き来するための本来の通路。政府に奪われる前の、純粋な輪廻の流れ。
だが、その道程は容易ではなかった。
夜半、月明かりの下で足を止めた凛太郎の耳に、乾いた靴音が響いた。
「やはり……お前たちか」
廃墟の影から現れたのは、一人の男。漆黒の外套を纏い、鋭い眼光を放つ。彼の背後には黒い羽のような魂の残滓が漂っていた。
「……お前は、審判者か?」
「かつては、な。俺の名は篠生(しのう)。輪廻に絶望し、政府に背いた男だ」
柚希が身構える。しかし篠生は剣を抜かず、ただ二人を見据えていた。
「俺も根源を目指している。だが一人では辿り着けない。手を組もう」
「罠じゃないのか?」
凛太郎の問いに、篠生は嗤った。
「罠と思うなら背を向ければいい。だが時間は残されていない。柚希――お前の魂は既に政府に感知されている。街は今や“監獄”に変貌しつつある」
柚希の顔が青ざめた。その言葉が真実であることを、彼女自身が感じ取っていた。
魂の監獄
三人が街に戻った時、光景は一変していた。高層ビル群を覆うように巨大な結界が張り巡らされ、空は鈍色に染まっていた。人々は無表情のまま歩き、瞳からは光が失われていた。
「これは……」
「魂の監獄。政府が柚希を捕えるために発動させた。住民の魂を眠らせ、兵士として使役する術だ」
篠生の声は冷酷だった。だがその瞳には、憤りが宿っていた。
次の瞬間、無数の住民が一斉に振り返り、凛太郎たちへと襲いかかった。彼らの動きは人形のように機械的で、感情は一切なかった。
「こんなことまで……!」
凛太郎は心を抉られる思いで彼らを受け止めた。剣ではなく、魂を浄化する力を全開にして。住民たちの目から再び光が戻るたび、彼の胸は痛んだ。
「俺はまた……奪うことになるのか……」
「違う!」柚希の叫びが夜を裂いた。「あなたは奪っていない。救っているのよ!」
凛太郎は拳を握りしめ、涙を飲み込んだ。
それでも前へ進むしかなかった。
篠生の影
逃走の末、三人は地下水路に潜り込んだ。苔むした石壁に水滴が響き、冷気が肌を刺す。そこで篠生は立ち止まった。
「ここから先は虚無回廊の入口だ。だが……行く前に、確かめねばならない」
彼の瞳が妖しく光り、剣が抜かれた。
「俺は政府を憎んでいる。だが同時に……柚希を利用する気持ちもある。お前たちは俺を信じられるか?」
凛太郎は剣を抜いた。互いの刃が交差し、冷気がさらに深まる。
「信じるかどうかじゃない。俺は、お前を選ぶしかない」
篠生は数秒間沈黙した後、剣を収めた。
「……それでいい。裏切るとすれば、それは俺ではなく、この世界そのものだ」
その言葉に、柚希は不安げに凛太郎を見つめた。だが凛太郎は頷いた。今はただ、前へ進むのみ。
虚無回廊
水路を抜けると、そこには巨大な門が待ち構えていた。古代の文字が刻まれ、中央には渦巻くような光が集まっていた。それが「虚無回廊」――輪廻の根源へ通じる唯一の道。
しかし、門の前に立ちはだかる影があった。
全身を銀の甲冑に覆い、顔を仮面で隠した巨躯の存在。
「来たか……凛太郎。そして、柚希」
低く重厚な声が響いた。
「私は第一世界審判機構の最高位、“白蓮(びゃくれん)”。輪廻の守護者にして、魂の選別者。お前たちを、ここで終わらせる」
空気が震え、虚無回廊の光が揺らぐ。白蓮の背後には、無数の魂の刃が宙に浮かび、まるで軍勢そのものだった。
凛太郎は一歩踏み出し、柚希の手を握った。
「ここで引くわけにはいかない。俺は、すべての罪を背負ってでも前へ進む」
柚希の瞳が輝く。その青は、絶望をも穿つ希望の色。
「凛太郎。共に行きましょう。輪廻を超えるために」
白蓮の刃が一斉に放たれ、虚無回廊の闇が彼らを包み込む。
決戦の幕は、静かに上がった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
聖女じゃない私の奇跡
あんど もあ
ファンタジー
田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。
だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。
「私は聖女じゃありません!」と言っても聞いてもらえず…。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる